山吹色の少女
prezented by ayarin
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森の中は春の花で満ち溢れ、こんな陽気の日には執務室に閉じこもっているなんてもったいなく思われる。
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リュミエールは、いつもの様に森の中をふらふらと歩きながら、写生をする場所を探していた。
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…実は、ここの所毎日の様に彼は執務をサボっては森へ来ていた。
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これは彼にしては非常にめづらしい事であり、幸いにして他の守護聖誰もが、リュミエールのそんな行動を執務の一環だと思い込んでい、
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リュミエールとしてはそれにちょっぴり良心の呵責を感じてはいた。
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が、この美しい景色は、次から次へと彼の美的好奇心をくすぐり、描きたい対象物には事欠かない。
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そして、また今日もリュミエールはここに来てしまった。
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−昨日、彼は1日かけて、散り際の桜を描いた−
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「さて、今日は…」
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きょろきょろと辺りを見渡したリュミエールの視界に、ふ、と飛び込んできた花。
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//山吹//
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リュミエールは迷わず、いちばん気に入る角度を見つけて腰を下ろす。
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筆を取り、ふとある事に気が付いて、筆を置く。
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そして、微かな風に花びらを躍らせている、一重の山吹に暫らく視線を定めていた。
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心いっぱいに占めるのは、山吹色のリボンをまとう少女…
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それが何故なのかは判らない。けれどたった今、リュミエールは、山吹の花に感じた美的好奇心をその少女の上にも重ね合わせていた。
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そう。恋は、密やかに突然に…
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即位したての女王陛下の御意志の下、今、聖地では女王試験が執り行われていた。
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女王候補として聖地に召された女の子は2人。
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この2人は中々努力家で、リュミエールの執務室にも良く足を運んでは、育成のお願いをしに来た。
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そう。
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始めのうちは。
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球体だと思われたものに「聖獣」と呼ばれる生命を得た時から、この女王試験は非常に大変なノルマを課せられるようになった。
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2人の女王候補は育成もそこそこに、学芸館で勉強をしたり聖獣に会いに行ったりする日々に追いたてられる様になっていた。
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もちろん育成もしてはいるのだろうが、何故か聖獣は水の力を欲しがらないようで…
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リュミエールは、実は結構寂しい想いをしていたのだ。
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自分は、彼女達の役にはたてない…?
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ここの所のリュミエールの衝動が、写生に繋がっているのだろうか?
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とにかく彼は、毎日の様に絵筆を取った。
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百花繚乱の、春の花の絵がいま、彼の私邸のアトリエに所狭しと並べられている。
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その光景は、言ってしまえばちょっと狂気。
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まるで、アトリエに森が存在するかのように…
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パレットに、基本色を落とす。
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黄色と赤を少し混ぜる。
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そこまでした所で、ふと、思い立ってリュミエールは再び絵筆を置いて立ち上がった。
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そっと、こちらにせり出している1枚の山吹の花びらを手に取る。
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ほんの少し力を込める。たったそれだけの事で、あっけなく花びらは自分の手のひらに落ちる。
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早朝から写生に来ていたというのに、太陽が南の空に輝く頃になって、やっと山吹の花の色が出来た。
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こんなに、こだわって色を作ったのは、もしかして始めての事かもしれない。
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今日は、なんだか変だ。
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下絵に、そっと色を付けていく。
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そうして、夕日がキャンバスに紅い影を落とすまで…
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夢中で描いていたが、ふと気が付くと辺りはもう夕闇に彩られていた。
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結局、今日も丸1日、執務をサボってしまった。
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「…どうかしていますね。」
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ぽつりとそう、呟くと、しかしリュミエールは尚も暫らく目の前のキャンバスに視線を落としていた。
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今日、自分が1日かけて描いた山吹。
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……その筈だった。
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リュミエールがようやくパレットをたたんだ時には、夜空を星が飾っていた。
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描く手を止めた時から、彼はずっと、今日自分が描いた物を不思議な気持ちで眺めていた。
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何故、このような。。。
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ゆっくりと森を立ち去るリュミエールの淡い影が森の木々をざわつかせる。
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心の中に波立つ、何かの所為なのか…
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山吹は静かに、微かな風にそよいでいる。
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「リュミエールさま。水のお力をアルフォンシアにお願いします。」
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アンジェリークが、目の前で恥ずかしそうに俯いている。
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「よろこんで。必ずお贈り致しますよ。」
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静かにそう答える自分の口調が、不思議でたまらない。
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こんなに、鼓動は騒いでいると言うのに。
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アンジェリークは、今しがたのリュミエールの返事を聞いて、ちょっぴり微笑みを浮かべると、恥ずかしそうに執務室から出て行った。
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今日は、執務室に居てよかった。。。
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女王候補が育成のお願いに来た時に、自分が留守では申し訳が立たない。
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珍しく今日は、溜めていた執務を片付けようと宮殿に足を運んだのだが、運良くアンジェリークのお願いを聞く事ができた。
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もしかして?
