再会・協力・そして、情


「ふぅ、退屈だな・・・」
愚痴をこぼしたのはエッジだった。
彼は今は亡きエブラーナ王と王妃の一人息子である。
地球へ戻ってきたエッジはセシルとローザを祝福し、バロンから戻ってくると『じい』やエブラーナの兵士達に半ば強制的に王位につかされ今はエブラーナ再建の日々である。
「まったく、こんな面白くないこと他の奴にでもやらせりゃいいのに」
そうは言いながらも自分の国の事なので不満を口にしながらも真面目に事を進める。
「若!エブラーナの王たるものがなんという体たらく!!もう少ししっかりなさってくださいませ!」
「げっ、爺・・」
「『げっ』ではありませんぞ!国王になったのですからその言葉遣いもお直しください!」
なにしろ兵士三名だけを引き連れバブイルの塔を上ってきた、老人とは思えないほどの頑丈で元気な人である。
いつもエッジはこの人に頭が上がらなかった。
「わ、わかってるよ」
「いえ、今日と言う今日は言わせて頂きますぞ!大体若は国王たる自覚が・・・」
そしていつもの説教が始まる。もちろんエッジにそれを聞く気はなかった。
(リディア、今頃何してんのかな!?また幻獣たちのところに行ってんのかな?)
「若〜〜〜〜!!!!!」
そうしてエッジの退屈な日々は続いていく・・・。



「リディア、遊んで〜〜」
タタタッ と幻獣の子供達がリディアに駆け寄る。
リディアは再び幻獣界に来ていた。
もはやアスラやリヴァイアサンは彼女にとっては親代わりなのであった。
「いいよ、今日は何して遊ぶ?」
「んっとね、んっとね・・オニごっこがいい!」
「よおし!じゃ、最初のオニは私がやるね。あ、それから洞窟に出ちゃ駄目だからね」
「わかってるよぉ〜〜」
オニが決まると子供達は一目散に逃げていった。
「さぁ、みんな捕まえてやるんだから!待て〜」
そういうとリディアも走り始めていた。そんな様子を眺めていたリヴァイアサン達は
「ふぉふぉふぉ、すっかりこっちでの暮らしに慣れたようだのう」
「そうですわね、でもリディアも早く恋人でも作ればいいのに」
アスラのその一言にリヴァイアサンも頷き
「そうじゃのう・・だが、そう急ぐこともなかろうて。あの娘は天真爛漫ないい子じゃ。
焦らずともすぐに恋人なんぞできるわい」
リヴァイアサンの声の調子が少し変わったことに気付いたアスラは
「あの子は私たちの娘のようなものですからね。寂しいですか?」
「ああ、そう思うと正直な。しかしもうしばらくはこの生活が続くだろうて」
平和を取り戻し自分達の力を使う必要がなくなった二人はほのぼのと会話を交わした。
そんな二人の前を
「そんな簡単につかまらないよ〜だ」
「こ〜ら、待ちなさ―い!!」
と、子供達とリディアが走りすぎていった。
その光景に二人は思わず笑った。



「よいですかな、若。本日の予定はバロンへ技術提供を求める交渉がございます。もうしばらくいたしましたら、バロンから迎えの飛空挺がやってまいりますのでご準備の方をよろしくお願いいたしますぞ」
爺から今日の王としての予定を告げられる
「あ〜、はいはい」
「返事は一度で結構!」
エッジのいまいちやる気のない返事を聞いて爺もついつい声が大きくなってしまう。
爺はそんなことには構ってられないと気を取り直して
「と、とにかく準備をお願いいたしますぞ」
そう言って爺は部屋を後にする。
一方一人になったエッジは今日の行き先がバロンと聞いて別のことを考えていた。
「バロンか・・ということはセシルたちはもちろん、シドのおっさんもいるんだよなぁ。そりゃ、もちろん仕事はするけど、それだけでただ帰るのもなんだし、・・リディアに・・・なんとかして会えないかな!?」
エッジは今までにたくさんの素敵な女性を見てきているが、とりわけリディアを初めて見たときの衝撃は大変強く、今でもハッキリ覚えている。
そして地球に戻ってはなれてからはリディアへの想いはますます強くなっているのだ。
「よし!決めた、仕事が終わって帰る前にリディアに会いに行こう!!」
その決意を胸にエッジはバロンからの迎えの飛空挺に乗り込んだ。
(リディア・・・!)



