CRIDE&SHADOW;


その1


「ハッハッハァ!笑いが止まんねえぜ!!な、クライド。」
深夜3時、閑静な村の一角でこうこうと明かりの灯っている小屋がある。その家には人影が2つ。
「静かにしろよ、ビリー。何時だと思ってる。」
1人の男がたしなめたのだが、構わずに続けた。
「これが静かにしていられるかよ!!30万ギルだぜ、30万。」
「はした金さ。」
クライドと呼ばれた男は手に持っているカップを投げ捨てた。ガシャンと音を立てて、カップは粉々に砕けた。
「オレ達にとっては大した金じゃない。」
「ちっ、相変わらず金には淡白な奴だぜ。まあそのおかげでオレが自由に使えるんだけどな。」
騒々しい方の男は眼に眼帯をしている。ただの趣味らしい。ボサボサの髪に汚い服、どう大目に見ても上流階級の人間は見えない。かたや物静かな男の方は対照的に、整った髪に均整のとれた顔立ち、おまけに膝下まではあろうかという長マント。明らかに上流階級の人間に見えた。
「しかしよう、クライド。おめえは本当に金使わねえなあ。」
そうなのである。2人で「一仕事」終えて、どれだけの稼ぎがあっても
「オレの分。」
と言って1万ギルばかし取るだけで、残りは全て相棒ビリーにあげてしまう。
「必要ないのさ。オレに必要なのは適度なカネと刺激・・・・。」
「分かんねえヤツだな、おめえはよ。ん?夜が明けてきたな・・・・。とっとと寝ようぜ。」
彼らは朝寝て夜働く。彼らの名は列車強盗団シャドウ。この2人の名は既に世界全土に知れており、政府は2人の首に合計400万ギル(ビリー150万、クライド250万)の賞金をかけていた。。

 


その2


2人の出会いは2年半程前であった。カーウェンという帝国首都ベクタの北東に位置していた小さな山村である。
帝国の領土拡大政策の為に今は無い。この村で、ビリーは喧嘩をやらかした。7対1という圧倒的不利な状況であったが、ビリーはなかなか強い。あっという間に3人倒したのだが、これがまずかった。残った4人がナイフを抜いた。本気になったのである。ビリーが
(やばい!!)
と思った瞬間にはもう遅かった。1人の男の足払いを喰って横倒しになってしまった。
「死ねやァ!!」
4人のナイフがビリーを捕らえた刹那!4人の男は倒れた。その後ろにはクライドが立っていた。
しかし、クライドは助けたビリーに「大丈夫か?」などとは言わず、
「自分の力ひけらかすヤツは早死にするぞ・・・・。」
と言い放った。
「何だとぉ!?」
ビリーはそう言うなり殴りかかった。こういう性格の男なのだ。命を助けてもらったことなどは既に頭から消えている。
そのビリーに対して、クライドは短刀をビリーの額につきつけた。無論、ビリーは動けない。
「これでお前は今日2度死んでいる・・・・。命が惜しければとっとと消えるんだな。」
ビリーはその場にへたりこんだ。恐怖ではない、この男に惚れたのである。
「あんた、名前は?」
ビリーが尋ねても、クライドは完全に無視している。
「まあ、名前なんかはいいさ。オレはビリーだ。それよりアンタ、この話聞いてくれないか?あ〜、聞くだけでいい。返事は要らねぇ。オレは今人手を捜している。この世に生まれたからには、オレも名を残したい。が、学はねぇしカネもねぇ。殺し合いとかもまっぴらだ。そこでオレが考えたのは、泥棒だ。それもせせこましい泥棒じゃなくて、世紀の大泥棒!カネも手に入るし、いいことだらけだ。だが、それには仲間がいる。かといって、今までオレが会ったヤツの中にはオレの命を預けられるようなヤツはいなかった。でも、アンタは違う。アンタにならこんな命預けても惜しくねぇ。だからさ、一緒にやろうぜ、な。」
クライドはふと足を止めた。睨み付けるような目付きをしている。
「泥棒か・・・・。いいだろう、やってやろう。」
「そ、そうか。やってくれるか!よし、そうと決まったら早速飲もうぜ。」
活動開始はその2週間後。名はすぐにあがった。