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リュミエールは、考え込む。
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もしかして、わたくしが毎日森へ赴いていた間に女王候補の2人がお願いに来ていたのでは?
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自分が留守にしていた事で、彼女達の育成に支障をきたしているのでは?
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リュミエールがそんな事を考え始めれば止まらない。
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早速彼は、王立研究院へと向かった。
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「…ここに守護聖さまがみえるなんて、珍しい事です。」
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エルンストが、そう言った事の方がリュミエールにはむしろ不思議であった。
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皆さんは、惑星の様子をみに来られないのでしょうか?
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しかし、気を取り直して奥の部屋に進み入る。
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まず、ルーティスの様子を見ましょう。
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「聖獣」の姿は、流石の守護聖にも見えない。しかし宇宙の様子を見れば判ることだ。
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ルーティスと呼ばれる聖獣の宇宙には、色とりどりの惑星がぱらぱらと散らばっている。
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…安心致しました。どうやら、ゆっくりとですが順調に発展している様ですね。
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では、アルフォンシアの様子を。。。
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アルフォンシアの宇宙にも、ほんの少しではあるが惑星がぽつりぽつりと浮かんでいる。
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水の惑星…
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この宇宙に、唯一ふたつ存在する惑星。
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そうですか…成る程確かに水の力は充分足りている様ですね。
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リュミエールは、思わず笑みをこぼした。
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ふたりの宇宙に、確かに自分のサクリアは染み渡っていた。
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ちゃんと、守護聖としてふたりのお役にたてているのですね。
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両方とも、とても良いバランスを保っている様です。
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ご機嫌で研究院を後にしたリュミエールは、再び自分の執務室へと戻って行った。
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それきり、彼が執務をサボる事はもうなかった。
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随分とゆっくりとしたペースではあったが、ふたりの候補はかわるがわる自分の執務室を訪れては水の力を必要としてくれた。
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時にはお喋りをしていく余裕すら出てきたようで、次第に、私邸のアトリエの扉が開く事もなくなった。
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「アンジェリーク。あなたを愛しています…」
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時は流れて行く。長い女王試験がふたりの心の中に、特別な感情を芽生えさせた。
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試験に慣れて余裕がでたアンジェリークは、事の他リュミエールの執務室に好んでやってきていた。
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2人、談笑で過ごす日々がふたりの遠慮がちな心を結んだ。
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そして、運命の日。リュミエールははじめてアンジェリークを自分の私邸に招待した。
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「リュミエールさまのお描きになった絵が見てみたいです。」
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何気ないアンジェリークのお願いに、本当に久し振りにリュミエールはアトリエの扉を開けた。
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微かに絵の具のかおりがする、その部屋にアンジェリークを連れて入った瞬間。。。
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2人を正面から迎えた、ひとつの絵があった。
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山吹の花びらを手のひらに乗せて微笑む、山吹色のリボンの少女の姿…
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突然に、遥か昔の記憶に出会ったかのような感覚がリュミエールに訪れる。
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そう。恋は密やかに、だけど心の中に咲き乱れて行く。。。
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1000HIT記念 supecial thanksで、彗音さまに「栗アン&リュミエール」のリクエストを戴いて書きました。
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温和ちゃんとリュミエールさまです。如何でしたでしょう。。。?
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