協働コーディネーター養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ3 
第2回  市公共施設の市民による管理運営プロジェクト協働に学ぶ 実践の場で協働にふれ学んだこと〜
吉田栄治(特定非営利活動法人はづちを 理事・事務局代表)

特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは協働コーディネーターを養成する、協働コーディネーター養成講座を開催してきました。その成果として、協働コーディネーターとして各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、協働コーディネーターとして活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。
シリーズ3では、石川県加賀市の山代温泉で、市公共施設の市民による管理運営を実践する中での「協働コーディネーター」としての役割や取り組みを紹介していきます。

  北陸、石川県加賀市山代温泉の中心街に「高齢者の生き甲斐づくり」「温泉中心街の賑わいづくり」二つの目的で建設された施設「はづちを楽堂」の管理運営に至るまでの経緯を前号ではお伝えした。今号では、運営開始後の様子とそこで生じた課題解決のための事業、その事例と「協働コーディネーター」養成講座で学び現場で行った実践を報告する。次号では現在抱える問題に関しての協働の現場からの今後の課題を紹介させていただく。

1. コミュニティ・レストラン Rによる「協働コーディネーター」の実践
(1)コミレス開設まで〜組織運営の課題解決に向けて〜
 平成14年6月に施設「はづちを楽堂」はオープンしました。昔の温泉街にあった湯宿をイメージし漆喰壁、紅殻格子が特徴の3棟で構成された木造建築物だ。『高齢者の生き甲斐創出通所事業の拠点。また、地域の中心地として人と人との交流を介してまちづくりの拠点。温泉中心地としての賑わい創出の場』と位置づけられている。

 非営利活動市民団体はづちを(法人格を持たない NPO )による施設の管理運営は、組織を構成する会員各々の地域活動や仕事で培ったノウハウを活かして非営利事業部門と収益事業部門を立ち上げ、事業開始当初から事務局の私を含む3名による常勤スタッフにより下記のような事業を手探りで開始した。
 @ 高齢者生き甲斐創出事業
 A 交流イベント事業
 B 飲食物販事業
 C 展示企画事業
 D 地域づくり、市民社会向上の為の講座講演会開催、広報誌の発行

 団体の財源は主に3種から構成される。
 @ 自主事業による収益(甘味処営業、コンサートイベントなど観光協会からの事業委託)
 A 事業にともない生じる公的助成金(施設管理委託費、 NPO 活動や文化事業への助成金)
 B 会員、賛同者からの会費及び寄付金
   14 年度事業費  約 1,400 万円(うち施設管理委託費 640 万円人件費含まず)
   15 年度事業費  約 2,100 万円(うち施設管理委託費 780 万円人件費含み) 
   16 年度予想   約 2,500 万円(うち施設管理委託費 780 万円人件費含み) 
 なお、地方自治法上の制約があり、管理委託契約は市の連絡組織「まちづくり推進協議会」を介して、連絡組織の一員としてはづちをが管理運営部門を担うというのが正式な委託契約となっている。

 施設のオープン後、物珍しさもあって多くの人が訪れたが、当初予定していた高齢者の生き甲斐づくり通所事業への補助金削減や人件費を勘案しない管理委託費のなど運営経費の不足が大きくのしかかってきた。
 本来なら収益の柱である飲食事業部門での利潤の追求が真っ先に検討されることなのであろうが、飲食部門である甘味処は地元の食材と器、地産地消に極力こだわった地域の情報発信を目的に運営していたため、質を落として利潤を追求することはできない。