 


その3


「なあ、クライド。次の獲物はこれでどうだ?」
そう言ってビリーが持って来た新聞にはこう書いてある。
『来る8月25日、ガストラ帝国最新鋭列車「ハリス」5000万ギル相当の金塊を載せ、ナルシェ―ベクタ間運行予定』
クライドは『帝国最新鋭』のくだりを読んで、
「おい、ビリー。コイツは帝国のじゃないのか?」
「それがどうした?」
「これはヤバイぞ・・・・。罠かも知れない。こんなに大きく新聞に載せているなんて・・・・。」
「おいおい、アンタともあろうものが怖じ気づいたのか?今までにも罠なんて何度もあったじゃないか。」
確かにそうなのである。この列車強盗団シャドウを捕まえようとして、今までいくつもの鉄道会社がウソの記事などで誘ってみたりしたことか。無論、2人は1度も捕まったことはない。
「どうするんだよ?クライド。」
クライドは腕組みして考えた。帝国の列車なのだから、魔導アーマーや雑兵も多数乗っているだろう。これほどの記事を載せるほどなのだから、当然セリス将軍やケフカも・・・・。セリス将軍。若干6歳で既に将軍に祭り上げられてしまった、帝国の天才少女。ケフカもそのセリスと並ぶほどの魔力を持っていると聞く。非常にまずい。しかし、クライドはこんな思考の中に奇妙な欲望があることにも気がついた。
(試してみたい・・・・。どこまで通用するか。)
彼の中で、欲望が勝った。
「そうだな・・・・。行こうか、ビリー。」
「よっし。それでこそオレの相棒だ。」
ビリーの計画はこうである。
「いいか、クライド。海底トンネルを抜けてからが勝負だ。お前はあらかじめ出発駅のナルシェから乗車しておく。オレは途中のサウスフィガロで乗る。作業は分担だ。オレが前の車両で騒ぎを起こしたら、お前は最後尾の輸送車両を切り離して、近くの畑にでも転がしておいてくれ。時間は・・・・ツェンを出発した2分後だ。」
帝国はこの列車の計画のために、サウスフィガロ―ツェン間を海底トンネルで繋いだ。一般には極秘事項なのだが。
「ツェンからベクタまではおおよそ20分で着く。勝負は1本。失敗はナシだ。オレは騒ぎを起こしたらすぐ飛び降りる。お前も、切り離したらすぐ飛び降りてC地点で待っててくれ。そこで合流だ。」
C地点というのは彼らだけの暗号である。
そして、計画の日。予定通りクライドはナルシェから、ビリーはサウスフィガロから乗車した。

 


その4


以下、この作戦はクライドが後述した日記によって話を進める。
決行当日。オレはナルシェから例の列車に乗った。ビリーはサウスフィガロで乗ってきた。勿論コンタクトは取らない。人にでも見られたら水の泡だ。
PM7:56.列車は海底トンネルに入った。時間は予定より1分程早い。が、正直気にするほどのことでもなさそうだ。
PM9:47.海底トンネルを出た。曇りがちで星も月も出ていないが、雨が降っている訳ではない。天も味方してくれているようだ。
PM9:54.ツェン停車。
PM9:59.発車。いよいよだ・・・・。
PM10:01.2両目から「火事だ!!」という声と共にもうもうと煙が立ち昇っていく。ビリーの仕業だろう。8両目の警備員車両から警備兵がどんどん2両目へ向かっていく。オレはその波を押し退けつつ、最後尾へ向かった。幸い、8両目には50人近くいた警備員のうちわずかに13人が残っていただけだった。オレは、そのうちの1人に変装し、「輸送車両をチェックしてくる。」と言って、簡単に最後尾へ向かった。あとは、いつもの手順どおりに列車を切り離して、飛び降りた。
ビリーとの約束のC地点に着いてわずかに5分後。ビリーが到着した。
クライドの日記は何故かここで終わっているので、ここからはまた筆者によって話を進めることにする。
C地点に到着した2人は、早速畑に落っことした輸送車両の引き上げ計画の話になった。
「どうする?クライド。」
畑に落っことしておけと自分から言ったクセに、肝心な所でどうするのか思い浮かんでこない。ビリーという男の性格である。一方のクライドはそうではない。常に人より3つほど先を見据えて行動する。無論、既に列車引き上げの計画は頭に浮かんでいる。
「そうだな・・・・。夜が明けきらない内の方が行動しやすいな。」
「おいおい、クライド。やっぱり夜が明けてからの方がよかないか?」
ビリーには珍しく、クライドの意見に反対した。しかし、クライドがさとしたため、夜の内に行動を起こすことになった。
後にこの選択が列車強盗団シャドウの命運を分けることになるとは、今の2人は知る由も無い。

