幼き瞳は何を見る


まったく、人間って大人になればなる程ややこしい感情が出て来るもんだわ。
好きなら好きで良いじゃない。
愛してるなら愛してるで良いじゃない。
あたしの周りの大人達はまったくもう、煮え切らない。



いちばん苛つくのはセリスかなあ。
始めて逢った頃はきりっとして、凛として、憧れのお姉さんだったのになあ。
それが今じゃ、腑抜けだわよ。もーう、何なのよ。
ロックの事好きじゃないの?
好きなら胸に飛び込めば良いのに、どうしてこの世に居ない人間に気を使ってるの?
それが女の幸せってもんよ! 死んだ人は卑怯。
存在がない代わりに生きている人間の事を永久に縛る事が出来る。
セリスはよりによって死んだ人間に勝てないと思い込んでる。馬鹿みたい。
思い込んだ時点で負けだって事に気付いてない。
そんなの、子供のあたしだって解るのに。
生きてる人間の心には同じ様に血の通った人間が必要なんだって事、あのボンクラに解らせてあげなさいよ。世話が焼けるわねぇ。
あたしがちょっと策を練らなきゃ、全然くっつかないわね。
ほ〜んと、子供みたいに手がかかるわねぇ。
フェニックスの洞窟に行った時だって、ロックは未練たらしく秘宝を探し求めてたって言うじゃない。
どこがいいの?あいつのどこが。
世界が崩壊したのにさぁ、一緒に戦った仲間を探す訳じゃなく、レイチェルって言ったっけ?
あの娘の生き返りの秘宝を探してたような人なんだよ?
セリスはオトコを知ら無さ過ぎ。あたしが教えてあげる?



そうそう。あの王様?ちょっと妙だわよ。
あたしみたいな子供にまでナンパするなんてさ。 女に飢えてる訳でも無さそうなのに、無・気・味〜。
あたしだっていっぱしのレディなんだから遠回しに言っても解るってものよ。
でもよ〜く観察してるとあの王様、あ、エドガーだっけ?
ナンパした後ふっと顔が曇るんだよね。最初は見間違いだと思ったの。
でも気を付けて見てみるといつもそう。
誰にでも声掛けるけど、物凄く優しい。
うむむ。あいつには何かあるわね。
子供ならではの起動力を活かす時が来たわ。いつかボロを出すわね。
あたしは騙されないわよ。
マッシュもなーんか、変だわよ。
だってあのナンパ国王と双子なくせに、女の子にキョーミないみたい。
何が楽しくて生きてるんだろ。毎日大汗かいて、汗臭いったらありゃしない。
なんか、見てると面白い。大人って大変ねー。



マッシュだってセッツァーだって、ティナだって色々考え込んでる時あるものね。
普段のみんなって、マッシュは黙々と筋トレだし、ティナは静かにしてて部屋から出て来ないし、カイエンのおっさんも竹で出来た刀をたまに振ってる。 セッツァーに至ってはギャンブルの事しか考えて無いし。でもたまに難しい顔してる。あ、あれは予想してる時か。
でも、一番解んないのはシャドウ。
あの人、絶対どこかで逢ってるんだと思うけど、思い出せない。
気のせいなのかな。懐かしいような、暖かいような妙な気分になる。
あの人、暗殺者だって言ってた。なんで一緒に居るのかは解らない。
冷たい人間なのに、こんな事感じるなんておかしいよ。
インターセプターちゃんが可愛いからまぁ、いいか。



大人になるって、考える事が増えるって事なのかなあ。
だったら大人になるのは嫌だな。
あたしが近くに行くと、解らないと思ってみんな色々話をしてくれる。
想い人の事、故郷の事、家族の事、自分の生い立ちの事、自分の夢・・・。
解らないと思ってバカにしてぇ。あたしはみーんな解ってるの。
クチが固いだけ。あたしが喋ったらたぁ〜いへんなんだから。
それに、考えるの嫌い〜。そんな暇あったら絵を描いてた方がまし。
でも最近じじぃにやたら滅多に描くなって言われてるしな。
好きな絵も描けない。好きな絵か・・・。一番描きたい絵・・・。
それは永遠に描けない絵だ。だって、一度も見た事のないお父さんの絵だから。



