協働のデザイン 第9回 協働のルールづくり 〜自治基本条例を考える
世古一穂(代表理事)

現在、国、自治体を問わず、「行政とNPOの協働」が行政の政策テーマとなり、都道府県市町村、それぞれで行政とNPOの協働のルールづくりが活発に行われている。

筆者も三重県、杉並区(東京都)、つくば市(茨城県)等で行政とNPOの協働のルールづくりのコーディネーター、アドバイザー、講師をつとめている。本号より行政とNPOの協働のルールづくりをめぐる課題と現状について数回にわたってみていくことにしたい。

今回はまず、行政とNPOの協働の前提としての市民参加を保障することを大きな目的とした自治基本条例について取り上げる。

一口に「自治基本条例」といっても、自治基本条例の明確な定義はなく、名称も「まちづくり基本条例」といったものもある。また、内容についてもそれぞれの自治体の置かれている状況、目指す方向性の違いが条例に反映されており、その内容は多様である。

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1.自治基本条例とは

自治基本条例は「自治体の憲法」ともいわれる。まちづくりの基本理念を明文化し、それを具体的に進めるルールを定めたのが、自治基本条例であるといわれる。
(1)個別の条例や計画などの策定指針
(2)自治体の組織・運営に関する基本事項
(3)一貫したまちづくりに必要な,市民の権利と責務 等を明文化したもの
である。
また、その効力は法律の自治的解釈にも及ぶものと考えられている。
北海道ニセコ町が平成13年4月、「ニセコ町まちづくり基本条例」を施行、注目を集めたのを皮切りに、全国の様々な自治体で自治基本条例、まちづくり基本条例が制定・策定されつつある。現在全国十数の自治体で施行されており、策定中の市町村も含めると今後数年間で200〜300の自治体で策定されるとも予想されている。
             

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2.自治基本条例のタイプ

既存の自治基本条例は大きく3つのタイプに分類できる。

(1)最高規範タイプ〜住民自治に関する基本原則的な事項を規定・他の条例に対し最高規範性を持つもの
 ・北海道ニセコ町「ニセコ町まちづくり基本条例」平成13年4月1日施行
 ・兵庫県宝塚市「宝塚市まちづくり基本条例」平成14年4月1日施行
 ・兵庫県伊丹市「伊丹市まちづくり基本条例」平成15年10月1日施行
 ・東京都杉並区「杉並区自治基本条例」平成15年5月1日施行

(2)住民参加条例タイプ〜行政活動への市民参加(参画)に焦点を絞り、自己決定(住民投票等)住民参加の制度などを定めたもの
 ・大阪府箕面市「箕面市市民参加条例」平成9年4月1日施行
 ・長崎県小長井町「小長井町まちづくり町民参加条例」平成12年7月1日施行
 ・兵庫県生野町「まちづくり基本条例」平成14年6月1日施行

(3)理念条例タイプ〜(まちづくりの基本理念や自治体及び市民の権利・責務など抽象的規定を定めたもの、理念的な部分を特化し条例化したもの)
 ・大阪府箕面市「箕面市まちづくり理念条例」平成9年4月1日施行
 ・神奈川県厚木市「厚木市まちづくり理念条例」平成15年10月1日施行
 ・北海道猿払村「猿払村まちづくり理念条例」平成13年4月1日施行
      

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3.各地の条例の特徴

各自治体の条例策定のきっかけは「市民との協働、市民参加」が課題になってきたことである。条例では多くの住民の声を施策に反映させるため、地区懇談会やパブリックコメント、策定委員会へ多くの公募住民を入れるなどの工夫をしているのが特徴である。

(1)北海道ニセコ町 「ニセコ町まちづくり基本条例」
自治基本条例のさきがけとなった北海道ニセコ町では、まちづくり懇談会やまちづくり町民講座などにおける町民議論の中で日常的に住民の声を行政に反映させるしくみ、首長が替わってもこれまでつみあげてきた住民参加の成果をいかしたまちづくりを継続していくためのしくみ、の必要性が議論されてきたことが条例制定の背景となっている。

(2)兵庫県生野町「生野町まちづくり基本条例」
兵庫県生野町では、策定にあたっては平成12年度にまちづくり推進懇話会(32名)を組織し検討を行うとともに、庁内プロジェクトチームを立ち上げ職員による研究がおこなわれている。その上でまちづくり基本条例検討委員会を発足、ワークショップにより住民の意見の集約や合意形成を行い、住民のニーズを取り入れた条例となっている。
「住民参加でつくり上げた総合計画を住民参加で実現していこう」という理念のもとに1997年に発足した「生野塾」が住民参加活動のきっかけになっている。住民参加の理念を担保する「ルール」が必要であるとの結論のもと、まちづくり基本条例策定にとりくみ、全国で3番目に自治基本条例を策定した。

