協働のデザイン 第10回 協働のルールづくり 
世古一穂(代表理事)

行政とNPOの協働が社会的課題となっており、2001年位から主要都府県で協働のルールづくりの検討が行われ、東京都(2002年3月)、神奈川県(2003年3月)、大阪府(2003年3月)、千葉県(2004年2月)など主要都府県で協働の指針、マニュアル等が整備されてきている。都道府県だけでなく、筆者が区長の諮問機関である協働推進協議会および協働事業の評価をおこなう協働推進委員会等の会長等をつとめる東京都杉並区等では協働ガイドライン2004年版(杉並区では、ガイドラインを毎年見直し、改定する方針)がこの6月にできたばかりだ。今号より、協働のルールづくりの前提を確認したうえで、各自治体での先進的な取り組みをみていくこととしたい。今回は横浜市の事例から。

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1.協働のルールづくりの前提として

行政とNPOの協働のルールづくりは今後各地でさらに活発に取り組まれるようになると思うが、行政とNPOの協働のルールづくりを行う上では次の5つを前提として確認しておくことがまず必要だ。

(1)なぜ「協働」が必要なのか、「協働」でなければ解決しない課題なのか、「協働」のための「協働」になっていないかの問い直しの必要
(2)NPOの先駆性、多様性、多元性等その正しい理解に基づく「協働」の方針を定める必要
(3)守備範囲と領域設定、役割分担に基づく「協働」関係の整理の必要
(4)協働のルールづくりの必要
(5)公正に競争できる社会条件整備の必要……規制緩和、税制改革

行政とNPOが「協働」しなければ実現しない課題は何なのか、お互いの守備範囲と領域をきちんと設定し、それぞれの特性と能力に応じた役割分担を前提とした「協働」政策が今ほど必要なときはない。NPOを新しい公共の担い手として位置付けた上で、「協働」を進めることが必要である。

NPOは多様で多元的な価値観をもつものである。NPOのミッション、役割として本来的にアドボカシー(対案の提案)ということがある。行政に物申すこと、対案を提示することもNPOの役割の1つである。協働だからといっていつも仲良くということではない。先駆的、先見的なテーマを持っての活動はときに自治体行政の政策と反することもある。

NPO支援というのならば、行政の現状の政策に反対するNPOも含めて「支援」の枠組みを設定する必要がある。当該行政に都合のいいNPOだけを選んで支援するというわけにはいかない。本来は安易に「支援」という言葉は使えないはずである。支援=(イコール)協働ではない。分権、行革の視点からの協働の領域設定とそれぞれの守備範囲と役割分担の明確化である。担当毎に考えるというのではなく、自治体としての方針とルールづくりが必要ということである。NPOが公正に競争できる社会条件整備が不可欠である。

つまり、規制緩和と税制改革である。まさに「協働は一日にしてならず」である。
             

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2.協働のルールづくり

自治体とNPOの協働を適正にすすめていくためには協働のルールづくりが不可欠だ。NPOとの協働を積極的にすすめていこうする都道府県を中心に、次の'参考資料1'にみるように、協働指針づくり、協働マニュアルづくりがはじまり、市レベルで指針づくりへの取り組みが本格化しているのが昨今の状況だ。
今回は協働のルールづくりに先進的に取り組んできている横浜市の事例をみてみよう。

(1)自治体における協働の指針づくりについて〜横浜市の事例より
1)横浜市の取組のプロセス
指針づくりについては横浜市が先進的な取り組みをしてきている。
横浜市では1996年から3ヵ年をかけて区役所を中心に「パートナーシップ推進モデル事業」を実施し、1999年3月に「横浜市における市民活動との協働に関する基本指針(横浜コード)」が提案され、これを受けて2000年には市民活動推進条例が制定されている。その後、同市では市民活動支援センターを開設するなど市民活動への支援をすすめるとともに、2002年には市民活動共同オフィスを設置、協働の実験・検証がはじまるなど、協働の実践がつみあげられてきている。

横浜コードでは協働をその原則が次のように明文化されている。
(1) 対等の原則(市民活動と行政は対等の立場に立つこと)
(2) 自主性尊重の原則(市民活動が自主的に行われることを尊重すること)
(3) 自立化の原則(市民活動が自立化する方向で協働をすすめること)
(4) 相互理解の原則(市民活動と行政がそれぞれの長所、短所や立場を理解し合うこと)
(5) 目的共有の原則(協働に関して市民活動と行政がその活動の全体または一部について目的を共有すること)
(6) 公開の原則(市民活動と行政の基本的事項と関係が公開されていること)

2004年横浜市では同市でのこれまでの取り組みの成果を活かして、「公的サービスの提供を行う様々な主体が、協働の考え方や進め方などへの理解を深め、共通の認識をもって協働をすすめていくため」に協働推進の基本指針を策定した。

この基本指針は1協働の理念、2協働の土壌を耕す、3協働事業の実施、4具体的施策という構成になっている。また、指針づくりについては「横浜市市民活動推進委員会」(平成16年2月)と「協働のありかた研究会よこはま」(平成16年1月)「コラボレーションフォーラム横浜」参加者アンケート(平成15年11月実施)等の市民参加のプロセスをへて策定されている。その特徴は下記の3点にまとめられている。

(1) 協働を進めるルールづくり
協働をすすめていくため、協働の考え方や推進施策について、市民と行政が共有できるルールとして指針を策定します。

(2) 市民とともにつくる指針
市民活動団体が入居する「市民活動共同オフィス」での協働の実験・検証や活動実践者が参加する研究会(「協働のありかた研究会よこはま」)との意見交換など市民参加により策定します。

(3) 「実効性のある指針」をめざして
理念や原則をふまえて、協働をすすめる具体的な施策を示します。
さらに実験・検証を積み重ねて、「実効性のある指針」としていきます。

「協働推進の基本指針」
http://www.city.yokohama.jp/me/shimin/tishin/npo/sisin1.html

2)そのポイントは
横浜市の指針では協働にふさわしい領域の考え方について、「あらかじめ固定的に考えるものではなく、社会の変化や市民のニーズに合わせて、柔軟に考えていくべきものです。また、協働の場面は、様々な段階があり、行政の関与の仕方や程度も多様です。実験、検証を経ながら、協働にふさわしい領域を考えていく必要があります」と述べ、協働にふさわしい領域の例として下記の4つの領域を例示しているのが特徴的で、各地で協働のルールづくりをしていくときに参考になるポイントだ。

(1) 地域ごとのきめ細かい対応が必要な領域
子育て支援、高齢者介護の支援など

(2) 地域社会との密接な連携が必要な領域
防犯・防災、青少年の問題、ごみの減量化や省エネルギーなどの環境問題など

(3) 専門性の高いサービスが求められる領域
芸術・文化、DV(ドメスティクバイオレンス)問題、人権の擁護など

(4) 合意形成が必要な領域
まちの環境を守るためのまちのルールづくり、地区マスタープランなど

また横浜市では平成14年12月に「横浜市中期政策プラン」を策定し、このプランで、380の全事業を、主体と手法で(1)民間主体型、(2)民間主体協働型、(3)行政主体協働型、(4)行政主体型に分類しているのは、他にない踏み込んだ手法である。
また、これらの領域を担っていく主体については、「地域や課題などに柔軟あるいは専門的に対応できる市民活動やNPO、地域組織および地元企業などが適している」と述べているが、協働領域設定、主体の選定の評価指標、協働領域への市民参加,協働の具体的なしくみづくりが課題であると思う。

次回は筆者が関わっている杉並区の協働ガイドラインについて紹介したい。
      

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