世界の潮流とNGOの動き 第12回
フェアトレードショップをオープンしてみませんか

長坂寿久(拓殖大学国際開発学部教授)

キーワード・・・ フェアトレード、フェアトレードショップ、消費者、自治体の開発協力、
            サステイナブルコンシューマー、NGO

1. フェアトレードがもっと普及するには
 フェアトレード製品の普及という点では、日本は世界の先進国の中でもまさに最低である。しかもダントツの最下位である。しかし、それでもなお、フェアトレードは日本でも急速に普及が始まりつつあるように感じる。2005年はそういうフェアトレード普及の契機をつかむ年になるかもしれないと思いたい。

 フェアトレード・ラベルの普及を図っているフェアトレード・ラベル・ジャパンによると、フェアトレード製品の販売量は2002年にはコーヒー、紅茶を合わせて約18トン、03年には約35トン、04年は100トンに達する見込みと言う。ラベル商品を扱う企業は長年ほんの数社に過ぎなかったが、02年にスターバックス、03年にイオン、昨年(04年)に小川珈琲、共和食品、ワタルなどが加わってきた。この1〜2年の間に焙煎業者も急速にフェアトレード商品に関心を示してきている。

 ただし、日本のコーヒー・紅茶市場は世界第2位の大きさにありながら、世界全体のフェアトレード・ラベル商品の販売量は約8万トンであることと比べてみても、日本のフェアトレード市場がまだいかに小さいかが分かる。

 NGOグローバル ・ヴィレッジのフェアトレード事業部門であるフェアトレード・カンパニーは、統一ブランドとして 「ピープル・ツリー」を使っているが、それを取り扱っている小売店は全国ですでに550店舗にのぼり、通販カタログの発行部数は6万部、販売額は03年度が約6億2000万円、95年の設立以来毎年10%以上の伸びを示してきている。ネパリ・バザーロの売上も1億7000万円に達した。ネパリ・バザーロはとくにネパールに特化した活動をしており、日本のネパールからの輸入の5%を扱うまでになっている。ぐらするーつも売上額は1億円をこすようになった。その他のフェアトレード団体も、とくにここ数年、販売量の伸びを感じてきている。そして、フェアトレードショップはすでに全国に展開するようになった。

 先進国のバイヤー団体と開発途上国の生産者がつくっているネットワーク組織にIFAT(国際フェアトレード連盟)がある。60カ国200団体が参加している。IFATに加盟している日本のフェアトレード団体はまだ3団体(フェアトレード・カンパニー、ネパリ・バザーロ、ぐらするーつ)だけだが、昨年10月にはIFATの新しいバーナー(旗)が日本に到着し、キャンペーンを行った。

 欧米でもフェアトレードは近年大変な伸びを示している。ヨーロッパでの普及のプロセスを見ると、第1段階では自治体の取組みがみられた。まず自治体が自分たちの庁内で飲むコーヒーをフェアトレード・コーヒーに変え、それが地域や家族に知られるようになっていった。イギリスではフェアトレード・シティ宣言を行う自治体がここ数年登場しているが、日本でも熊本市が日本初のフェアトレード・シティになろうと取り組んでいるようである。今年中にそうした宣言があるかもしれない。

 (財)国際貿易投資研究所では、主だったフェアトレード団体の方々に集まっていただき勉強会を始めている(筆者が主査をさせていただいている)。ここでもいろいろな議論が行われているが、例えば、CSR(企業の社会的責任)論が日本でも多く語られるようになり、企業の導入も普及してきている。これにともない企業がフェアトレードに関心をもつようになっている。そこで企業からフェアトレード団体へのオファーが増えていく可能性はあるが、それが一過性に終わってしまうとフェアトレードの主旨から逸れてしまうことになる。そこで企業に対しては企業自身がフェアトレードを内部化させていくように、つまり企業が単にフェアトレード団体から商品を購入すればフェアトレードを行っているように見えるという表面的な取組みではなく、企業自身がフェアトレードに直接取り組んでいくことを啓蒙していくようにしよう。そこでフェアトレード団体が企業に対してそうしたコンサルタントを行う新しいフェアトレード・ビジネスがあってもいい、と。

 日本にはフェアトレードを促進する学生団体、フェアトレード学生連盟(FTSN)があり、昨年10月にはシンポジウムを開催している。そのシンポには予想を超える多くの人々が参加した。

 日本にはフェアトレードを促進するネットワーク団体はまだない。しかし、その必要性は認識されており、フェアトレード団体ができるだけ早く一堂に会して、そうした団体が結成されるべき時がきているとも思う。

 フェアトレード運動は消費者運動でもある。持続可能な社会を目指すサステイナブルな消費者であること、環境によりやさしい商品を選択し、世界の人々の自立に共感する選択者である新しい消費者であること、そうした消費者運動として、フェアトレードは展開されていく必要がある。今年は、そうした新しいフェアトレードの年になるという初夢を見た。

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2. フェアトレードショップを開店しよう
 フェアトレード商品を売っている店が 「フェアトレードショップ」 である。 日本でもいつのまにか各都道府県に存在するようになったが、その数は明らかでない。ただし、欧米のように各自治体にほぼ存在するまでには至っていない。日本のこれらショップはフェアトレードNGOから商品を仕入れて売っているものが多い。もちろん、自分たちで海外のフェアトレード生産者とつながりをもち、直接仕入れているショップもある。

