協働コーディネーター養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ3 
第3回 市公共施設の市民による管理運営プロジェクト
                                    〜 協働に学ぶ 共有し実践する協働型社会への学び
吉田栄治(特定非営利活動法人はづちを 事務局長)

特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは協働コーディネーターを養成する、協働コーディネーター養成講座を開催してきました。その成果として、協働コーディネーターとして各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、協働コーディネーターとして活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。
シリーズ3では、石川県加賀市の山代温泉で、市公共施設の市民による管理運営を実践する中での「協働コーディネーター」としての役割や取り組みを紹介していきます。

  北陸、石川県加賀市山代温泉の中心街に「高齢者の生き甲斐づくり」「温泉中心街の賑わいづくり」二つの目的で建設された施設「はづちを楽堂」の、管理運営に至るまでの経緯と運営開始後の様子とそこで生じた課題解決のための事業、その事例と「協働コーディネーター」養成講座で学び現場で行った実践を前号までに2回で報告した。最後となった今号では、現在抱える問題「指定管理者制度」に関しての取り組みなど協働の現場からの今後の課題を紹介していく。

キーワード・・・ 指定管理者制度

1. 指定管理者制度という新たな課題
 「協働コーディネーター」に必要な素養を知りその職能を身近に感じつつ、NPOの事務局として公共施設を拠点に2年半の活動をしてきた。組織としてもそれなりに評価を受け、事業や課題提案を行ってきた。
 その間、施設の管理運営においては簡素な契約書や覚書があるのみで、自治体との明確な協働のルールや協定がない状態が続き、単年度ごとに委託内容や事業継続の見直しなどの交渉をするという、不安定な状況が続いてきた。経済的に安定している自治体が少ないように我々の住む加賀市も財政難はいなめず、もともと施設の管理運営を民間に委託したのもランニグコストの負担が大きな問題だったからだと感じている。
 委託開始の次年度より、当方の訴えにより委託費は人件費を考慮して上乗せはされたが、行政とNPOとの協働を前提とする実質的な改善を交渉には望めずにいた。そんな折りに降ってわいたように現れたのが「指定管理者制度」という新しい仕組みであった。
 皆さんの中にもご存じの方が多いと思うが、公共施設の管理運営に関する新たな制度で、原則公募制により指定管理者を決め公共施設の管理運営を委託するもので、これまで出来なかった民間企業や任意団体なども指定管理者の受託をすることが出来るようになった。また施設の使用料もこれまで預り金扱いだったものが行政の設定した額を上限に管理団体の収入に出来るようになった。また、委託ではなく代行という立場に指定管理者がなるため、施設の使用許可などの権限も行政から委されることになった。
 平成15年6月の地方自治法の改正にともない総務省からの通達があり、民間事業所の参入によるコスト削減とサービスの向上を目的に、全国の行政全てが一部例外を除き公共施設ほぼ全般を平成18年9月1日までにこの制度での運用を行うか、行政直営、独立行政法人による運営、施設の廃止のいずれかの選択をしなければならないということになっている。現在、多くの 自治体と市民組織が制度の導入に対し戸惑い悩み、模索を始めている。
 以下は指定管理者制度の導入により危惧される課題を抽出した。
  ・急激なスケジュールで円滑に民間への運営委託が行われるのか?
  ・コスト削減重視で公募が行なわれた場合、公益性や共益性といったサービスを求める公共施設の果たす役割を担えるの   か?
  ・NPOや地縁組織などが行なう地域密着型のサービスと企業が行なうサービスをどのような評価基準で選定するのか?
  ・施設の選定を公募制で協働の原則に従い行なった場合、その時間や経費はかなり莫大なものになるのではないか?
  ・2回目以降更新の指定管理者選考において、選定作業にかかるコスト問題で公募の原則が軽視されはしないか?
  ・NPOや市民との事業において協働のルールを導入した制度導入が可能だろうか? 今のままだと企業への下請け事業と   変わらない委託になるのではないか?
  ・公募条件など自治体裁量により解釈設定され選定基準などに不明確な部分がある。
  ・委託期間終了後の継続は約束されず管理者が変わるごとにサービスが変更される可能性がある。
  ・選考など決定へのプロセス公開は行えるのか、市民に説明の出来る公募が行なえるか?
  ・公共資源が企業の収益のための道具になってしまわないか?
  ・合併を控えた町村ではそれぞれの公共施設への制度基準のすり合わせ作業が負担になっている。
  ・行政の外郭団体が運営する施設に関して他組織が受託した場合、外郭団体に雇用問題が生じるため既存外郭団体がこ   の制度に耐えうるのか課題になっている。
  ・受託組織が法人格組織、任意団体も含め自己決定機関が至ってシンプルなのに対し、行政は縦横の複雑な関係があり民   間に対応した自己決定組織になりうるのか? 縦割りの弊害をなくせるのか? そのような中、市民組織との協働を前提に   制度の運用が出来るのか?
  ・同制度は委託契約から「指定」という行政処分へ移行することになる・・・・契約によるものであれば「最低制限価格制度、低   入札価格調査制度」(安すぎる請負になっていないか)や「総合評価」(事業への評価があれば市民に説明をしてその成果   を問える)などの対象となるが行政処分は対象外。また「地方自治法92条2兼業の禁止」事項からはずれ、議員や首長が   施設の管理委託を事業受託できるようになる。これは利害を操作出来る立場の公職者が公共事業を受託しても不問となる   などの弊害がある。

