協働コーディネーター養成講座修了者の活躍する現場から シリーズ2 
第1回 日米エコ・コミュニティ・レストラン協働プロジェクト 〜協働を実践する
久保田裕美(特定非営利活動法人NPO研修・情報センターフェロー)

特定非営利活動法人NPO研修・情報センターでは協働コーディネーターを養成する、協働コーディネーター養成講座を開催してきました。その成果として、協働コーディネーターとして各地のまちづくりの現場で活躍している人が増えてきています。ここでは、協働コーディネーターとして活躍している人に現場の取組みを紹介してもらい、講座の成果を紹介していきます。

シリーズ2では、日米のNPOの協働の実践として昨年から始まっている日米エコ・コミュニティ・レストラン協働プロジェクトと、その中での協働コーディネーターの実践を紹介していきます。
  

協働コーディネーター養成講座終了後、2003年から実際に協働コーディネーターとして、日米NPOの協働プロジェクトをつくり、実施してきた経験を述べたいと思う。日米NPOの協働や交流といった場合、米国NPOから学ぼうという趣旨のものが多く見受けられるが、『日米エコ・コミュニティ・レストラン協働プロジェクト』は、日本のNPOから米国のNPOへ情報発信・提案し、日米NPOが互いに学び、Win-Winの関係を築いていくという点がユニークである。実際に米国NPOと協働する中で学んだこと、気付いたこと、今後の課題などについて、これから3回に分けて紹介していきたいと思う。まず、第1回目は、自己紹介を兼ねて、協働に至る経緯と協働プロジェクトの目的をお話する。

1.日米NPOの協働へ
2002年春、私は米国サンフランシスコ州バークレー市にあるエコロジーセンターという環境NPOでインターンとして活動していた。カリフォルニア州サンフランシスコ・ベイエリア地域は、米国でもNPOや草の根活動がもっとも活発な地域である。エコロジーセンターは、カリフォルニア州で最初に新聞紙のリサイクル活動を始めたNPOであり、25年以上の活動の歴史がある地域に根ざした、いわゆる草の根NPOである。リサイクル活動の他にも環境情報雑誌の発行、図書館、環境関連書籍・グッズを取り揃えるインショップ、そして、バークレー・ファーマーズ・マーケットなど、その活動は多岐におよんでいる。
 エコロジーセンターについて詳しくは、http://www.ecologycenter.org/ を参照。

2002年夏、特定非営利活動法人NPO研修・情報センター(以下TRCと略)の推進する「コミュニティ・レストランR(以下コミレスと略)」プロジェクトに、スタッフとして関わるようになる。コミレスについて学ぶにつれ、コミレスをNPOとして起業・運営する必要性、食を通じての顔の見えるネットワーキングのもつ可能性、日本の伝統的文化のもつ持続性をより多くの人に伝えていく必要性を実感してきた。同時にこの頃、協働コーディネーター養成講座を初めて受講し、協働コーディネーターという職能があることを知る。講座を受講するたび、頭の中で理解することと、現実にできる自分の能力とのギャップに苦しんだが、何とか初級クラス、中級クラス、上級クラスまで修了することができた。

2003年春にはTRCフェローと言う立場で協働コーディネーターの実践として、日米NPO協働プロジェクトをコミレスをテーマにして進めること発案し担当する。これまで自分自身が経験してきた個々のNPOとのつながりを、日米NPO間の協働へ発展させるというチャレンジだ。TRCの推進するコミレスは、特定の地域だけでなく、全国各地域でも有用な汎用性のあるプログラムである。つまり、海外でも通用するのではないか。TRCとエコロジーセンターの双方が、互いのノウハウや経験や情報を共有・交換することで、両NPOのキャパシティビルディング(能力強化)を図ることができると考え、TRCからエコロジーセンターに協働プロジェクトを提案し、協働事業へと発展させていくこととなった。
  

2.資金調達

日本側NPOと米国側NPOとの間で、協働プロジェクトに取り組むという合意はできたが、次ぎのハードルは資金調達である。今回資金調達は、日本側が主体となり進めて行った。日本側団体と米国側団体と相談した結果、助成金へ申請することにした。ここでの私の役割は、両団体の連絡調整をはじめ、実施プログラムの企画立案、予算案作成、申請書作成などであった。予算案の作成に関して苦労した点は、本プロジェクトにおける、互いの役割分担を明確にするところだった。

全体での合意はできているが、予算を立てるとなると実施レベルで合意が必須で、そのために何度も米国側との連絡をやり取りしたことが大変であった。言葉の問題ももちろんあるが、会って話をすればすぐ解決することが、時差などの関係でメールでのやり取りが多く、議論がなかなか進展せずにもどかしい思いをしたことが何度もあった。しかし、この段階で各団体の役割分担を明確にしたことで、結果として、後々にプロジェクトをスムーズに実施していくことができた。

