協働コーディネーター養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ4 
 公共事業を「協働」でおこなう ゆとりとやすらぎをもとめた ある「むら」の挑戦〜

 第3回   「自分たちの公園をつくろう」

吉岡幸彦( 姫路市建設局建設総務部建設総務課係長

  特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは協働コーディネーターを養成する、協働コーディネーター養成講座を開催してきました。その成果として、協働コーディネーターとして各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、協働コーディネーターとして活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。
  シリーズ4では、兵庫県姫路市別所町北宿での公共事業を‘協働'にて行った経験を紹介します。この事業を通して協働コーディネーターの役割やその重要性を知ってください。

キーワード・・・ つぶやきを形に、コーディネーターの役割

 田んぼの中の小さな「むら」。典型的な高齢化と過疎化が進む地域であったこの地区が、行政と住民が協力して住環境の整備に取り組んだ結果、『むら』は安全で快適な環境を得ることが出来、しかも過疎化に一定の歯止めがかかり始めた。このことは地区住民はもとより、行政にとっても大きな喜びと自信となっていった。      前回は道路拡幅整備における地域住民と行政の協働事例を述べてきたが、今回はこのまちづくりの両輪となっているもう一方の主役である住民が参加して考えた公園づくりについて述べてみたいと思う。

1. ため池を公園に
  北宿は田とため池に囲まれた集落である。そのため池の一つが集落の入り口にあった。ちょうどそのため池から集落内の道路が放射線状に幾本も延びている。まさしく集落のへそにあたる部分である。我々は地域の防災拠点として、また憩いの場所として、このため池の一部を埋め立てて公園をつくる計画を立てた。この話をまちづくり協議会を通して地区住民にしてもらった。案の定、地域の特に農家の大反対にあった。ため池は農家の生命線であるというのだ。そのため池を埋めるということは、たとえ公園をつくるという理由であっても許可は出来ないということであった。

 しかし立地条件からみれば、公園をつくる場所はここがベストであることは間違いなかった。

 行政とまちづくり協議会そしてコンサルタントの三者が知恵を絞った結果、
 「池の埋め立てに相当する水量を確保するために、他の池の底を浚渫することで、集落のため池全体の水量は変化しない。なおかつ、浚渫で出てきた土を公園の埋め立てに再利用する」

 という案を地区住民に提案した。まちづくり協議会のメンバーのほとんどが農家であったことも功を奏し、ようやく地元の住民達の理解を得ることが出来、埋め立て工事が出来るようになった。

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2. 難うわさの真相
 むらのへそにあたる部分に公園が出来る。しかし当初地域住民はほとんど無関心であった。というよりも、行政がここに公園を作るらしい。と、まるで他人事のようにとらえていた。

 唯一老人会から「既設の公園は子供のソフトボール練習と競合しているため、是非グラウンドゴルフ場を作ってほしい」というような意見が出ていた。自治会からも、そのように整備してもらえれば助かるという言葉を聞いていた。実際そのようなうわさが地区内にすでに浸透しつつあった。このような状況であれば当然行政としては地元の意見を尊重し、その方向で検討していくことになる。

 グラウンドゴルフ場を作ることは簡単である。しかし、問題はこれが村人の総意であるかどうかということである。筆者が地域の中に入っていくと、少し違う所に住民の思いがあるような雰囲気が感じられた。地域の人々との会話の中にもう少し違う期待があるような気がしたのである。

 「市民社会を協働型にしていくためには、市民のつぶやきを形に出来るしくみを作る必要がある」とはNPO研修・情報センターの世古一穂代表理事の言葉であるが、まずは住民の思いを「つぶやき」に変える必要があった。

 私はまず、街づくり協議会の役員にこう言った。
 「今だったら、公園の計画は白紙ですから、住民の思うような絵が描けますよ」

 はたして本当にそんなこと出来るのだろうか? というような訝しげな顔をしていた役員たちも、「もし本当に出来るのならば是非やりたい」と目を輝かせた。

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3. ワークショップの実施
 「公園を住民で考えよう」と呼びかけ集まった地域住民は50名余りとなった。全員で討議を行い、人数を少し絞って考えていくことで了解を得た。参加者は自治会を中心に住民達で検討した結果、自治会、婦人会、老人会、子供会、街づくり協議会、消防団それに一般参加者などを加えて合計24名が決定し、『公園を考える会』が発足した。そして、筆者がコーディネーターを務めることになった。

 『ワークショップ』とはいったい何 ? と言う言葉の意味の説明から始まった会である。

 「行政が持ってきた2、3案の中から1つの公園案を選ぶだけかと思っていたら、最初から公園を考えると聞いて、今までそんな経験ないからびっくりした。でも面白そうやな」
 参加した老人の言葉である。

