想い出のアルバム 
presented by ayarin  
 
「よう、彼女。俺とちょっとお茶しないか?」
 
紅い髪の少年が、髪の長い同い年位の綺麗な子に声をかけていた。
 
ここは、とある温暖な気候の惑星。避暑地として周囲の惑星に住む人々がバカンスに訪れる事で有名な所だ。
紅い髪の少年もご多分に漏れず…
軍人の父を持つ彼は、夏になると両親に連れられてあちこちでバカンスを満喫しているのである。
 
声を掛けられた相手は、信じられないものを見るかのような表情で、紅い髪の少年を唖然として見ている。
彼女って…僕の事?
 
「ちょっと、あんた達おっかしーんじゃない?」
 
突然、金髪の少年が横やりをいれた。
紅い髪の少年は、憮然として金髪の少年を睨む。
「なんだ?お前がこの子を狙っていたのかよ。」
 
長い髪の少年も憮然として金髪の少年を睨む。
あんた達、の中に自分も入っている事がどうやら気に入らない様だ。
 
「きゃはは、笑わせるんじゃないよ。あんた、そいつが男だって事判ってやってるの?」
 
「へ?」
 
金髪の少年の台詞に、紅い髪の少年は一瞬言葉を失った。
男?こいつが?
長い髪の少年は、ホッとしたように頷く。
 
紅い髪の少年は、頭を抱えてその場にうずくまってしまった。
なんてこった。この俺が、男をナンパしてしまった…
 
「何だか、こいつそうとうなダメージみたいだよ。てっきりそーゆー趣味なのかと思っていたけど。」
 
金髪の少年は、そう言いながら長い水色の髪の少年に近づいた。
 
「よろしく。僕オリヴィエ。君は?」
 
「リュミエールと言います。」
 
2人は、地面にうずくまる少年を見下ろした。
 
「君は?」
 
オリヴィエがしゃがみ込んで紅い髪の少年の顔を覗き込む。
 
「…オスカー。」
 
かくて3人は、ひょんな事から夏のバカンスを共に過ごすことになった。
 
○月×日 晴れ
 
今日、イカす女の子をナンパした。そのつもりだったのに、世の中、そう上手くはいかないものだって事が判った。がっかりした。
 
○月×日 晴れ
 
今日、突然知らない男の子に声を掛けられて、いきなり変な事を言われた。一体、なんだったんだろう?ちょっとショックだった。
 
○月×日 晴れ
 
今日は、変な趣味の男の子にちょっと注意をしてやった。 
でも…余計なお世話だったかな?
 

 
「気持ちのいい日差しだねー。」
 
両手を空に伸ばし太陽に微笑みかける、心底嬉しそうなオリヴィエ。
3人はお互いに、自分の事は話さなかった。話題はこの星での他愛のない事ばかり。。。
 
「海に行こうぜ。」
 
いつもの公園で落ち合った3人。その日の気分で行き先を決めた。
今日はオスカーが発案者だ。そうと決まれば3人の行動は早い。早速海岸に向かう。
 
「いるいる…」
 
オスカーは着いて早々に顔をほころばせながら浜辺に寝そべる女の子の物色に入る。
 
「…目論見はそれだったんだ。」
 
リュミエールは呆れ顔でそんなオスカーを見た。
 
「よし、リュミエール。お前本当に男なら、可愛い女の子の3人組みに声掛けてこいよ。」
 
「えっ?!」
 
リュミエールは驚いてオスカーを非難の目で見た。
 
「…それが出来ないってなら、お前は女だ。意気地なし。」
 
「!そんな事…。」
 
リュミエールは黙ってしまった。
 
「オスカー、ちょっと言い過ぎなんじゃない?僕が行って来てやるよ。」
 
オリヴィエが足を1歩踏み出したその時、リュミエールはキッと顔を上げてこう言った。
 
「僕、行って来る。」
 
 
明らかに、ナンパなんて生まれてこの方1度もした事がなさそうなリュミエール。
オスカーの軽いカラカイ言葉に、意地になったのか…
それでも心もとなげに浜辺を歩き出したリュミエールの姿に、オスカーもちょっぴり反省した。
リュミエールを止めに行こうとしたオスカーの海パンを、しかしオリヴィエが掴んだ。
 
