天使が飛び立つ朝

転勤が決まった朝、俺は初めて天使の夢を見た。
それは・・・
あいつが俺の部屋に来ていてほおづえをついてTVを見ている。
その顔ははっきりと覚えている訳ではないほどおぼろげで、でも、確かにあいつという存在に間違いはなくて・・・
するとその華奢な背中から次第に羽が伸びてくる。
白くて大きな羽をひらめかせて、あっ、という間にあいつは天井を突き抜けて空へ舞い上がった。
その時の感情はさながら一人息子に先立たれた時の父親の気持ちに似ている・・・と、俺は思っていた。
何故だか判らない涙が湧き出してきているのが不思議でたまらない。
あいつの姿が見えなくなりそうなその瞬間、あいつが振り向いて微笑んだ。
初めて見て、惹きつけられたあの、そのままの表情で・・・
天使を見送る夢から覚めて、横には3ヶ月振りにあいつの横顔があった。
残酷なほどの無邪気さだけを持った天使が、俺の腕に絡み付くように眠っていた。
冬の、まだ明けきらない朝方、寒さが骨身にしみそうな痩せたあいつの小さな肩は痛々しい程に切なく、
消えてしまいそうに感じた。
あの、夢のように・・・
決して手に入らない、虹の様な存在のもろさこそが、あいつの最大の魅力である事に、その朝俺は気が付いた。いづれは飛び去ってしまう、天使であるなら・・・



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