IT技術を生かした社会参加 第6回  サイバー・リテラシー

                          
池内健治(産能短大教授)
キーワード・・・ネチケット、スパムメール、ワンストップサービス、批判的ネットワーク・リテラシー、ブラックボックス化

 インターネットを活用するためのリテラシーを考えてみたい。インターネットの商用利用は1995年に開始した。同年 Windows95 が発売され、パソコンが身近な機器として爆発的に普及することになる。約10年、現在ではインターネットは我々の生活に欠かせない道具となってきた。

 普及当初から、ネチケットガイドラインという利用ガイドラインが提唱されて、利用上のルールの徹底が必要だとされてきた。  インターネット技術開発組織 IETF がインターネットの技術仕様書を作成しており“ RFC ( Request For Comments )”と呼ばれる。技術進歩が速いので、絶対に守るべき仕様として規定しているわけではなく提案書という形で公開して、次々と細かな修正を重ねて運用をしている。ネチケットガイドラインは RFC1855 で公開されている。

   技術開発が進み、利用者も拡大した現在でも有効なルールである。新しいサービスが拡大し、簡単に画像や動画、音楽などをコピーして使える状況が生まれ、ウィルスやスパムメールなど負の側面も顕在化してきた。情報倫理、個人情報保護などをふまえて個人のインターネット利用ノウハウを確立し、統制されない自由な情報ネットワーク環境であるインターネットを守っていく必要がある。
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.ネチケットガイドライン
 ネチケットガイドラインの目次は右の通りである。当時電子メール、トークと呼ばれる1対1のチャットのようなサービス、ネットニュース、メーリングリストなどが主要なサービスで、 Web はスタートしたばかりであった。
 現在でもメールやメーリングリスト、ネットニュースは主要なサービスなので充分に参考になる。とくにメールに関する記述は有益である。

 メールの安全性、複製する文書の著作権、チェーン・レター(不幸の手紙)の禁止、フレームレターへの対応、メールの発信者を知らせる署名の添付、 CC の使い方、長文のメールの発信ルール、受け手との文化的・言語的な感覚の違いの理解、大文字や小文字の使い方、スマイリー(顔文字)の活用、1行の長さ、改行(キャリッジ・リターン)のしかた、件名(サブジェクト)の付け方、メッセージの真偽(なりすましに対する対処)、俗語など内輪の省略語や表現に対する注意、添付ファイルの大きさなどである。

 セキュリティ・著作権・基本操作に関するルールとコミュニケーションの問題に大別できる。特にフレームレター( flame letter )と呼ばれる感情的なメールのやりとりによる思わぬ対立を引き起こす問題が多発した。言語によるコミュニケーションは対面コミュニケーションと違い、相手の表情、身振り手振りなど、ノンバーバルコミュニケーション(対面において「ことば」以外の手段によるコミュニケーション)を伝えることができない。メディア・リッチネス(コミュニケーションする両者の理解を一致させる力: Daft and Lnegel , 1986 )が低いメディアである。

 また、電話と違い、コミュニケーションの履歴が残り、それを引用してコミュニケーションできる。これはメリットでもあるが、感情的な対立があると言葉尻をとらえた対立になりがちである。これを解消するための工夫の一つが、フレームレターによるやりとりを打ち切る、感情を文字で示す、ノンバーバルコミュニケーションをスマイリーという顔文字などで補う等であった。現在、ビジネスメールではスマイリーを使わなくなったが、当時はスマイリーによって感情をつたえるために使用が推奨されていたわけである。

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2.ビジネスメール
 紙によるビジネスコミュニケーションの歴史は古く、ビジネス文書のルールも確立されている。様式を覚えれば比較的簡単にビジネス文書を作成できる。ところが、もともと電話と同じような感覚でエンジニアが電子メールを使っていたので、メールの様式は確立されていない。「はーい、池内です。」「株式会社山本商事 山本課長、拝啓・・・」など、さまざまなメールが届くことになる。

 手紙に私信もあれば、公式文書もあるように、メールでも場をわきまえた文書の書き方が求められているが、まだメールによる文書のルールは確立されていない。ビジネス文書のように記述すると硬い感じがするが、極端にカジュアルな文書はビジネスとしては適切でない。電話に近いメールあるいはメモを送る場合もある。“超勉強法”の野口 悠紀雄氏は著書で電子メールの文書の最後について、「以上」と書くべきかどうか述べている。以上では硬すぎる、かといって他に適切なことばがない。野口氏は「以上です」と締めくくると当時は書いていた。私は、「では、ご連絡まで。」などと記述するようにしている。

