水色の長い髪

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とうとう、日の曜日が明日に迫っていた。
さっきから、わたしのベッドには所狭しと洋服が散乱している。
だって、念願のリュミエール様とのデートなんだもん。一番、可愛い自分を演出したい。
あーでもない、こーでもない・・・
組み合わせを悩んでいるうちに、いつしかとっぷり夜も更けて・・・
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がばっ
身をを起こして猛烈な勢いで時計を見る。
・・・はぁ、
どうやら、目覚ましを止めてしまったのはほんの3分前だったらしい。
一気に目が覚めてしまった私は、身支度を始める。結局、昨夜散々悩んだ洋服は、一夜明けて見てみると気に入らない。
もう一度洋服ダンスを引っ掻き回そうとして、一つのワンピースに目を止めた。

寮の食堂には、飛空都市で働く人達も朝食を食べに来ている。
ロザリアは、ばあやに食事を作ってもらえるから来ないけれど、案外この食堂で人々の噂話を聞くのも楽しい。
飛空都市の人達は、女王陛下に召されてここに来ているだけあって、噂話と言っても話題はわきまえている様だ。
私がここで聞いた話も、マルセル様が公園に新しく植えた花の種類だとか、クラヴィス様の所の新入りの侍女が、3時のおやつにプリンを出してしまった事とか、
微笑ましい話しばかりだった。
不意に、これから会う人の名前が聞こえた気がして、私はパンを食べる手を止めて神経を耳に集中した。
「・・・ほんとに素晴らしいわよね。特に、最近新しい曲をお作りになったみたいよ。」
「へえ・・・作曲もなさるなんて。でも、どんなクラシックでも見事に弾きこなされるんだもの。あ、ちょっと、あなた海洋惑星の出身だったわね。」
「はい。リュミエール様と同じ惑星から来ましたが・・・」
「あなたの惑星はみなさん、あんな風に芸術家ばかりなのかしら?」
「あ・・・確かに盛んには違いないですけれど・・・リュミエール様は特別ですよ。有名ですもの。あの方の作品。」
「やっぱりねー」

・・・そうか。リュミエール様が絵をお書きになる事は、この間執務室にあった絵について質問した時に教えて戴いたけれど。楽器も演奏されるのね。
朝食も早々に済ませ、私は急いで部屋に駆け戻った。あれを、見る為に…

女王候補は、当然守護聖様についても把握をしていなければならない。
飛空都市に来て渡された教本の中に、確か・・・

「あった!」

『守護聖の司どる力について』 
と、書かれた分厚い書物。これは、緑の守護聖がマルセルに訂正された、ごく最近の版だった。
「えーと、水、水の・・・」
当然、私は水色のしおりを愛しい彼の人のことが書かれたページに挟んでいる。

数分後。
「澄み渡る清き流れの中に・・・」
舌を噛んでしまいそうな、代表作のタイトルを何回も繰り返し呟きながら、私は部屋をでた。
この曲はあまりにも有名で、音楽に疎い私でさえ、スモルニーの音楽の時間に鑑賞したことがあったのだ。
 
 

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「お待ちしていましたよ。」
私の大好きな、リュミエール様の笑顔。
自分だけに向けられる、特別に嬉しい笑顔だった。
「はい。おはようございます!」
「さあ。今日はあなたと過ごすお約束をしていましたね。どこか行きたい所はありますか?」
「・・・あの。」
「はい?何でしょう。」
「・・・リュミエール様・・・がお作りになった曲を、お聴かせ下さいませんか?」
リュミエール様は一瞬、驚いた様に私を見つめた。
「・・・ご存知なんですか?わたくしが曲を作ったりすることを・・・」
ご存知、何てものではない。授業で習ったくらいなのだ。しかし、リュミエール自身は全くそんな意識は持っていない。
「では、何をあなたに聴かせましょうか・・・」
思案顔のリュミエール様。この時を待っていた。リュミエール様の喜ぶ顔が見たい・・・
「え、と、あの、私・・・」
きゃっ。リュミエール様がこちらを見ている・・・
「川の流れの様にを・・・」  ※秋元康作詞 見岳章作曲 美空ひばり歌唱
「?」
リュミエール様はぽかんとしている。

「あ」

間違えた!
何だっけ???
あーーーーこんな事なら真面目に授業を受けておけばよかった!!!

「・・・流星の河の様に・・・の、事でしょうか?」

え?そんな曲もあったの?
 
「はい、はい、そ、そ、そうです!」
「この曲は、ここに来てから作った最近の物なのに・・・よくご存知でしたね。」
リュミエールは非常に嬉しそうに、執務室の窓辺に置かれていたハープを手に取った。
「じゃあ、森の湖にでも行きましょうか?」
「はい!」

怪我の功名か。計らずしてリュミエール様の新作を聴ける事になった幸福を噛み締めながら、彼の後に続く。
それにしても大きな背中・・・
長身の守護聖様がたに囲まれている時はそう目立たないが、リュミエール様はかなり背が高い。
細身の体躯が、より一層長身に見せている。
そんな背中を眺めつつ、緊張して三歩後を付いていくが、リュミエール様は私を気遣ってしょっちゅう振り向いてゆっくりと歩いて下さる。

そうこうしている内に、森の湖へ到着した。

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