左遷
今年は長期予報通り暖冬が続き、始めて雪が降ったのは
十一月の末となった。
先週の土曜日に電気カーペットを敷いておいて正解だった。
足元の温もりが、冷めた心をも暖めてくれるようだ。
些細なことなのだが、聖志は安堵感を覚える。
パソコンデスクの前で大きく伸びをし、軽くこめかみを揉み解す。
練り製品のメーカーでは大手に入るが、転勤が多すぎる。
尤も、今回の移動は聖志にとっては、人生の転機の予感がする。
それは、この転勤のきっかけが自分というものを再確認することで
あったからだ。
形式的には移動ではあるが、実際には左遷である。
今回の件が聖志を危険分子とみなしたようだ。
聖志は大阪の関西支社に始まり、札幌支社、愛知支社、博多支社と
それぞれの支社で業績を挙げてきた。
その業績を買われ、東京本社の販売促進課、課長の肩書きを
貰ったのは、三年前である。
転勤が多かったので、妻と今年小学校の三年生になった娘とも
逢う機会が少ない。盆、正月にも帰れない年がある。
年間で三十日ほどしか帰れないので、娘の成長に戸惑ってしまう。
二ヶ月前の販促会議で、聖志はつい大声を出してしまった。
上層部の保守的な考え方は、社の運営を保持できるかもしれないが
業績を伸ばすことは出来ない。それは、聖志に限らず
営業に携わる者なら、誰しも同じ意見に違いない。
にも拘らず、聖志の意見は頭ごなしに却下された。
辞令が出されたのは、その数日後のことである。
「桂木、ちょっと来いよ。耳に入れておきたいことがあるんだ」
赴任する前日、同期入社の間芝が声をかけてきた。
「別れの挨拶なら、女子社員の方を歓迎するんだが?」
「まあいいから来いよ」