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山陰の某有名旅館

▼読者投稿

(都合により途中から掲載します:作者)

料金は1万5千円位だったが、一応和服姿の仲居さんが部屋で出迎えてくれた。夕食はレストランが混んでいるので7時40分からでいいかというので、OKして待つも時間になっても何の連絡もないのでレストランに出向くと、大体入り口に案内人がいない。ようやく部屋番号を告げて席に案内してもらうと、すでに料理は配膳されていて、周りの席も空いていてとりわけ込み合っている様子はない。

暫く待つも、飲み物の注文を受け来るウエイトレスもいない。ようやく係員を見つけてビールを注文するもどうも様子がおかしい。しばらくビールを飲みながら配膳されていた料理をつついていると、「あら、もう食べているの」と担当の仲居さんが現れた。「あら、もう」もないもんだ。こちらは腹ペコで、夜8時近くまで、待ったんだと少々機嫌斜め。察するにこのレストランはウエイトレスと称する人はいなくて、給仕はすべて部屋つきの仲居さんがするようになっているらしい。要はレストランが込み合っているから遅い時間を指定されたのではなく、あの仲居さんが団体さんの宴会を終わらせてから2ラウンド目に我々の給仕するために遅い時間を指定したということらしい。そのうち周りには誰もいなくなって、どんどん片付けが進む中、我々2人のみがあわただしく食事する羽目になってしまった。最初にビールを頼んで変な顔をしながら運んでくれた人は片付け専門の女性だったらしい。こんなのあり?

料理は早くからテーブルに並んでいたらしく、暖房のせいで、すっかり乾燥して薄く切られたお造りなどは、お皿にくっついた状態になっていた。

帰り際ホテルのアンケート用紙に以上のことを詳細に指摘しておいたが、その後何の連絡もない。和服姿の仲居さんは貴重な存在だか、レストランでの夕食のシステムだけは頂けない。夫婦で旅行するときは仲居さんのサービスをあまり期待するものでもないし、1万5千円ではこんなものかと思ったり、やはりこのような大型ホテルは団体様で行くべきかとあきらめたりの、複雑な心境です。
(男性、60才代)

 

■作者コメント

まずはじめにお断りですが、毎号に記載していますように、このコーナーの対象は「国内外のシティホテル&リゾートホテル」です。言葉通りに解釈すれば「旅館」はここには含まれません。「ホテル」と「旅館」の違いは、本誌上では

 ホテル=洋室を主体とし、ルームチャージ(室料)制を基本とする宿泊施設
 旅館 =和室を主体とし、1泊2食付きを基本とする宿泊施設

としたいと思います。法的にもほぼ同様に決められており、まず異論はないでしょう。国内の多くの有名観光地や温泉地には、名前の上では「ホテル」が付く旅館が多く、紛らわしくお感じの方も多いと思います。例えば、今回の投稿と全く関係のない伊東温泉(静岡)の宿泊施設リストを見ると、ホテルサンハトヤ、パレスホテル、伊東マンダリンホテル、伊東グランドホテル、伊東ホテル聚楽、ホテル暖香園などなど、「ホテルと名の付く旅館」が数多く存在します。他の地区でも同様ですが、これら「旅館」はこのコーナーでは対象外にしたいと思います。

では、なぜこのコーナーで旅館を対象外にするかの理由ですが、大きく3つあります。

まず1つ目に、「ホテル」の場合であれば、シティホテル、ビジネスホテル、リゾートホテルなど、グレード・形態・立地条件などを大まかに区別する言葉が存在しますが、旅館の場合にはそれらに相当する言葉がありません。1泊5万円の高級旅館から8000円くらいの“民宿に毛が生えた程度”の施設まで、それらすべてが「旅館」という1つの言葉でくくられてしまいます。そうなれば対象範囲がたいへん広くなってしまい、話がぼやけてしまうのではないかと思います。

2つ目は、私の個人的な事情です。旅行会社勤務当時の私は「ホテルとはビジネスライクなおつきあい、旅館とは“べったり”のおつきあい」をしてきました。私に限らず、旅行会社に勤めるほとんどの人間がそうだと思います。旅館のスタッフの中で仲良くなるのは営業の方や予約担当の方ですが、困った時に彼らに助けてもらったことや、無理な注文をなんとかしてくれたことなど、今でもその「ご恩」を忘れることはできません。そういう、お世話になった施設のことを悪く書くのはたいへん心苦しいのです。

