中国の民間非営利組織  第1回 規制と新潮流
 
岡室美恵子(笹川平和財団主任研究員)
  1.呼称と中国的事情
「中国にNGOなんてあるの?」ステレオタイプの疑問への返答は難しいが、全世界的な潮流のなかで、中国でも「民間組織」と総称される民間非営利組織の活動が活発化している。それらの実態調査や学術的研究を行う「清華大学 NGO 研究所」は1998年に設立されたが、当時は「NGOなんて胡散臭い名前をつけて」と、古参の官設団体などから猜疑的な目が向けられることもあった。ところが、「アースディ2000北京フォーラム」が開催され、その後、オリンピック招致活動が本格化する頃になると、民間を強調した外来語「 NGO 」が普及した。シドニーは「グリーンオリンピック」で北京を破った。2008年のゲームも「環境」と「市民参加」が重要なポイントとなったのだ。2001年には民間組織の登記管理を行う民政省の機関紙『中国社会報』が「 NGO 視窓」欄を設置した。また、非営利税制や法人制度そのものに関する議論が高まるにつれ「 NPO 」という外来語も浸透してきている。「第3部門(サードセクター)」という呼称は、かつては第3の勢力をイメージし“好ましくない”とされていたが、資金調達、社会サービスの担い手、雇用の受け皿と新領域への期待は大きく、要人の発言にも「諸外国では政府でもない企業でもない第3の領域を〜」というように使われ始めている。  

2.中華人民共和国のNGO 
  ほんの十年くらい前までは、「社会団体(社団)」が中国のNGOとして唯一海外に紹介され、その半官半民性が議論や批判の対象になっていた。社団は「中国公民が自主的に組織し会員の共同意思実現のため定款により活動していく非営利性社会組織」と規定されており、日本の社団法人に類似する団体のほか特別社団として財団法人に類する「基金会」 (注1)が含まれている。
中華人民共和国誕生後、それまで存在していた民間社団の社会主義改造が進められ、一方で社会主義建設に必要な団体が政府主導で設立された。政府は「党と民衆の紐帯」を社団に期待したが、その役割は「改革・開放」政策が進展すると、行政の補完や、中には「小金庫(帳簿にのらない資金)」へと、一方で公共サービスや資源調達の担い手へと変化してきた。現在は、社団リストラの勝ち組で政府をバックに地位を固める古参の有力団体から、内部改革を進め民間組織ブームにのり、行政の干渉や負担から逃れたい改革推進派の団体、リストラに怯えつつ旧体質から脱却できない天下り団体、そして純民間社団まで各種各様な状況である。
  「2003年民政事業発展統計報告」によると社団14万2000団体、このほか社団同様に民間非営利組織として正規の地位を持つ「民弁非企業単位(民非)」が12万4000団体存在する。民非は「非国有財産で設立された非営利性の社会サービス活動に従事する社会組織」と規定され、民営の学校、幼稚園、養老院、研究所等の施設、団体が登録している。
  社団も民非も、 1 行政区で 1 つの分野に 1 団体の登録しか認められず、また、主管部門(活動の管理・監督)と民政部門(登記管理)により二重に管理されている。この 2 点が長年民間組織の発展を妨げているといわれており、草の根団体の多くは工商行政管理局にて非営利企業として、または既存団体の下部組織として登録している。中国初の純民間環境団体と呼ばれる「自然之友」が活動を開始したのは1993年。この年、当時の環境保護総局長曲格平氏が国連環境保護大賞を受賞した際の賞金を元に,「中華環境保護基金会」が設立され、自然之友は翌94年に既存社会団体「中国文化書院」の下部組織として登録した。ヨハネスブルグ会議で中国のNGOをリードした「北京地球村環境文化中心(地球村)」は96年に企業として登録した。

※注1:民間組織の資金調達に期待する中国政府は 2004 年 6 月「基金会管理条例」を施行。現行民法は「政府機関、企業単位、事業単位、社会団体」の 4 種の法人しか記載されていないため、民法改正を含む今後の非営利法人改革の動きが注目されている。

3.2つの脅威と新世代組織 
  2003年、 SARS (新型肺炎)の流行が深刻化すると、中国政府は「社会の力で撲滅を」と鼓舞した。「非営利10団体連合提唱」や38の環境組織による「生態保護と SARS 撲滅」連合提案が発表され、民間組織の活動が積極的に報道されるなど、その存在意義の普及面では効果があったと言われる。また民間組織関係者の中には「阪神・淡路大震災」と状況を重ね合わせ、民間組織の結集を呼びかけたりする行動も見られた。その反面、政府が指定する寄付金受領団体の実働性不足や、いざ一般団体が支援活動に参加しようとすると対応の硬直性が浮き彫りとなり、民間組織側でも専門性の未熟さ等が指摘された。
  一方、世界的脅威のもう1つの対極エイズに関して、9月に Human Rights Watch ( New York )が発表したレポートなどを通じ、河南省などでの情報隠蔽やそれに立ち向かう基層レベルでの自発的な活動やその組織化の困難さが広く知られるようになった。 SARS 深刻化でのリスクを経験した中国衛生省は、03年12月、国連エイズ合同計画( UNAIDS )中国対策チームと共に「中国エイズ予防治療共同評価報告」を発表した。
2 つの大事を通じ注目されたのが新世代組織の活動である。元「農家女文化発展センター」の李濤らによる「北京協作者文化伝播センター」は、農村のコミュニティ建設と「農民工」 (注2)の権利保護を目的とする団体で、外来出稼ぎ者の居住や職業の特性を考慮した SARS 知識普及活動を行った。元「北京紅楓女性心理相談サービスセンター」の瞿雁らにより結成されたソーシャルワーク組織「北京恵澤人相談サービスセンター」は「天使の家ホットライン」や「黄色いリボンキャンペーン」など心理面でのケア活動を推進した。両団体とも老舗団体のスタッフが中心となり結成したものである。この他、元地球村の宋慶華らにより結成された「コミュニティ・アクション」は03年9月「北京燦雨石情報相談センター」として企業登録し、人・自然・社会の調和を重視した都市におけるコミュニティ参加活動の普及を行っている。元自然之友の?冰らによる「北京天下渓教育研究所」は環境教育と弱者に対する教育資源の提供を活動の重点としている。その先駆的存在であり、02年に企業登録した「北京愛知行健康教育研究所」はエイズ知識普及活動を行う団体であるが、WHO ( 世界保健機関 ) 河南省エイズ村視察団に関するレポートや高耀潔医師(注3)支援活動などが波紋を呼び、構成員や組織の動向に関心が集まった。
自然之友の設立から10年。登録に関する制限は依然として存在するものの、それを究極の困難とせず、経験を生かした新たな活動や領域、業務の専門化を目指し、独立、起業する新世代組織の設立が03年に相次いだ。

 

※注2:農村から都市へ出稼ぎに来ている労働者。

※注3:エイズ予防活動に貢献する湖南省の医師。 2003 年アジアのノーベル賞と言われる「マグサイサイ賞」を受賞したが、旅券が発行されず授賞式に出席できなかった。

 

参考文献:

王、李、岡室『中国の NPO 』第1書林、 2000 年。

中国研究所編『中国年鑑 2004 』創土社、 2004 年。

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