 コミュニケーションの効率性の観点、ビジネス上の儀礼の観点などを考慮して、場にふさわしい記述方法が必要になる。現代の若者は「場に応じた行動」が苦手である。マニュアルにするには場をいくつかのケースで分類し、このケースにはこの書き方、このケースにはこの書き方としなければならないが、このケース分けが簡単ではない。電子メールが主要なビジネスのコミュニケーション手段になっている現在、この場に応じたコミュニケーションが大きな問題になっている。

 メールによるコミュニケーションのメリットは「非同期性(相手がその場にいなくてもメッセージを伝えその後返事が戻ってくる)」「メモが残る(証拠:イビデンスとして活用できる)」などである。電話のように相手がその場にいなくても自分のペースでコミュニケーションができる点がコミュニケーションの効率を上げ、仕事の効率を上げてきたわけである。自分のペースでコミュニケーションできると言うことは、相手の生活や仕事のペースを配慮しないでメールを送信するという逆効果もある。

 CC(カーボンコピー)を数多くの相手に送ってしまい、読み手がたくさんのCCを読むために時間を浪費するといったことも起こっている。また、緊急のメールなのに送信先から返事がこないといって、感情的なもつれが生まれるといったこともある。時差、出張、繁忙の度合いなど、つい相手の事情を忘れてしまいがちになるからである。

3.携帯メール
 電子メールは私書箱に手紙を送る方法に似ている。契約したプロバイダのメール・サーバーというコンピュータに電子メールが届き保管される。利用者は、プロバイダのメール・サーバーからメールを自分のパソコンにダウンロードしてメールソフトによってメールを読むことができる。メール・サーバーが私書箱にあたり、ダウンロードは私書箱に手紙を取りに行くことに対応する。メールが届いたときに相手が留守でも、相手が私書箱にメールを取りに来る(メール・サーバーにアクセスする)ときに、メールが相手の手元に届くことになる。

 ところが携帯電話のメールは直接携帯にメールを届けるため、携帯電話が通信状態にない場合のメールは「届け先がない手紙」の状態になってしまう。携帯電話のメールは信頼性の点で弱点はあるものの、便利なシステムなので日本全国に普及してきた。電車に乗ると1車両に数名から十数名が携帯電話でメールを送受信している。

 携帯メールは私信から公的メールまで広く活用され、私信と仕事メールが混在するので、その区別をつけるのが難しい。上に記述した電子メールのルール以上にマナーの確立が必要な分野である。電子メールの場合、少なくともパソコンの前に座ってメールを打つ作業をしなければならないので区切りをつけることができる。ところが、携帯電話はどこでも、だれでも、いつでも、簡単にネットワークを利用できる環境(ユビキタス・コンピューティング)である。

      それだけに場を切り替えるのが難しい。ビジネスメールなのにハートマークを多用する若手ビジネスマン、プライベートなのにビジネス文書から抜けられない年配ビジネスマンなど、利用方法が成熟化しているとは言えない。

4.スパムメールの問題
 利用ルールが確立されているとはいえず、いろいろな摩擦が生じているとはいえ電子メールは私たちのコミュニケーションに深く浸透している。非常に効率的で効果的なメディアである。ところが、この電子メールに対して深刻な脅威となっているのが「スパムメール」である。スパムメールとは、メールを大量に無差別に配信するメールのことをいう。ジャンクメール、バルクメールとも呼ばれる。一方的に大量のメールを繰り返し送りつけるので、ネットワークに対する負荷も大きく、極めて悪質な行為である。

 1日に大量のスパムメールを受け取り、必要なメールとスパムメールを区別するのが難しくなっている。電子メールの利用効率を低下させ、電子メールの存続にも関わる問題である。スパムメールを振り分ける機能を搭載すると、件名やメールの内容を読み取り、スパムメールに特有の単語を含んでいる場合に特定のフォルダに振り分けることができる。

 100%スパムメールを振り分けることができなくても、受信フォルダから8割程度のスパムを振り分けることができれば格段に効率が上がる。学習機能をもっているので、スパムメールを指定していくと次第に振り分けの効率が高まっていく。

5.Webサイトの利用
 WWW ( World Wide Web )は、インターネットの数多くのサービスの1つであるが、今ではインターネットといえば Web を連想する人が多くなっている。インターネットを身近に使えるネットワークサービスとして普及させたのは Web によるところが大きい。
 世界中のWebサイトから必要な情報を収集することができる。それだけではなく、商品の購入、行政の届け出などもWebベースで行われるようになってきた。便利になってきた反面、その危険性もよく理解した上で有効に活用する智慧も、必要になっている。

 情報を Google などで検索する場合、集めた情報の評価能力がWeb活用の決め手になる。ITは技術である。原子力技術と同じで、利用者によって毒にもなれば薬にもなる。技術にはよい技術と悪い技術があるのではなく、使い手によい使い手と悪い使い手があるのだ。とくに、インターネット全体を管理している組織があるわけではない。誰でも情報を簡単に発信でき収集し活用できるシステムがインターネットである。

