世界の潮流とNGOの動き 第15回
CSR(企業の社会的責任)とNGO ―企業はNGOとどう付き合ったらいいのか(2)

長坂寿久(拓殖大学国際開発学部教授)

キーワード・・・ CSR、企業の社会的責任、NGO、NPO、社会問題、気候変動、 必須医薬品入手問題、
             フェアトレード、消費者の権利、農業と遺伝子組替作物(GMO)、児童労働、 女性の労働環境、
          食品と栄養、子どもへのマーケティング、収賄問題、 動物の権利と福祉運動、ミャンマー問題

1. NGOによって攻撃された企業事例
  前回で述べたように、CSRは、企業とNGOがパートナーシップを組むことによってつくり上げられてきた新しい「企業システム論」である。

 企業にとって、CSRを追求することは、NGO(NPO)といかにパートナーシップを組んで取り組んでいくかというところにある。

 そこで、企業のCSR担当者にとって重要なことは、とくに「社会」問題については、NGOがいかなる課題に取り組もうとしているかを常に把握していくことである。NGOが取り組んでいる課題、取り組もうとしている課題が、企業にとって取り組まねばならない「社会」問題の重要課題といえるからである。

 つまり、NGOの関心の緊急性が、世界の危機に対する緊急性を反映しており、それがCSRへの取り組みの緊急性となる。こうした世界の危機への取り組みは今やビジネス倫理の問題でもあり、同時にCSRの最も大事な要素となるに至っている。

 実態的に、例えば、エネルギーシステムや感染症といったグローバル規模の課題は、企業の事業活動にも大いに関わってくるものである。企業はそれらに対し、対応していかねばならない。それが企業の社会的責任であり、CSRである。油田・天然ガス田をはじめ、環境問題(シェル等)、児童労働問題(ナイキ)なども、NGOの緊急関心事項である。これらもCSRにおいて取り組むべき問題として提起されている。消費者の意識の高さも、その国のCSRへの圧力を生み出している重要な主体である。NGO活動の活発な国は、当然ながら消費者意識も高い。CSRのドライバーとして最も大きな影響を与えているのは、消費者の批判である。消費者のボイコット運動を恐れて防御的にCSRを始める企業も多い。

 どの国にも消費者団体があるが、例えば、オランダの消費者団体( Consumenten Bond) は持続可能な発展を指標とした企業のインデックスを作成している。このインデックス作成作業を通じて、企業に情報開示を求め、CSRに努力していない企業のブラックリストを作っている。企業はこれを回避するために、透明性のある経営と持続可能な発展(CSR)のための対策を立てるという結果となる。

 CSRにおいて「社会」的側面とは何かについては別途述べたるつもりだが、以下にグローバルにみた、NGOにとっての現在の主たる関心事項、企業とNGOの具体的な紛争事例をいくつかあげておこう。
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( 1)気候変動
 京都議定書が単なる総論的な条約ではなく、数値目標を設定した条約になりえたのは、NGOの国際ネットワークである「気候行動ネットワーク」(CAN)の貢献が大きかったとされる。米国は、政府として京都議定書を批准しない意向を明示しているため、NGOは政府への影響力に限界を感じ、企業に目を向け、企業が実行しているかどうかの監視を強めている。とくにエネルギー会社(石油、石炭、ガス等)がNGOのターゲットとなり攻撃を受けてきた。しかし、現在では、環境NGOとエネルギー企業との協働関係は相当進展してきている。

( 2)必須医薬品入手問題
 国境なき医師団、OXFAM、ヘルス・インターナショナル等のNGOは、医薬品の多国籍企業をターゲットに多くの成果をあげてきた。NGOの「必須医薬品入手キャンペーン」によって、ファイザー、ロッシュ等の医薬品会社が収益性の低い(あるいは収益のない)熱帯地域の感染症用医薬品の生産中止に対して反対する活動をし、成果を上げた。また、開発途上国がジェネリック薬を生産できるよう、WTOのTRIPS(知的所有権)条約を改正するキャンペーンを行ってきたが、これも一定の成果をあげている。

 世界の多国籍医薬品メーカーは、その巨大な研究開発費を心臓病や糖尿病、バイアグラや毛生え薬等の先進国向けの開発に投じており、開発途上国の人々の病気であるマラリアや結核などの感染症などの研究開発には投じていない。