 また、フェアトレード商品だけを売っているところもあるが、エコロジー商品、自然食品、健康食品などと一緒に扱っている店も多い。

 日本におけるショップの平均的イメージは、あるフェアトレードNGOによると、個人経営がほとんどで、平均売上額は月100〜200万円ほどと小規模で、その内仕入れ経費が60〜70%を占め、残りの30〜40%が家賃や自分の人件費となっている。取り扱い商品は雑貨(クラフト類)、衣類、食品である。

 フェアトレードショップを起業するには、概ね300万円から1000万円必要といわれる。これなら誰でも起業の可能性はあるかもしれない。最近では大学生もフェアトレードに関心を持つ人が増えてきているが、若い人の起業はまだ少なく、平均年齢が概ね40代か50代の女性が店を立ち上げるケースが多いという。

 フェアトレードショップの経営モデルには、独特の経営上の問題と課題がある。最近は開店する店も比較的増えているが、同時に閉店する店も多い。 つまり、優れた店とそうでない店があるわけだが、その分かれ目はやはり経営者が 「フェアトレード運動」 としていかに取り組んでいるかによる。運動としての「やる気=モチベーションの高さ」が決定的に重要となるようだ。

 フェアトレードは開発途上国の人々の自立を支援する運動である。そのため、NGOは自立に繋がる〔高い〕買い付け価格の設定や品質を高める技術支援などを行うが、他方では売れなければならない。あくまでもビジネスである。生産者と消費者の距離を縮め、その両方に片足ずつ付けていて、両足が離れないよう必死で両足を近づける努力が運命付けられている運動である。

 そこでショップの役割は、まず消費者が求めるもの、期待するものについて情報を集め、それを提供できるように買い付け先のNGOに情報を流し、現地の生産者に対応してもらえるようにすることである。

 重要なのは、ショップにおいて消費者が求めるものは単に商品だけではない。店において得られる知識と物語である。別の言い方をすれば、気持ちのよいおしゃべりであり、店員との顔のみえる関係である。消費者が期待しているのは、ほっとする空間、和む空間としてのフェアトレードショップである。

 その点でショップの店員は、スーパーのマニュアル的、バーコード管理的店員ではなく、品質や生産について専門知識をもち、フェアトレードの物語が伝えられる店員である。そのためには、生産工程を想像でき、ものの作り方を共有できることが重要であり、現地を訪れ、あるいは店主自ら生産者とやりとりしてみることも必要であろう。フェアトレードショップはこうした職人芸的管理が必要な職場である。

 また、優れた店には共通して地域での存在感があることが指摘できるよう。フェアトレードショップを始める人は誰でも思いをもっている。その思いの実現は、地域の中での存在感によって達成される。それは地域で情報発進できる店ということである。フェアトレードが「運動」であるという点で、店員(店主)は地域活動にかかわっているかどうかが大きな分かれ道となる。つまり、フェアトレードショップにとっての販売努力とは地域活動をするということである。店にだけいるのではだめなのである。その時、自治体を販売先と協働のターゲットとして見ることも有効であろう。

 優れた店の要因についてもう一つ指摘すると、ショップには消費者に新しいライフスタイルを提案する能力が問われているという点である。つまり、フェアトレードは消費者運動である。私たち消費者は企業が提供するものを単に「消費する者」から、より環境にやさしく、より社会的側面に配慮し、より開発途上国の人々の自立を支援する、そうした商品を「選択する者」になっていくべき時代を迎えている。消費者から選択者になることによって、企業はよりそうした商品を提供するようになっていくであろう。こうした新しい消費者運動として「グリーンコンシューマー」が知られるが、欧米では近年は環境だけでなく、社会的側面(人権や平和など)も配慮した消費者になろうという意味で「サステイナブルコンシューマー」と言いかえられるようになっている。

 フェアトレード運動のメッセージと消費者をつなぐ最も重要な役割を担っているのがカタログである。日本のフェアトレードのカタログは、ピープル・ツリー (フェアトレード・カンバニー) やネパリ・バザーロなどのフェアトレードNGOの努力によってすばらしいものになってきている。フェアトレード・ウェアのファッションショーを見たことがあるが、きわめて魅力的であった。しかも、世界の中で、日本のフェアトレードNGOの特色の一つが、こうし服装品(フアッション製品)を開発していることである。

 世界中のブランド品を取り寄せてしまった日本の私たちにとって、これからの本当のおしゃれは、「物語」のあるものを身につけることではないかと思う。これはおばあちゃまからもらったブレスレットだとか・・・。その点でフェアトレード商品にはどれにも新しい物語がある。誰かにプレゼントを買う必要が生じた時、フェアトレード商品の中から探すときっといいものが見つけられるほど商品企画も品質も向上してきている。ぜひ一度、地域のフェアトレードショップをのぞいてみませんか。

 そして、出たばかりの『ピープル・ツリー』(フェアトレード・カンパニー)や『ベルデ』(ネパリ・バザーロ)などの新春カタログを手に入れて見てみてください。すばらしいファッション雑誌でもありますよ。

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