4.行政側の対応
自治会の様子を見守っていた行政側も、せっかくまちづくりの機運が高まっているこの北宿地区を、なんとかバックアップできないものかと模索していた。しかし、状況は極めて厳しいものであった。一般的に高規格道路(いわゆる幹線道路)であれば国庫補助金が付く事業はたくさんあるけれど、生活道路については特殊な場合を除いて一般的には市の単独事業で行わなければならない。しかも集落内道路総延長1.5kmにはびっしりと家屋が張り付いているのである。100軒以上もある家屋の移転費用と用地買収費用及び道路整備工事費用を合わせると、工事費は20億円を超えると試算された。数字だけ見れば到底実現不可能である。市内全域に同条件の集落が無数にある中で、一集落に投資する額としては大きすぎる。従来の用地買収方式での事業化は断念せざるを得なかった。しかし、そういうことを言っていると既成の集落はいつまでたっても道路が広がらないままである。何かいい方策はないものであろうか。
そんな中、調査を依頼していた、まちづくりコンサルタントから国の施策の中に面白いメニューがあるという報告を受けた。
その施策は、自治会の総会の議決とほぼ同じ時期の平成5年4月1日に建設省(現在の国土交通省)住宅局において、新しく制定された街なみ環境整備事業というメニューだった。
この事業は住宅が密集し、生活道路等の地区施設が未整備であり、住環境の整備改善をする必要のある区域において、ゆとりとうるおいのある住宅地区を形成するために実施する事業である。
しかも住民間で「街づくり協定」を締結することを前提としており、住民にも費用の一部を負担してもらいながら、住民と行政が一体となって実施することになっている。
まさに北宿にぴったり当てはまる。しかも事業費を試算すると、市費の持ち出し分が当初試算の約5分の1に当たる4億4千万円(補助金と合わせて8億8千万円)という結果が出た。住民の切実な願いを思えば、十分に財政部局との折衝も出来る範囲内である。まして、安全で安心なまちづくりを目指している当市の施策にも対応する事業となる。我々は早々事業導入に向けての検討に入った。
住民の思い、それになんとか応えようとする行政、そしてその両者をうまく橋渡ししてきたコンサルタントが、それぞれの立場で力を発揮したことにより、いよいよ夢が現実に向かって動き始めた。
住民の思いと行政の思いが一緒になって開始された街なみ環境整備事業。次回は事業の実施における住民の役割と行政の役割についてどう棲み分け、どのようにコーディネートしていったのか、お話したい。 |