協働のデザイン  第13回 協働のルールを評価する  
世古一穂(代表理事)

  前々号で、筆者が協働推進のための区の委員等で関わっている杉並区の「協働ガイドライン」2004年版について紹介したが、杉並区では2005年版作成に向けた検討が協働推進委員会等ではじまろうとしているところだ。
  「協働ガイドライン」「協働マニュアル」「協働の手引き」等自治体それぞれの表題がついているが、協働のルールづくりが都道府県、市レベルで活発に行われている。各自治体での協働のルールづくりにあたっては市民、NPOにパブリックコメントを求めることが通例となっているが、本稿では都道府県、政令市から今後は市町村へと協働のルールづくりはひろがっていくと思われるなかで、協働のルールづくりをどのように評価していけばよいのか、そのポイントを考えてみたい。

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キーワード   協働のルールづくり、計画段階からの参加、協働の質、協働評価、 協働コーディネーター

1. 「協働の質の評価」を協働のルールづくりに組み込む必要
  筆者は協働型社会を進展させていくためには個々の自治体、NPOの組織や事業を評価する評価システムの確立だけでは不十分であり、とくに自治体とNPOの協働領域における評価システム、協働事業の評価手法の開発が不可欠であると考え「協働評価」の必要を提案してきた。(世古一穂著「協働のデザイン」学芸出版刊、評価システム研究会報告書「NPOと評価−評価でつくるNPOパワー−」を参照してください)

  協働のルールづくり、特に、協働事業の進め方をルール化するにあたっては協働の質をどのように評価するか、協働のプロセスをどのように評価するかを意識したルールづくりが必要である。
  「協働評価」の枠組みは次の5本柱である。
 @協働のどの段階か
 A協働の目的、目標設定は適切か
 B協働の領域設定は適切か
 C官民の役割分担は適切か
 D協働の目指すべき方向性は適切か

 この5本柱について「協働事業自己チェックシート」(筆者が代表をつとめる評価システム研究会と三重県NPO室で協働で開発したもの)のチェック項目は、大きく次の6項目で設定した。

 @協働の開始時期の認識……協働はいつはじまったか

 A計画段階

 B実施段階

 C成果の把握

 D課題の抽出

 E改善案の作成

2. 協働評価のポイント
 「協働事業自己チェックシート」であげた評価ポイントをまとめておこう。

(1)協働の目的〜 何のために協働するのか
 NPO活動がさまざまな分野で広がっている。従来行政が行ってきた公共サービスとはどのように関係していくのか。「協働する」とはどういうことなのか。まず、事業によっては現場のニーズや地域の特性を把握し、先駆的、専門的に活動するNPOと行政が、互いに協力しあうことで、より効果的なサービスが期待できる。また、互いに事業について話し合うことで、本来誰がどうやって行うべきか、を見直すことにもなる。そして協働で生まれたアイデアがきっかけとなって多様なネットワークが生まれることにつながる。

(2)協働の方法は適切か〜協働と言ってもいろいろな方法がある
 NPOと行政が協力しあう関係は、いろいろある。
 行政が行うべき業務を「委託」するケース、NPOが行う事業に対して「補助」するケース。「補助」の場合も@資金補助A行政施設の提供B職員派遣などがある。
 また、事業の企画や計画立案をNPOと行政が共に行うケース、実行委員会や協議会という連合体を組織して事業の企画・運営を行うケースもある。
 どの形態がふさわしいかは十分に検討がなされなければならないが、そのときの事情によって変化するものであり、たとえば委託から補助へ段階的に移行するケースもある。

(3)協働のプロセスは適切か〜うまく協働するにはどうしたらよいのか
 しかし、協働においてはどうしても行政が“主導”“管理”する傾向が多いのは否めない。それでは、結局、NPOが下請け化して、その特性が発揮されずに終わったり、本来の組織のミッション(使命)を見失う結果になってしまったりする。

 協働をうまく進展させるには、
 お互いが、
 ○自立している
 ○それぞれの組織の特性を理解している
 ○対等な立場にある
 ことが大切。そして協働する事業においては、
 ○目的は何か
 ○なぜ協働するのか
 ○どういう方法で協働するのか
 ○役割をどう分担するかを共有し、
 ○情報を公開する
 ○わかりやすい、共通の言葉で議論する
 ○柔軟に対応する姿勢を持つことが大切である。

(4)協働の質を評価するために〜協働の自己チェックが必要
 協働の質を高めていくためには、お互いにそのプロセスや成果を議論しあって、ひとつひとつ経験を積み重ねていくことが必要である。その議論のための道具として作成したのが先に述べた「NPOと行政の協働事業自己チェックシート」である。

協働事業自己チェックシートでは
 @協働の目的
  誰が……NPOと行政の協働事業を行う担当者(NPOと行政の双方で行う)
  何のために…… 
   1)NPOと行政の相互理解を進め、対等な関係をつくる。
   2)県民にとってより効果的な事業を実施する。
   3)事業における官民の役割を明らかにする。

