- -『虚無の主権、金色の手紙』の中で、クリスチャン・ボバンはこう言っています。「我々の中には、愛と孤独の二つが存在している。それらは一つの扉で結ばれた二つの部屋のように行き来自在である」と。あなたを見ていると、この文章はまるであなたが書いたのではないだろうか、と思えてくるのだけれど…。
本当!あなたの言葉にびっくりしています。いつもその2つは切っても切れない関係だと思っているんです。この数カ月来、私の脳裏によぎっていたのはまさにそのことでした。長いこと私は孤独が恐くてしかたなかったわ。だから今、私はたくさんの人に囲まれて生活しているんです。でも、一人でいること、熟慮することの大切さも痛感しているんです。
-この1ヶ月来、あなたはあらゆる雑誌の表紙を飾っていますね。少々出すぎだとは思いませんか?
いいえ、ちっとも。だって私は表紙は見るけど、それが全部私の部屋の壁にピンナップされているわけではないもの。そのことにはあまり重きをおいてはいません。すべては、束の間のことだと思うわ。
-束の間?
この仕事は5分間の幸せと55分間の厄介事から成っているのではないかしら。でも、その5分がとっても充実してるから、あとの55分が我慢できるのだと思うわ。
-栄光は幸せであるために大事な要素だと思いますか。
いいえ、そうは思わないわ。栄光ってちょっと息苦しくて重すぎます。でも、それほど大げさに考える必要もないと思います。栄光はお金のようなもので、それがあれば、ある種の自由が手に入りますから。
-でもその自由には都合の悪い面もありますね。今、ニューヨークで暮らしていて、盗み撮りが恐くありませんか?
時によりますね。もちろん、盗み撮りに気を遣うこともあります。たとえば海岸にいて、日焼けあとがつかないように水着を脱ぐ時とか、思いがけず友だちと街で出会って大喜びする時なんかはね。でもふだんは自分に言っているの。“私は自分で自分を牢獄に閉じ込めるようなことはしないわ。私がしたいことをしていきていくわ”と。
-近頃とても落ち着いて見えるのはなぜ?
落ち着きっていろいろなことが重なって生まれるものなんです。今、私はとても静かな気分。それは今私が幸せだから。私生活でも仕事の面でも。この2つは切り離せないものですよね。
-今恋してますか?
(大笑い)その質問に答える必要はないと思うわ。だからノーコメント。
-「エリザ」出演は、同じタイトルの曲を作り、あなたのアルバムも作ってくれたゲンズブールへのオマージュでもあったのですか。
ゲンズブールの存在はそれ以上でした。毎日の生活の中では、人は慎み深さから、あるいは時間がないこともあって、その人のことが好きだと四六時中口にしていることはできないものでしょ。それにその埋め合わせをする機会があるのだから、その時に埋め合わせをすればいいのだと思うの。私にとってこの映画はゲンズブールを自分の人生の中に生き続けさせる一つの方法なんです。“オマージュを捧げる”なんて言い方はぞっとするわ。それよりも“彼が好き、ありがとう”と、言いたいんです。
-言葉に出して言うことと、沈黙を守ることのどちらのほうが強いと思いますか?
どんな時でも、私たちの内にあるものは、言葉として外に出されたものより強いんです。だから、いつも私は歌を書くときとても苦労するの。歌を書きたいと思うのですが…。頭の中ではとても美しく感動的に思えたことが、五線譜に書かれたとたん、色褪せ、平凡になってしまう。だから、今の私には、作詩作曲した自分の歌を歌う資格がないのではないかと思えてしかたないのです。
-大きくなるのが早すぎたと思いませんか。
それはわかりません。私には、子供であること、大人であること、年寄りであることのあいだにどのような区別があるのかわからないんです。よく人から“年のわりに成熟している。あなたの話し方は30代、40代の人のようだ”などと言われます。でもそんなことはないわ。私は私が生きてきた22歳という年齢で話しているのよ。
-人に操られているという気がしたことはありませんか?
ばかばかしい!年が若いからといって、自分のしたいことがわからないだろう、なんていう理屈はまったくおかしいわ。
-“ヴァネッサ・パラディは40代の男性を虜にする!”とよく言われますが、どう思いますか?