ここでの資金調達において、とくにTRCからのサポート(協働コーディネーターとしての研修を現場で受けていたとも言える)を得て、書類を完成させ申請したところ、採択され、実施に至った。

3.日米エコ・コミュニティ・レストラン協働プロジェクトの目的

バークレーは、1970年代のフリースピーチ・ムーブメント(言論自由化運動)の発祥の地であり、カリフォルニア大学バークレー校で知られる学園都市ある。多くの人は、バークレーというと、豊かできれいな街のイメージを思い浮かべるだろう。しかし他方では、低所得者が多くすむ地域には商店が少なく、場所によっては自宅から歩いていける範囲にスーパーがなかったり、スーパーまで行く交通手段(たとえば車を持てるほど家計に余裕がない場合)がなかったりという環境だ。

エコロジーセンターは、バークレー・ファーマーズ・マーケットや、ファームフレッシュ・チョイスというプロジェクトを通じて、地域の人々のフードアクセスを改善してく役割も担っているといえる。とくに、バークレー・ファーマーズ・マーケットは、農産物直売所としての機能の他にも、ファミリーファーム(小規模農家)を支援する機能や、地域に根ざしたコミュニティとして人々が集まる憩いの空間提供の機能を持ち、毎週多くの人が訪れている。

TRCは、1998年から日本国内を中心にコミレスのコンセプトの普及啓発活動、そしてコミレスを起業運営できる人材を養成してきた。今回の日米NPO協働プロジェクトを通じて、日本のコミレスを米国に発信し、地域の問題解決にむけて柔軟に対応できるコミレスの汎用性をさぐる。

このような背景を踏まえて、日米エコ・コミュニティ・レストラン協働プロジェクトは、次の5つの目的を持って実施した。
(1) 日本からはコミュニティ・エンパワーメントとしてのNPOによるエコレス運営のノウハウを、米国からはファーマーズ・マーケットをNPOが運営するノウハウを交換し、互いに学び、日米のNPOが協力して"食を"テーマにしたコミュニティ・エンパワーメントを推進するプログラムを開発する。
(2) 日本からエコ・コミレスの必要性、有効性を米国に提案し、エコ・コミレスのコンセプトの社会化をはかる。
(3) 食を"テーマにしたコミュニティ・エンパワーメントにむけて市民の意識形成や活動づくりにつながる具体的な場としてエコ・コミレスが機能するよう、エコ・コミレスをNPOとして起業運営できる人材の発掘と養成のきっかけづくりをする。
(4) 日米NPO団体の交流を通して、多様な市民の参加とNPOや地域団体(農業、商業等)、行政等とのネットワーキングのきっかけづくりをする。
(5) 日本でエコ・コミレスフォーラムを開催し、本プロジェクトが日米NPO協働モデルとして活用できるよう情報発信し、成果を社会化する。

これらの目標に基づき、2003年に日本と米国にて、「コミュニティ・レストランワークショップ」、日本にて、「エコ・コミュニティ・レストラン公開フォーラム」を実施した。
  

4.協働コーディネーターとしての実践にあたって

実際に協働プロジェクトをつくり、資金を調達し、ネットワークをつくってきた過程の中で、協働コーディネーターとして心がけた点、感じた点をキーワードとしてまとめた。

(1)協働コーディネーターの役割を理解し、実践する
先の資金調達でも触れたが、日米両団体の本プロジェクトにおける役割分担を明確にする上では、協働コーディネーターは相手の要望をどうしたら実現できるかを考えるのではなく、何が必要なのか全体を把握し、提案し説得することが重要であった。たとえば、「どうしますか?」と相手に任せるのではなく、「これとこれとこれの選択肢があるが、どうか?」というように、対等のスタンスで話しをするように心がけた。
(2)これまでの経験や、現在ある資源(リソース)を活かし、個々のつながりからNPO間の協働へ発展させる
 はじめは、日米それぞれの団体に対して、私個人としての関わりだけで終わっていた。協働コーディネーターという職能を知り、自分でやってみようと行動してからは、個人のつながりをきっかけに、「日米エコ・コミュニティ・レストラン協働プロジェクト」へと発展することができた。人と人とのつながりを核にして共感が生まれ、ネットワークが広がっていくのを目の当たりにするのはとても勇気づけられる。大変なことは山ほどあるが、やりがいも大きいものであった。

次回は、「日米エコ・コミュニティ・レストラン協働プロジェクト」で実際に何をしたのか、協働コーディネーターの役割や実践して見えてきた課題について、詳しく述べる。
日米NPO協働プロジェクトについては、TRCブックレット9『NPOで地域を変える「コミュニティ・レストラン」を創る』(特定非営利活動法人NPO研修・情報センター、2004年)の中で詳しく紹介している。興味のある方はぜひお読みいただければ幸いである。
  

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