協働のデザイン  第12回 地方が自立できる国と地方の三位一体改革を!  
世古一穂(代表理事)

 国と地方の税財政を見直す三位一体改革の改革が難航している。
 そもそもこの改革は、2000年の地方分権一括法の施行で、国と地方が法律上、対等の関係になったことを前提に税財政の面でも地方の自由度を高め、地方が自立できることを目的にスタートしたものではなかったか。
 2003年6月の経済財政諮問会議で、2006年までの3年間で補助金を4兆円減らし、見返りとして3兆円分の税源を国から地方自治体に移すというのが目標だ。同時に国から地方自治体に回す地方交付税も見直す。
 政府と全国知事会などでつくる地方6団体が推進勢力だが、国土交通、文部科学、厚生労働などの各省庁とそこに影響力を持つ族議員が6団体の改革案に反対した。本来、省庁は政府側のはずだが、ねじれ現象が起きている。
 三位一体改革は本来地方の自立のために必要な改革であるはずだが、先ごろ政府・与党から示された改革の大枠である「基本的枠組み」を見る限り、地方の裁量と責任を拡大するという改革の理念を反映されたものとはいい難いものである。
  今回はNPOの今後に深くかかわる、国と地方の三位一体改革を住民自治、NPOの視点からみておきたい。次回はまた協働のルールづくりについて述べていく。

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1.三位一体改革とは
  無駄な公共事業をやめること、そのためには住民に身近な自治体の決定権を強めようという改革である。
  @国から地方自治体への補助金を減らす A見返りに、地方が自由に使える税源(税金による財源)を国から地方に移す B財源不足を穴埋めするために国が地方に分配している地方交付税のあり方を見直す・・・という3つの改革を一度に行おうとするものだ。
  財政的には、国税で賄っている国から地方への補助・負担金を廃止し、その分を地方税として自治体に税源移譲する仕組みだ。地方が自主的に住民から集めたお金で仕事をするように変われば、受益と負担の関係が明確になり、住民が監視しやすくなる。
  では、なぜ無駄な公共事業が行われてきたのだろうか!
  国の地方向け補助金には細かい基準や条件があり、地方自治体が自由には使えない仕組みになっている。しかし、地方自治体にとって補助事業を採用すれば財源の数割が国からもらえる。残りのお金さえ調達できれば事業が実施できるので、地域の必要性は二の次で安易に採用してしまい、必要以上にりっぱな道路や施設を造ることになり、結果として税金の無駄使いになるというわけだ。
  補助金をもらえば得をしたように思っているが、国の補助金といっても、もとは税金である。補助金に頼って無駄な公共事業をやっては、実は借金を増やす構造になっている。
  国の補助金を地方自治体の税源に切り替えれば、地方自治体は独自の判断に基づいて、地方自治体の費用で、その地域に本当に必要な行政サービスができるようになる。国から補助金をもらうために、中央省庁の言いなりになる必要もなくなる
  しかし、その反面、地方自治体ごとに教育や福祉などの水準に格差が生まれる恐れがある。この改革の行方次第で、住民の暮らしは大きく変わることになる。

2. 補助金削減への各省庁、官僚の抵抗
 補助金を通じて地方自治体をコントロールしてきた各省庁やいわゆる族議員は地方自治体への影響力を保つため、なるべく補助金を温存したい。
 補助事業をどの地方で実施するか、規模をどのくらいにするか、優先順位をどうするかといった権限は官僚が握ってきた。補助金が廃止されればその影響力がなくなる。さらに省庁間の省益争いが絡んで、抵抗勢力が大きくなっているというわけだ。
 各省庁は「国の責任」「行政の統一性」を主張しているが地方分権は散々議論し、2000年の地方分権一括法の施行で決着済みの話である。各省庁の主張はいまさら持ち出す話ではない。

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3. 税源移譲だけでは格差がひろがる恐れ
  国から地方自治体への3兆円の税源移譲は2006年度までの3年間に国税の所得税を3兆円減税する一方、地方税の「個人住民税」を3兆円増税して行うという計画だ。
  個人住民税は現在、収入に応じて課税所得の5%、10%、13%の3段階になっているがその税率を一律10%にする案が有力をいわれている。これによって増税になる人のほうが多くなり、結果として地方は3兆円の増収になる見込みだ。
 一律10%にする根拠は、住民税は全住民が受ける行政サービスの対価だから全員が平等に負担すべきだという考え方によっている。
 税源移譲がすすめば地方自治体は独自の財源を確保できるわけだが、人口一人あたりの個人住民税収は全国平均を100とすれば最高の東京が173、最も少ない沖縄は56と3倍以上の差がある。税源移譲も手放しでよいというわけにはいかない。地方交付税で格差を是正しないと所得水準が高く、人口の多い大都市が有利になることは間違いないからだ。
 補助金廃止、税源移譲に並んで、三位一体改革のもうひとつの柱は交付税の見直しだ。
 巨額の国の財政赤字を減らし、財政再建を急ぐ財務省にとっては、三位一体改革の最大の目的は地方交付税を減らすことである。
 地方交付税というのは国が地方自治体の行政サービスの最低基準を提示し、全国どこに行っても警察、義務教育、消防などが一定水準で受けられるように地方で足りない財源について、国が面倒を見る仕組み。ナショナルミニマムを保障する制度だ。
 しかし、この間、財務省は「地方自治体が地方財政計画どおりに予算を使っておらず7、8兆円も過大に予算計上されている」と、地方自治体の交付税無駄遣い論を展開し、交付税の7、8兆円の大幅削減を提示したが、「確証のないさまつな例をあげての交付税削減は断固反対」と国と地方の対立を激化させた。
 交付税の見直しは必要だが、補助金削減と税源移譲が達成されてのことであろう。また、それは行政サービスの水準が落ちることにもつながり、国民の理解と納得が必要だし、国会できちんとした議論が必要なことはいうまでもない。

4. 三位一体改革のあるべき姿に向けて
 国と地方自治体とのこうした官々分権、国と地方の財源の奪い合い、要するにお役人同士の話で三位一体改革が進められているのが問題だ。
 これまで国は、補助金廃止を望む地方自治体の主張に対して、「国の責任」を強調してきた。しかし、補助金が廃止されれば、これまで国が一律の基準で実施していたものが、きちんと税源移譲を行うことにより、地方自治体が地域の住民と向き合いながら、自分たちの責任で判断を行い、地域の実情やニーズに応じて柔軟に対応できるようになる。
 地方への税源移譲がすすめば、逆に将来的には首長が地方税率のアップを前提に、公共事業の実施を提案してくることも想定できるといわれる。そうした事態になればこれまで以上に地方議会の役割が問われ、地方議会改革の必要性が高まると同時に、地域の住民が地方税率や必要な公共事業を主体的に判断、住民主導で選択できるようにする必要がある。それは住民の参画意識を高めることに直結するし、自治体と市民活動団体との真の協働の基盤作りとして不可欠な前提ととらえる必要がある。
 三位一体改革の真の成否は住民自治を拡大できるかどうかにある。
 三位一体改革は私たちの暮らしに直結する重大な問題だという認識、市民分権の視点が必要だし、市民自治の観点からの市民の関心の高まりと監視が必要だ。私たち一人ひとり地域の住民として税金の使われ方にもっと関心を持つ必要があるし、NPOも協働の担い手、地域分権の担い手として三位一体改革に市民セクターとしてもっと声を上げる必要がある。

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