まず第一に、私はそれが事実だと確認していません。第二に人をうんざりさせてしまうより、幸せな気分にさせてあげるほうがいいのではないでしょうか?
-一般的にいって、男の人を好きになる時、その人のどんなところに魅かれますか?
長所と同じくらいその人の欠点に魅かれるわ。こうして欲しいと思う時にまさにそのとおりの行動をとる人と一緒にいても何の驚きもないでしょ?もしかしたら我慢できないタイプの人かもしれないけど、ある時突然、何か素敵なことをしでかす人がいいな、って思うわ。家庭を持っても、子供ができても、そんな新鮮さって必要だと思うんです。
-自分のことを綺麗だと思っていますか?
鏡の前に立つ時、みんなが思うことと同じことを思っているわ。わかるでしょ?人はいつでも、ほかの誰かの美しさを夢見ているものなんだと思うの。街で見かけた美しい人が、一晩泣き明かした翌朝、鏡を割ってしまいたい気分でいるなんてだれも想像できないかもしれないけれど、ね。
-鏡を割ってしまいたいなんて気分になることがあるんですか?
もちろんよ。しょっちゅうだわ。それにとっても恐くなる時があるわ。鏡の前を通り過ぎるとき、鏡に映っているのが見知らぬ人のような気がすることがあるの。中味とまったく似つかわしくない人が映っていることが、ね。もちろん、たまには自分を綺麗だと思うこともあります。でも、それはほとんどの場合、しっかりお化粧した時ですね。
-これまでにたった2本しか映画に出演したことのないあなたの名前が「エリザ」のポスターの一番上にありますね。ジェラール・ドパルデューの上あるのを見てへんな気がしませんか?
(面白がって、でもきっぱりと)いいえ!
-音楽のこと、アルバムのことなどは考えていないんですか?
ええ。今のところ、音楽は私から遠い存在なの
-以前、“この世の終りが来る前に子供が欲しい”と言ってましたね。西暦2000年に実現できそうですか?
2000年?大丈夫だと思うわ
-あなたの以前のボーイフレンド、フロラン・バニーが、あなたとのことをあなたとの別れを歌にしていますが、それをどう思いますか?
答えたくもないわ。
-ほかの雑誌には答えているじゃないですか。
ばかばかしいことよ。
-あなたのアルバムに「人が私をじろじろ見る、人が私にレッテルを貼る、傷付きやすい私は逃げ出すしかないのよ」というのがありましたが、今、まさにそんな状況ではありませんか?
(その歌詩を書いた)ゲンズブールってまさに霊媒師ね!私に言わせれば、傷付きやすくない人は冷たい人か非人間的な人よ。でも“逃げ出す”っていう表現はちょっとオーバーね。
-なぜアメリカへ行ってしまったんですか?
なにか新しいこと、驚き、冒険が必要だったんです。
-満足してますか?
一番満足しているのは自由な気分になれたこと。温かく受け入れてもらえたこと。がっかりしたのはちょっと度を越した歓迎ぶりの背後にみられた偽善ね。
-アメリカで名を挙げたわけですよね…。
そう意図したわけではないわ。私としてみれば、静かに仕事をし、生活するためには、名が知られてないほうが都合よかったんですけど。
-何を学びましたか?
自然体でいること。自分の殻に閉じ籠らないこと。そして特に、微笑むことでしょうか…。
-以前それができなかったのはねぜだと思いますか?
大人になることが恐かったのと、成功がもたらす煩わしさから身を守るためには純真無垢でいるのがいいと考えていたからでしょうね。旅することでそれはなくなったけど、驚くという無邪気な気持ちはちゃんと持っているつもりよ。
-あなたは今22歳で、普通ならまだ大学へ行っている年齢でもあるわけですが、後悔はありませんか?
全然。学校にはあまり縁がありませんでしたね。でも、それで未来の私の子供たちに引け目を感じることはありません。人生勉強は、現場でするのが一番でしょ。
-あなたが以前言っていましたが、この世が“ゴミ箱”のような存在であってもですか?
“ゴミ箱”というのはちょっと言いすぎだったわ(笑)。私の悪い癖なんです。でも幸いにも、意見は変えることができます。
-“ヨーロッパ構想”についてはどういう政治姿勢をとりましたか?