やがて飛空挺がバロンにつくとエッジは一目散にセシルたちのもとへではなく、シドのもとへと駆け出した。さすがは忍者である、行動は素早かった。
「ああ、いたなオッサン」
「こら!誰がオッサンじゃい!!口を慎まんか、若造が!!」
シドはいきなりの再開にどうじもせず、ポカッと頭を殴りつける。
「いって〜な、いきなり何すんだよ!!」
「それはわしの台詞じゃい!だいたい何でお前みたいな奴がバロンにおるんじゃ!?」
当たり前な質問が投げかけられるが、エッジはほとんど聞く耳を持たず
「仕事だよ仕事。あ、そんなことはどうでもいいんだけどさ、あとでファルコンを貸して欲しいんだよ。地底に行くにはファルコンが必須じゃん?この通り、頼むからさ〜〜」
「あほか!わしの大事な飛空挺をお前なんぞに貸せるか!だいたい地底に行って何をするつも・・・」
シドはここまで言いかけてハッとした。考えるまでもなく答えは簡単だった。
「なるほど・・リディアか」
図星をつかれてエッジも焦ってしまう。
「な、なんだよ。わるいかよ!?」
一瞬茶化されるかと思ったが、シドの対応は違っていた。
「・・まぁいいだろう。だが用意に少し時間がかかるぞ。それにお前さんは他にやることがあるだろう!?ちゃんとやることやってからでないと嫌われるぞ」
全くの予想外の展開にエッジは唖然としてしまった。
「え、いいのか?」
「同じことを二度も言わすな!お前はさっさとやることやってこんかい!」
シドがバン!と背中を叩く。エッジはたちまちに笑顔に戻って
「よっしゃあ!待ってろよリディア!・・セシルー!!とっととおっぱじめようぜー!」
そうしてあっという間にエッジはシドの前から姿を消していた。
「やれやれ、わしに礼はなしか。・・しかし若いってのはいいのぉ。」
見送ったシドがぽつりと呟く。
「さて準備をしてやりますかね」
腕をぶんぶん振り回しながらシドは
「ほらお前らもさっさと来んかい!話は聞いとっただろうが!!」
シドは自分の部下を呼びつけ、ファルコンを収容しているドッグへと向かっていった
そしてその日はバロンにエッジという名の風が吹き荒れたのだった。



―数時間後―


「おお、できてるできてる。やるじゃん、オッサン!」
「じゃから、オッサンと呼ぶでないわ!・・ちゃんと仕事は終わったんじゃろうな!?」
「おう!楽勝よ!!」
仕事、と言っても相手はバロンの国王となったセシルである。
実際交渉はすぐに終わったのだが、セシルとローザの二人につかまって話の相手をしていたのである。
「いいか?わしの可愛いこの飛空挺に傷でもつけたら承知せんからな!」
とファルコンを見上げるエッジに注意を促す。
「わかってるって。俺様に任せとけば何事も上手くいくって!じゃ、早速・・」
そこまで言いかけたところで、ここから離れたところから大きな声が届く。
「若〜〜!!どちらへ行かれるおつもりですか〜〜〜〜!?」
このファルコンのエンジン音に爺が気付いたのだ。エッジは慌てて乗り込んで
「おっと!急いで上昇だ!!」
エッジは飛空挺から見下ろしこう叫んだ。
「お〜い、俺はちょっくら愛しの恋人のところへ行ってくるから、後はよろしくな〜。エブラーナは爺にかかってるからな〜〜〜!!」
言うが早いかその言葉がちゃんと届く前にファルコンはその姿をバロンから消していた。
「こ、これは一体!?」
まだ状況が飲み込めていない爺を初めとする、エブラーナの兵士達はただ呆然とするしかなかった。
「青春・・じゃ」
そんな中シドだけがぽつりと呟いた。
そしてそのときエブラーナの兵士の一人だけが目撃していた・・。
爺の目がはっきり、キランと光ったのを・・・・・。
「よ〜し、目指すは幻獣の洞窟!や〜ってやるぜ!!」
そんなことには気付くはずも無いエッジは一人燃え上がっていた。



