中国の民間非営利組織  第3回 立法参加のプロセス!?
 
岡室美恵子(笹川平和財団)

 2004年11月6日、清華大学NGO研究所「土曜サロン」において「社会団体管理条例民間版」の説明会が開催され、民間組織の登記管理を所轄する民政省からの要請により草案民間版を提出した北京大学法学院非営利組織法研究センター(以下北京大)、社会科学院法学研究所(以下社科院)、清華大NGO研究所(以下清華大)が各案を説明し、参加者を交えディスカッションを行った。民政省は国務院法制弁公室とともに、来春公布予定の「社会団体管理条例改訂版」の草案作成作業を進めている。6月に施行された「基金会管理条例」の場合、民政省草案の検討会が民間組織代表や研究者を集めて開かれたが、今回は草案作成の過程で民側の意見を吸収していくらしい。

   3草案の共通の論点は、表現こそ違え、如何に「結社の自由」を確保するかの1点であった。日本のNPO法成立までの争点は、法人格優先か税制か、如何に活動の便宜を確保するかという点であったと思う。日本の市民団体は登録しなくても活動はできる。任意団体であれば助成の可能性さえある。中国では、組織内グループや共産党のお墨付き団体以外登録なしには活動が“できない ”。社会団体として登録することは法人格取得を意味し、その要件が厳しい。また「1行政区1分野1組織」「主管部門(主務官庁)の許可」の制限もある。よって多くの草の根団体は、登録の簡単な「企業」として登録している。このような変形登録ではなく、民間非営利組織としての登録を簡単にし、登録すれば民間組織として自由な活動ができることを3者それぞれの立場から要求した。  

 社科院は「民間組織促進法」として提出し、不特定多数の利益を目的とした法人格を持つ民間組織は税制優遇を得られるとした。現行中国の民間組織制度は「条例」を定めているのみ、条例は国務院の公布する行政法規の一種であり、行政がいかに管理するかを規定している。現段階で「結社法」の制定を政府側が受け入れるか否かに関わらず、学者の責任として、社会の意志を提示していこうという意図だ。経済と政治の発展のアンバランス、それは、改革・開放後の経済発展に伴い、露出してきた貧富の差のような明確な影以上に危険なものとなりえるかもしれないと危惧し、「結社の自由」が確保できなければ、草案提出は失敗であると強調した。

 清華大版は、共益団体、公益団体を含む広義の社会団体を定義、社会団体が行政区の制限を受けないという条文も盛り込んだ。海外の団体、業界団体、複数省団体、年間予算が10万元を超える団体は法人格必須とした。また、英国のチャリティコミッティに類似する国務院所轄の独立した民間組織監督管理委員会を設置し、登記、監督、管理を行うことを提案した。調査データに基づく社会団体の合理的な発展を追求し、清華大公共管理学院の最大部門として発展したNGO研究所の自信とともに、大胆な提案となった。

 上記2草案が主管部門制廃止を要求しているのに対し、北京大版はその維持を示した。草案を説明した陳金羅は民政省民間組織管理局の前身社団管理司の元司長、1989年版「社会団体登記管理条例」の立役者である。当時は87年に党と政治を分離させる「党政分離」の方針が打ち出された後、天安門事件まで続く民主的な空気の一方、インフレ、役人ブローカー、汚職などが問題となっていた。社会団体はといえば文革で民政部が閉鎖されてから無政府状態、役所の外郭団体が乱立していた。旧来の党の助手としての社会団体と、結社の自由を行使し、新たな社会ニーズに応えていく自立した団体、2つの混交点で社会団体制度の秩序化を模索していた人物である。98年版条例(現行条例)に対しては、敷居が高すぎると感じた。現場をよく知る老教授は、枠の中でいかに役所が受け入れやすい形を提示するかを説明した。地方やコミュニティレベルの小さな団体は登録のみとして組織の多様化を図るべきだと強調する。

 一方、民政省は主管部門の権限を弱めているが、現実は相変わらず社団に対する管理・干渉が大きい状況を指摘し、主管部門廃止を急ぐよりも「実」の整備を訴えた。“役人なまり ”の発言の中に、時折「指導思想」という語が聞こえ、若い参加者からは「超保守的」との感想がもれたが、非営利セクター創世記を知る人間には、陳の発言は実感あるものであったに違いない。社科院呉玉章も清華大王名も体制移行の様々な局面を体験してきた世代、陳に敬意を払いつつ、社会の意思を共同で政府側に積極的に提案していくことが重要と総括した。

 中国の民間組織の発展は、社会、政府双方からの認知獲得のプロセスであると言われている。草の根NGOの発展は環境分野から始まった。環境、市民社会との共生を要求する「グリーンオリンピック」招致活動を大きなきっかけとして、政府の環境団体への態度は、規制→無視→協働へと少しずつ変化している。外圧は政府と民間組織との関係をプラスへ向かわせ、「緑家園」や「自然之友」など多くのメディア関係者が環境団体の発起人や会員となっていることも社会的認知にプラスに働いた。前々回に「新世代組織」として紹介した「協作者」と「恵澤人」は両者とも「企業」として登録している草の根団体であるが、別の理由から政府が接近している。

 農村からの出稼ぎ労働者の問題は中国の抱える「三農問題」※1 の一側面として社会不安の起爆剤となりえる可能性もある。農業省、労働・社会保障省などの官僚が「協作者」の主催する会議に積極的に出席している姿がみられる。「草の根」から最も遠い存在の1つである公安当局が、住民の社会参加を啓発する「恵澤人」の活動に好意的になってきている。官の思考をプラス方向へ向かわせる圧力は「外圧」から「国内治安」へと移ってきているようだ。

 法制度をめぐるALL民間組織と政府との関係、個々の課題をめぐるアクターとしての両者の関係、プラス方向への相乗効果が期待できるのか否か、今春の条例公布が楽しみである。

参考文献:
王、李、岡室『中国の NPO』第1書林、2000年
中国研究所編『中国年鑑 2004 』創土社、 2004 年。

※1 農業の低生産性、農村の疲弊、農民の所得低迷

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