IT技術を生かした社会参加 第8回  メディア・リテラシー5‘サイバーマーケット'

                          
池内健治(産能短大教授)
キーワード・・・ MP3、ビット、バイト、文字コード体系、Unicode

.アップル社の復活
 i Podが売れている。アップル社が売り出したハードディスク内蔵の音楽プレイヤーである。これまでの携帯MDプレイヤーなどに変わって携帯音楽機器の主役となっている。このiPodの部品の多くが日本製であり、ハードディスクは東芝製、ケースは日本の中小企業の技術を使った筐体で、そのデザイン性が特徴的である。それを組み合わせた小さな機器がアップル社の利益率の向上をになった。

 

 iTunesというパソコン用のソフトを使って音楽ファイルを機器に取り込んで、どこでも音を聞くことができる。MP3(MPEG1 layer3)など、さまざまな音声圧縮方式に対応している。このソフトの中には、ミュージックストアというページが用意されており、アップル社のページから音楽ソフトを購入できる。

 現在のところ音楽ファイルを入できるのは、アメリカやカナダ、欧州の各国に限られている。日本では、まだ購入することができない。 日本音楽著作権協会( JASRAC)との調整に時間がかかっていることが参入を妨げている。携帯電話での着うた購入など、次第にネットを通じた音楽の購入への道が広がりつつある。

 一般に、商品をインターネットで購入する場合、購入申し込み、商品の発送、代金の支払いなどの手続きを伴うため、商品を手にするまでに時間がかかる。ところが、クレジットカードを入力して音楽ファイルやソフトウエアをダウンロードすれば、瞬時に取引が終了する。取引する商品は、書籍、音楽、映画の順にファイルの大きさが大きくなる。この順で商取引が活発化してきた。

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2.デジタルデータの量の基礎知識
 書籍、音楽、映画などの動画の順にダウンロードが簡単で、商品取引がしやすくなる。ここで、それぞれに、どのぐらいの大きさなのかを考えてみたい。

 コンピュータで情報をやりとりするときの最小単位をビットという。私たちが数字を使う場合、算用数字は0から9までの10種類の記号を使い、10で一桁上がる10進数を使っている。年は365日ごとに1年増える桁上がりをする、365進数。日は24時間で1日の桁上がりをする24進数といった具合。私たちは10進数以外にも、いろいろな数字の体系を使い分けている。そのため小学校で時間の計算や、日数計算などを練習したわけである。

 コンピュータはとても単純で、1と0の2種類を使った2進数で計算をしている。その最小単位を1ビットという。0、次に大きな数が1、次が10、その次が11、100、101・・・というように、使えるのは1と0。2以上の数字を使わない方式である。1ビットでは1と0の2種類、2ビットでは、00、01、10、11の4種類、3ビットで8(2の3乗)、4ビットで16(2の4乗)というように、ビット数が大きくなるに従ってたくさんの種類の記号を示すことができる。

 8ビット (2 の8乗=256種類) あれば半角英数文字のすべてに対応させることができる。 そのため8ビット( bit ) を1バイト (byte)とよんでいる。「ビットとバイト」よく似ているのでご注意を! アルファベットで1文字を8ビットで示すことが出来るので、データ量を示す場合1バイトを基本単位に使っている。1バイトというのは、半角英数1文字と理解しておくとよい。漢字やひらがななど日本語の文字は種類が多いので、半角2文字分で1文字を表している。

 128MB(メガバイト)のUSBメモリーには、漢字で64,000,000字(6千4百万字)。A4用紙は、1行半角40文字、38行で1,520字が入る。換算すると、小さなUSBメモリーにA4用紙42,000枚の情報を記録することができることになる。上質紙が0.07mm程度なのでA4用紙を積み上げると約3メートルの高さになる量である。

 テキストファイルという、文字だけを記録する方式で書籍を記録する。この場合、夏目漱石の『明暗』は、 727KB(キロバイト)。漢字で36,3500文字。『吾輩は猫である』が731KB。芥川龍之介の『羅生門』は14KBである。夏目漱石全集全11巻はフロッピーディスクで5〜6枚のデータ量である。

 ブロードバンドでは、実効速度が 20Mbps(メガ・ビット・パー・セコンド)。この転送速度は1秒間20メガビット、1秒間2.5MB(メガバイト)、でデータを転送できる。夏目漱石全集全11巻(731KB×11=8MB)を約3秒程度でダウンロードできることになる。