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2. 皆が協働を考えるきっかけ
 こういった状況の中、はづちを楽堂も平成18年度4月を目途に指定管理者制度の導入が内定している。但し、現状では一者随意契約方式を検討しているようだ。
 前述の課題ははづちを自身が感じていることも多く、コストの削減競争に市民がどんどん巻き込まれてしまうのではないかと懸念している。また、指定管理者の公募において市民に説明できる選定を、市民組織、企業、自治体が相互に公開し透明性をもったカタチで行なえるのか? 公共施設が市民のものでなくなる可能性を感じ、市民自身が正当な対価と自主性をもち、新たな評価軸を提示し自らの身の丈にあった応分負担と住民自治の実践をこの制度で実現できるのか?・・・まさしく組織間の協働を考えるよいきっかけとなっているではないかと考えている。
 これまでは、縦軸をサービス軸、縦軸をコスト軸にし自治体はコストに対するサービスが悪く、企業やNPOはコストサービスが優れているとし、コストサービスの競争力では資本力の大きな企業が有利と考えられてきました。
 しかし、新たな視点で縦軸を住民自治能力、縦軸をコスト軸にすると、行政はコスト高で住民自治能力は低く、営利企業はコスト、住民自治能力ともに低く、NPO、市民組織はコストが低く住民自治能力は高くなるのではないだろうか? また、こういった住民自治能力の高さを促進していけば、行政が行なっていた非営利分野をNPOなどが肩代わりし行政自体のコストも低くなることが予想される。
 コストではないところで市民活動の促進を図り、住民自治による非営利分野の充実を図る。それがひいては協働による市民社会実現に近づくのではないか、そのきっかけ作りに苦心している。
 現在、はづちをは加賀市に以下のような提案を行なっており、今後より具体的な計画を提言する予定だ。まず、はづちをは制度導入に至るまでの過去3年間のはづちを楽堂の管理運営の実績及び決算書を資料として提出し、次年度の計画書と予算を提出。その上で一者随意契約の選考を公開で行ない、施設の使途目的と選考の基準を明確にし指定管理者としての選考決定を行なうことを要望する予定だ。
 指定管理者として決定した場合、行政と共に目的を共有し、委託のための協働ルール協定書作りを行ない、その上で施設管理委託に関する契約を作成締結するよう考えている。事業進行中はその都度連絡を取り合い目的の共有等を密にし、単年度ごとに事業の振りかえりを行ない、その評価による事業の改善を行ない新規事業に活かす。この循環を公開制で継続すること。こういったことの実現を目指している。
 これは、指定管理者制度導入をきっかけにしたはづちをの自立と協働へのチャレンジである。

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3. 自立した市民社会を創るために必要な力
 平成16年11月15日、はづちをは2年半のNPO任意団体活動に終止符を打ち、NPO法人として登記を完了した。NPO市民組織として市と直接交渉の場に着き、対等に協働の実践を行なうための道具として法人格を取得した。
 今回の指定管理者制度は市民の自立と住民自治を促すも、自立を停滞させるも紙一重の仕組みであり、その判断は行政にゆだねられていると言える。しかし、市民社会の実現こそが次世代への可能性だと信じ、悪しき事例をつくらないよう必死で活動する市民組織もたくさんある。そうした組織の中でセクター間をコーディネートし、個の組織のためでなく、社会の公益性、共益性を前提に柔軟に協働を推進していく力をそれぞれの個性で発揮するキーマンが「協働コーディネーター」なのではないだろうか?
  NPO、行政、企業の現場にて、それぞれの人が「協働コーディネーター」としての技量を身につけ組織間をネットワークする事が必要だ。
 (特非) NPO 研修・情報センター(代表理事 世古一穂)(以下 TRC とする)では「協働コーディネーター」の技量を皆で共有する試みを提案している。私も真の市民社会の実現に近づくよう、TRCの提案がより多くの場で「協働コーディネーター」が活躍できる仕組みとして実を結び、「協働コーディネーター」養成講座の受講生ばかりでなく、協働の場で活躍する人々と共にその技量を広く共有でき協働型社会を形成する力となることを望んでいる。
 私自身いつまで経っても力量不足の「協働コーディネーター」!?ではあるが、今以上の飛躍をめざし日々の活動にあたっている。


※コスト重視の価格競争では NPO や市民組織は企業に太刀打ちできず、行政セクターと民間営利セクターの社会構造が続き市民が参画する協働型社会の実現は困難。
既存の構造では持続可能な社会の仕組みには至らない。


※住民自治能力が向上し、 NPO ・市民組織セクターが充実すれば、行政のコストも自ずと下がる。行政セクターと民間営利セクター、 NPO ・市民組織セクターがバランス良く協働する事で持続可能な社会の仕組みづくりへの可能性が創出される。 

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