「リディア、遊ぼ!遊ぼ!」
「うん、いいよ。今日は何して遊ぶ?」
相変わらず平和な時間が流れている幻獣界である。
今日も幻獣の子供達はリディアを遊びに誘っている。
「えと、今日はね、かくれんぼ!かくれんぼがいいな!」
「最初はリディアがオニだよ」
「それじゃ、初めよ〜」
子供達がいっせいにまくしたて、そして散っていく。
「あ、何度も言うようだけど洞窟には」
「わかってるよ〜」
いつもの注意すらちゃんと言わせてもらえないほどに、子供達はすでに興奮していた。
「も〜、見てなさい。すぐにみんな見つけてみせるんだから!!」
そうしてリディアもオニの役目である数を数え始めた。
「平和じゃのう・・」
「ええ、本当に」
そう、このときまでは今までと同じように平和だったのだが・・
「みっけ!あ、こっちにも。み〜っけ!」
次々と子供達を見つけていくリディア。しかし探していくうちに妙なことに気付いた。
「・・・あれ〜?後一人だけなのに、見つからないね。ね、あなた達は知ってる?」
かくれんぼが始まって随分経つのに最後の一人が見つからない。
最終手段として彼女が見つけて一緒についてきている子供達に聞いてみるが、その子供たちも同様に隠れた場所は知らないらしい。
「まさか・・・」
嫌な予感がリディアの頭をよぎる。
「あの子、洞窟に入ったんじゃ」
ゼロムスが倒れて世界が平和になったとはいえ、まだまだ洞窟内はモンスターで溢れているのだ。いなくなった子供はもちろん幻獣なので、足元のバリアは全然問題ないのだが、モンスターが相手となると分が悪い。
リディアはすぐに行動を開始した。
「あなた達は、リヴァイアサンたちにこのことを伝えてきて!私は探しに洞窟に行くから」
「う、うん。わかった!」
こうして幻獣界は一気に慌しくなった。



