「おい、ロック」
ある日フィガロ城でロックにそう声をかけたのはエドガーだった。
「ん?何だよ!?」
久々にフィガロ城を訪れていたロックはそう応えた。するとエドガーは・・
「世界が元に戻って随分経つが、どうなんだお前達は?」
「お前達って・・・何のことだ?」
「とぼけるな、お前とセリスのことだよ。それで?どうなったんだ??」
「?・・いや、別になんとも」
「なんともって・・・お前達、何もないのか?」
エドガーは信じられないといった表情をし、そしてそれは呆れに変わった。
「お前は、もう少しレディの繊細な心というものを理解しないとな・・」
「なんだよそれ?どういう意味だよ」
なんとなく自分が批判されているということに気付いたロックが聞き返すが、
「私がお前に言ってもしょうがないからな。自分で気付くことだな」
そう言うとエドガーは自室の方へ歩いて行ってしまった。
するべき事が沢山あるのだろうか、エドガーはすでに専属秘書と今日の予定について話を始めている。
今までのロックに対してのうちとけた態度とはうって変わって一国の王としての威厳がにじみ出ているようにも感じられる。
そんなエドガーは会話をしながらも
(ロックがあのままでは進展は望めないな、セリスの為にも少しばかり手を回さないとな)
などと考えていた。
「・・・・」
「陛下!?ちゃんと聞いていただけましたか?」
「ん?ああ、ちゃんと聞いているよ。ルイ」
「それでは本日のナルシェ鉱物取引についてですが・・・・・・・」
――その頃――
フィガロ城でそんなやり取りがあったとは知る由もないセリス達。
彼女達はコーリンゲンに来ていた。
最近ではティナとリムルの三人で元に戻った世界の各地を巡っているのだ。
この村はセリスにとっては特に印象に残っている場所・・。
「ここには、レイチェル・・さんが」
セリスはティナとリムルがよりも先にこの村へ着いていた。
ここへ向かう道中、自然と足が速まったのだ。
そして多少遅れて二人も到着する。
「やっと着いたわね。お疲れ様、リムル」
「疲れた〜。こんなときセッツァーの飛空挺があればな〜。ね、まずは宿屋に行こうよ」
二人はセリスと合流し宿への道を辿る。
その間もセリスはずっとレイチェルが住んでいた家に心を向けていた。
その夜・・・
「ねえねえ、セリス。最近ロックと会ってないけど寂しくない??」
口を開いたのはリムルだった。
「な、何を急に・・」
いきなりの、それも自分が特に気にしている質問だけに普段は冷静なセリスもつい焦ってしまう。
その会話を聞いてティナも
「あ、それは私も気になるな。私はまだ、人を好きになる・・恋愛とかってよくわからないから・・・」
「ティナまで・・もう」
さすがに二人に言い寄られては、セリスにはなす術が無かった。
「何も・・無いわ。きっと今日も何処かで宝を探してるのかも」
それを聞いてリムルが
「やっぱりロックって鈍感!!
セリスがロックの事を好きってこと、気付いてないのかな。
それともまだレイチェルさんの事を・・」
「リムル!」
ティナがリムルの言葉を静止したが間に合わなかった。
「・・・・・・」
重苦しい空気が場を支配する。
「ち、ちょっと村を散歩してくるわ」
半ば逃げるようにしてセリスが宿を出る。外はすでに静まり返っていた・・・。
「だめじゃない、リムル。あんなこと言っちゃ」
先ほどの発言についてティナが注意する。リムルは
「ゴメン、まさかあそこまで思い悩んでたなんて知らなかったから」
少ししゅんとして反省するが、すぐにまたいつものリムルに戻りこうつづけた。
「でも、セリスとロック。このままじゃいけないと思わない?」
「・・どういう意味?」
恋愛というものを経験したことの無い・・
いや、まだ恋愛を知らないティナにはリムルの質問の意図はわからなかった。
「だから、あたしたちであの二人をくっつけちゃおうってこと」
「え・・でも、それは・・」
セリスにとっては余計なことかもしれない―そう思ったが、
ティナも恋愛に興味を持ったのか、その言葉を続けて言うことは出来なかった。
「ね?そうしよ!今コーリンゲンのほうにフィガロ城が来てるかどうか確かめて、エドガーにも手伝ってもらお!」
こういうことなら大がつくほど得意だろうし、と聞くとティナもすぐに納得した。
早速リムルは得意の絵で伝書鳩を描き、エドガーに先ほどの内容を伝える手紙をしたため、フィガロへ向けて送った。
その頃セリスは村を流れる小川まで来ていた。
この小川の向こう側にはかつてレイチェルが住んでいた家が見える。
今はもう誰も住んでいない家・・セリスはその場に座り込んだ。
(レイチェルさん・・私、貴方がとても羨ましい・・・。
ロックの心を独占している貴方が・・。
でも、私だって貴方に負けないくらいロックの事を・・・・・)
そう思いながら、ふと自分の手を見る。
