「メディアの読み方」講座 第2回  米国大統領選の結果がつくる未来
土田修(正会員、ジャーナリスト)

  アメリカ大統領選挙でジョージ・W・ブッシュ氏が再選された後、各マスコミは様々な角度でブッシュ政権2期目を予想した。その中で11月7日付の東京新聞は「各国有識者に聞く」というインタビュー記事を掲載した。インタビューの相手はエジプトの政治戦略研究センター主任のディアー・ラシュワン氏、北京大学国際関係学院教授の朱鋒氏、フランス国立人口統計学研究所員のエマニュエル・トッド氏。ラシュワン氏は「対イランで衝突の危険性」を、朱氏は「中台対話の促進役への期待」を語っている。ではこれまで「イラク戦争が米国崩壊を早める」と指摘してきたトッド氏は……。

  ――ブッシュ再選の印象は。
   トッド氏「これまで賢くないのはブッシュ個人だといわれていたが、再選によって今後は米国民全体がそう見られる。世界中で反ブッシュが反米に変わる恐れがある」

 ――今回の大統領選は重要な歴史的選択といわれた。
   トッド氏「問題はブッシュかケリーかではなく、五千億ドルと史上最悪に膨れ上がった双子の赤字に象徴されるように、米国自体が非常に弱っていることだ」「米国はこれまで他国を利用し、他国に依存する形で繁栄してきた。猛禽類のように弱者の肉を食べて生きてきたと言える。しかし最早限界だ」

 ――これからの米国はどのように進んでいくのか。
   トッド氏「国家を維持するには二通りしかない。一つはこれまでの帝国主義を続けること。もう一つは米国人の生活水準を切り下げること。二割低くすれば経済危機を回避できるが、そこまでできるだろうか」

 ――米欧関係は修復できるか。
    トッド氏「欧州にできるのは、関係修復ではなく完全に自立することだろう。既に車も電化製品も米国製は消え、日本などアジア製ばかり。米国はそれほど衰退している」 

  

 極めて端的にアメリカの将来的な凋落ぶりが予言されている。
 既にトッド氏は2002年の「帝国以降」(藤原書店)の書き出しでこう書いている。「アメリカ合衆国は現在、世界にとって問題となりつつある」。この言葉の背景には、アメリカは世界中に自由民主主義を布教しているが、自由民主主義の全世界化が実現したらアメリカは無用な存在になるというパラドクスがあった。
 冷戦終結後、「歴史の終わり」を出版したフランシス・フクヤマがヘーゲルを単純化した「アメリカ的おめでたさと楽観論」で自由民主主義の勝利を宣言したとき、軍事大国としてのアメリカは無用になるはずだった。つまりアメリカは他の民主主義国家と同じ一つの民主主義国家になるはずだった。
 「このアメリカの無用性というものは、ワシントンの基本的不安の一つであり、アメリカ合衆国の対外政策を理解するための鍵の一つなのである」
 その意味でヨーロッパには、アメリカがパレスチナ問題を解決しようとしないのは中東の緊張関係を必要としているからだ、という疑念が存在している。つまりアメリカは世界の中で孤立した無用の国になるのが怖くて、民主主義の敵を作り続けなければならないということになる。アルカイダもイラクのフセインもイランも金正日も、アメリカが軍事大国であり続けるための小道具だったのだ。
 だからこそブレンジンスキーが共産主義の崩壊でヨーロッパが再統一され、アメリカは世界の隅っこで忘れ去られ引きこもる、という見通しを示していることは興味深い。
 ブッシュのアメリカの今後については、フランスの週刊誌「ル・ポワン」も「ブッシュU 孤独な帝国」という記事で「世界中が投票していたら疑いなくケリーが大統領になっていただろう。米中西部の農場主やフロリダの退職者たちはドゥ・マゴの常連客と同じ政治的認識を持っていなかった」と書いている。そしてブッシュと取り巻きのネオコンどもが外交政策として孤立主義と干渉主義と単独行動主義を一度に実行している、と非難している。
 この記事もブレジンスキーの「アメリカは敵対する世界の中で孤立し、塹壕をめぐらした野営地に変わるであろう」(「本当の選択」)という言葉を引用しているのが面白い。確かにアメリカは対人地雷のオタワ条約も京都議定書も拒否し、国際的に孤立する道を選んでいる。その一方で「悪の枢軸」なる言葉を生みだし、軍事的優位性を背景に、他国を脅し続けている。どれが本当のアメリカなのかさっぱり理解できない。
 肝心なのは経済的にも行き詰まっているアメリカが没落するのは時間の問題だということだ。ブッシュはそれを早める役割を果たすのだろう。  

▲ページトップへ
 

 

 



 

 

©2004 NPO Training and Resource Center All Right reserved