 NPO としての目的と使命を失わず行える事業を模索していたとき、再び「コミュニティ・レストラン R (以下コミレスという)」という言葉が浮き上がってきた。
 実は「コミレス」の事業を具体化するまでの間に、「協働コーディネーター」養成講座初級編受講以来、(特非) NPO 研修・情報センター(以下 TRC とする)代表理事世古一穂が講師、コーディネーターを務める講座には、その後も県内外にかかわらず参加し、現状の問題を相談しながら課題解決のための手法を探っていた。
 また、平成 14 年度に TRC が北陸で開催した協働コーディネーター養成講座中級編においては、養成講座で出会った能登地区、金沢地区で活動する2人の仲間に協力を仰ぎ、『はづちを楽堂』で講座の実施にこぎつけた。世古氏と2人の快諾を得て、加賀地区ではづちをの課題でもあるコミレスと施設管理運営などをテーマに個々にミッションを抱える仲間たちと小さな協働を通して、『市民社会の実現に欠かせない「協働コーディネーター」の普及』を共通の目的に実践的な講座を開催し体験できたことはその後の大きな糧となっている。

(2)コミレス運営開始〜試行錯誤の中で成果が見えてくる〜
  『はづちを楽堂』での飲食事業にはいくつかの制約があり、その一つが近隣飲食店とバッティングしない事業展開であった。その方策としてまちに一軒もなかった甘味処の営業を地元産品の PR を目的に始めたのだが、利用者には満足度の高いサービス提供を行っても地域の方たちの目には「若い者が集まって市の施設で商売をしている」程度にしか映っていないのが現状であった。活動への理解を得られなければ官民双方からの支持が得られず継続した事業の存続はあり得ない、誰がみても地域貢献だと解って貰える事業を興しはづちをへの共感を得ることが必要。今このまちにある課題と私たちの課題を照らし合わせできることを探そう! そう考えて事業のヒントを抽出した。

 ・施設は高齢者の生き甲斐作りの場
 ・町内の高齢化も進み一人暮らしの方が多い
 ・隣接する共同浴場は早朝6時からの営業
 ・『はづちを楽堂』オープン当初から毎朝太極拳を楽しむグループや朝市などがあり、朝がキーワード
 ・一人暮らし高齢者の食のワンパターン化と子ども達の食生活の乱れ
 ・食育や共食の場の必要性・・・・・等々
 どんどんとヒントになるキーワードが増え、はづちをが行うコミレスの方向性が見えてきた。そんな折り、県が協働モデル推進事業と称した NPO に対し公募する助成事業を開始した。まさにグッドタイミングであり早速応募し幸運にもコミレス立ち上げのための助成を受けることとなった。

 事業目的を「高齢者と児童の共食と食育推進、及び地産地消の推進」とし、概要は近隣飲食店が行っていない朝食の提供をはづちをの甘味処の営業時間前に地域の食材を活かし、高齢者ボランティアの協力で一般の利用者には1食500円で、登録した65歳以上の高齢者と中学生以下の子ども達には1食250円で食べられるコミレスを開業するという計画だ。
 事業の計画段階で協働相手として加賀市へ提案をしたところ、市は温泉街に暮らす児童の食生活の乱れを危惧していることがあり、児童の食育や健康な食環境作りへの目的を共有をすることができた。そして、事業の実施にともない児童への助成の仕組みづくりを検討。その仕組みづくりをいっしょに行い、1食500円に対する市の半額助成という制度を平成15年3月のコミレス営業開始に向けつくり上げた。

 計画の実施にあたってはコミレスをNPOの起業モデルとして提案し、運営できる人材の養成を行うTRCにコミレスとNPO人材養成の両面を協力依頼し、はづちをのスタッフが東京都国分寺市のモデルコミレス「でめてる」と TRC 事務所で研修を受けた。
 また、石川県の地域づくり支援メニューを活用して世古氏を再び加賀に招き、コミレス講演シンポジュウムと実践研修会を開催し、現地の食材提供者となる生産者農家やボランティア希望者の研修を行うと共に、コミレスに関心のある方たちへ向けコミレスへの理解促進と、協力などの PR とした。