「あのときの手のぬくもり、まだ残ってる・・・」
ケフカを倒し、そこから脱出する際に足場が崩れて落ちそうになったところをロックが助けてくれた。
そのときのことを思い出す。
「『大丈夫か!?』って、私のことを心配してくれて・・本当に嬉しかった」
そう呟いて、しばらくするとセリスは立ち上がって
「さぁ、今日はもう休まないと。
あの二人にも心配させてゴメンって、ちゃんと謝っておかなくちゃ」
そうしてセリスは宿へと向かっていった。
――フィガロ城――
翌日早朝、昨日思いたったロックとセリスのことについてどうしたものかとエドガーが自室で思案していると、コンコンとノックの音が聞こえてきた。
「失礼いたします。陛下、リムル様よりお手紙が届いておりますが」
「ああ有難う、ルイ。しかしリムルから手紙?珍しいな」
疑問を持ちながらもエドガーは手紙に目を通す。
「これは・・・」
偶然とは不思議なものである。
自分の考えていたことが別のところで既にこうして手紙という形で送られてきたのだから。
「そうか、今はコーリンゲンにいるのか。
ならばこちらもフィガロ城を移動させよう、その方が何かと都合がいいからな」
決断すると行動は早かった。
泊り込んでいたロックが起きないうちに、フィガロ城はナルシェ方面からその姿を消していた。
「さて、リムル達と連絡をとらねばな。
絵で描かれた伝書鳩は消えてしまったし、こちらからはチョコボを使うか・・」
そうして今度はエドガーが手紙を書き始めた。
・・・・二人を会わせるのはオペラ座がいいのではないか。
ロックはこちら側が連れて行くので、そちらはうまくセリスを連れてきて欲しい。
詳しい日時は・・・・・
「だってさ、手が早い王様はこういうときは凄く役に立つよね♪」
「リムル、あまりそういうことは言わないの。
それで、どうやってセリスをオペラ座に連れて行くの??」
二人はエドガーからの手紙を受け取り、計画の実行へと話を進めていた。
今セリスの姿は見えない。またレイチェルの家のところに行っているのだろうか。
「そんなの簡単よ、オペラ座といえばセリスが一度ヒロインを演じたことがあるんでしょ?久々に行ってみない?って誘えばそれで十分!」
リムルは以前にマッシュ達からその話を聞いていたのを覚えていたのだ。
「問題はロックね。
ロックはあまりロマンチックとかそういうのは興味なさそうだし・・
エドガーはどうやって連れてくるつもりかな?」
まだまだ幼さが残るリムルにティナはただ唖然とさせれてしまった。
「じゃ、じゃあとにかくセリスを誘わないと。ね?」
そうして当の本人セリスは何も知らず一路オペラ座へ向かうのだった。
「おいおい、エドガー。なんでフィガロがいきなり移動してるんだよ?」
目が覚めて城の外の風景が様変わりしていたことに驚いたロックがエドガーに至極当然の質問を投げかける。
「ああ、こちら側にちょっと用事が出来てな。」
「にしたって、移動する前に一言言ってくれよ。俺はナルシェのほうに用があったのに」
エドガーが言ったそのちょっとした用事が、まさか自分の事だとは微塵にも思わないロックはエドガーに不満をぶつける。
しかしエドガーは気にせずに
「ああ、それはすまないことをしたな。
その詫びといってはなんだが、お前の用事は後にして久々にオペラ座へ行かないか?」
思っても見なかった言葉に少し驚いたが、それでもまだロックの不満は消えない。
「おいおい、俺はオペラに興味があるわけじゃ・・・」
そう言いかけたところでエドガーが言葉を続ける。
「何でも最近は歴史的な価値のある楽器を使って演奏をしているそうだ。オペラが終了した後はそれらの楽器を展示して見学も可能になるようだな」
歴史的な価値、この言葉はどろぼ・・トレジャーハンターのロックにはその効果は絶大であった。
「ま、まぁそれでいいや。ちゃんと金は払ってくれるんだろうな!?」
その言葉を聞き、エドガーは心の中で笑いたくなるのを必死に我慢して
「詫びといっただろう?それにちゃんと送らせてもらうよ」
外を見ると既に二羽のチョコボが待機していた。
「ここに来るのも久しぶりね」
オペラ座を見上げセリスが言う。
「今は・・・あっ、あの時と同じものがやっているのね」
ティナが嬉しそうに言い、セリスは少し照れているようだった。
「あ〜あ、あたしもセリスが舞台に立ってるところを見たかったな〜」
とリムルが言うと、セリスの顔がどんどん赤くなっていった。
「もう・・ここは他のお客さんもいるんだから、そういうことは・・」
言わないで。そう言おうとしたのだが何故かここから見える劇場の中と外には他の客らしき人は見当たらなかった。
「誰もいないみたいだけど・・どういうこと??」
すかさずセリスが劇場の関係者らしき人物にきいてみる。すると
「はい、今日この劇場は貸切になっております。
・ ・セリスさまでいらっしゃいますね?
