世界の潮流とNGOの動き 第8回
NPOの評価について 〜ヨーロッパにおけるNPOの評価システム〜

長坂寿久(正会員、拓殖大学国際開発学部教授)

NPO法人が多くなるに従い、NPOの評価への関心が高まり始めている。企業については多くの評価機関があるが、NPOにはまだ一つもないからである。NPOの評価情報が求められるのは、企業や個人が寄付をするに足るNPOを選択したい場合に、そうした情報が欲しいからである。また、政府や自治体がNPOとの協働に関心を示してくるに従い、NPOの評価情報が欲しくなっているからである。しかし他方、NPOの評価問題は、評価機関のあり方、評価の仕方など多くの問題点と課題を抱えている。

今回は、ヨーロッパにおけるNPOの評価システムについて報告する。
  

1.NPO評価の必要

NPOの評価」という場合、2つの側面がある。一つは、NPO自身が自ら行う評価である。自分たちの活動の公益への貢献性、有効性、効率性などを評価し、自分たちの組織と活動の改革・向上を目指すのである。NPOは自ら行う内部的評価のあり方について、絶えず強い関心をもってきており、かつそうした自らの評価活動を促進する運動や奨励制度や事例研究も行われている。その優れた報告書の一つに、『NPOと評価――NPOマネジメントの実際――報告書』(評価システム研究会)がある(注1)。

もう一つは、第三者によるNPOの運営の客観的評価を行う仕組みである。企業セクターにおいては、多くの企業評価システム・機関があるように、NPOセクターについても同様に、NPO的な評価システムに沿ったNPO評価が必要という意味である。

この評価の必要性はとくに2つの側面のニーズから起こっている。一つは企業が社会貢献の一環として寄付や協働を企画する場合、あるいはNPOから寄付等の協力要請があった場合、企業はそのNPOがどのような団体なのか、信頼に足る団体なのかを知る必要がある。そのためにNPOの評価機関が必要となっている。これは企業にかかわらず、寄付をしたい個人にとっても同様にそうしたニーズがある。もう一つは、募金を行うNPOにとっても同様のニーズがある。企業や個人が募金(寄付)に応じ、会員になってもらうために、NPOは情報公開を必要としているが、同時に自らの信頼を高めるために第三者の評価機関による評価は大きな意味をもつからである。

例えば、われわれが自宅で募金の戸別訪問を受けた場合、あるいは街頭で募金を要請された場合、その募金団体がしっかりした団体なのかどうか、寄付したお金が正しく使われるのか、あるいは別の良くない目的のために使われるのではないか、などという思いが頭を巡り、寄付を躊躇してしまうことになる。こうした場合、第三者機関によるNPO評価システムがあり、その機関から優秀なNPOという評価を受けていれば、安心して寄付ができるであろう。

さらにNPO評価のニーズは、中央政府や地方自治体にとっても存在する。例えば、ODA(政府開発援助)をNPOに供与する場合、NPOの評価システムが必要となる。また、自治体にとってNPOとの協働を推進していく場合、やはり市民の税金を使うことになるため、「信頼に足る」NPOとの協働が必要となる。

前者の意味でも、後者の意味でも、NPOの評価システムの導入は、日本においてますます重要な課題となっていると思われる。とくに、まだNPOセクターが未発達の日本では、ある特定のNPOが不正を行った場合、現在の評価システムのない状況では、「だからNPOはダメだ」とNPOセクター全体が否定されかねない誤解を受けることになる恐れがある。企業セクターでは、ある特定の企業が不正を行った場合、企業セクター全体が否定されかねない評価を受ける恐れはまったくなく、当該企業が悪いのだと誰もが感じるであろう。
  

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2.NPOの評価団体の国際組織=ICFO

NPO(NGO)の評価機関(団体)の国際的な連合組織としてICFO(募金団体国際委員会=International Committee on Fundraising Organization)がある。ICFOは1958年にオランダ(アムステルダム)で設立されたが、現在の本部(事務局)はドイツ(ベルリン)にある。

設立の目的は3つある。第一は、寄付者に対して信頼感を与えること。つまり、寄付したものが目的通りに使われているということを知らせる(評価する)ためである。第二には、NPOを支援してくれる寄付者に対して透明性と誠実性を与えるため。第三に、NPOの国際基準を形成していくこと、である。

現在の参加国は欧州のオーストリア、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スウェーデン、スイス、英国、そして北米のカナダと米国の10カ国(10団体)である(英国は正式メンバー団体以外に、支援メンバーとしてもう1団体が参加している)。

