IT技術を生かした社会参加 第4回  メディア・リテラシー

                          
池内健治(産能短大教授)
  リテラシーという言葉をよく目にする。本来、読み書きの能力(識字能力)のことをさし、情報収集や発信のための基本能力を意味していた。ところが、情報リテラシー、メディア・リテラシー、ITリテラシー、情報基礎リテラシー、パソコンリテラシー、ネットワークリテラシー、サイバーリテラシーなど、さまざまな分野でリテラシーという用語が氾濫している。それぞれ、時代のニーズに応じて創出された用語であり、その全体像を理解することで、市民社会における情報収集・情報発信のあり方を考えてみたい。今回はメディア・リテラシーを採りあげる。
キーワード・・・ メディア・リテラシー、情報リテラシー、サイバーリテラシー

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1. パソコンの普及と情報リテラシー
 文字を読んで情報を収集すること、文字を書いて情報発信できることは非常に重要な基本能力である。江戸から明治に移行したとき識字率の向上が国家の教育上の重点課題となり、識字率は飛躍的に向上した。第2次世界大戦後、義務教育が制度化されリテラシー(識字)が話題になることも少なくなってきた。リテラシーに注目があたるようになったのは、我々が情報収集する手段であるメディアが多種多様になり大量な情報に個人が触れるようになったことに原因がある。パソコン、携帯電話などによる情報交換が浸透して、10歳以上の人のインターネット利用時間は1日平均1時間42分にのぼっている(平成13年社会生活基本調査)。

 情報リテラシーに注目が当たるようになったのは、 1995年のWINDOWS95の発売以来急激に社会生活にパソコンが浸透してきたことに端を発している。1998年7月経済団体連合会が「次代を担う人材と情報リテラシー向上策のあり方に関する提言」をまとめて、情報リテラシー向上の重要性を強調した。このレポートでは、情報リテラシーを 「情報機器を操作する能力(コンピュータ・リテラシー)にとどまらず、情報ネットワークを活用して必要な情報を収集・整理・加工・分析し、本質をつかんで発信できる能力、業務に精通し、業務に必要な情報を管理・更新・活用して新たな価値の創造を行う能力」 と定義している。情報リテラシーの必要性を産業競争力の強化の点、情報機器を使いこなせる者とそうでない者の間に生じる格差(デジタル・デバイド)の解消の点から議論している。

 情報リテラシーを幅広くとらえると、次の要素に分類できる。
 1)さまざまな形態で蓄積された情報から必要な情報を収集・分析・編集・発信・蓄積する能力
 図書館情報学などがこの範疇に入る。現在では情報を収集するだけではなく、分析、編集、発信する能力が含まれる。知的所有権に関する知識や情報倫理の知識もこの分野である。
 2)メディアが何を目指し、コンテントをどのように構成しているかを理解して情報を判断する能力
 メディア・リテラシーはこの分野に属しているが、この中にはインターネットをはじめとするデジタルネットワークで情報収集する場合に批判的態度(多面的な立場から情報を評価すること)も含んでいる。
 3)情報機器を操作して情報を活用する能力
 コンピュータ(パソコン)、IT機器を操作するための基本操作能力。キーボード入力から基本ソフトの活用、応用ソフトの基本的な操作能力、デジタルネットワークの活用能力まで含んでいる。ウィルスやセキュリティなどの知識もこの分野である。
 各々の要素は明確に分類できるわけではなく、互いに重なり合っている。これらの要素を総合的に習得することが情報化時代のリテラシー能力といえる。2番の要素であるメディア・リテラシーに話をすすめよう。

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2. メディア・リテラシーとは
  メディア・リテラシーは最近になって注目されてきた情報リテラシーとは起源を異にしている。メディアの特性を理解し、メディアを通じて伝えられる情報をさまざまな立場から読み解き、判断し、情報を取捨選択して活用することを意味している。メディアを通じて流通する情報には、発信者の意図があり、その意図や立場を深く理解することによって情報操作から身を守るすべとしてメディア・リテラシーの重要性が注目されてきた。一般的にはマスメディア(新聞・雑誌・TVなど)が伝達する情報を、受け手として判断する能力を意味することが多い。

  TVのコマーシャルフィルム(CF)、新聞広告は、消費者の購買意欲を促進するために作成された情報である。ところが、新聞記事やTVの報道であっても、発信者を通じて発信された情報であり、収集された情報から特定の情報を編集して(構成して)情報を流している。そのときに、発信者の価値観やニーズによって必要な情報が選択される。