 


その5


2人は、一度列車を見に行った。大きな車体が畑に横たわっている。
「こりゃあ無理だな、クライド。」
「そうだな。まあ予想通りだな。まだ11時だし、大丈夫だ。」
「んで、どうすんだよ?」
「まあ見ていろ。一旦戻るぞ。」
戻ったクライドは、どこからともなく人を連れて来た。20いや30人はいるだろうか。
「ク、クライド。一体コイツらは・・・・。」
「いざという時の為に、以前から雇って置いたんだ。さ、行くぞ。」
現場から30人総動員で金塊を運び出して行く。程なく作業は終わった。12時43分。列車切り離しからおおよそ2時間40分。素晴らしい手際である。
「いや〜、やっぱお前はすげえよ、クライド。」
ビリーは感心した。この男を選んだ自分に間違いが無かったことを心から誇った。
翌日・・・・。ビリーとクライドは例によって次のターゲットへの計画を練っていた。ふと、クライドが
「あ、いかん。ポーションがきれてる。買って来る。」
クライドにすれば何の他意も無い、単に買い物に出るだけのことだ。ビリーもそう思った。これから起こる事件は全てが偶然なのである。
クライドが小屋を出たわずか5分後・・・・、
「おい、ここだここだ!」
扉を開けて帝国兵が10数人なだれこんできた。小屋にはビリーが1人だけである。
「な、何だァ、お前らは?」
「分かっているだろう?昨日の事件の事だ。」
ビリーは正直不審に思った。このアジトは自分とクライドしか知らないはずだ。後知っている者がいるとすれば、昨日金塊を運び込んだゴロツキ達くらいのものだ。しかしその不審は、帝国兵の中に見慣れた顔を見付けてすぐに消し飛んだ。いるのである、帝国兵の中に昨日ここに金塊を運び込んだ者が。
「お、お前は!」
「おお、その通りだ。オレはクライドに雇われたんだよ。あの男はオレが帝国兵だって事を知っていた様だったがな。」
これはウソである。クライドは自分が雇った中に帝国兵がいるなどとは全く知らなかった。
「ク、クライドがオレを裏切ったのか・・・・?」
ビリーは愕然となった。自分が命を預けても惜しくないと思っていた男に裏切られたのである。勿論、クライドにそんな気持ちは全く無い。この帝国兵のウソである。しかし、ビリーは信じ込んでしまった。こうなると、もう考えは変わらない。
「捕まえて連れて行くのも面倒だ、射殺だな。」
「よーし、全体構え!!・・・・・・・・・撃て!」
11人の銃に撃たれてビリーはハチの巣である。無論、即死。

 


