協働のデザイン  第11回 協働のルールづくり 〜すぎなみ『協働ガイドライン』〜  
世古一穂(代表理事)

 先駆的な自治体改革への取組みで知られる東京都杉並区では、今年(平成 16年)6月に「すぎなみ『協働ガイドライン』(2004年版)を策定した。
  同区では平成12年9月に「21世紀ビジョン」(基本構想)を策定、「区民と行政が役割と責任を分かち合うパートナーシップ(協働)」をこれからのまちづくりの基本に据えることを宣言しているが、この「協働ガイドライン」は、「21世紀ビジョン」の実現に向け、その後の取組みを踏まえつつ、区が今後どのような基本方針や手順により「NPO等との協働」を推進していくかを明らかにしたものだ。
  また同区ではこれに先立ち、平成14年3月には、NPO・ボランティアの生き生きとした活動と豊かで多様な協働の推進をめざして「NPO・ボランティア活動及び協働の推進に関する条例」を制定し、協働推進の基本理念等を明らかにしているほか、「杉並区自治基本条例」施行2年目を迎えるなど自治の確立と区民の参加と協働を推進するための様々なルールづくりに先進的に取組んできている。
 本稿ではこの協働ガイドラインの策定に「杉並区NPO等活動推進協議会」の委員として、また、このガイドラインづくりにあたって開催した職員と区民、NPO等との研修の講師として関わった立場から、その策定のプロセスと概要を報告する。

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1. はじめに
  現在、杉並区区内には約140団体のNPO法人が存在しており、市民活動が非常に活発で、自立度の高いNPOも多いのが特徴である。そうした現状をふまえ、区ではこれまでの「NPO等の支援中心」の政策から、「NPO等と行政との対等な協働の推進」に大きくシフトしている。「すぎなみ『協働ガイドライン』( 2004年版)はこうした状況のもとで行政と市民、NPO等との協働で策定された。
 本稿ではこの協働ガイドラインの策定に「杉並区NPO等活動推進協議会」の委員として、また、このガイドラインづくりにあたって開催された職員と区民、NPO等との研修の講師として関わった立場から、その策定のプロセスと概要を報告する。

2.ガイドラインの位置付け
  「21世紀ビジョン」(基本構想)では、「区民と行政が役割と責任を分かち合うパートナーシップ(協働)」をこれからのまちづくりの基本とすることを宣言。つづいて基本構想を実現するため、「地域人材育成・協働システムの構築」など関連する事業を計画化した基本計画を作成した上で、地域人材育成・協働システム構築のためのアクションプラン(具体的な行動計画)「人・まち・夢プラン」を発表。「協働ガイドライン」は、この「人・まち・夢プラン」に掲げた、協働事業を実践・検証していくための区の指針という位置付けである。

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3.すぎなみ『協働ガイドライン』の特徴
  このガイドラインの特徴は大きく7つある。

(1)ガイドラインづくりが行政と市民、NPO等との協働で行われたこと。その策定プロセスにあたって行政職員、市民、NPO等とのワークショップで内容を検討、その協働の成果が生かされたものであること。
 ※ガイドラインのたたき台は「杉並区NPO等活動推進協議会」で検討してきたものであったが、おおむねたたき台ができてきた段階で、筆者が講師を依頼された行政職員、市民、NPO等との協働研修の中で、ワークショップ方式で検討することを提案、実践的な研修テーマとしてガイドラインの検討を行った。その中で検討され、修正、提案されたことがガイドラインにもりこまれ、ブラッシュアップされたたたき台がさらに「杉並区NPO等活動推進協議会」で検討され、庁内の検討、合意を経て『協働ガイドライン』( 2004年版)として発表された。

(2)区独自の協働事業の進め方として@行政側からの提案による協働事業、ANPO等からの提案による協働事業、について具体的な実現にいたるプロセスを示したこと。

(3)NPO等の新しく柔軟な発想を取り入れるための「NPO等からの協働事業提案制度の創設」をしたこと。

(4)NPO等との協働において、双方合意ができる「協定書」を取り交わすことを基本としたこと。

(5)たてわり行政に横串をさして協働に関して一元的な対応ができるように、協働の相談受付及びコーディネートを行う庁内組織である「協働推進チームの設置」を設置したこと。

(6)協働事業提案の企画内容の審査、より質の高い協働を目指した「協働事業の事前・事後評価」を行う「協働推進委員会の設置」をしたこと。

(7)ガイドラインの内容について、NPO等関係者との意見交換を行いながら、当面、各年度版として定期的かつ柔軟に見直していくものとしていること。

 等である。      

4.ガイドラインの概要
(1)ガイドラインの構成
 ガイドラインは「第1章 協働に関する基本的な考え方」、「第2章 協働を推進するための基本方針」、「第3章 区における協働事業の進め方」の3章立てで構成されている。

(2)「 協働ガイドライン」が対象とする「NPO等」
 このガイドラインでは、市民活動との協働を推進する観点から、 特定非営利活動法人 (NPO法人) 及び ボランティア団体、市民活動団体 を対象範囲とした上で、公益法人や企業の社会貢献活動・公益的活動、社会的事業者等との協働については、「NPO等」に準じて進めていくものとしている。

(3)協働の原則の明文化
  『これまでの区の対応においては、「単に相手がNPO等であれば協働」というような誤解や、「行政が協働を主導・管理」するような傾向があったことは否定できず、これでは、NPO等が「行政の下請け化」してしまったり、NPO等の持つ特性が発揮されずに終わってしまうことになりかねません。』との認識を示したうえで 「NPO等との協働を進めるにあたっての基本理念(ルール)」を十分理解することが重要として次の8つの原則を明文化している。