 音楽ファイルは、 120bpsという圧縮比で記録すると3分間の曲は約2.7MBのデータ量。『吾輩は猫である』が3.8冊分に相当する。3曲で夏目漱石全集全11巻の量にあたる。デジタルデータにしてしまうと、いかに書籍が小さいデータ量であるわかるであろう。

 同様に、映画やテレビ番組の動画ではどうだろう。 MPEG2という規格(DVDに相当する圧縮率)で記録すると、60分番組が約2.33GB(ギガバイト)。3分間の音楽860曲分に相当する。夏目漱石全集全11巻で30万セットにあたる。このように、デジタルデータに換算すると、たかだか60分のテレビ番組でも文字データと比較すると、転送するデータが大きいことに驚く。

 現在、所沢の自宅で原稿を書いているが、BフレッツというNTT光ブロードバンドでは最大 100Mbps。通信速度を測定した実効速度で16.83Mbps程度である。60分番組でも18〜19分程度でダウンロードできる時代になったわけである。

3.文字コード体系
 各国はコンピュータで自国の文字を扱うために独自のコード体系を使っている。先述の1と0で示す8ビット(1バイト) あるいは16ビット(2バイト)の記号を文字に対応させている。欧米のコード体系は図2の通りである。制御コードでも使用するために、すべてのコードに文字があたっているわけではない。「!」は16進数で21、2進数で 0010 0001、10進数で33にあたる。

 現在、インターネット・エクスプローラでWebページをブラウジングしているならば、図3で確認して欲しい。文字コード体系を選択することができる。

 欧米などアルファベットやギリシャ文字、ロシアで使われるキリル文字などを使う諸国では、半角1文字ですべての文字を表すことがきる。それに対して、漢字文化圏やアジア、イスラム、その他の国は半角2文字分にあたる2バイトで1文字を表している。2バイトコード圏とよんでいる。世界各国で自国の文字を使うためには、すべての国のコード体系が対応する必要があるが、個々の国がバラバラにコードを決めると混乱が起こる。

 この問題を解決するために、 Unicode(UTF-8)という世界標準が制定されている。現在でも、さまざまな国の文字に対応するためにディスカッションを行い、改訂作業を行っている。欧米諸国はすでに1バイトコードで多くの言語が表現できる。そのため、2バイトコードは日本も含めた、第三世界の言語をどのように表現するかが課題となっている。

 知的財産権の保護にあたってポイントは2つある。知的財産は活用しなければ、価値を生まない。たとえば、発明や情報コンテンツなどは活用されなければ富を生むことがない。次第に、陳腐化しその価値も次第に低下するものが多い。保護することと普及することを両立することが鍵になる。

 次に知的財産は複製が容易である点である。紙に印刷された情報をコピーし、さらにそれをコピーするというように複製を繰り返すと、質が劣化して最終的には情報を判別できなくなる。ところが、デジタル化された情報はコピーを繰り返しても、原本と全く同じものを簡単に作り出せる。

 はじめの1つをつくるのに多大なコストがかかるが、 2つめ以降はほとんど製作には費用がかからないという性質が特徴である。つまり、デジタル時代はオリジナルを創り出すことに大きな価値を生む時代なのである。複写に大きなコストがかかる時代であれば、複写自体にも価値を認めることができる。デジタル化以前の時代でもオリジナル性は重視されてきたが、デジタル化によりその価値が大きくなったわけである。

 だれでも簡単に複製できるということは、プロの作り手だけが著作権に関係するだけではない。わたしたちの身近な法として著作権や知的財産権に関する法をとらえる必要がある。自動車に乗るために交通法規を学習するように、デジタル機器を使いこなすためには著作権や知的財産権に関する法を学習する必要がある。

 最後に、デジタル化によって知的財産をさまざまに加工することができることである。たとえば、まとまった曲に著作権が生じることは容易に理解できる。1つの曲のフレーズを使って自分の曲を作ることは盗作である。盗作の話題にはことかかない。ところが、これをサンプリングという方法を使って、さらに細分化する。それをモザイクのように組み合わせて曲を作ったときに、果たしてそれが盗作になるかどうか判断が難しくなる。どこまでが盗作で、どこからが創作なのか。同様に、パロディーと盗作の違いも明確な線があるわけではない。