各国・団体の評価基準は国により異なるが、できるだけ統一していこうという意向にあり、そうした基準を現在開発中である。しかし、社会構造や文化の違いによって評価システムは異なり、あるいは似ている国もある。例えば、オランダとスイスは類似しているが、オランダと英国とはかなり重要な違いがある。オランダでは理事会の構成に血縁者のダブル配置はダメとしている。NPOの不正は意志決定を血縁者内で行われる場合に起きやすいからである。これに対し、英国では貴族社会のため、お金持ちの貴族が自分のNPO(財団)を設立してチャリティ活動している場合が多く、その際に理事会には血縁者が名を連ねている場合が通例となっている。そのためオランダ的評価システムを英国に移植するのは非常に難しいのである。

英国のNPO(チャリティ団体)の評価は、チャリティ・コミッションが行っており、600人ものスタッフによって募金を管理している。また、フランスは大きな50のNPO(NGO)について評価を行っているという。

ICFOの会員国以外にも評価機関はあるようだが、インタビューしたオランダCBFの所長によれば、アジア諸国でも評価機関の設立の動きがあるとのことで、最近は中国からのミッションがオランダのCBFにも訪れているという。しかし、評価機関のない国も多く、インドやオーストラリア、それに日本にはまだない。

オランダには戸別訪問による募金を除き、募金に関する規制はない。NPO評価に関して、民間(NPO)団体としての評価機関は所定の基準を達成しているNPOに対しては申請に基づき「認証マーク(シール)」の使用を認める制度をとっているが、これに対して、最近の募金団体の動きとして、民間の評価機関による認証ではなく、政府の評価機関による認証を求める動きがあるという。政府のお墨付きの方が民間の多様な評価機関による認証より権威があるからということらしい。

オランダにも募金団体の連合組織が設立されており(Vereniging van Fondsenwerverde Instellingen/Union of Fundraising Institution=VFA)、ロビー活動を強めているため、ひょっとすると5〜10年以内には政府の認証制になる可能性もあるという。NPO(NGO)はそもそも政府から独立的であったはずだが、政府からの認証が欲しいという発想はNPOの位置づけの変化を物語るものであるとも思われる。

オランダのVFAは、会員は募金を行っているNPOで、会員団体数は190弱である。これらVFAの会員による募金額は全オランダの募金額の90〜95%を占めている。このため次第に政治力をもち始め、有力のロビー団体となっている。

政府(法律)による認証制の導入についてVFAを訪ねて聞くと、NPO(募金団体)は透明性が必要であり、しかし募金競争が厳しくなると、類似の団体ができて独自の認証マークを出すようになるなど次第にあいまいになり、認証基準が乱れてきたり、NPOによる認証シールなどの意図的な乱用による社会への信頼の喪失の懸念もでてくる恐れもある。そこで、法律によって募金できるNPOの基準を設定し、厳正に審査することによってNPOへの信頼感を持続させるのがいいという意見があるとのことであった。

欧米主要国の評価機関・評価システムの比較については別の機会にしよう。
  

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3.募金方法の最近の傾向

オランダのNPO評価機関や募金団体の連合組織などのインタビュー(2004年8月)において、最近の募金方法の傾向について聞いたところ、オランダでは従来型のダイレクトメール、戸別訪問、そしてテレビ広報が依然活発だが、最近の新しい傾向として二つの指摘があった。興味深いので記しておこう。

一つは遺産寄付である。遺産贈与・相続について、税制との関係などから、遺産をNPOに寄付をするコンサルのビジネスが興隆しているという。もう一つは、路上での寄付の勧誘ではなく、路上での会員への勧誘である。路上での寄付は小口が多く非効率であるため、路上では募金を求めず、会員になってくれるように署名を求める方式が盛んになっているという。勧誘するのは若者で、若者が若者を勧誘する。会員になってもらった方が、路上での小口の瞬間的寄付よりもはるかにより長く毎年寄付を寄せ続けてくれることになるからである。ちなみに、アムステルダムの路上で筆者も若者から声をかけられたが、それは国際的に有名なNGOヘの勧誘であった。このNGOの若者たち(女性と男性)は揃いのロゴのついたシャツを着ていた。

注1:『NPOと評価――NPOマネジメントの実際――報告書』(評価システム研究会)は特定非営利活動法人NPO研修・情報センターが事務局となっているおり、報告書の問合せは同事務局に問い合わせ下さい。
  

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