流れ星。人は皆、その星に願いを託す。人はそれに何を見出だし、何を得るのか。またそれは、何処から生まれ何処へ行くのか。幾重にも重なる宇宙の歴史の中で、一体いくつの星が生まれ、消えていったのか。疑問は尽きない。
そして、多くの人々がその一つの星に思いを馳せる。星は、そんな人全ての思いを載せ、また何処かへと流れて、消えていく。
クラウドは、悩んでいた。仲間を一度故郷へ返したのは果たして間違いではなかったか。家族や友人と会えば感傷的にもなるし、己の命も惜しくなる。最終決戦を控えた今、それはまずくないか。もしかすると、もう誰も戻ってこないんじゃないか。
そんな不安が、彼の胸中には確かにあった。
「みんな、戻ってくるよね?」
「大丈夫。もし戻って来なくても、オレがみんなの分まで賑やかにしてやるさ。」
横にいるティファに対してだけは、虚勢を張った。
がらんとした飛空艇は、さながら主を失った邸のごとく、静かに沈黙を保っていた。その中にティファと2人でいる。
「静かだね・・・・」
「ああ・・・・」
その静かさと呼応するように、2人の間にも少しずつ沈黙が流れる。無機質な金属の塊の中で、今2人だけの時間がゆっくりと流れ始めた。
(久し振りだな・・・・。ゆっくり出来るのは。)
エアリスの死からがむしゃらにセフィロスを目指してきたクラウドには、久々にゆっくり出来る時間だった。心無しか、まだ体が少し重い。ライフストリームの中にどっぷりと浸かった反動は、どうもそうやすやすとは体から抜けてはくれないらしい。
「なあ、ティファ。」
「何?」
「久し振りだな。こうやっているのも。」
クラウドはこんな話を自分から振っていることが不可解でならなかった。いつもなら、ティファから話し始めるのが普通である。これも素のクラウドに戻った影響かと思うと、少し可笑しくもあった。
「給水塔以来ね。」
ティファは白い歯を少し見せて微笑んだ。
「ああ・・・・。約束・・・・守れなかったな。」
クラウドがやや自嘲気味にそう言うと、ティファは大きくかぶりを振った。
「前にも言ったじゃない!私をセフィロスから守ってくれたんだから、立派に約束守ってくれたって!」
「そうだったな。」
クラウドがそう言って微笑んだのを見て、ティファは安堵したようにまた微笑んだ。
こんなやりとりがあって、2人の間にはまた沈黙が訪れた。クラウドは、セフィロスとエアリスのことを考えていた。それ
だけではない。白マテリアのことやメテオのこと、果ては故郷に帰った仲間のことまでありとあらゆる考えが頭を巡った。
横にいるティファは、いつの間にか眠ってしまっている。クラウドがちらりと顔を横に向けると、微かな寝息を漏らす艶めかしい唇が目に入った。彼の中で、何かが疼いた。だが、すぐにそれを打ち消し、自分も目をつむる。セフィロスの呪縛から解放されて、こんな感情が湧いてくる自分が、少し怖くもあった。
2人は肩を寄せ合いながら、いつの間にか深く寝入ってしまったらしい。目を覚ますと、完全に夜が更けきっていた。
「暗いね、夜。」
コックピットから空を見上げたティファがそう言った。
「何かさ、全部飲み込んじゃいそうだよね。」
彼女の言葉が何を暗示しているのかはクラウドにはすぐ分かったが、しかし言わなかった。
「外、出よっか。」
2人は飛空艇から出た。初夏の夜風が顔に心地好い。まだ空は真っ暗のままである。が、実際はそれ程暗くない。月明かりならぬ、星の明かりが、地上には降り注いでいた。
「結構、明るいね。」
ティファは剥き出しの岩の上に腰掛けた。クラウドも横に座った。まだ、2人だけの時間は続いている。
「ねえ、クラウド。」
「ん?」
「給水塔のさ、流れ星覚えてる?」
クラウドは記憶の糸を手繰った。
「ああ・・・・。」
「あの時、どんなこと願った?あの時はお互いに内緒にしてたけど、そろそろ言わない?」
クラウドは更に記憶の糸を手繰った。流れ星に願ったこと。
「・・・・もちろん、ソルジャーになれるように、さ。」
「ふ〜ん。じゃあ、私と一緒か。私も、クラウドの夢が叶うようにって。」
それきり、また黙ってしまった。しかし、その沈黙は先程までの空気と違い、どことなくぎこちなさがある。
「ごめん。ウソつくのやめた。」
不意にティファが言った。
「私ね、本当はクラウドにミッドガルになんて、行って欲しくなかった。だから、願ったの。ずっと一緒にいられるようにって。」
「・・・・オレも同じさ。」
少し間を置いて、クラウドも言った。
「都会が、ミッドガルが、怖かった。初めてティファと2人きりになれたし、離れたくないと思った。だから、願ったさ。ティファが引き止めてくれないかなって。」
だが、引き止められなかった。そして彼は、ソルジャーを目指す道へと進んだ。
「そうだったの・・・・。」
「ああ・・・・。」
2人は、互いに顔を見合わせて、少し笑った。深いところで自分たちの意志が繋がっていたことが、少し可笑しくもあった。
2人だけの時間は、次第に終わりへと集束し始めた。すべてを飲み込んでしまいそうな闇が、少しずつ光に食われていく。
「夜明けだ・・・・。みんな、来なかったね。」
ティファが流石に失望の色を隠せず言った。
「大丈夫。オレがみんなの分まで・・・・」
クラウドは途中で言葉を区切った。いや、区切られたという方が正しいのか。ティファの目に涙を浮かべて自分の顔を見つめる表情に、息を呑んだ。
「クラウド、わたし・・・・」
「ティファ!」
クラウドは、鍛え込まれた腕と反比例するかのごとき華奢な肩を抱き、乾いた芝生の上に押し倒した。動き始めようとしていた時は、また、止まった。日の光に食われ始めた淡い星の光だけが、その情事を静かに見つめていた。
「クラウド。見て、流れ星!」
白さを増し始めた空に、最後の流れ星が光った。
「ねえ、今、何願った?」
ティファの問いに、クラウドは笑って答えた。
「同じだよ、ティファと。さあ、飛空艇に戻ろう。」
「分かった。でも、もう少しだけこのままでいさせて。もう少しだけ・・・・。」