 コミレス開始直後は利用者の無い日も続いたが、朝食会員登録者はオープン当初の16名が、1年半の継続営業を経て現在は高齢者を中心に31名と倍増。毎日の朝食を楽しみに通って下さる方、週末の友人との朝の一時を楽しみに訪れる方など、会員のコミレスの活用の仕方はそれぞれ。また、一般利用の方も交え地域のコミュニケーションの場としても定着してきた。
 現在もコミレス運営の課題はある。例えば、市と協力してつくった児童への朝食の半額助成制度だが、子どもたちの利用増加は伸び悩み現在児童の会員登録は1名に留まった状態だ。高齢者の孤食は依然潜在的なものと思われ、より多くの方がはづちをのコミレスを活用できるよう改善工夫が必要と考えている。
  しかし、地域理解と活動への共感を得るという意味ではこの事業の当初の目的を果たし、最近では朝食のお客さんが気軽に施設を利用したり、二次的な飲食部門の売上が伸びたりと利潤の追求を求めない事業が少しずつですが多様な潤いを生み始めている。

▲ページトップへ

2. ネットワークによる学び
 はづちをの朝食コミレスを立ち上げるにあたり、 TRC や養成講座の参加・開催で能登、金沢の仲間たちとのネットワークができた。平成 14 年度開催の協働コーディネーター養成講座中級編の開催協力に留まらず、目的を共有できる事業のたびにネットワークメンバーで協力して事業をすすめることができている。現在は世古氏にアドバイスを仰ぎつつ、「協働コーディネーター」を志す仲間3名でいしかわ協働ネットワーク研究会を設立し、平成15年、16年と協働推進のための自治体職員向け人材養成講座等を県に事業提案し開催している。

 地域づくりなどの協働コーディネート活動をしていて、時として陥ることは客観的に自らの地域をみることができなくなり、課題発見の切り口が画一的になること、仲間同士の甘えによる事業遂行能力の低下、隣接の利害関係などによる不信感などが挙げられる。
 隣接の町や村の組織に協働による事業開催を呼びかけても、当事者同士ではどこかで我田引水的発想をしているのではないか? と警戒心も強く取りあってもらえなかったことがあった。また、組織内でのコーディネートにおいてもあまりに身近すぎて事業計画など事務局や執行部にお任せとなり関係者の事業参加意識が低くなることがしばしばだ。
 こういった時、地域外の「協働コーディネーター」の活躍による客観的な課題指摘とある種の緊張感が与える刺激は有効な効果をもたらす。
 中・広域で課題の共有ができるネットワークを持つことは課題解決の糸口を客観的に相互に指摘しフォローしあい、私のような経験が浅い「協働コーディネーター」を志すものにとっては力強い仕組みとなっている。  

▲ページトップへ

3. 共感の輪による事業を行う為に必要な力
 NPO 組織のミッションに基づき計画を立て、目的を達成するには大変な労力がかかることをコミレス事業の立ち上げで身をもって体験した。
 ミッションの理解と地域課題の抽出。解決のための事業計画立案。事業の実施によるチャレンジ。新たな課題の改善。そのプロセスごとに事業に関わる人たちと目的共有を果たし、組織の掲げる公益共益のミッションを遂行する。そうやって地域の人たちに求められる事業の循環を行い共感の輪を広げていくことで NPO への信頼を重ね支持を得、また次なる事業を行う。はづちをの朝食コミレスでは、多くの方の支援を得て「プランニング→行動→評価チェック→改善」 PDCA 一連の事業パターンを各所で経験することができた。これに協働のルールを重ねて考え事業を行えばより多くの方の共感を得られる。まさに「協働コーディネーター」として求められる能力がそこにあることをこの事業に学んだ。

 次号では、NPO法人はづちをが現在あらたな課題として直面している指定管理者制度に関して、「協働コーディネーター」を志し学んできたことを活かし現在取り組んでいる活動をご紹介し、「協働コーディネーター」がいかに社会に必要であるかの考えを伝えていく。
▲ページトップへ

 

 

 

 



 

 

©2004 NPO Training and Resource Center All Right reserved