 A対象とするNPO
 「NPO法人及び法人格を持たない市民活動団体」とする。
 (事業を実施するために結成された「実行委員会」や「協議会」なども広く含めることとする)

 B対象とする協働事業
   1)行政からNPOへの委託事業、補助金交付事業
   2)県民・NPOなどにより構成される「実行委員会」や「協議会」と行政との協働事業
   3)NPOと行政の共催事業

 C協働評価会議〜チェックシート記入後、評価者を交えて協働について話し合う
  NPOと行政の担当者それぞれがチェックシートに記入しただけでは、協働のパートナーが事業をどのように評価したのかわ  からない。お互いが意見交換を行う必要がある。また、双方とも協働のプロセスや事業の成果・改善において気づかない問  題点もある。そこで、第三者のアセッサー(評価者)を交えて協働評価会議を開催し、より深い議論を行うことが必要である。
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3. 協働のルールづくりを評価するためには
  自治体でつくられている協働のルールを市民、NPOとしてどのようなポイントで意見を出し、提言、評価していけばよいのか。本稿執筆中に、筆者が講師をつとめる岡山協働デザイン研究会のメンバーから下記のチェックリストがおくられてき、意見をもとめられた。これは岡山県が策定中の「岡山県とNPOとの協働の手引き」素案に対する意見提案、最終案検討会にむけてこのチェックリストで協働の手引きをチェックしてみた上で、提案意見案を作成ようという意図で作成されたものとのことであった。

 ちなみに県の素案は http://www.pref.okayama.jp/seikatsu/kenmin/kenmin.pc012.doc で公開されている。

 このチェックリストは先に述べた筆者が提案してきた協働評価を協働のルールづくりに反映させようと作成されたもので、「協働のデザイン」や「NPOと評価」を参考にNPO研修・情報センターの「協働コーディネーター養成講座」での成果等をもとに作成されたものとのことである。

 提案されているチェック項目は下記の13項目。

 □1.「協働のルールづくり」を行う場及びプロセスが適正であったか
     手引きはどのような方法で作成されたか(市民・県民との協働作業か)

 □2.県民・市民活動との協働に関する基本方針はあるか

 □3.協働を生み育てる形になっているかどうか(協働の原則があるか)
    当事者間の関係
    @対等の原則、A自主性尊重の原則、B相互理解の原則、 C目的共有の原則、D公開の原則
    協働の成果
    E自立化の原則
    (参考)自立化の原則→協働の成果のひとつとして「市民活動が自立化する方向になっているか」

 □4.NPO支援の明確な方針があるか
    行政がNPOを支援する場合、その程度及び条件

 □5.NPOの多様性を理解しているか

 □6.行政とNPOとの協働関係に関する認識の記述があるか。

 □7.NPOを特別の枠に囲ってNPOだけのルールとなっていないか
    (例)事業の透明性(本来、行政、企業も事業の透明性は同じ)

 □8.市民が社会の運営に参加し、課題の解決や理想の実現に取り込む形式になっているか

 □9.協働が課題の解決や理想の実現に取り込むために事業や活動を通じて継続的に参加する形式になっているか。

 □10.協働は専門が求められる市民参加型となっているか

 □11.協働のあり方はどのような形となっているか
   @支援・育成重視型
   A協働・分権重視型
   B行革推進型

 □12.協働に関する懸念・問題点を把握し検討しているか
   @相乗効果のある協働となっているか
   A基本原則のある協働となっているか
   B1対1の協働でなく多対多の協働になっているか
   C原則だけの協働でなくプロセスを明示した協働となっているか
   D深い協働となっているか(市民・県民の参画より早く、より広くなっているか)
   E戦略を明示した協働になっているか(中長期的な方針があるか)
   F協働の担い手として双方(NPO、行政)が適切であるという根拠(基準)を明示しているか

 □13.その他

 これらの項目は先に述べた協働評価の視点が反映された質の高いものになっている。

 ただし、協働の質をどのように評価し、それを次の協働の取り組みに反映していくかについての考え方、プロセス、方法が明示されているか、また市民、NPOと行政とで協働の質を確保し、よりよいものにしていくためのしくみを共有できるものとなっているか、のチェック項目をいれる必要があるのではないかと思う。

 また、市民、NPOが、素案に対してこうしたチェック項目をもとにきちんと議論、検討して行政に意見を述べることはもちろん大切であり、パブリックコメントも必要である。しかし、出された意見や提案がどのように協働のルールづくりに反映されるのか、反映されないのか、また、どのように反映するか否かを決めるのは誰なのか、市民、NPOからの意見が生かされてこそのパブリックコメントであり、公開検討会である。

 市民、NPOの意見がどのように活かされるかがきちんと協議され、合意されていないと、えてしてパブリックコメントや公開検討会は形式的なもの、アリバイ的なものになりがちだからである。

 行政と市民、NPOが素案について平場で検討しあうオープンな場が必要なことはいうまでもないが、意見や提案の反映の仕方、市民の活かされ方についての検討が事前に必要である。また、そうした検討の場が行政、市民、NPO等ととも中立の協働コーディネーターによって運営されることが必要だと思う。

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