因 幡 の 白 兎

大国主の命※1が浜辺を歩いていると、皮を剥がれた兎が道端にうずくまって泣いていた。
「どうしたの?」と大国主の命が尋ねると、兎は泣きながら次の様に話してくれた。

僕は海の向こうの島に住む兎です。前から一度でいいからこっちの本島に来てみたかったのです.。
今日も、ぼんやり海を眺めていたら、鰐の群れが※2僕に「何をしてるのか」と聞きました。その時、良い考えが浮かんだのです。
「ねえ、鰐君達。この島には僕の仲間が沢山居るけど、君達とどっちが多いかくらべっこしないか?」
「よし、いいだろう。でもどうやってくらべるんだ?」
「じゃあ、君達が一列に並んでくれたら、僕がその上を飛びながら数えるよ。」
「判った。」
鰐達が並ぶと、丁度海の向かいの本島に届いた。
「じゃあ、いくよ! 1!2!3!・・・」
僕は、後もう少しで本島に届くという所で、嬉しくなってつい
「しめしめ、もう少しだぞ」
と、口走ってしまいました。その言葉を聞いて、利用されたと判った鰐達は、怒って僕の皮を剥いだんです。
大国主の命は「かわいそうに・・・」といいました。
痛くて痛くて、僕が泣いていると、大勢の神様達が通りかかりました。
大国主の命は「私の兄さん達※3だな・・・」と思いました。
神様達は僕を見て、笑いながら「皮を剥がれた兎だな。良い事を教えてやろう。先ず、海に入って海水で良く体を洗い、
風通しのいい丘の上で、良く風に当たって乾かせば治るぞ。」と言いました。
僕は、ちゃんと言われた通りにしたのですが、そうしたら前よりももっと痛くて痛くて・・・

そこまで言うと、兎はたまらずに「うわあーん」と激しく泣き出しました。
「かわいそうに・・・それじゃあ、余計痛くなるに決まっている。兄さん達はなんてひどい事を教えるんだ。」
大国主の命は、兎をかわいそうに思って本当の治し方を説明しました。
「まず、川に入って真水でよく塩分を落とす事。そしたら川辺に生えている蒲の穂を摘んで地面にひき、その上を寝転ぶといいよ。」
兎が大国主の命に言われた通りにすると、蒲の穂のお陰で新しい産毛が生えてきた。
兎は大喜びで大国主の命に何度もお礼を言いました。そして、「因幡のお姫さまと結ばれるでしょう。」とご神託を告げました。
うさぎは神さまのお使いだったのです。


解説


大国主の命 ※1 日本の国を産んだ「イザナギ・イザナミ」2柱の神様の義理の孫。  
鰐の群れが ※2 この時代の「鰐」とは、鮫だという説もある。
私の兄さん達※3 大国主の命は腹違いの末弟だった為、意地悪な兄さん達にいじめられ、2回も殺されそうになった。