夢の中のエアリス


「エアリスなら、きっとハッキリ言うんだろうな……」
「そんな事ないわよ、ティファ」
「えっ? エアリス? ここは……」
「ごめんね、ティファ。私、あなたの夢の中へ入ってきちゃった」
 夢の中のエアリスの影は薄くぼんやりとしていた。儚く消えてしまいそうな……。
「エアリス、どうしてここに?」
「あなたが、クラウドのことで悩んでいるからよ」
 だって仕方がないじゃない? あなたはクラウドの中へとどんどん入って行けるけれども私は……。
「だって私はクラウドとは幼馴染よ。クラウドだって私がそんなふうに思っているなんて想像もつかないでしょうし……。タイミングが難しいのよ。その点あなたは……」
 そう、エアリスは可愛いし、女の子らしいし、真っ直ぐだし…。あぁ羨ましいな。
「私なんてティファがクラウドと幼馴染っていうだけで、嫉妬しちゃうわ。だって幼い頃のクラウドの事、ティファが一番よく知っているんだもん。私だってクラウドの事もっともっと知りたいわ。でもクールな目をしているクラウドの前に出ると私だってもう心臓がドキドキして張り裂けそうなのよ、何も聞けやしないんだから」
「でもあっさりとデートに誘ったりできるじゃない?」
「言い出す前は不安で仕方がなかったのよ。でもね、ダメだったとしても言わなきゃ始まらないじゃない? 言わなきゃ相手の気持ちなんてわかんないわ。だって私クラウドのこと好きだもん。好きだからこそ、怖いけれど……怖いけれど、言わなきゃいられない……だって、今言わないと後で絶対後悔するわ…きっと」
「エアリス……」
 あなたって本当に素直なのね。それにこんなにもか細いのに意志が強くて…、それでいて男の子から見ると守ってあげたくなるような女の子なんだわ。やはりライバルがエアリスじゃかなわないわね。だってクラウドも近頃エアリスを見る目が違うような気がするもの……。
「クラウドはきっと、これから先ずっと、あなたが必要よ。本当のクラウドを理解できるのはティファ、あなたしかいないわ!」
「エアリス…。だってクラウドはあなたの事を……」
 あなたの事を好きなのよ! 私は最後まで言えなかったわ。だってエアリスの前で泣いてしまいそうなんだもん。あぁ……私だってクラウドの事……ダメだわ…涙が出てきちゃった。私って泣いたりしない女の子だと思われているのに。
「私はクラウドに会えただけでも幸せ…まして、ゴールドソーサーでのゴンドラに乗った夜、デートできただけで幸せだったのよ」
「し…幸せだったって……。ごめんね、私が泣き出したからって、遠慮しないで……」
「そうじゃないの。私ね、これからセフィロスがメテオを使うのを防ぎに行くわ。セトラの生き残りの私にしかできない……そうきっと、何かを感じるの……。こんな私でも役に立つ事があるの!! 大事なクラウドやあなたや、みんな、そしてこの美しい星の人達……そんな人たちの為にも私行かなきゃ」
「行かなきゃって……。エアリス、ダメよ! 一人で行っちゃダメ! セフィロスは危険だわ」
「私にしかできないことなの……。ティファ……クラウドにちゃんと気持ちを伝えるのよ。クラウドだってあなたのこと大切に思っているわ……。ティファ……ごめんね、辛い思いさせちゃって。それなのに、こんなに仲良くしてくれてありがとう…ありがとう! あなたとお友達になれて嬉しかったのよ。また会えたらその時もずっとお友達でいてね」
「エアリス! エアリス! ダメ、ダメよ! 一人で行っちゃダメ!」
 エアリスの深いエメラルド色の瞳は私の目をずっと離さなかった。
 微かに微笑むエアリス……。彼女の影はどんどん薄くなっていく……。
 待ってエアリス! あぁ、クラウド! エアリスを止めて! エアリス、お願い行かないで!!

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「気にしない方がいいよ」
「誰だ?」
「クラウドわかる? エアリスよ」
「エアリス?」
「ごめんね、あなたがセフィロスに黒マテリアを渡してしまったことあんまり気にしていたから、あなたの夢の中へ入ってきちゃったの」
「……気にしないなんてそんなのムリだよ」
「そっか…。じゃ、思いっきり気にしちゃえば? …セイロスのこと私にまかせて。クラウドは自分の事だけを…自分が壊れてしまわないように考えて…。そして……ティファのことも」
 エアリス何を言ってるんだ?
「ティファ?」
「大丈夫、さっきティファの夢の中にもお邪魔しちゃったから。彼女ならクラウドのことちゃんと理解してくれるわ……。だからちゃんとティファを大事にするのよ! あ、私もうそろそろ行かなくちゃ」
「行くってどこに行くんだ?」
「セフィロスのところよ。セトラの生き残りの私にしか出来ない何かを感じるの……。だから、ね、私にまかせて」
 エアリス…何を言ってるんだ? いったい何を…? エアリス? エアリスが薄れていく。そんな深く碧い目で俺のことを見ないでくれ。
「エアリス、行くな! 俺が…俺が……。俺は…ボディーガードだろ?」
 エアリスは鈴のように笑い出した。
「ふふ、2度目にあった時、私の家までの道のり、ボディーガード引き受けてくれたね」
「…そ、それは、女の子一人じゃ危ないからだ」
 俺何を言っているんだ? そんな事じゃない、今言いたいのは…。
「ありがとう、クラウド。私、私ね、初めて会った時、あの人と似ていると思ったけれど、今は違う…。私、クラウドが好き。本当のあなたに会えなかったのは残念だけど…きっとあなたは変わらないわ…」
「エアリス、本当の俺って何だ! この前もそんな事を」
「もう時間がないの! ティファならあなたを探し出せるわ! 悔しいけれど、私には出来なかったみたい。でも私嬉しかった! あの夜あなたとデートできて…花火きれいだったね! 私忘れないよ…ずっと…。もし会えたら、またデートしてね」
「エアリス! 待て! 一人で行くな…。エアリス!」
 エアリス! 俺が…俺が守ってやるから、一人で行かないでくれ!!

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「エアリスがいなくなってしまう。エアリスは、もうしゃべらない。もう……笑わない。泣かない……怒らない……」



 俺達の私達のエアリス…………。



 エアリスの瞳の色にも似た、碧色をした水の中でゆらゆらと揺れる流麗な金色の髪……。
 静かに目を閉じて…静かに……。この美しい星を守るために……。

Fin

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