 始めはいやいや参加していた人々も、近隣の公園を見学したあたりから、がぜんやる気が出てきた。公園に設置してほしいものが明確になってきたのである。

 「小高い丘の上にある東屋から夕日を眺められたらいいなあ」

 「見学した公園でおばあさんが歩行訓練していたけど、少しクッションのある歩道があれば、足に優しくて、リハビリにもいいかもしれないね。私達も年をとるのだから」

 「小さな子供が喜ぶちょっとした遊具があればいいなあ」

 「足つぼを刺激するような小石を敷き詰めた遊歩道も健康にいいかも」

 いたるところから つぶやき が聞こえてきた。住民達の目に光が灯り始めた。

 毎日の通勤や買い物で通る道に公園があると興味をもってついつい見てしまうという。

 そういえばグラウンドゴルフはいったい何処にいってしまったのであろう。老人会の人達も含まれていたのだが、不思議なことに公園ワークショップにおいて最後までこの意見はまったく出なかった。

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4.施設の検討
 公園ワークショップの話を聞いて建築士会姫路支部から、是非参加させてほしいという要望があった。地域の枠を超えてまちづくりが広がっていくことは願ってもないことである。

 さて、ワークショップも佳境に入ってきた。そこで問題が発生した。公園のトイレの設置の有無について参加者の意見が真二つに別れたのだ。この公園の管理はあくまでも地区住民がやっていくことになっている(日常管理のみ)。しかし、公衆トイレの管理ほど厄介なものは無い。

 「地区内の小さな公園だから管理に手間のかかるトイレなんて要らない。自宅に帰ればいい」

 「憩いの場である公園にはトイレは必要である。夢のある議論しているのに、後ろ向きの意見はそぐわない。管理は住民達でやればいい」

 議論が沸騰し、なかなか収拾がつかなかった。議論が出尽くしたところで最終的に多数決で決定することとなった。どちらに決まってもその方針に従うということで賛否をとった結果、僅差ではあるが、トイレを設置することとなった。住民達は権利を取得し、義務を履行する方針を選んだのである。

 ワークショップは結局半年間の間に7回行われ、公園の基本構想が決定した。

 全員で討議を重ねた公園プランが模型となって披露されたとき、参加者の表情は大きな仕事をやり遂げた充実感で昂揚していた。

 ワークショップの毎回の参加者率は常に9割に達していた。毎回この日が待ち遠しいと言って下さったご婦人もいらっしゃった。ほとんどの人が積極的にワークショップを楽しんでいた。自分達の意見が形になることの喜びを知ってしまったのである。しかしワークショップのコーディネーターである私にとってこれは相当なプレッシャーであった。なにせ つぶやき を形にしなければならない責任があるからである。

5.市民との協働とは
 行政が住民対象にワークショップを実施することはそう困難なことではない。しかしそこで発せられた意見をどう吸い上げ、どう生かしていくのか。市民の目に見える形でどう実践していくのか。後々まで責任をまっとうしなければならない行政にとって、そのあたりの折り合いの付け所が難しい。

 参加して来た市民も、何を言っても結局は行政の方針に変わりはないと思えば、熱意や意欲もなくなってしまうだろう。参加した意味がないのである。市民も賢明であるから、行政側のアリバイ作りだけのための市民参加であれば、加担するつもりはさらさらないであろう。

 市民との協働作業を実施するためには、行政としても相当な覚悟が必要となってくる。担当部局だけで解決出来る事柄ばかりではない。やはりそれ以外の関係部局へも影響してくる事柄もある。よって行政内部でのコーディネートが事前に必要になってくるのである。

 今回のワークショップを実施する前に筆者は公園部局と何回か会合を持った。その中で設置出来る施設と出来ない施設を確認しておいた。出来ない施設をあらかじめ参加者に示しておくことによって、ワークショップにおいては、その枠の中での論議となる。しかし、そうそう旨くいくことばかりではなかった。とっぴな意見が出たりする。そんな時は、公園部局と早々調整をして、結論を出来るだけ早く参加者に知らせる努力をした。いかにメンバーに的確な情報を知らせ、方向性を示せるかが大きなポイントである。実際、ワークショップは毎回毎回が真剣勝負であった。

 筆者もNPO情報・研修センターの開催したコーディネーター養成講座の修了生の末席を汚しているわけであるが、既成の流れを越えて何か新しい事をしようとする時、関係者全ての協力が得られるようなコーディネートをすることがいかに重要であるかをこの体験を通して実感した。

 さて、次回(最終回)は、ワークショップの新たな展開と、思わぬ大賞の受賞、そしてまちづくりのまとめを報告します。ご期待下さい。  

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