高橋青年のステファン・グラッペリ物語

10「グラッペリ家訪問」


1992年8月27日 グラッペリ宅にて

 高橋青年と山口あかねは、約2時間、ステファン・グラッペリ宅で、とても楽しい時間を過ごしました。
 夢の様な時間でした。
 グラッペリ家では、色々なエピソードがありました。

 花柄のシャツ

 グラッペリはいつも花柄のシャツを着ているので、高橋青年はその日、花柄のシャツを着て行きました。
 するとグラッペリは、高橋青年のシャツを見てすぐに「うーん、綺麗なシャツだねぇ!」と言ってほめてくれました。
 よほど花柄が好きなようです。

 松やに

 高橋青年は、グラッペリの愛器「ガダニーニ」を見せてもらいました。
 そのあと、グラッペリに自分の楽器を見てもらいました。
 ところがその時、高橋青年の楽器は、少し松やにで汚れていました。
 それを見たグラッペリは不快な顔をして言いました。
 「バイオリンはいつも綺麗にしておかなくてはダメじゃないか!」
 叱られた高橋青年は、あわてて布で松やにを拭き取りました。
 グラッペリからの最初で最後のレッスンは、「楽器は綺麗にしなさい」という事でした。

 タイガー・ラグの譜面

 グラッペリは引き出しから1枚の譜面を取り出し、高橋青年に手渡しました。
 それは「タイガー・ラグ」という曲の譜面で、2台のバイオリンで演奏するために、グラッペリがアレンジをした物でした。
 そして、「これを弾けるようになったら、また連絡してきなさい。一緒に演奏しよう!」と言ってくれました。
 結局、一緒に演奏する機会はありませんでしたが、その「タイガー・ラグ」の譜面は、今でも高橋青年の宝物です。

 クイズ番組

 みんなで話をしている時、突然、グラッペリが、「あっ、テレビを見なきゃ!」と言って、あるクイズ番組を見始めました。
 それは、グラッペリのお気に入りの番組のようでした。
 グラッペリは番組を見ながら、「こいつは頭がいいんだ!」とか「こいつはバカなんだ!」とか言って、色々と解説をしてくれました。
 そしてしばらくの間、高橋青年と山口あかねは、世界的バイオリニストと一緒に、テレビのクイズ番組を見て過ごしました。
 それはまるで、おじいちゃんの家に遊びに来た孫のようでした。

 再来日

 帰りがけにグラッペリが、「そう言えば、11月に日本に行くよ。」と言いました。
 それを聴いて高橋青年は愕然としました。
 2度目の来日の際、「高齢のために、今後の公演はヨーロッパのみで行う」という発表があったからです。(「初来日」のページ参照)
 高橋青年は心の中で叫びました!
 「あれはガセネタやったんかー!!!」
 「あんたが来れんちゅうからフランスまで来たんやがなぁー!!!」

 そして、帰国が既に決まっていた高橋青年と山口あかねは、グラッペリと日本で再会する事を約束し、モンマルトルのアパルトマンをあとにしたのでした。

つづく

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