「お〜し、やっと洞窟に着いたな。よし、あんた達は町で休んでてくれ。」
エッジを幻獣の洞窟の前に下ろすとファルコンはすぐにその場を後にした。
「よ〜し、あと一息!」
そう言ってエッジは洞窟内へと入っていく。しかし相変わらずこの洞窟は侵入者を拒む作りをしていた。
「バリアか・・変わらないな。だがしか〜し!こんなもので俺のリディアに対する想いは消えやしない!!障害があればあるほど恋は燃え上がるもんだぜ!」
いつから片思いが恋になったのかと少しツッコミたくなる言葉を口にしながらも、エッジはバリアなど気にせずに突き進んでいく。
「おらおらおらぁぁぁぁ!!!このエッジ様をなめるなよぉぉぉ!!!」
さらに大声をあげながら進んでいくものだからすぐに沢山のモンスターが寄ってくるが、
「どけどけどけぇぇぇぇ!!!」
目の前に現れると同時にモンスターをなぎ倒していく。
エッジという名の風はここでは嵐に進化していた。
洞窟を後残りわずかで抜け、もう少しで幻獣たちの街へ着こうかというところでエッジの耳に妙な音が聞こえてきた。
「な、何だ!?この音・・」
以前の幻獣の洞窟にこんな仕掛けは無かった。エッジは疑問に思いながらもその音の方へと歩き出した。
奇妙なことに何かトラップがあるわけでもなく、むしろ音は幻獣の街へ正しい道順を教え、導いているようだった。
「よし、ここの角を曲がれば・・」
と、エッジが角へさしかかった瞬間
「きゃっ!」
「おわっ!?」
何かに・・いや、誰かにぶつかった。予想外の出来事に一瞬焦り、その人物を見つめる。
「リ、リディア!!」
「え?・・エッジ!?何でこんなところに」
今この瞬間、二人は突然の再会を果たしたのである。
「リ、リディア。お、オレ・・あの」
今の今までリディアは街にいるものだと思っていたエッジは、まさかの再開に言葉がうまく出てこなかったのだった。
(あ〜何やってんだオレ!?これじゃ単なる間抜けじゃないか)
心の中で必死に動揺を抑えようとするが、リディアの顔が目に入るたび心臓の鼓動は激しくなっていった。
一方のリディアは何故ここにエッジがいるのかと驚いたが、すぐにいつもの口調に戻って
「ね、お願いがあるの。」
「え!?」
リディアの真剣な顔つきにエッジもやっと我を取り戻した。
「幻獣の子が街から洞窟に出ちゃったみたいなの。だからエッジもその子を探すのを手伝って欲しいの、お願い!」
リディアの為にここまで来たエッジである。断るはずが無かった。
「あ、ああわかったよ。で、はぐれたのはどんな奴なんだ?」
「チョコボの子どもなの。名前はボコ、あまり街からは離れてないと思うんだけど・・」
リディアの話を聞き終わる前にエッジは大声で叫んでいた。
「お〜い!ボコ、どこだ〜〜〜!!!」
「ちょっ、何やってんの!」
ここでもポカッと頭を叩かれる。
「そんな大声出したらモンスターが寄ってきちゃうでしょ!今探してるのはまだ子どもなのよ!」
「あ・・・」
リディアのためにと思ってしたことが、結果として反対の行動をしてしまっていたのだ。
エッジは反省しながらも
「じゃ、じゃあどうやって探すんだ!?」
そう聞かれるとリディアは小さな笛を取り出す。
「これを使うの。これは幻獣以外には聞こえない仕組みになってるの。だからこの音をたどれば街に戻ってこれる、というわけ。」
「ああ、さっきの音はこの笛の音だったのか。どおりでいやに聞こえにくいと思ったぜ」
幻獣にしか聞こえないはずの音が人間であるエッジに聞こえていたことにリディアは驚かされたが、とにかく今は子どもを捜すのが先決である。
「私、もう少しここで笛を吹いて誘導するから、エッジはこのフロアをまんべんなく探してほしいの。」
「さ〜すがリディア!俺の性格を良くわかってるな!待ってるだけってのはどうもしょうにあわないからな、それじゃ行ってくる!!」
やることが決まったエッジはさっそく行動を開始しようとした・・すると後ろから
「もう・・・あ、エッジ!」
「ん?」
リディアに呼びかけられそちらへ顔を向ける。リディアは少し恥ずかしそうにしながらも
「あの、ありがとう・・来てくれて。本当に・・ありがと」
「へへ・・おうっ!」
その瞬間二人に笑顔が戻る。そして真剣な顔つきに戻りそれぞれの役割を開始する。
リディアは正しい帰り道を笛で導き、エッジは子どもを捜しに更に洞窟内に。
「さて、じゃあ真剣に探しますか。」
エッジは大きな声を出すのをやめ、ひたすら何か音が聞こえないか耳をすませる。
さすが忍者なだけあってその集中力は常人離れしたものだった。
今彼の耳にはリディアが吹く笛の音以外は全く耳に入っていない。その静寂の中からわずかな音の乱れを探る。
「・・あった!少し離れてるな、よ〜し待ってろよ!!」
すぐにその場へ向かい始める。今度は最初とは違い、ひたすら自分の存在をモンスターに気付かせないように。
その場所はフロアのもっとも奥でありリディアの笛の音も聞こえるか聞こえないかというような位置だった。
「チョコボの子供・・いた!あいつか・・ってやべぇ!!」
首尾よく何とか子供を見つけることが出来たが、案の定モンスターに襲われていた。必死になってチョコボキックで応戦しているがじりじりと壁際に追い込まれている。
「こら、待てぇ!お前らの相手はオレだ〜〜!!!」
なんとか間に合うことが出来た。エッジはモンスターたちを瞬時に倒していく。
「ふぅ・・大丈夫か!?えっと・・・ボコ?」
一息ついて子供が怪我をしてないか確認する。するとエッジを見つめたボコは
「あ〜エッジ兄ちゃん!何でここにいるの!?」
思っても見なかった言葉が返ってきた。エッジは一瞬きょとんとして
「ん?俺のことを知ってんのか!?」
「そりゃ知ってるよ。この前リヴァイアサンと戦って勝ったじゃん!」
どうやらリヴァイアサンに力を貸してもらうために戦ったところを見ていたらしい。そう思うと自然に納得できた。
「とにかく戻ろうぜ。リディアも心配してるぜ」
「うん!」
そうして二人は笛の音を頼りに幻獣の街へと戻っていく。