特にあらたまって何も。投票にも行きませんでした。でももし行ったなら、賛成に投じたでしょうね。あくまで、感じですけど!一つのヨーロッパという観念はよくわかります。一軒の家の前にある一つの庭のような…。平和への希望を前提とした、ね。
-最新アルバムで“天国”について歌っていましたが、あなた自身にとっての天国ってどんなところなんですか?
私がいて欲しいと思う人たちがいるところ。時の観念がなくて、何時起きてもよくて、死んだおじいちゃんが生きていて、すべてが喜びのためになされるようなところです。
-喜び?喜びっていったいどんなことですか?具体的に教えてください。
驚き。そして私が持っている夢をほかの人たちと共有できること
-若い頃、“私は将来に対する夢は見ない”と言っていましたね。
変わったんです。今の私の夢は、家族を作ること。結婚をして、そして子供を持つことが夢なんです。人が創り出すことのできるもので、子供よりも美しいものがほかにあるかしら、って思うんです。
-本当ですか?
ええ、これが唯一の望みです。
-でも崇拝者には事欠かないでしょうに…。
あなたが思っているのとは逆よ。私に声をかけてくる男の人なんてそんなにいませんよ。それに何よりまず、私の気に入るのは難しいんですから。私自身でさえ、私をたいして気に入っていないんですから(笑)
-でも結局のところ、すべてがうまくいっていますね。
たぶん、私という人間と、私がうまくいくようにと助けてくれる人たちとのあいだに不思議な一致があるんでしょうね。それは幸運に恵まれた稀な運命のようなものね。でも、正直言って私は自分を特別な人間だと思ったことは一度もありません。
-それでも、あなたは野心家でしょう?
はい。でも出世至上主義者ではありません。
-シャネルの広告に出たのは名誉のためですか、それともお金のため?
どちらでもありません。ただ、冒険心で。私の中にはいろいろな要素があって、洗練された部分があるかと思えばその反対の要素もあるという具合なんですね。シャネルやグード(シャネルのCFをディレクションしたフランス広告業界の鬼才ジャン-ポール・グード)は、私にとっては魔法であって現実ではありません。軽いゲーム感覚で引き受けて、契約の内容を読んだのは引き受けたあとだったわ。ただ、シャネルの5番はマリリン・モンローが大好きだった頃から使っていますけど。彼女にならって、寝る時はそれだけを身につけてます(笑)
-お金はあなたに何をもたらしましたか?
私はどちらかというと浪費家なんです。洋服をたくさん買いますし、人にプレゼントするのも大好きなの。特に妹に、ね。
-妹さんのことはよく話題にしますね。というか家族のことをよく話されますよね。
家族は私のものですから。それに彼らは皆とても才能豊かなんですよ。そして妹には責任を感じているんです。彼女は、私のせいで学校で辛い思いをしてるんです。姉のことを“ばか”とか“身持ちが悪い”などと言われて学校から泣きながら帰って来た時は、本当にショックでした。幸運なことに彼女はとても頭がいいんです。飛び級しているぐらいですから。これから先、彼女にはお説教ではなく、いろいろなことをアドバイスできたらいいなと思っています。
-仲間のミュージシャンたちとお祈りをしているそうですね?
どうして知っているんですか?誰にもしゃべってないのに。
-1人でも祈るそうですね。何を神に願っているんですか?
ありふれたことです。好きな人たちとの、そしてそばにいない人たちの幸せと健康です。
-レニー・クラヴィッツはインタビューの中であなたを変えたことを誇りに思うと言っているようですが…。少しオーバーだとは思いませんか?
彼はそうは言ってないですよ。それに彼は、私とたくさんの仕事をしてきたフランク・ランゴルフに出会ったんです。そして彼ら二人はお互いに認め合った。クラヴィッツが誇りに思っているのは私たちが一緒にした仕事、レコードのことでしょう…。そして私のことも!
-ひっかけ質問。もしどちらか選ばなければならないとして、セックスのない愛と愛のないセックスのどちらを選びますか?
愛のないセックス?私はうわついたタイプではありませんから。そしてセックスのない愛?信じられませんね。愛においてセックスは絶対ですから。どちらにも投票しません。棄権を選びます!(笑)
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