その6


それからわずか3分後、クライドが帰ってきて変わり果てたビリーを見つけた。
「おいビリー!!どうしたんだ、おい!!」
返事をするはずもない。既にビリーはこちらの世界の住人ではなかった。
「ビリー、ビリーーーーーーーーー!!」
その時、物陰からクライドに雇われた者を含む帝国兵6人が出て来た。
「なっ、お前は・・・・。」
「全体構え!!・・・・・・・・・撃て!」
有無を言わさず撃ってきた。クライドは何発かはかわしたのだが、肩に2発足に1発喰らってしまった。クライドは必死でその場から逃げ、遂にはアルブルグ砂丘へ入った。v (この傷、やばいな・・・・。)
かろうじてアルブルグにいる知り合いの家に駆け込んで応急処置をしてもらったが、まだ痛みがひかない。クライドは痛みの中でも、ビリーの事を思い返した。
どうして、雇う相手の素性も調べずに軽薄なことをしてしまったのか。あるいは雇う前にビリーの意見を聞くべきでは無かったか。更には列車から金塊を運び出す際に、ビリーの言うように昼間にしておくべきではなかったか。全ては自分の甘い考えがもとでビリーを死なせてしまった。3日3晩思い悩んだ。
 その内に、アルブルグにも帝国の調査が入ることになり、クライドは知り合いの周旋でサマサ行きの船に乗れることになった。まだ傷は完治していない。1晩船に揺られ、ついには大三角島へ到着。しかしここで再度あってはならない偶然が起こった。何と船に同乗していた帝国兵が、クライドの存在に気付いてしまったのである。
「ア、 アイツはお尋ね者のクライドじゃねぇか!」
「何、本当か?お、本当だ。ありゃあクライドだ。」
撃たれた。しかも運悪く前の傷にジャストミートしてしまった。
(やばい・・・・・。)
クライドは森の中で眠るように意識を失った。

 


その7


(どこだ、ここは・・・・。)
クライドは暗い所に居た。暑いのか寒いのか、立っているのか座っているのか、上も下も分からない。ふと、人が1人いるのを見つけ近づくと、ビリーであった。
「おい、ビリー。オレだよ、クライドだ。」
ビリーはゆっくりと振り向いたが、何の反応もしない。ただ、目だけがまるで独立した生き物のようにジロジロとクライドを見ている。
「何だよ、ビリー。おい!」
「クライド・・・・相棒のオレを・・・・よくも・・・・殺したな・・・・お前も・・・・オレの所へ来いよ・・・・なあ、クライド」
「ち、違うんだ!ビリー。聞いてくれ、あれは・・・・。」
「言い訳なんか・・・・いいよ・・・・オレの所へ来いよ・・・・」
「やめてくれ、ビリー。やめろ!うわああああああああああああ!!!!!」
「お?よーやく気が付いたか。」
目が覚めた。どうやら夢であったらしい。
「アンタ、3日も眠ってたのよ。」
女性がいた、どうやら介抱してくれたのはこの人らしい。
「ここは?」
「サマサだよ。しかし、珍しい男もいるものね。肩から血ィ流してんのに鼾かいて寝てるし、かと思えば突然うなされたりするし。」
明るい、快活な女性だ。彫が深くて鼻筋の通った美人である。身長もスラリと高く、男うけのいい女性であろう。
「済まない。恩に着る。」
「アンタ、一体何処から来たのさ?」
「アルブルグからだ。輸送船でこっちに来た。」
「アタシはシェリー。まあアタシは構わないから、傷が治るまでゆっくりここにいな。」
彼女は自分の名前のみを告げて、クライドのことは一切聞かずそのまま何処かへ行ってしまった。
(どうすべきだろうか・・・・?)
クライドはこれからの身の振り方を考えた。いつまでもここに留まる訳にも行かない、傷が治り次第出て行こう、と。

 