一方リディアは絶え間なく笛を吹きつづけていた。
街の入り口には心配になって様子を見に来たリヴァイアサンやアスラ、そして一緒に遊んでいた子供たちが来ていた。
「やはりここでこうしているよりも私たちが探しに出た方が良いのではありませんか?」
アスラが口を開く。それを聞いてリディアは一旦笛を吹くのをやめて
「大丈夫。頼もしい助っ人が来てくれたから。だから任せておけばきっと大丈夫だから」
リディアは皆に、そして自分自身に言い聞かせひたすら自分の役目を果たしていた。
そして・・・・・
「あ、帰ってきた!」
一人の子供が口にする。その方向を見るとエッジと一緒にボコがゆっくりこちらへ向かって歩いてきていた。
「ほお!助っ人とはエッジの事じゃったか」
リヴァイアサンをはじめとして彼の事を知っている者がいっせいに驚く。
「ご苦労様、エッジ。それから・・ボコ?」
リディアがエッジの労をねぎらい、視線をボコに向ける。
「何か皆に言うことがあるでしょ?」
そう言ってボコが言うべきことを言えるようにリディアが促してくれる。
「うん・・えと、約束破ってみんなに心配かけさせてほんとうにごめんなさい!!」
「ふむ、これからはちゃんと決まりを守って遊ぶようにの。さ、行っていいぞ」
そうリヴァイアサンが言うとボコはすぐに笑顔に戻り、子供たちと一緒に街へと戻って行った。
「ふ〜、やっと肩の荷がおりたぜ。」
エッジが一気に力を抜く。
「お疲れ様でしたね、エッジ。さあ、ゆっくりくつろいでくださいな」
アスラが優しい笑みを浮かべ、街へと導いてくれる。
「しかしのう、何故おぬしがここに居るのじゃ!?国をほったらかしにしておいても良いのか?」
一緒に歩きながらリヴァイアサンが尋ねる。リディアからエブラーナの国王となったこと(正確には半ば無理やりに王位につかされたのだが)を聞いていたのだ。
「まぁ、たまには・・な。リディアがどうしてるか知りたかったしな」
リヴァイアサンだけに聞こえるような声の大きさで、自分がここに来た動機を伝える。
なるほどといった感じでリヴァイアサンは
「さて、わしらはちょいと用事があってな。久々に会ったのだし積もる話もあろう。リディア、後は任せるぞい。」
リディアにはわからないだろうが、きっと気を使ってくれたのだろう。エッジはその何気ない優しさが嬉しかった。
二人きりになった。なったはいいが、いきなりだったので話題が出てこない。会う前はあれを話そう、これを話そうと決めていたはずなのにいざとなると口が思うように動かないのだった。
(あ〜何やってんだ、ちゃんと話をしないと・・そしてリディアに告白を・・)
頭の中がいっぱいになって切羽詰っているエッジを知ってか知らずか
「ねえ、エッジ・・」
とリディアが口を開いた。
「あ・・な、何?」
「さっきも聞いたことなんだけど、どうしてここに?」
言うチャンスだ!エッジはとっさにそう思った。
(言うぞ。言うぞ!言うぞ!!)
「あ、あのさ。オレ、リディアが・・・・」
(あれ、何だか意識が遠のいて・・・)
そこまで言い、エッジはバタッとその場に倒れてしまった・・・・・・



