鬼哭街
(ニトロプラス)


<ストーリー>

舞台は近未来の上海。
21世紀初頭におけるサイバネティクス技術の実用化により、
人は、肉体を機械化することによって、いとも簡単に超人的な身体機能を身につけられるようになった。
そんなテクノロジーの爛熟は人心の退廃を招き、凶悪なサイボーグ達による犯罪が多発する結果を招いた。

今や犯罪結社・青雲幇の牛耳る魔都と化した上海に、ひとりの男が訪れる。
男の名は孔濤羅(コン・タオロー)。
かつては青雲幇の凶手(暗殺者)であり、生身の体でサイボーグと渡り合える武術「電磁発勁」の使い手である。
仲間の裏切りによって死線をさまよい、最愛の妹まで殺された彼は、復讐の剣を手に舞い戻る。
仇は5人。
いずれ劣らぬ強大なサイボーグ武芸者達を、一人また一人と血祭りにあげながら、
孤高の剣鬼は魔都の闇を駆け抜ける…。


なんか18禁モノのレビューが増えてきた「サウンドノベルの鉄人」。
これではまるで私がエロゲ好きであるかのように思われてしまいそうで心配です。
その通りだから反論のしようもありませんが。
あくまでストーリーを気に入った作品だけですよ、買ってるのは(←見苦しい言い訳)。

 

 

 

さて、この作品、始めに明言しておきますが、
選択肢は一切ありません。
戦闘モードとかも一切ありません。
本当に最初から最後まで文章&静止画を眺めるだけです、やることは。
完全にストーリーを楽しむためだけに徹した内容になっています。
これをどう思うかは個人の自由ですが、まぁパッケージにも
「新感覚!分岐は一切なし、ネタバレ御法度!
純粋に物語だけを楽しむ、ストーリーノベル」
と明記してあることですし、私は別に気になりません。
巷にあふれる、一見マルチシナリオに見せかけて実際は無意味な選択肢をばらまいただけの
一本道シナリオな内容の作品に比べれば、はるかに良心的で楽しめる内容だと思います。

 

 

 

「純粋に物語だけを楽しむ」と銘打っているだけあって、
この作品、舞台設定と人物設定が非常にしっかりとしています。
爛熟したテクノロジーと環境破壊に見舞われた退廃した近未来都市…ってのはよくある設定ですが、
サイバネティクス技術と中国武術の融合ってのは、
けっこう斬新な設定なのではないでしょうか。
もっとも、私はあまり近未来ものの映画や漫画が好きではないので、
今まで単に知らなかっただけなのかもしれませんが。
サイバネティクス技術を積極的に取り入れて発展した外家拳(肉体を直接鍛えることに主眼を置く武術)と
それに対抗するため対サイボーグ気功術「電磁発勁」を生み出した内家拳(体内の「氣」を練ることに主眼を置く武術)と
いう設定は、「拳児」などの武術漫画が好きな私としては「なるほどなあ」と思わされました。
そして、そうした設定にふさわしく、戦闘シーンも静止画のみなのにもかかわらず非常に迫力がありました。
中でも、「網絡蟲毒」こと呉榮成(ン・ウィンシン)との市街戦は、非常に見ごたえがあったと思います。

 

 

 

しかし、やはり気になった点はいくつかあります。
まず第一に、ラスボス的存在である劉豪軍(リュウ・ホージュン)が、
親友であった孔濤羅を裏切った理由がいまひとつ説得力に欠けること。
まぁ確かに「恋は盲目」って言えばそれまでですが、これほど綿密な舞台設定と人物設定をしておきながら、
ストーリーの根っこが単なる「男女関係のもつれ」ってのは正直がっかりしました。
どうせならもっと他の要因(組織内の内紛とか、他組織との抗争とか)も複合させた方が、
劉があのような行動に出た理由に多少なりとも説得力が生まれたのではないでしょうか。
そして第二に、もう少し演出効果を使って欲しかった、ということ。
これは別にフルアニメーションとか派手なムービーを見せろ、という意味ではなくて、
酸性雨が降っているシーンで実際に雨を降らせるとか、
戦闘シーンで閃光を発したり画面を揺らしたりする効果を使うとか、
テキストのフォントや文字の大きさを変えることで感情表現をしたり…といった、
ほんの少しの演出効果を使って欲しかった、ということです。
今時、フリーソフトで作成したサウンドノベルでもこの程度の演出効果は可能なのですから、
たいした労力は必要としないと思うのですが。
そうしていれば、もっと素晴らしい内容に仕上がっていたのではないでしょうか。

 

 

 

いずれにせよ、こういう作品を見ると、エロゲも進歩したな、と思います。
18禁ゆえの表現に対する規制の少なさを最大限活用して、
このような内容の作品を作れるのが、エロゲの強みですからね。
もっとも、このレビューを見て、
この作品が18禁だと思う人はいないと思いますが(笑)。


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