  井上康浩( 2004/5 )『メディア・リテラシー』では、「特定のコンテントがメディアによって伝えられる理由と背景を見抜き、コンテントの「行間」を読むことで解読と判断をおこない、コンテントが人間や社会に及ぼす影響を理解することで悪影響を防御し、好影響について積極的に享受する」としている。

  民放ならばスポンサーに都合の悪い情報は流しにくいし、新聞記事であっても編集会議で取捨選択される。同じ記事でも、記事の配列によって大きく印象が異なることになる。たとえば、誘拐の記事と殺人の記事を隣同士に配列する場合と、誘拐の記事と介護ボランティアの記事を隣同士で配列する場合では、記事の印象が大きく違ってくる。

  発信者が意図するか否かを問わず、報道される情報は構成されており、受信者はそれを適正に判断して情報を受ける能力が必要になる。とくに、私たちはマスメディアで伝達される情報を正しい情報として無批判に信じ込んでしまいがちだからである。メディア・リテラシー教育では、マスメディアの特性と産業構造を知ること、記事や情報をどのように作っているかを考えることを教えている。また発信者の立場に立って情報を構成する経験も、受け手として情報を評価する場合に重要である。    

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3. メディア・リテラシーとインターネット
  従来は、新聞やテレビ・ラジオをはじめとするマスメディアや、電話や手紙などのメディアの利用方法だけで充分であった。ところが、急激な技術の進歩によりインターネットや携帯電話などの新しいメディアが発達し、このようなメディアの利用にまつわるトラブルも頻発するようになっている。

  インターネットの時代ではメディア・リテラシーの考え方が重要な素養になる。われわれはデジタル化された情報やインターネットに掲載された情報を、正しい情報として受け入れる傾向が強いからである。手書きのメモよりも、ワープロで打ったメモの方に価値を置きがちである。同様に、インターネットに掲載された情報を正しい情報、広く評価された情報として無批判に受け入れる危険性が高い。

  インターネットの世界は発信した情報の質を誰かが管理している世界ではなく、「なりすます」ことも可能である。インターネットを賢く使いこなすためには、批判的(クリティカル)な態度で情報を評価することが求められる。

  日本語で「批判的」というとネガティブな響きがあり、相手を非難する印象を受ける。ここで述べている「批判的」とは、情報を多面的に評価することを意味している。発信者の立場から情報を評価する、情報の「行間」を読み取り解釈する、受信者の先入観で間違った解釈をしていないか評価するといった能力である。

  マスメディアを対象にしたメディア・リテラシーの時代から一歩進み、メディアが複合的に活用される(メディア・ミックス)ようになってきた。紙媒体と携帯電話、インターネットとTV、携帯電話とメール、メールとブログというような時代ではより進んだメディア・リテラシーが必要になる。矢野直明は「サイバーリテラシー」でサイバースペースにおけるリテラシーを論じている。

  このような新しい時代にあってもメディア・リテラシーは情報取得の態度として重要な能力である。ただし、マスメディアとサイバースペースが最も違うのは、受け手は「受け手」であるとともに「発信者」でもある点である。双方向性が確保されることで一方的に情報を受け取る場合と違い、対話スペースを共有することができ情報を深く理解することも期待できる。逆に、姿の見えない相手と情報空間を共有し、有効に利用するための能力も必要になる。

 次回以降、各メディアの本質を理解して特性を活かす方法を情報リテラシーやメディア・リテラシーの立場で議論していきたい。
 
■参考:レン・マスターマンによる 「メディア・リテラシーの18の基本原則」
http://www.mlpj.org/masterman.html

■参考文献
鈴木みどり編、『メディア・リテラシーの現在と未来』、世界思想社、 2001
菅谷 明子、『メディア・リテラシー―世界の現場から』、岩波新書

■参考になるサイト
平成 13年社会生活基本調査 結果の概要
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2001/shousai/gaiyo.htm

http://www.stat.go.jp/data/shakai/2001/kodo/gaiyok.htm

情報リテラシー: http://www.blwisdom.com/itword/il/

(社)経済団体連合会、「次代を担う人材と情報リテラシー向上策のあり方に関する提言」、 1998/7
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/pol184/

特定非営利活動法人 FCT市民のメディア・フォーラム
http://mlpj.org/index.html

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