3.
欧米・日本における開発教育の進展
欧米と日本において「開発教育」(持続的開発教育)がいかに定着してきたか、年代別に簡単に整理しておこう。
(1)欧米における開発教育
・1960年代に「新しい教育概念」として使われ始める――オランダ、カナダなどのNGOが開発途上国での活動から帰国し、 草の根活動として始める。
ユニセフ (国連児童基金)、FAO(国連食糧農業機関)、WHO(世界保健機関)などの国際機関も、世論喚起の観点から開発教育の支援を始める。ユネスコ(国連教育科学文化機関)は1974年に「国際理解教育」を発行。
・オランダ:最も早く開始。1960年代前半から。全国20カ所に開発教育センター設置
・英国:1970年代に「ワールド・スタディーズ」として開始。NGOを中心に展開/チャリティとしての海外協力活動から活発化(OXFAM、クリスチャン・エイド、CAFOD等)、国内40カ所に開発教育センター(DEC)を設置
・米国:1970年代に「グローバル教育」として開始
・欧米での開発教育は、@キリスト教系団体・有力NGOによる戦後早くからの開発途上国での活動を支援するための本国での活動として(募金広報の一環としても)始まった。A欧米諸国は、その植民地化政策の結果からも、早くから多民族社会であり、国内問題としても、そうした教育が重要となった。
(2)日本における開発教育
1977年:青年海外協力隊の報告書で「開発教育」の概念紹介
1979年:日本で最初の「開発教育シンポジウム」開催(ユニセフ、国連大学、国連広報センター主催)
1982年:「開発教育協議会」設立(会員制度)
1986年:外務省内(経済協力局)に「開発教育を考える会」設置。報告書をもとに開発教育振興予算を計上。
2002年:外務大臣諮問機関・第2次ODA改革懇談会で「開発人材の発掘・育成」の一環として開発教育の充実を提言(義務教育における開発教育の充実を提言)。
2004年: 「持続可能な開発のための教育の10年推進会議」(ESD−J)設立
(3)日本の開発教育関係機関
日本の開発教育推進機関としては国際協力プラザがある。また促進団体として「開発教育協会」(NPO)などがある。
開発教育の具体的事例としては、@教材の開発・普及、A学校でのカリキュラム、Bスタディツアーの実施、C学習会・報告会、講師派遣、Dフェアトレード、E全国キャンペーンの実施、Fインシデンタルな学習(活動を通じた教育)、Gメディア・リテラシー、H 地域通貨、Iサスティナブルコンシューマー運動(従来のグリーンコンシューマーが環境のみならず、社会問題も入れるという意味でこう呼ばれるようになっている)、J開発途上国との姉妹都市提携(自治体の開発協力)、K市民が行う途上国等の展覧会、ワン・ワールド・ウィーク等々のコミュニティでの催しもの、等々。
(4)日本の開発教育協会の定義
日本で「持続的開発のための教育」にもっとも取り組んできた団体が「開発教育協会」である。同協会の「開発教育」の定義は以下のとおりである。
〇地球市民としての意識を身につける。
〇開発教育は一人ひとりが変わることで社会が変わることを目指す。
○開発教育は、私たち一人ひとりが、開発をめぐるさまざまな問題を理解し、望ましい開発のあり方を考え、公正な地球社会づくりに参加することをねらいとした教育活動です。そのために、開発教育は次のようなことを目指しています。
@多様性の尊重:開発を考えるうえで、人間の尊厳性の尊重を前提とし、世界の文化の多様性を理解すること
A開発問題の現状と原因:地球社会の各地にみられる貧困や南北格差の現状を知り、その原因を理解すること
B地球的諸課題の関連性:開発をめぐる問題と環境破壊などの地球的諸課題との密接な関連を理解すること
C世界と私たちのつながり:世界のつながりの構造を理解し、開発をめぐる問題と私たち自身との深い関わりに気づくこと
D私たちのとりくみ:開発をめぐる問題を克服するための努力や試みを知り、参加できる能力と態度を養うこと
(5)日本政府の定義
ちなみに政府の定義としては以下のものがある。
○ 21世紀に向けてのODA改革懇談会(1998年)
「開発教育とは、貧困・飢餓、環境破壊など国際社会、地球社会の現状を知り、開発・環境・人権・平和をはじめ、さまざまな問題について理解を深め、国際協力、開発援助の重要性についての認識を深めるための教育、また開発途上国と先進国との関係を含め、国際社会の問題の解決に向け、何らかの形で参加する態度や能力を養うことを目的した教育である」