あ、瓦礫の塔が近くなって来た。
いよいよ、あのうひょひょ野郎に1発かます時が来たっ。
みんな装備の再チェックに余念が無い。あたしも絵の具と絵筆の点検しなきゃ。
ティナが念のためにと防具を持って来てくれた。念のためって、なに?
塔へ攻撃するメンバーを大人達が話し合い始めた。
え?何?『子供は危ないから船で待ってろ』?冗談じゃ無い!
あいつをスケッチして1発かましてやるんだ!!あたしは絶対行くんだから。
ロックがこっちを見ながら言った。
『オレ達もおまえを危険な目に合わせたく無いんだ。解ってくれよな』
ふ〜ん。セリスは良いんだ。
カイエンのおっさんは『すまぬ。おぬしまで失う事があったら拙者は・・・』とか言って。その言葉には弱いなあ。
セッツァーが笑ってた。
『ガキはクソして寝てろ』
やっぱむかつく、このオトコ。
セリスが泣きそうになって言った。
『あなたにはここは危険なのよ。解って』はいはい、解りましたよーだ。
じじぃも生意気にこのあたしに意見した。
『お前までもしもの事があったら、わしゃ・・・』
じゃかあぁしいぃ!!!!
ティナも遠巻きにこっちを見てる。多分みんなと同じ考えなんだ。
ちぇ。ど〜せあたしは『コドモ』だよ。
でもここまで来たら仲間だって認めて欲しかった。
あたしだって、世界を守る為にみんなと戦いたい!!
ふて腐れてるあたしを見るに見兼ねて、マッシュが『オレと一緒に行くか?』と言ってくれた。
マッシュが初めて良いオトコに見えた。
ただの筋肉おバカじゃなかったのね。
『行く!行く!!』あたしの声にみんな仰天した。
エドガーが奥へマッシュを連れてった。
こそこそ話してる。
『おい、どういうつもりだ。あの子は足手纏いになってしまうぞ。おまえで守りきれるのか?』
エドガー、ばっちり聞こえてるんだけど。
『大丈夫さ、兄さん。女の子1人くらい、守ってみせるよ』
『しかし、今は少しでも戦力が欲しいんだ』
『あの子をここへ置いて行けって言うのか?!その方が危険だ!』
ちょっと、ちょっとぉ。
あたしの事まるっきり戦力外みたいに言わないでよ。
な〜んか頭来た。
『おいおい、なんならここでみんなの似顔絵描いても良いんだけどさ』
一瞬、空気が凍り付いた。
ほぉらね。あたしは立派な戦力『内』だっ。
エドガーは大きなため息をついた。
『・・・・・。負けたよ。じゃあ、君はマッシュと一緒に行動してくれ』
『兄さん?』
『ただし、おまえはこの子に怪我1つ追わせるんじゃ無いぞ』
『ありがとう。リルム、それで良いか?』
マッシュがこっちを振り向いた。
う〜ん、もう。あんたって以外と頼れるじゃない。
あたしの命、預けてやっても良いわよ。
そのうち、がらくただらけの塔に、降りられそうなポイントが見えて来た。
『よっしゃ、行こう!』



最初にロックとセリス、シャドウとモグ。
シャドウは船を降りる直前、あたしの頬をすいっと撫でた。なんだろ。
ゴミでも付いてたのかな。
次はカイエン、ガウ、じいさんにセッツァー。
『じじいの事、よろしくね』
なんだかしんみりしてつい余計な事言っちゃった。
じじいは『まだまだ若いもんには負け・・・』とか言いながら、言葉が終わらないうちにセッツァーに抱えられて降りてった。
そしてティナとエドガーに、あたしとマッシュ。
マッシュが背中を向けた。
『ほら。オレに乗っかって』
『いいよ。ガキじゃないもん』
『レディは黙って乗りなさい』
エドガーに言われて、仕方なくマッシュの背中に飛び乗った。
大きくてあったかい。
お父さんの背中って、こんな感じなのかな。
『行くぞ!!』
みんな梯子を降りて行くのに、マッシュは船から飛び下りた。
こ、怖〜〜〜いっ。目、目が開けられない!
両手が離れてしまっていても、マッシュがしっかりと抱えてくれてるから、落ちる心配は無いみたい。
もう大丈夫かと思っても、まだまだ地面に着くまで間がある。
少し目を開けてみた。
落ち着いて周りを見てみると、360度の空と雲。
とっても綺麗だ。今から戦いに行くのに、なんだかうきうきして来た。
『マァ〜〜〜ッシュ!!!』
『何だ〜?』
『面白〜〜〜いっ』
『だろ〜〜?』
『あたし、マッシュのお嫁さんになってあげても、良いよ〜〜〜っ』
『そのうちなぁ〜〜〜っ。あいつを倒してからだ、ぞ〜〜〜』
あたし達の会話を聞いて、エドガーが吹き出したのが見えた。
あたし、本気なんだから。
さぁて、うひょひょ野郎を倒しに行くぞ!!

THE END

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