その8


 クライドがシェリーの所に居付いてから、間もなく1週間が経とうとしている。シェリーはクライドのことを『シャドウ』と呼んでいる。何でも「影みたいにくら〜い顔してるからね。」というのが名の由来らしい。妙な偶然もあるものだ。クライ ドは最初は、
(この女、オレの正体を知ってるんじゃ・・・・。)
と勘ぐってみたりもしたが、その屈託の無い笑顔を見ているとどうもそうは思えない。彼女の飼い犬のインターセプターも妙にクライドになついた。
「あんまり人にはなつかない子なんだけどねぇ。」
と、彼女も不思議がっていた。
 更にもう3週間が流れ、最初に会った時から数えれば1か月が経った。肩と足のキズはほぼ完治している。
(そろそろ頃合いか・・・・。)
クライドは何度もそう思って、出て行く時をうかがっていた。しかし、その度毎にシェリーの笑顔がクライドの脳裏をよぎった。もし無断で行ったりすれば、あの笑顔が消えるんじゃないだろうか?それは嫌だ。と心中思った。自分にこんな感情が芽生えたと言う事自体、クライドにとっては不思議でならなかった。人はこれを『恋』と呼ぶのだろう。かたやシェリーも、この寡黙で目付きが鋭く、何を考えているか分からないくせに時々寂しい目をする男に次第に魅かれていった。ビリーもそうだったが、元来クライドにはどこか人を魅了するところがあった。それは性別に関係なく。しかし、今のシェリーの感情はそういった類のものではない。何か抑えきれない熱いものをこの男に感じていた。
 そしてついにある日の夜クライドが、今まで「シェリーさん」と呼んでいたのに突然
「なあ、シェリー。」
と声をかけた。月は満月、見事な夜のことであった。クライドは何も言わずに、シェリーをおもいきり抱きすくめた。そしてそのまま押し倒した。シェリーも何も言わない。きゅっと弱くクライドを抱き返した。
明けてその翌朝・・・・。
「なあ、シェリー。」
「な〜に?シャドウ。」
「結婚しよう。オレはもうこの町を出ない。残りの人生の全てを賭けて、君を守りつづける。」
「ありがと・・・・。すごく嬉しい。」
それから3か月後、シェリーのお腹にはクライドの子供がいた。
「ねぇねぇ聞いてよ、シャドウ!今病院行ってきたら女の子だってさ。」
「ほお、女の子か。そりゃあいいな。」
「それでね、生まれるのは大体あと8か月くらいだって。」
「よおし、楽しみに待っていよう。」
クライドはいまだに本名をシェリーに明かしていない。しかし、それでいいと思っている。あの日をもって列車強盗団シャドウのクライドは死んだのだと思っている。8か月はあっという間に流れ、シェリーは予定通り女の子を出産した。
「実は、名前はもう決めてあるんだ。」
クライドは自信たっぷりに言った。
「何なの?」
「リルム、だ。いい名前だろう。」
幸せであった。彼が今まで1度も味わったことのない幸せがそこにはあった。それはまた、シェリーにも言えることである。
正に、幸せの絶頂期であったのはこの時期である。

 


その9


 シェリーがリルムを出産してから2か月が経った。リルムは夜泣きもしない子で、まだ満足に座れもしないのにしきりに絵筆を握っていた。音の鳴るおもちゃなどには一切興味を示さず、常に絵筆を握っていた。
「こりゃあ、芸術家肌だぞ。天才かもな。」
「そうね。もしかしたら有名な画家になるかも。」
クライドは嬉しそうであった。シェリーもまた然り。クライドはしきりにこう思った。
(願うべくはこの幸せが永遠に続かんことを・・・・。)
 それからわずか20日後。大三角島に帝国軍がやって来た。目的は、魔道士の末裔が作った村であるサマサにいる先祖の血を色濃く受け継いだ者を探し出して、その人間から魔導の研究をより一層発展させるというものである。まず襲われたのは長老の家である。帝国は特殊技術で開発した魔力計というもの持っていた。
「この機械は瞬時にして、人の魔力を測れるんですよ!」
とはケフカの弁。早速長老を始めとする村人全員がそれにかけられた。
「どいつもこいつも、全然大したことはないですねぇ。」
大三角島に派遣されたケフカは腹立たしげにそう言いながら次々と測っていった。そして、シェリーの所で、
「お、これはなかなかですよ!」
ケフカがそう言った時、クライドは直感で
(まずい。シェリーが連れて行かれる。)
と思ったが、以外にも
「でも、もう少し歳の低いほうが研究しやすいから、コイツもだめだ。」 結局、大人の村人全員がかけられたが研究に値するほどの者は出なかった。これで帝国軍が引き上げてくれれば良かったのだが、ケフカは村人の子供までも測りはじめた。
「これだ!この子供だ!」
そう言われたのは・・・・リルムであった。
「この潜在魔力!これはきっといい研究ができますよ!おい、連れて行け。」
ケフカがそう言うや否や、シェリーがケフカの腕の中から素早くリルムを抜き取ってクライドに手渡した。
「シャドウ!早く逃げて!!」
「し、しかし・・・・。」
「私のことはいいから早く!」
クライドはリルムを抱きかかえて無我夢中で走った。走りに走って西の山の中へ逃げ込んだ。リルムは絵筆を持ったまま素っ頓狂な顔をしている。まだ子供だから、状況がさっぱり飲み込めないのだろう。結局クライドが村に戻ったのは3日経ってからのことだった。