 しかし、NGOの活動を通じて、世界の医薬品メーカーはNGOとの協働関係の構築をすすめている。OXFAM 、ケアインターナショナル、セーブザチルドレン等のNGOが、協働関係の相手側NGOとして注目されている。

( 3)フェアトレード
 開発途上国の農家などの生産者の自立を支援する、「もう一つの貿易」を求めるフェアトレード運動は、欧州ではこの数年大きな伸びを示している。NGOは、コーヒー農場の農民への利益の配分が不公平であり、コーヒー農場に十分に還元されていないと主張し、クラフト、サラリー、ネスレ等の5企業(全世界のコーヒー豆購買の80%を占める)をターゲットに改善のキャンペーンを行っている。OXFAMなどNGOの提案に基づき、クラフト社などはコーヒー農場の農民に対して代替収入源(他の作物等)を提案しその指導を行っている。

( 4)消費者の権利
 製品包装の仕方やラベルに掲載される製品の安全、品質、製品の情報に対してNGOは強い関心をもっている。近年NGOは食品会社をターゲットにするだけでなく、それをデザインしている広告会社もターゲットとするようになっている。

( 5)農業と遺伝子組替作物(GMO)
 GMOではモンサントがステークホールダーとの対話を欠いたために、NGOのターゲットとなり、生産中止に追い込まれた。

( 6)児童労働
 ナイキやGAPなどがNGOのターゲットとなり、大きなダメージを受けた。企業はグローバルに2層、3層のサプライチェーンを監視し、責任を果たす必要がある。現在では、児童労働問題では、企業も自覚し、NGOとの協働関係も進展している。

( 7)女性の労働環境
 スポーツウェア・靴業界では、OXFAM、CCC(クリーン・クロス・キャンペーン)、グローバルユニオンの3団体が日本のミズノ、アシックスを含め、世界のスポーツウェアメーカーをターゲットに、アテネ・オリンピックに向けて「プレイ・フェア at the Olympic」というキャンペーンを開始した。アジアにおける女性の強制労働問題が中心となっている。

 同キャンペーンを、今後2008年の北京オリンピックに向けて本格化させていく意向をNGOたちはもっている。

( 8)子どもへのマーケティング
 欧州のNGOは子供への広告を制限する規則を作ろうと働きかけている。玩具やマクドナルド等の企業は対応が必要である。

( 9)収賄問題
 開発途上国での援助プロジェクトなどでは、賄賂問題がつきまとっているが、トランスペアレンシー・インターナショナルなどのNGOが企業の監視を強めており、かつ企業に対するアドバイスを行っている。今後、いくつかの企業がNGOによって告発されるケースも出てこよう。

( 10)建設関係材料
 アスベストなど危険な建築材料についてNGOは監視を強めてきた。アスベストのケースではNGOの指摘に対して当初建設会社はその危険性を否定していたが、その後危険性が証明された。NGOによる告発から使用禁止まで15年がかかっている。NGO からの警告があった場合、企業は直ちに検討を始めることが重要である。そうでないため、多くの企業が依然として厳しい訴訟に巻き込まれている。

( 11)食品と栄養
 市民の健康や栄養に悪影響を与える可能性のあるマクドナルドやケンタッキー等のファストフード企業に対して、とくに90年代後半に多くのNGOが監視を強めてきた。NGOの協力を得て制作したドキュメンタリー映画『スーパーサイズミー』も、そうした実態を暴くために撮られた。また、ノンフロン冷蔵庫の導入など、ファストフード企業はさまざまな面でNGOの告発を受けている。

( 12)動物の権利と福祉運動
 この分野では、「動物の権利」を主張する極端とみられるような活動をすすめているNGOと、「動物の福祉」を主張するNGOとに分かれる。動物の福祉とはいかに動物を取り扱うかに関する問題であり、両者の違いを認識した上での対応が必要である。

( 13)ミャンマー問題
 ミャンマー(軍事政権による人権弾圧)への投資企業への消費者への不買運動の実施などをNGO(「自由ビルマ連合」など)が行ってきた。そのためハイネケンをはじめ多くの企業が撤退した。ダイヤモンド企業の最大手デビアスは、アンゴラ産ダイヤモンドの取引で、アンゴラの反乱グループ(UNITA)に資金提供をしているとして人権NGO(グロール・ウィットネス等)や国連から非難され、取引を中止すると公表した。


 

 



 

 

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