協働のデザイン  第14回 パブリック・コメント  
世古一穂(代表理事)

キーワード    パブリック・コメント、市民参加、政策立案、意思決定への参加、協働

1. はじめに
  協働ガイドライン、協働マニュアル、協働の指針等々と銘打った協働のルールづくりが全国の自治体で行われており、その過程でパブリック・コメントで市民、NPOの意見を求められることが多くなっている。

  行政とNPOとのパートナーシップを築いていくうえで、協働のルールづくりを市民、NPOの声を聞き、市民、NPOの参画と協働によって協働のルールづくりをしていくことが大切だ。では、パブリック・コメントで市民、NPOがどのようなポイントで意見を出し、提言、評価していけばよいのか、次号で協働の視点から整理したいと思う。本稿では、その前提としてパブリック・コメント制度について検討しておきたい。
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2. パブリック・コメントとは
 最近、国、自治体を問わず頻繁に活用される広聴手段にパブリック・コメントがある。

 パブリック・コメント手続きとは総務省の資料によれば「行政機関が政策の立案等を行おうとする際にその案を公表し、この案に対して広く国民、事業者の皆さんから意見や情報を提出していただく機会を設け、行政機関は、提出された意見等を考慮して最終的な意思決定を行うというものです」とある。国の行政機関が新たな規制を設けようとしたり、それまで行っていた規制の内容を改めたり、規制を廃止しようとする場合に、パブリック・コメントの機会を設けなければならないことが、平成11年3月23日に閣議決定され、平成11年4月から実施されている。

 本来は「国民・事業者の皆さんの多様な意見・情報・専門知識を行政機関が把握するとともに、行政の意思決定過程における公正の確保と透明性の向上を図ることを目的」に中央省庁に導入された制度であり、「中央省庁が設定する規制の設定または改廃にかかわる意見提出手続きのこと」を示す概念であったが、最近では様々な政策の策定に際しての国民からの意見聴取を含む広い概念の言葉として使われているといえよう。

 また、現在では中央省庁だけでなく多くの自治体で、このパブリック・コメントが積極的に導入されていることは周知のとおりである。

 住民からの意見聴取の制度として、従来から広聴制度があるが、このパブリック・コメントも広聴手段の一つとして位置づけられるものである。
 多くの自治体でパブリック・コメント制度が導入されているが、例えば、名古屋市ではパブリック・コメントを「名古屋市パブリック・コメント制度要綱」として制度化し、その目的として、「市民とのパートナーシップによる市政の推進」等を明文化している。

 3. パブリック・コメントの課題
  周知のように、最近は国、自治体を問わず、パブリック・コメントが政策形成プロセスの一環として位置づけられてきている感が強い。
 パブリック・コメントは、市民参加、広聴の大切な制度、手段であるが、パブリック・コメントが万能のものではないことはいうまでもない。しかし、現状ではパブリック・コメントを行えば市民の意見を聞いたこと、政策形成過程における市民参加を実施したことになりがちで、その形骸化等、様々な問題点が指摘されている。
 その本来の目的である政策の立案にあたり、行政があらかじめ案を公表し、広く市民から意見を求め、これを意思決定に生かしていくにはどのようにしていけばよいのか、

 〔特非〕NPO研修・情報センターでは1月29日、30日に実施した「協働コーディネーター養成講座」(中級クラス)で、このパブリック・コメントをテーマに協働の視点からパブリック・コメントの課題を抽出するワークショップを行った。
 ワークショップの参加メンバーは、自治体の職員、NPO法人のスタッフ、、企業人、子育て支援グループのリーダー等、各セクターからの多様な参加者 16人。
 このワークショップで出たパブリック・コメント制度の課題の主なものをあげておこう。

@パブリック・コメントを求める前提として
 ・用語の定義、概念を明確にすること。
  例えば「協働」という言葉もどのような意味で使っているか、言葉の定義、概念が明示されていない場合や、あいまいな場合  多い。

Aパブリック・コメントの募集、運用の仕組みについて
 ・パブリック・コメント募集の広報の多様化
  中央省庁、自治体ともに多くの場合、ホームページで募集することが多いが、ホームページだけでなく、多様な市民が参加で  きるような媒体の多様化が必要。

 •  パブリック・コメントが出しやすい投げかけ方、ポイントの提示等の工夫が必要
  漠然とコメントを求めている場合が多い。

 •  パブリック・コメントの募集期間が短い
  パブリック・コメントの募集開始から、それを活かして公表した政策案を修正し、議会決定に至るまでの期間に余裕のない場  合が多く、アリバイ的なパブリック・コメント募集といわざるを得ない場合も多い。

 •  出されたパブリック・コメントをどのように扱うかの事前説明が必要
  出された意見や提案がどのように反映されるのか、反映されないのか、また、どのように反映するか否かを決めるのは誰な  のかをパブリック・コメントを求める際に明示する必要があるが、ほとんどのパブリック・コメント募集の際に、その説明が欠け  ている。

  出された意見がどのように活かされるかがきちんと協議され、合意されていないとパブリック・コメントは、形式的なものになり  がちである。

 •  パブリック・コメントの募集、実施、反映にいたる一連の情報開示が必要

Bパブリック・コメントを活かす仕組みについて
 •  パブリック・コメントをどのように活かすか、の基準づくりや評価指標の必要性とその公開
  パブリック・コメントを出しても、採用されるか、されないかの基準や評価指標が必要。また行政内部で基準をもっていたとし  ても公開されていない場合が多い。

 ・パブリック・コメントを評価、返答する組織への市民参加、協働の必要性
  基準づくりや評価指標づくりからパブリック・コメントを評価、返答するプロセスや組織への市民参加、協働が必要。

 ・パブリック・コメントに対して返答する部署の一元化が必要
  パブリック・コメントは行政が広聴手段として行うものであり、返答にあたってはパブリック・コメントを求める当該担当部署と連  携した一元的な対応ができる部署が必要である。

 •  市民からの意見聴取に対応した国、自治体の内部管理体制の整備の必要
  国、自治体ともにパブリック・コメント制度を導入することには積極的だが、市民からの意見聴取に対応した行政の内部管理  体制の整備は進んでいないのが現状のようだ。

Cパブリック・コメント以外の方法の必要性
 •  パブリック・コメント以外の意見具申の機会が同時に必要
  ※公開討論会やタウンミーティング等の多様な方法があるが、市民の意見を生かす工夫をしっかりとやっている例として三重   県の「新しい時代の公」を考えるラウンドテーブル等が参考になる。三重県の事例についてはまた別途報告したい。

 意見を聞くことは市民参加の基本であり、大切なことであるが、それがどのように活かされるのか、そのプロセスと意思決定への参加が保障されていることが必要である。
 本来、市民の力を活かすためのパブリック・コメント制度が、形骸化しないためには、市民からの意見聴取に対応した国、自治体の内部管理体制の整備が急務であるとともに、パブリック・コメントを支えるサブシステム(意見反映の基準、評価指標、パブリック・コメントを活かす行政内のしくみづくりとそれへの市民参加、協働等々)が必要といえよう。

参考文献
「規制緩和白書」(総務省 2000年)
世古一穂「協働のデザイン」(学芸出版社  2001)
世古一穂「市民参加のデザイン」(ぎょうせい  1999)
評価システム研究会研究報告書  レポート 2002 「NPOと評価―評価でつくるNPOパワー」 ( 評価システム研究会  2002)
山脇直司「公共哲学とは何か」(筑摩書房  2004)

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