 


その10


 村に帰って、クライドは驚いた。あれだけの騒ぎからまだ3日しか経っていないのに、村のどこかが壊れたりした形跡は無い。それなのに人一人出歩いていない。クライドは不審に思いながらも家へ帰ってみると、そこには1人の老人がいた。ストラゴスという長老の友人だ。この老人は古くからサマサに住んでおり、シェリーとも知り合いであった。
「ア、アンタは・・・・。」
「やあ、シャドウ君。ワシは君が帰ってくるまでのこの家の留守番を頼まれてたんじゃ。」
「シェ、シェリーはどこへ行ったんですか!?」
クライドはそう言いながらも、うすうす感づいてはいた。
(シェリーはおそらく・・・・)
それでも、「もしかしたら」という一抹の希望を胸にストラゴスに聞いてみたのだ。
「シェリーさんは・・・・亡くなったよ。帝国軍に殺された。」
クライドは愕然となった。もう、シェリーには会えない。2度とあの笑顔を見れない。そう思うと無意識のうちに目から熱いものが流れ落ちるのを感じた。彼の人生の中で初めての涙であった。
「ワシはシェリーさんから君にこの手紙を渡すように頼まれたんじゃ。彼女は死ぬ間際までこの手紙を書いておった。ほれ。」
手紙にはこう書いてあった。
「シャドウへ
あなたがこの手紙を読む頃には、私は多分もうこの世にいないでしょう。あなたが肩にケガをして森の中に倒れていた のを見た時、あなたが何か危ない仕事をしているのはすぐに分かりました。そして今日、帝国軍の人からあなたが列車強盗団シャドウのクライドだと知りました。でも、私にはどうでもいいんです。あなたはこの村に流れ着いてきた、ただの旅人。その名付け親は私で、名前はシャドウ。暗くて、陰気で、でも優しい人。私にとってはそれだけでいいんです。あなたと会ってまだ2年も経っていないけど、本当に楽しかった。ありがとう。リルムはあなたに任せます。きっと1人前の立派な大人に育てて下さい。私が死んでも、あなたは私が好きだったシャドウのままでいてください。泣いたりしたら、承知しないぞ!・・・・・・・・本当にありがとう。
 シェリー」
クライドは涙と手の震えで何度も手紙を落としそうになった。しゃくるように何度も何度も泣いた。
「シェリーさんはな、ワシら村人をかばって死んだんじゃ。君がリルムちゃんを抱えて逃げたのを見て、帝国軍はワシらを皆殺しにしようとしおった。しかし、シェリーさんは村の人は関係ないと言って、自分だけを殺すように帝国軍に言った。帝国軍は彼女を3発撃って、とどめを刺さずに帰っていった。ワシらは撃たれた彼女を必死で看病した。すると彼女は、突然横にあった紙とペンで一気にこの手紙を書き上げ、それをワシに託して、最後は微笑んで死んでいった。」
ストラゴスはそう言うと家から出て行った。
その夜、クライドは考えた。
(どうもオレには、人を不幸にする厄病神がついているらしい。いや、オレ自身の力不足もあるだろう。とにかくオレは、2度も守れなかった。自分の最も大切なものを・・・・。)
横ではリルムとインターセプターが抱き合うようにして寝ている。クライドはまたも泣いた。これはしかし昼間のような悲しみの涙ではない、自分の情けなさに対する憤りの涙である。

