中国の民間非営利組織  第2回  期待と批判と生活のはざまで
 
岡室美恵子(笹川平和財団主任研究員)
 草の根団体が世界の表舞台に立ち、民間組織の代表が政界進出した追い風ムードの一方、2002年4月に 「山東黄河孤児院」詐欺事件の一審判決が下った。山東省唯一の民間孤児院が養子縁組の手数料詐欺行為で摘発された事件である。同年2月 「希望プロジェクト」 1)の寄付金をめぐり、香港の新聞 『明報』 が連続して報じた 「青少年発展基金会」 の不正投資疑惑は中央当局をも騒がすスクープとなった。共産主義青年団をバックとし、一般大衆の寄付や民間組織に対する認識の普及をリードしてきた中国最大の基金会の不祥事であった。03年に入ると、「中国の母胡蔓莉事件」 に対し、雲南省高級人民法院が寄付金の目的外使用として最終判決を下し、「公益事業寄贈法」 に基づく対外初案件となった。麗江地震被害地の児童救済を目的に設立された 「麗江ママ聯誼会」 が寄付金の用途をめぐり米国支援団体から告訴され、私的流用疑惑にまで発展した事件である。また、広東省広州市では、「広州市教育基金会」 による数千万元(1元=約13円)の資金流用と欠損が露見し、12月には『中国青年報』が環境NGOの 「貴族化」 に警鐘を鳴らした。04年に入ると、国家の設置した 「国家自然科学基金委員会」 においても40億元の科学プロジェクト費の乱用がスクープされた。寄付金、パブリックマネーの財産権と管理者責任への関心を喚起する事件が続いている。03年に全国政治協商会議 (政協) 委員に選出された清華大学NGO研究所の王名は、04年の会議で公益財産の保護に関する立法、行政管理体制の改革、社会監督の強化を提言した。

1)貧困地域児童の就学支援のための募金プロジェクト。

 情報化社会の進展が明るみにした 「善意の団体が人々を騙した」ニュースは、民間組織に対する社会一般の認識を高めた。一方、中国政府は「購買服務」 2)政策などを展開し社会サービスの民間シフトを進め、サービス代行者としての民間組織には期待と厳しい評価の目を向ける。また、03年11月に民間17団体が連合で開催した「多国籍企業と公共事業シンポジウム&展覧会」の1企画として、民政省が 「寄付制度の構築と新機軸」 をテーマにフォーラムを実施し、04年6月に施行された 「基金会管理条例」 の草案作成時には、民間組織関係者を集め検討懇談会を開催するなど、民間資金開拓に向け積極的な姿勢を示している。

2)「服務」はサービスの意。国がNPOのサービスを「買う」。これまで国が行ってきた社会サービスの一部を委託の形態で民間へシフトすること。

 社会と政府からの様々な期待と圧力は、民間組織の 「公信度(クレディビリティ)」 「問責 (アカウンタビリティ)」 を求め始め、 「能力建設(キャパシティビルディング)」や組織・事業の 「評価」 が、その具体的な行動として注目されている。官の二重看板組織をルーツとする 「中国国際民間組織協力促進会」 は、自らの組織改革をすすめつつ、中間支援型団体のリーダー的存在へと発展してきたが、これまで地方で成功させてきた能力建設研修を常に行えるように事務所兼研修センターの準備を北京で進めている。大学や民間組織が海外のファンドレーザーや組織運営のプロを招いてセミナーを開けば大盛況である。またNPOとして法的に正規の地位を持たず企業として登録している「北京NPO情報相談センター( Chin NPO Network)」の主催するセミナーを民間組織管理当局である民政省の機関紙 『中国社会報』 が宣伝報道するなど政府側の支援もみられる。一方、02−04年、民間組織の評価基準に関する調査研究が清華大学NGO研究所で実施され、王名はその成果を政協提言の根拠の一部に利用し注目を集めた。調査を担当した副所長のケ国勝には、政策や政府系組織の評価を推進したい政府機関での講義依頼が急増し、組織の正当性を急ぐ多数の民間組織からは監事や理事として請われ苦笑いしている。

  かつて 「鉄飯椀」 3)に盛られていたサービスやコミュニケーションの対価をめぐる社会構造は大きく変化している。財・サービスの分配を基本とする計画経済では、国家の指令命令で物を生産する 「企業単位」、国家から供給される経費でサービスの提供を行う 「事業単位」、そして民衆の利益表出や共産党との紐帯を担う 「社会団体」 が主たる分業セクターであった。1978年に企業単位で開始された民営化に向けた改革は、第10次5ヵ年計画以後、社会サービスの 「社会化」 をスローガンに、事業単位・社会団体改革へと進展している。既存官設団体の政府との分離、その対極での純民間団体の急発展が、全体として民間非営利セクターを拡大させているが、草の根団体にとっても、官側の団体であっても、最大の課題は組織運営力と資金調達である。 政府からの三行半をつきつけられた人々、一方で、理想と意義を社会活動に求め起業した人々、それぞれが直面する 「生活の糧」 としての民間組織の発展は、その信頼性に依らざるを得ない。 「キャパシティビルディング」 「評価」、まだまだ日本でもこそばゆい民間非営利セクターのツールをブームに押し上げている要因は実はこのあたりにあるかもしれない。

3)絶対に壊れない飯椀で食いはぐれのないことの意。日本の「親方日の丸」に相当。 、旅券が発行されず授賞式に出席できなかった。

 

参考文献:

王、李、岡室『中国の NPO 』第1書林、 2000 年。

中国研究所編『中国年鑑 2004 』創土社、 2004 年。

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