「う・・・」
エッジが目を覚ました場所は幻獣の街の宿屋のベッドだった。
「やっと気付きおったか」
「大丈夫ですか?」
見るとリヴァイアサンとアスラが来ていてくれた。
「あれ?オレ・・・なんでここに!?」
「全く、ろくに回復もしないでここの洞窟を突っ走れば人間なら誰だってそうなるわい」
思えばほとんど勢いだけでここまできていたのである。ちゃんとした用意をしている暇は当然無かった。
「そっか・・。あ、でリディアは?」
「ちゃんと、そこに居ますよ」
アスラがそう顔を向ける先には、ずっと看病をしていたのだろうか疲れ果て床に座ったままベッドに体重を預け眠っているリディアがいた。
「あまりリディアを心配させるでないぞ」
「ああ、反省してるよ」
それを聞いたアスラはエッジが倒れてからのことを話してくれた。
「あの後はリディアが突然の事に混乱してしまって・・それは大変だったのですよ」
「それからずっと看病をしてての。とうとう疲れて眠ってしまったと言うわけじゃ」
そのことを聞くとエッジは申し訳ないという気持ち半分、リディアがそれほどまでに自分を心配してくれたことへの嬉しさ半分と言うなんとも複雑な気分になった。
「さて、わしらはそろそろ行くかの」
そう言い、リヴァイアサンたちがその場を後にしようとする。彼は最後にエッジにこう。告げた。
「まだリディアに言えてないことがあるじゃろう?では、またな」
二人は宿屋を後にする。
リディアが寝ているとはいえ再び二人きりになることが出来たのだ。
エッジは自然と眠るリディアの髪を撫でながら、半ば独り言のように言葉を口にする。
「せっかく会いに来たってのに、情けないところを見せちまったな。協力するつもりがいろいろと迷惑もかけちまったし・・。でも、同じ時間を共有できるっていいもんだな。やっぱりオレ、リディアのことが・・・好きだよ」
エッジが喋り終わりしばらくしてようやくリディアが目を覚ます。
「う、う〜ん・・あれ?私寝ちゃって・・」
そこまで言ったところでエッジが声をかける。
「おはよ、リディア」
自然といつもより口調も優しくなる。
「エッジ!もう大丈夫なの!?」
「ああ、すっかり良くなったよ。ありがとな、リディア」
いつのまにか二人に笑顔が戻っていた。
そしてしばらく二人はお互いにバロンで別れてからのことを話し合った。
その話題にはながさき、時間が経つのも忘れていた。
「あ、あのさリディア。オレ・・言いたいことがあってさ」
そしていざ、エッジがリディアに告白をしようとしたそのとき、幻獣の街がいきなり騒がしくなった。
「どうしたの?また何かあったの!?」
リディアが真剣な顔つきになり外の幻獣に聞いてみる。すると
「リディア!また人間が来たんだよ。今度は知らない人たちが」
ドワーフ達ではなく人間と言うところに疑問を持ちながらも、何かあっては大変なのでエッジとリディアは街の入り口へと向かった。
「げっ!爺!!!な、何でこんなところに」
その人物を目にした瞬間、エッジは思わず大声を出してしまう。
そこにはまさにバロンで撒いたはずの爺とエブラーナの兵士達がいたのである。
しかし爺はピンピンしているのに対し、兵士達は既にヘロヘロである。
「よう〜〜やく、見つけましたぞ若!!お妃様をお探しになるのも良いですが、仕事の合間はおやめください!!さ、帰りますぞ」
爺はエッジをしっかりつかみ連れて帰ろうとする。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!リ、リディア〜〜!!」
リディアに助けを求めようとするが当の本人は
「お妃様・・・」
と独り言を口にし、真っ赤になって動けなくなっていた。
その間にも爺はズルズルとエッジを引っ張っていく。
「ちくしょ〜、今回は駄目だったけど次こそ絶対に伝えるからな〜〜〜!」
とエッジの最後の叫びを最後にとうとう二人は街から出て行ってしまった。
後に残ったのは洞窟内のバリアにやられて倒れている兵士達・・・。



それからまた少しの月日が経った。幻獣の街ではそのときのことが専ら話のネタにされていた。それはリヴァイアサンたちも例外ではなかったのだが。
「ですが、よろしかったのですか?エッジにあのことを伝えておかなくても」
とアスラがリヴァイアサンに尋ねる。あのことと言うのはエッジが倒れてリディアが看病していたときの事である。アスラたちはたまたまリディアの言葉を聞いてしまっていたのだ。




「エッジ、今日は本当にありがとう。わざわざ会いに来てくれたのも嬉しかったし、子供を捜してきてくれたのも本当に助かったの。もしあの時エッジが来てくれなかったらって思うとすごく怖くて・・・だから、これはせめてものお礼・・」
そう言って周りに誰もいないというのを確認して(正しくはリヴァイアサンたちがすぐ外に居たのだが)、そっと眠っているエッジの頬に軽くキスをする。リディアは赤くなりながらもそれからはきちんと看病をしていた。




「いいんじゃよ、こういうものは自然に任せたほうが結構上手く行くものじゃて」
リヴァイアサンもそのことを思い出し、そう口にする。
幻獣界はまたしばらく平和なときを過ごすのであろう。
エッジとリディア、二人の想いが伝わるときまで・・。

THE END

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