 百科事典に載っている情報は、事典の出版社が責任を持って発信している。しかしながら、Webで発信された情報が適切な情報であるかどうかをインターネットが保証しているわけではない。インターネットで収集した情報を活用するときの責任は収集した人にあるわけだ。したがって、利用者は収集した情報の評価能力を身につけなければならない。情報を批判的( critical )にみる力が重要である。私たち日本人は議論に慣れておらず「批判」を「非難」と取り違えることがある。批判とは客観的・多面的に情報を評価する態度であり、非難とは欠点や誤りをとがめる態度である。

 批判的ネットワーク・リテラシーとは、ネットワークを活用する情報リテラシーの異であるが、その内容を次に示した。

 3つの仮説とは、電子情報に対して私たちが起こしがちな錯覚を示している。第1は電子情報は真実であるという錯覚。これは出版物に関する信頼からきていると思う。本に書いているから正しいという錯覚である。電子情報の場合、その傾向がさらに強くなる。

 第2は、私たちが偏向した情報であっても自分の持っている偏見に近いものを事実として認めがちだという傾向である。誰でも生まれつき持っている情報収集の傾向である。自分の都合のよいように理解する理解の回路を持っている。

 第3は世の中のあらゆる情報はインターネットに載っているという錯覚である。文字や画像などの情報として電子情報は伝えている。生身の人間や本物の建物や風景は電子情報とは別に存在している。電子情報にのせられない質感、実感、感情などがあるという事実を踏まえる必要がある。

 不特定多数の発信者からの情報とは別に、行政の手続きなどがWebベースとなることによる危険性を考えてみたい。八戸で行われた電子申請の実証実験がある。ワンストップサービスあるいはワンストップマルチ申請と呼ばれる電子申請システムである。

 子どもが生まれたときの各種手続きを思い浮かべてもらいたい。出生届、児童手当認定請求、出産育児一時金支給申請・・・さまざまな申請が必要になる。あらゆるところで、住所氏名などなどを繰り返し記入して申請する。ワンストップサービスとはこれを一括申請するサービスである。

 一見便利なシステムであるが、これが進んでいくと本来個々の届け出で必要なデータを他の申請に転用することになる。つまり、申請者の預かりしないところで情報が流用されることになるわけである。もちろん、八戸市の実験はわたしたちの申請を簡素化するという点では非常に有効な実験であるが、IT技術がもつ危険性もともに理解しておく必要がある。

 Webによるワンストップサービスはあらゆるところで普及している。一時期注目を集めた Amazon.com のビジネスモデル特許であるワンクリック・サービスの例が有名である。Webがブラックボックス化している。私たちは自分の情報がどのように使われているか、批判的な眼で見てみる必要があるのではないだろうか。

「ライフイベントに対応したワンストップマルチ申請モデル」は次のサイトで公開している。
http://www.e-ap.gr.jp/topics/040806/hachinohe.pdf

参考情報  ------------------------------------------------------------------

ユビキタス・コンピューティング Ubiquitous Computing

 米ゼロックス パロアルト研究所のマーク・ワイザー( Mark Weiser )氏が提唱した。あらゆるところでハードウェアを意識せずにネットワークを活用できる環境のこと。坂村健氏は「どこでもコンピュータ」と呼んでいる。ドラえもんの「どこでもドア」のように、どこでも簡単にコンピュータを取り出しネットワークにアクセスできる環境のことである。

ワイザー氏はメインフレーム(大型コンピュータ)、パソコンに続く次の世代のコンピュータ利用形態を1988年、ユビキタス・コンピューティング環境と呼んだ。「ユビキタス」とは、ラテン語の“ ubique =あらゆるところで”という形容詞を基にした、「(神のごとく)遍在する」という意味で使われている英語である。

 ユビキタス・コンピューティングとは、「人間の生活環境の中にコンピュータチップとネットワークが組み込まれ、ユーザーはその場所や存在を意識することなく利用できるコンピューティング環境」をいう。

 e−Japan戦略 II の新しい目標としてインフラでは「いつでもどこでもつながるユビキタス・ネットワークの形成」をあげている。ただし、「ユビキタス」ということばが普及しているのは、韓国や日本など限られた地域である。

関連サイト
ネチケット(英語版) RFC 1855
http://rfc-jp.nic.ad.jp/cgi-bin/direct.cgi?keyword=1855&language=eng&x=18&y=10

ネチケット(日本語版)
http://www.cgh.ed.jp/netiquette/#documents

スパム撃退法(毎日コミュニケーションの Web サイト)
http://pcweb.mycom.co.jp/special/2003/spam/menu.html

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