4.ITと言語
 コンピュータはアメリカで発明された機械なので、欧米文化の影響を強く受けている。プログラミング言語の表記方法、入力のためにキーボードを使用すること、表示言語がアルファベットを所与としてスタートしたことなどである。先述の、文字コード体系も欧米にとっては1バイトでコード体系はほとんど完成された状態といってもよい。2バイトコードは日本をはじめとする2バイトコード圏の国の利害を調整しながら議論がすすめているといってもよい。

 日本語における文字入力は、ローマ字入力あるいはかな入力のどちらかに統合されている。ローマ字入力に収束してきた。中国語でも、さまざまな入力体系が考案され、それにあわせてさまざまなキーボードがつくられた。現在では、簡体字ではピンインという発音方法を入力に使っているが、台湾や香港の繁体字では 注音字母という入力方式を使っている 。

 標準キーボードに合わせてさまざまな入力方法が考案され、標準的な入力方法に収斂してきた。ところが、そのことが新しい問題を生み出してきている。 会話は問題なく伝わるのに、繁体字文化圏の人と簡体字文化圏の人が電子メールでのコミュニケーションは難しい。

 コンピュータは一方で世界共通のコミュニケーションのプラットフォームを提供してきたが、他方で各文化圏の違いを際だたせてきた。インターネットが普及することで、言語が英語に統一されるかのような議論があったが、実際はそうなっていない。英語を使うことでインターネットによる情報交換の広さも、深さも格段に違うことは確かである。だが、共通のプラットフォームができることで、個々の言語や文化の違いに価値があることも明らかになってきた。

5.文字によるコミュニケーション
 ラジオやテレビ、漫画などが発達するにしたがって、話し言葉によるコミュニケーションが書き言葉を圧倒してきた。ところが、インターネットが出現することで、メールやWeb、ブログなど書き言葉によるコミュニケーションに関心が高まっている。

 携帯電話で和歌を詠む、携帯電話やPDAで書籍を読む。ブログによって文字のリンクの蜘蛛の巣が自動的に編み出されている。ビジネスライクにメッセージを明確にやりとりするコミュニケーションが発達するだけではなく、情緒を言葉にのせてやりとりするノウハウも蓄積されてきた。

 ネチケットなどで情報リテラシーのノウハウ第1世代は一定の完成の域に達してきた。感情が伝わりにくいことを前提において電子ネットワークでコミュニケーションをとるには、どのようにすればよいかというものであった。メッセージを明示的に示すことに努力し、明示的に示すことができない感情レベルの情報交換の補完方法を示すにとどまっていた。いわば、ドライなコミュニケーションのノウハウを蓄積してきたといってよいだろう。

 ネットによるコミュニケーションが浸透してきた現在、もっとウェットなコミュニケーションに関するノウハウを蓄積する必要があるのではないだろうか。古代の人々が詩歌に気持ちをのせてやりとりをしたように。ネットワークにおける文字でのコミュニケーションに、これまでにないコミュニケーションが開ける芽があるように感じる。携帯で和歌を詠い、小説を書くといった、今までにない広がりを見せている。

 ビジネスコミュニケーションなど機能的なコミュニケーションから、気持ちの表現といった新しい段階に。新しい情報リテラシーや情報、活用能力が必要な時期にきているのではないか。

 

6.まとめ
 ITの発達で文字、音声、動画という順に情報交換が容易にできるようになってきた。文字による情報発信は個人が情報発信する場合、簡単に発信できる情報発信方法である。その意味で、文字によるコミュニケーションの重要性は高まっている。

 文字によるコミュニケーションにより相互理解が深まる一方で、文化の摩擦が顕著になる傾向もある。コンピュータをつくってきた先進国では解決がついていることが、途上国ではまだ解決がついていない。文字コードの標準化をはじめとして、国際会議における各国の摩擦も高まっている。これについては、次回以降、詳しく述べたい。

 より個人的なレベルに話を戻してみると、ネットワークを介した文字によるコミュニケーションは新しいコミュニケーションを開いていく可能性を秘めているように思える。よりウェットなコミュニケーションツールとしての活用方法を明らかにしていきたい。

参考 ---------------------------------------------------------------------------

iTunes http://www.apple.com/jp/itunes/jukebox.html

Unicode Consortium http://www.unicode.org/

IT用語辞典

:Unicodeとは http://e-words.jp/w/Unicode.html

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