@ 対等の原則 −どちらも主役−
 協働におけるNPO等と行政とは、お互いに上下の関係ではなく、対等の関係を保つよう心がける必要があります。とりわけ行政は、NPO等の支援者としてではなく、NPO等を同じ地域づくりのパートナーとしての意識を強く持つことが大切です。

A 公開の原則 −みんなに見える関係にしよう−
 NPO等と行政は、お互いに説明責任を遂行し、協働についての社会的な理解を得るように努める必要があります。また、NPO等の協働への参画機会を広く確保する観点からも、協働のプロセスや結果等の積極的な公開に努めることが重要です。

B 話し合いの原則 −同じテーブルにつこう−
 NPO等と行政とが、日ごろから話し合いの場を持ち、相互理解を深める中で、協働の可能性の模索や協働事業の場の拡大等が図られます。そのためには、特に行政側からの積極的な話し合いの場の設定や情報の提供が求められます。

C 相互理解の原則 −お互いを理解しよう−
 NPO等と行政は価値観や行動原理が異なるため、お互いの立場や特性を理解し、尊重したうえで、果たすべき役割や責任分担等を明確にして協働の取組みを行っていく必要があります。

D 目的共有の原則 −めざすところは一緒−
 NPO等と行政が、お互いに協働によって達成しようとする目的を共有することで、それぞれが主体的に取り組むべき役割や一体となって行うべき内容等を明確にしつつ、円滑な取組みを進めることが可能となります。

E 自主性尊重の原則 −自分のことは自分で決めよう−
 NPO等との協働を進めるにあたって、行政はNPO等の活動が自主的かつ自己責任のもとで行われていることを理解し、その主体性を尊重しなければなりません。そうすることで、NPO等の特性を生かした柔軟な取組みを実施することができます。

F 自立化尊重の原則 −自分の足で歩こう−
 対等の立場に立つという観点から、NPO等の活動が自立化する方向で協働を進めることが重要です。行政からの支援も、依存や癒着の関係に陥ることなく、NPO等の成長を促す支援策を講じていく必要があります。

G 時限性の原則 −公正で開かれたおつきあいに−
 協働が「馴れ合い」にならないように、NPO等と行政は、常に緊張関係を保ち続けることが大切です。このため、協働事業について一定の時期に客観的に評価し、協働を継続するか否か等を検証していく必要があります。

(4)協働の基本方針
 (3)の協働の原則を前提として協働の基本方針として次の5つを打ち出している。

@ NPO等と行政による「公共サービス」の役割分担を行い、地域の社会的な問題解決能力の向上をめざす
  ⇒ 区は、NPO等と行政との協働を積極的かつ継続的に推進

A NPO等と行政との協働領域を明確にしていく
  ⇒ 区は、すべての事務事業についてNPO等との協働の可能性を具体的に検討

B 区の全庁をあげて協働推進に取組む
  ⇒ 区は、協働推進のための庁内専門チームを整備するとともに、協働に関する職員研修を充実

C 地域で自主的にNPO等の活動が生まれ育つよう支援
  ⇒ 区は、地域人材育成の仕組みづくりのほか、NPO・ボランティア活動推進センターの充実等に取組む

D 区独自の協働推進の仕組みをつくる
  ⇒ 協働事業提案制度を含め、検討段階から評価までの総合的・具体的な区独自の仕組みを創設

(5)協定書の作成
 協働には、「共催、後援」「実行委員会・協議会」「事業協力・協定」「委託、補助」など、さまざまな形態があるが、協働の形態については、最も効率的で効果的な協働となるよう、適切に選択することが必要としたうえで、NPO等との協働においては、双方合意ができる「協定書」を取り交わすことを基本とすることとしている。協定書を結ぶことで協働の様々な形態における各主体間での役割分担を明確にしておくことがねらいである。
 ガイドラインには協定書の雛型も示されている。

(6)協働の評価
 NPO等との協働にふさわしい領域や、協働の形態に合わせた関わり方を明確にしていくとともに、共通の理解を深めていくための具体策として
・毎年度の事務事業評価等を通じて、すべての事務事業についてNPO等と行政との協働の可能性を具体的に検討していくこと
・協働事業の事前・事後評価の実践、検証を行うこと

 としていることは重要なポイントである。

(7)協働推進の仕組み
 ガイドラインでは主として、協働形態が「事業協力・協定」「実行委員会・協議会」「委託」「補助・助成」の場合を想定して行政から提案する協働事業の場合NPOからの協働提案事業の場合、それぞれについての協働のプロセスを次のように具体的に示している。

杉並区における協働事業の進め方 −区独自の協働推進の仕組み−

区所管課における協働事業の検討

NPO等からの協働事業提案制度

(1) 協働事業の検討

・横断的な庁内専門組織「協働推進チーム」を新規設置し、所管課の検討を具体的にフォロー

・NPO等からの提案について、審査のうえ協働事業化する提案制度を新設

(2) 事前評価・審査

・学識経験者やNPO等で構成する「協働推進委員会」を新規に設置

・所管課の協働事業実施案を事前評価。協働相手の選定方法や選定基準等について指導・助言

・提案者からのプレゼンテーション

後、協働事業にふさわしい提案か

否かを審査(3件程度を選定)

(3) 協働相手の選定

・事前評価等を踏まえ、協働の相手方となるNPO等を選定

(4) 事業の具体化

・区所管課とNPO等が協働事業の具体化について協議(「協働推進チーム」のメンバーも参画)
・協議結果により、双方の役割分担に応じて予算措置等を準備
              ↓
         協 働 事 業 の 実 施 

(5) 協働事業の評価

・区所管課とNPO等が協働事業実施中及び実施後に、協働評価を実施

・「協働推進委員会」が総合的な立場から事後評価を実施し公表
              ↓
         よりよい協働事業の展開へ

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