 


FINAL


 翌朝早くから、クライドはストラゴスの家を訪ねた。そして、
「ストラゴスさん、お願いが2つあります。あの家に住んで下さい。彼女との思い出があるあの家に。誰かが住んでいないと、いずれ取り壊されてしまいます。もう1つは、リルムを預かって下さい。そして1人前の大人に育てて、平和な世界に生きさせてやって下さい。」
「ワ、ワシは構わんが君はどうするんだ!?」
「・・・・旅に出ます。オレは2度も大切な人を守れなかった。その罪の償いができる日まで、旅をします。」
クライドはポケットから1組の指輪を取り出して、ストラゴスに手渡した。
「これは、妻の残した指輪です。家のどこかに隠しておいて、時が来ればリルムに渡してください。」
そう言うと、クライドはその場を立ち去った。村の出口付近まで行くと、突然背後から
「ワン!」
犬の鳴き声が聞こえた。インターセプターである。
「オレを連れ戻しに・・・・。だが、戻るわけにはいかん・・・・。お前は娘と一緒に平和な世界で生きるがいい。」
「ワン、ワン!!」
「そうか・・・・、わかったよ。一緒に行こう。」
それから5年ほど経って、世界中にある男の話が飛び交うようになった。
『世界中を旅して回っている男がいる。名前はシャドウ。金のためなら親友をも殺しかねない暗殺者だ』
クライドは、自分の罪償いのためには修羅の世界で生きるのが1番だと考えた。生きるか死ぬかのギリギリの世界。自分は安心して寝ることも許されない、罪深き男。ならばこんな世界で生きていれば、常に安心することはないだろう。それこそが、あの2人にできる精一杯の償い。クライドは何度か帝国にも雇われた。その度に、
(断って怪しまれでもしたら・・・・。)
と思って、尽くした。時には反帝国組織リターナーの人間を殺したりもした。それでもクライドは常に復讐の隙はうかがっていた。これから更に5年余り経ってから、クライドは彼らと出会い、共に旅をすることとなる。
帝国任務での大三角島への派遣。同行はティナとロック。クライドは敢えて喋ろうとはしなかった。ストラゴスも全く気が付 かなかった。ここで10年振りに愛娘の姿を見た。涙が溢れ出そうになった。立派に育っている。勿論、この全身黒ずくめの男が自分の父親だとは気付くはずもない。
 それから間もなく、世界の崩壊。クライドは獣が原にいた。導かれるように洞窟の奥へ進んだ。最奥部にいるキングベヒーモスとのバトル。
「ちょうどいい。ここがオレの墓場だ・・・・。」
クライドは必死に戦ったが、敗れた。とどめこそ刺されなかったが、死が近づいてくるのを感じた。でも、助かった。いや、助かってしまったという表現が正しいのか。そして、ケガの体で単身コロシアムへ。
(戦わなくてはならない・・・・。)
今の彼を動かしているのはこの執念、いや本能であった。戦うことでしか、自分の罪は贖えない。
そして、またティナ達に同行することにする。
(修羅の道、極めてみるか・・・・。)
そういう気持ちであった。
 ほどなく、ケフカを倒して瓦礫の塔から脱出する時、クライドはふと考えた。もう自分を楽にしてやってもいいんじゃないか?と。この10年、自分は苦しみ抜いた。更にはリルムを1人前にするという、妻との約束も果たした。帝国とケフカを滅ぼして2人の敵討もした。
(もう、いいだろ・・・・。)
彼はそう思って足を止めた。周りはどんどん崩れていく。不意にインターセプターに呼び止められたが、
「行け!インターセプター!!」
そう言ってインターセプターを逃がすと、
「もう逃げなくて済みそうだ。暖かく迎えてくれよ、ビリー!!」
そう言って、崩れる瓦礫の中に消えた・・・・。

THE END

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