「南」の世界拾い読み 第13回

 このコーナーは、南の国々(開発途上国)のメディアやNGO/NPOで流されている情報を中心に独断で選んで、そのサマリーをコメントをつけて紹介していきます。情報の詳細を知りたい場合は、併記のホームページにアクセスしてください。
  2月末に米国の映画界のビッグイベントであるアカデミー賞の発表はあった。ということで、今回は映画をめぐる話を紹介していく。 (本田真智子 常務理事)

キーワード・・・ 映画、汚名、侵略、世界的成功、スペイン語、アカデミー賞、エイズ

1. RIGHTS-CARIBBEAN: Arrr, Matey! The Curse of the Racist Sequel?
http://www.ipsnews.net/interna.asp?idnews=27663

PORT OF SPAIN ( トリニダード・トバゴ )  2003 年に世界で 6 億 5300 万ドルを稼いだヒット映画「パイレーツ・オブ・カリビア―ン」の続編の撮影が始まろうとしている。続編では、カリブに住む人々が食人風習があるように描く部分があり、歴史家や現在のカリブに住む人びとは、製作会社であるディズニーにその部分を削除するように求めている。カリブに斟酌してきた欧州の人々が、彼らに激しく抵抗したカリブに住むカニバの人々に対して、食人風習があるかのような事実と異なる‘神話'をつくったのだ。食人嗜好をカニバリズムというが、それはこのことが語源となっている。カリブの歴史家や教師たちは、歪曲された歴史を正すための闘いを長いことしている
( IPS “ INTER PRESS SERVICE NEWS AGENCY ” より)

2. FILM : Uruguayan Wins First Oscar Ever Awarded to a Song in Spanish
http://www.ipsnews.net/new_nota.asp?idnews=27655

MONTEVIDEO (ウルグアウ) アカデミー賞でスペイン語による初の最優秀オリジナルソング賞をウルグアイのシンガーソングライター Jorge Drexler が受賞した。しかし、主催者は授賞式でのパフォーマンスを Jorge Drexler ではなくアントニオ・バンデラスとギタリストのカルロス・サンタナに依頼した。 Jorge Drexler はただ、受賞に対して短いスピーチをすることだけを依頼された。それは、アメリカでは彼がまだ無名であるということによっている。しかし、 Jorge Drexler は受賞に当たって、スピーチではなく彼の歌の一部を歌い、ありがとうと付け加えた。
 Jorge Drexler の歌った曲は伝説的革命家‘チェ・ゲバラ'の若き日の冒険旅行を描いた「モーターサイクル・ダイアリーズ」の主題歌である。チェ・ゲバラを演じたメキシコ人俳優ゲール・ガルシア・バーナルは Jorge Drexler がアカデミー賞の授賞式でのパフォーマンスを許可されなかったことに抗議して、式をボイコットした。 Jorge Drexler は憎しみからは何も生まれない、歌うのが好きなので授賞式の舞台でただ歌ったという。
 「モーターサイクル・ダイアリーズ」はカンヌ映画祭で賞賛を浴び、サンダンス映画祭でスタンディングオベーションを得、アメリカではスペイン語映画として年間でトップの興行成績をあげた。
( IPS “ INTER PRESS SERVICE NEWS AGENCY ” より)

3. As Oscar-Nominated Yesterday Comes On Screen
http://allafrica.com/stories/200502280399.html

Lagos( ナイジェリア )  南アフリカ共和国のM−ネットによって製作された映画「Yesterday」はアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされた ( 受賞作はスペイン語映画「The Sea Inside」 ) 。
 「Yesterday」は既に、第61回ベネチア映画祭の人権映画賞や第 3 世界映画祭で優秀映画賞などを受賞している。
 M−ネットのヘッドはノミネートに足して非常に光栄に思っていると共に、エイズ対策の努力に対する明確な成果であると語っている。「Yesterday」は若い母親と娘がエイズと生きることになり困難に直面する繊細な物語である。シンプルなセットの中で製作された、純粋な物語である。俳優たちやスタッフは大変な撮影を行った。それは制作者の誇りともなっている。
( all Africa .com  より)

コメント  ディズニー映画「パイレーツ・オブ・カリビアーン」もアカデミー賞も米国のものである。なので、米国の企業の考えや市場に左右されるのは仕方がない。しかし、一方では米国の映画界は世界が注目しており、多くの国で上映されるので、世界中の人が米国映画の描き方や、賞のあり方の裏に潜む思考に一喜一憂する。アカデミー賞にノミネートされるまたは賞を獲得するということは、世界で成功する、または世界に自分たちの抱えている課題を訴えるのに有効なのだ。

 カニバリズムという言葉は知っていたが、その言葉の由来は知らなかった。征服者は往々にして抵抗している人々に対して汚いレッテルを貼り、自分たちの行為を正当化するのだ。そのことは知っていても、カニバリズムがスペインの南北アフリカ大陸征服に関わることから生まれた言葉だとはしらなかった。そして、それに対して自らの先祖の汚名を濯ごうと活動をしている人々がいることも。

 2 つの記事は、アカデミー賞が世界的に影響のあるものであるということ、だからこそ自分の扱いの不当な部分に対して抗議したいという思いを抱えたり、ノミネートされたことで世界的な成功に結びつく可能性が大きくなることを現している。「モーターサイクル・ダイアリーズ」は既に日本では公開されていて、ロングランになった映画である。私も映画館で観て、チェ・ゲバラが思想ではなく、人を見たことから革命家になっていくさまに感動した。「Yesterday」は未見であるが、アカデミー賞にノミネートされたことで日本でも公開の可能性が高くなったのではないだろうか。

 映画を観ることで、私たちが知らない南の国の人々の苦悩を知り、共有することで、新しい動きのきっかけになるのかもしれない。
 また、映画を楽しむ際、米国資本の制作する大作映画でも、第 3 世界の人々が制作する作品でも、見る側の力、リテラシーが重要になってくるかもしれない。

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