3つ目の理由は(実はこれが最も大きい理由ですが)、今回の投稿の中によく現れています。この旅館を前提にした話ではなく一般論ですが、この投稿に見られるような、従業員や仲居さんの応対・接客姿勢に関する不満や、料理内容(特に質)に関する不満は、ある意味ではどこの旅館でもおこりうることです。特に、規模の大きい団体向けの旅館を個人で利用する場合、設備面では何でも揃っていて便利な反面、サービス面では必ずしも個人向けになっていないことが多く、細かな部分で不満に思うことがよくあります。旅館としても、決して個人客をおろそかにしているわけではないのですが、多くの客室を手っ取り早く埋めるためにはどうしても団体客に頼らざるをえず、サービスの主体がそちら向きになってしまっているのが現状です。

中でも料理については、限られた予算・人手の中で何百人という大人数の料理をほぼ同時進行で調理するという状況の中では、乾いた刺身、乾いたそば、冷めた天麩羅など、ある意味では当然の結果かも知れません。これらの不満点の改善を旅館に求めれば、ほぼ間違いなく宿泊料金にはね返ってくるでしょう。

似たような不満を感じさせる旅館はひじょうに多く、このコーナーで旅館を対象に含めれば同種の投稿をたくさんいただくことも予想されます。このような類の不満点は、個々の旅館の事情というよりも、日本の多くの(特に団体向けの)旅館そのもののシステム的な問題と考えるほうが自然だと思います。であれば、いただく個々の投稿を旅館の実名をあげて掲載することはあまり意味がないのではないかと考えるのです。

いただいた投稿の中に「1万5千円ではこんなものか」とありますが、少なくとも個人で利用する場合においては、大筋では「その通り」というのが現状です。ただし、これらの旅館を団体(特に会社の旅行など“親睦”を目的とする旅行)で利用すれば、まったく別の感想を持つことになると思います。単に旅館の良い悪いということではなく、利用目的によって旅館の選び方が変わってくる、ということです。

このコーナーで旅館を対象にしない理由は以上の通りです。今後、旅館に関する投稿をいただいても、このコーナーへの掲載は原則として見合わせることにさせていただきます。また、今回の投稿には旅館名が書かれていましたが、それを伏せたのも上に書いた通りの理由です。

今回の投稿に関しては、この旅館にコメントを求めたところ、実に丁重かつ詳細な回答をいただきました。内容についてはふれませんが、充分に誠意を感じるものでした(私に対して誠意を見せても意味はないのですが…)。残念に思うのは、私に対してできたことが、なぜこの投稿者(宿泊時)の「アンケート」に対してできなかったのか、ということです。それができていれば、投稿者の不満の何割かは解消されたのではないかと思います。「返事がない=無視された」と考えるのが利用者の心境でしょう。この旅館の名誉のために言えば、決して悪い旅館ではありません。旅行会社勤務当時には、お客様の予算によってはおすすめしていた旅館のひとつです。それだけに、なおさら残念に思います。

ちなみに、今回のご意見の中に「夕食のシステム」や「レストランの対応」に関する問題がありますが、これについて少しご説明したいと思います。夕食については、自分の部屋で食べたいという方が多いと思いますが、コスト・人手・手間などの理由でレストラン(または宴会場)で提供する旅館は少なくありません。ここでいうレストランは、ホテルのレストランとはその仕組み自体が異なります。(旅館によって「お食事処」「料理茶屋」など名称はさまざまですが、基本的には同じです。)一般的には、宿泊客以外の利用はできず、メニューも宿泊料金に応じたものが自動的に提供され、その場で決めるというものではありません。追加料理などを除けば、メニューそのものがないと言えるかもしれません。席への案内や飲み物の注文、料理の上げ下げなど、基本的には「部屋の仲居さん」が担当するケースがほとんどです。今回のように「入り口に案内人がいない」「飲み物の注文を受けに来るウエイトレスもいない」ことのほうが多いと言えます。「レストラン」という呼び名を使うことが誤解を生む原因のひとつでもありますが、私たち「利用者」としても知っておきたいことです。今回の場合は、本来の担当であるはずの仲居さんがその役目を果たしておらず、指定の時間に案内もなく、あとからやって来た上に「あら、もう食べているの」と言われれば、ご立腹も当然でしょう。

 

*このページの内容はメールマガジン No.061(1999.08.24発行) に掲載したものです。

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