(3)兵庫県宝塚市「宝塚市まちづくり基本条例」
宝塚市ではまちづくり条例検討委員会を設置、委員14名内公募市民4名の構成で条例案を策定、同時並行で行われたまちづくりワークショップ(構成員34名)での課題、解決策、意見の条例への反映などについて検討を重ね、その集約結果を踏まえ条例策定に至っている。
    
(4)兵庫県伊丹市「伊丹市まちづくり基本条例」
伊丹市では市長が3期目の公約で、「市民力を活用しよう」と掲げたことから、それを踏まえ「何か特色のあるものにしたい、市民発の条例をつくろう」ということになったという。「参画・協働によるまちづくりの実現に向けて」を方針として、まちづくり基本条例をつくる会を市民団体15名、公募者15名で組織、コーディネーターを弁護士1名、大学教授2名に託し、30数回の検討を重ね策定に至っている。

(5)神奈川県大和市 「大和市自治基本条例」
神奈川県大和市は「みんなの街づくり条例」(平成11年4月)を策定するなど、市が率先して住民との協働、住民自治の推進、市民主権の自治体運営を目指してきたところに、平成12年11月特例市に移行したのをきっかけに、行政への市民参加の機会づくりや、「新しい公共を創造する市民活動推進条例」(平成14年7月)などの制定による仕組みづくりを積極的に推進してきたという背景がある。その上での自治基本条例の策定であった。
平成14年10月発足した「大和市自治基本条例をつくる会」(以下つくる会)を中心に策定。「つくる会」のメンバーは公募の大学生や会社員OB、主婦ら26名と庁内の関係課からの推薦と公募により選出された市職員の5名、さらに学識経験者の構成である。コーディネーターをおいて議論し、作業していく運営方法を試みている。つくる会会議(全体会議)のほかに、会の運営を企画する「運営委員会」条例素案内容の検討等をリードする「ワーキングチーム」のほか、作業の内容により分かれた「自治会チーム」「ニュースレター編集チーム」など5つの担当チームが会議を重ね、チームごとの学習会も開催、パブリック・インボルブメント活動としての外部との意見交換会の会合は合計150回にも達している。市民が議論を重ね、真の住民自治の実現を目指してい自治基本条例の策定を徹底した住民参加でおこなったのが特徴である。

(6)東京都杉並区 「杉並区自治基本条例」
東京都杉並区では地方分権一括法により、住民の役割、自治体の役割が増大し、住民が区政に参加できるシステム、ルールが必要となってきたとの認識から、住民との協働の仕組みづくりをうたう条例策定に至っている。

(7)東京都多摩市「多摩市自治基本条例」
多摩市では市と市民がパートナーシップ協定を締結し、協定に基づき作業をすすめてきた。市民側は市民ワークショップ(約60名)により、学習会からはじまり、検討会・市民フォーラムを重ね、素案を市へ報告、市長へ提言。策定に当たっては今までの条文例にとらわれず、全てを市民の手で作成したのが大きな特徴だ。職員についても市民側と同時期にプロジェクトチーム(10名)を立ち上げ、検討を重ね議会へ上程している。

「自治体の憲法」といわれ、現在、その策定に多くの自治体が取り組んでいる自治基本条例だが、各地の条例制定の経過等をみてくると、その目的、プロセスを通して広義の市民参加を制度的に保障する条例であるといえる。協働の前提として、市民参加をとらえることができるが、市民参加はあくまでも「行政への市民の参加」であるり、行政とNPOの協働のルールづくりの前提となる条例であるといえよう。
新しい公共の実現のためには、行政とNPOの公共分野における役割分担を具体化するルール、市民セクターへの分権を推進するためのルール、行政とNPOのパートナーシップ形成を担保するルール、行政がNPOと協働する際の庁内の統一的な協働推進のルール、協働の質を評価するルールづくり等が必要である。多くの自治体が現在、熱心に自治基本条例づくりに取り組んでいるが、それは協働のルールづくりの前提であること、自治基本条例づくりが自治体がめざす協働のルールづくりの最終目標ではなく、それがはじまりであることを、行政、市民ともにきちんと確認しておくことが必要だ。協働のルールづくりのプロセスをデザインしておくことが必要といえよう。

参考文献
地方自治職員研修臨時増刊第71等「自治基本条例・参加条例の考え方・つくり方」(公職研、2002年)
つくば市政策課題研究研修報告書「新たなパートナーシップの形」(つくば市、2003年)
北村喜宣「分権改革と条例」(弘文堂、2004年)
高橋秀行「協働型市民立法」(公人社、2002年)
   

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