3.結果はどうだったのか。何が行われなかったのか。
(1)公共交通機関と大気汚染
アテネは公害とラッシュアワー時の激しい交通混雑で知られている都市の一つだ。誘致競争の頃には、ギリシャ政府は2004年のオリンピックまでに、アテネの大気汚染を平均35%削減するとしていた。この点は公共交通機関の改善、地下鉄、市電、郊外電車などの新しい交通機関の導入、燃料品質の向上、効率的な車の開発(バスやトローリーなどの近代化)などの一連の措置によってかなり達成してきたようだ。
アテネ国際空港からアテネ中心部まで乗り入れる交通手段は、これまで車しかなかったが、郊外鉄道と地下鉄の線路をつなぐことによって、鉄道が旅客輸送の新しい大きな柱となった。ただし、新しい交通機関は、7月中旬には一般営業を開始したが、途中の人口密集地アギアパラスケビ駅の工事は止まったままで、駅の工事再開は来年になるということだ。
これら新しい地下鉄や郊外電車の建設・延長や天然ガス燃料使用の公共バスの導入は大きな意味があった。これら公共交通機関の改善に、当局は30億ユーロを投入してきたと語っている。この結果、2004年末には50%の人々がこうした公共交通機関を使用する見込みということだ。アテネ・オリンピックで最大の環境面での改善事項はこの点だとNGOも指摘している。
しかし、こうした公共交通機関の改善にもかかわらず、依然としてアテネは、オゾン、発癌性ベンゼンなどのVOC(揮発性有機化合物類)、主にディーゼル車から排出される有害微粒子類の水準に関しては非常に高く、厳しい状況にある。これは主に自動車の増加と、それにともなう適切な排出規制や非化石燃料などの代替燃料の導入の遅れによるものと指摘されている。
さらに、適切な駐車場の建設の遅れ(とくに駅周辺の駐車場の不足)、都市部での自動車台数の増加、ディーゼル燃料のタクシー(1万4000台)が多いことなどが、依然公害の元凶となリ続けている。
(2)オリンピック村
シドニー・オリンピックではオリンピック村は太陽光発電を中心とする環境のモデル村を造り上げたことで有名となったが、アテネも数年前までは、そうした環境モデル村構想をギリシャ当局は打ち出していた。しかし、全くそうはならなかった。
オリンピック委員会は、当初多くの関係機関から、オリンピック村を環境対応型にするため意見聴取を行っていた。エネルギー効率性技術、再生可能エネルギー(太陽光発電や太陽光温熱化)、毒性のない資材の使用、最良のゴミ処理技術、塩ビの使用削減、エアコンへのフロンの不使用、水の再利用等々、シドニーの時に採用されたこれらの基準が提示され、またこうした技術の採用を勧告する研究報告書も提出されていた。
しかし、こうした意見は一切無視され、代替案も検討されず、オリンピック村は建設されてしまった。ギリシャは世界でも有数の太陽光関連機器産業国であるにもかかわらず、とグリーンピースの報告書は嘆いている。
(3)使用エネルギー
オリンピックに必要とされる電力量のすべては再生可能エネルギーでまかなうと約束していたが、これもまったく果たせなかった。必要電力量は推定では60〜80GWhと見積もられており、そのうち例えば、250〜300MWを風力発電でまかなう計画などが検討されてきた。しかし、「これらすべての検討をギリシャの官僚機構はドブ゙に捨ててしまい、グリーンエネルギー供給の夢を捨て去ってしまった」と、グリーンピースは報告している。
オリンピック開催の1カ月前の7月12日に、アテネを含むギリシャの半分の地域が停電するという事態が起きたのは、まさにクリーンエネルギーの必要性を証明することになったと、同報告書は指摘している。
(4)都市計画と自然保護
多くのプロジェクトについて、自然保護の観点から、地域のNGOや環境NGOたちは強く反対し、提訴したものもある。しかし、裁判ではほとんどが政府側の計画案を承認する判決が下った。
例えば、歴史的地域であるマラソンの丘に隣接する地域でのボートとカヌー競技場の開発計画(2つの大きな池を造る)に対し、NGOたちは周辺の水質や森林の生態系に打撃を与える、ギリシャの大切な環境の破壊に繋がるとして反対し、進展がないため提訴したが、最高裁では政府案の承認を支持する判決が出された。ただし、その際、開発にあたっての規制や条件が付され、NGOのキャンペーンが影響を与えることができたケースともなったが、やはりこの計画の実施は生態系破壊を含め環境に悪い影響を与える結果になったとNGOはみている。
さらに、水質保全、廃棄物処理もとくに評価が低く、会場での廃棄物のリサイクル回収策なども遅れており、ゴミ収集車や職員を増員したりして対策を図ったようだが、付け焼き刃の印象はぬぐえない。
(5)緑化計画
植樹も当初は最低29万本の植樹を計画していた。しかし現実には、競技場整備の遅れが影響し、間に合わせ程度の植樹にとどまっている。オリンピック・スタジアム周辺やマラソンコース沿いには、日陰にもなりそうにないひょろひょろのオリーブの木が列をなしている程度で、マラソンコースわきの木々は散水が十分でなく、すでに枯れているものもあるようだ。「アテネは緑化の機会を失った」と地元メディアも酷評している。