「面白そうジャン。リュミエールがどうするか、見物してようよ。」
 
 
 
女の子の3人組みは、案外沢山来ており、リュミエールは却って選ぶのに悩んでしまった。
オスカーは可愛い女の子の3人組み、と言った。
彼の好みに合わなかったら、また何をいわれるか判ったもんじゃない。
年下がいいか、同じ位がいいか、おねえさまがいいか。。。
きょろきょろと見回していたリュミエールの頭に、ビーチボールがぶつかった。
 
「あ…」
 
「あー!!ごめんなさーい!!」
 
謝りがら走ってきたのは、自分よりもほんの少し年上と見受けられる女の子。
後ろには連れと思しき2人の女の子の姿も見える。
しかも、3人とも中々可愛かった。
 
リュミエールは、自分の足元に落ちたビーチボールを拾うと、駆けて来た女の子に差し出した。
 
「ありがとう!」
 
笑顔が眩しい。
リュミエールは、心臓が破裂してしまいそうになりながら、思い切って“ナンパ”を試みる事にした。
 
「あの…よかったら一緒に遊びませんか?」
 
言ってしまって、ちょっぴり後悔に心が焼かれる。顔から火が出てしまいそうだ。
しかし、女の子の反応は極めてリュミエールを安堵させるものだった。
 
「いいよ!君、ひとり?」
 
「俺達の連れなんだ。」
 
急に背後でオスカーの声がして、リュミエールはビックリして振り向いた。
オスカーとオリヴィエは、面白半分心配半分でリュミエールの後をつけてきていたのだった。
 
「じゃあ、丁度3対3だね。ビーチバレーしようよ。」
 
「よし!手加減はしないぜ。」
 
嬉しそうなオスカーの後ろでホッと胸を撫で下ろしたリュミエールの肩を、オリヴィエがポンポンと叩いた。
 
 
○月×日 快晴
 
今日、リュミエールをからかった。ナンパなんかした事もなさそうだったのに、案外可愛い子をうまく引っ掛けた。人は見かけに寄らないもんだ。
 
○月×日 快晴
 
今日、生まれて初めて“ナンパ”をしてみた。とっても緊張したけれど、相手が優しい女の子で本当に良かった。
 
○月×日 快晴
 
今日、すんごい面白いものを観察した。運がいい子ってほんとに居るんだって、ちょっと悟ったような気分だった。
 

 
夕日が水平線に消えて行った。
明日には、長かったバカンスも終わりを告げ、少年達もそれぞれ故郷の惑星に戻らなければいけない。
楽しかった、3人で遊ぶ日々も今日がお終い。
 
「…また来年、来れるといいな。」
 
オスカーがぽつんと呟いた。
 
「そうだね。」
 
リュミエールはハープを弾く手を止めて、遠く水平線に揺れる漁り火を見つめた。
寂しげにゆらゆら揺れている漁り火は、今の自分の心境にピタリと合う気がするからだ。
 
「…しけた顔すんなよ、2人ともっ!」
 
バン、バンと、オリヴィエが2人の背中を順番に叩いた。
 
「こんなに楽しかったんだからさ、僕達きっとまた3人で遊べるよ。」
 
オリヴィエは、そう言うと2人の肩に両腕を回して歌い始めた。
この惑星の、童謡だ。
オスカーも、オリヴィエに合わせて歌い出した。
リュミエールも、ハープで伴奏をしながらハーモニーを乗せる。
3人の歌声は、夕闇の夜空に吸い込まれて、いつまでもいつまでも続いていた…
 
お互いの連絡先すら交換する事もなく、3人は別れた。
もし、縁が存在するのなら、きっとどこかで偶然会える。そんな思いを込めて。
 
 
そして3人がずっと後になって、出会えたのかどうかは………
………女王陛下のみが知るところである。
 
 
               END 
 


ファンデラ5月号の扉絵、中堅トリオの少年時代のスリーショットを見た時から、こういう煩悩がかき立てられていたのです。
いつか、少年3人のお話書きたいなっ、と。
なので、あの扉絵の3人の姿をイメージして書きました♪