本日はオペラ座へ足をお運びいただきまして誠に有難うございます。
席がご用意されていますので、こちらへどうぞ」
「え?え!?」
黒いタキシードを着た男がセリスを半ば強引に劇場内へと連れて行ってしまった。ティナとリムルはあっけにとられ、その一部始終をただ見守ることしか出来なかった。
「これは・・どういうことかわかる?リムル」
「あたしにも何が何だかさっぱり・・・」
そんなことを話しているうちに、先ほどセリスを劇場内へ案内した黒のタキシードを着た男が戻ってきた。
「よう!お嬢さん達。久しぶりだな、元気にしてたか?」
いきなり、それもさっきの丁寧な言葉使いではなくその男は流暢に話しかけてきた。
「???」
二人も困惑した顔で男を見つめる。
「俺だよ、俺。まあ変装してるからわからないのも無理ないけどな」
というと男はその変装をときはじめる。
「あ!」
「セッツァー!!何でここに!?」
なんとその男の正体はセッツァーであった。
話を聞いてみると以前ギャンブルで負けた借りを返すために、エドガーに協力してるという。
「そっか、セッツァーも協力してくれるんだ、嬉しいな〜」
「ま、俺もあの二人の事は気になってたしな。
それにセリスは俺がさらっただけあって良い女だしな」
セッツァーはうんうんと首を縦に振る。
「あ、でも貸切って言うのはどういうこと?」
ティナが気になっていた質問をすると
「ああ、それもエドガーがやったんだ。客を入れるよりも二人だけの方がいいってな」
さすが一国の王である、と二人は驚きと感心に包まれていた。
「さ、こんなところに突っ立ってないで中に入った入った」
と、セッツァーが二人をオペラ座へと誘う。
「え?貸切なんでしょう!?良いの?」
ティナは思っても見なかった展開に戸惑うが
「二人がこれからどうなるか興味があるだろう?いいポイントを見つけたんだ、さぁ」
「そうそう、やっぱりそうこなくっちゃ!ほら、行こう。ティナ」
困惑するティナをリムルが引っ張りつつ、かくして三人の姿はオペラ座へと消えていった・・・。
その頃セリスは劇場の座席ではなく、以前舞台に立ったときの控え室に通されていた。
「これは一体どういう・・きゃっ」
セリスの言葉はそこで途切れた。
控え室で待っていた係の者らしき女性二人がいきなりメイクを施してきたのだ。
あっという間の展開にセリスは成すがままになっていた。
メイクが終わったかと思うと今度は服を着替えさせられてしまった。
・ ・エドガーがこのために用意させた最高級のドレス。
今までの鎧姿とはうって変わって、女戦士から華麗なレディへとセリスは変身していたのだった・・・。
ティナ達が劇場内へ入っていって少し経った後、エドガーとロックがオペラ座へ到着した。
「さぁ、着いた。オペラ座だ」
二人はチョコボから降り劇場へと歩き出す。
「なぁ・・なんか人が少なすぎると思わないか??」
オペラに興味が無くてもロックは何度かオペラ座へ来て、人の出入りが結構激しいということを知っている。
早速ロックがその疑問をエドガーにぶつける。
「ああ、人が多い中で楽器を見学できても味気が無いだろう?だから今日は貸切にしてもらったんだ」
「へ〜そりゃあいいな。
・・でも待てよ、じゃあもしかすると俺はお前と二人だけでオペラを鑑賞するのか!?」
ロックの表情が勘弁してくれと言わんばかりに変化する。だが
「言っただろう?用事があると。私はお前を送るだけだ」
エドガーが淡々と口にする。
「おいおい、なら俺一人だけか!?」
「心配するな。お前の相手はちゃんといるよ、早く席に着いて待っているんだな」
ドン! とエドガーがロックの背中を押す。
「なぁ、相手って誰なんだよ!?」
「会えばわかる。・・おい」
エドガーが係の者を呼び、ロックを連れて行かせる。
計画はいよいよ最終段階に入ったのだ。
「よし、では用事を済ませようか。じっくりと見物させてもらうぞ、ロック」
こうしてエドガーもオペラ座へ入っていった。
「全く、強引に連れてきやがって。一体なんだってんだ」
セリスとは違い直接特別席へ連れてこられたロックはふてぶてしく愚痴をこぼした。
その気持ちはわからなくも無いのだが。
すると扉の方からコツコツと足音が聞こえてくる。
「そういや、相手って誰なんだろうな?知ってる奴だとは思うんだけど・・」
ギイィ 特別席への扉が開かれた。ロックも思わず扉の方を向く、そこには・・・
「え!?・・まさか、ロック?」
「その声・・セリスか?」
信じられない!何でここに!?そんな思いが二人を支配した瞬間だった。
「えっと・・その・・」
「・・・・・・・・・」
思いもしなかった再開に言葉が出ない。ましてセリスは声を聞かなければ誰かわからなかったぐらいに綺麗に変身している。互いを大いに気にしながらも、二人は無言のまま席についた。
「あの!」
二人の声が重なる。
「さ、先に言っていいよ」
「ろ、ロックの方からお願い」
一呼吸おいてロックが話し始める。
「きょ、今日はどうしてここに!?」
まさかセリスも価値のある楽器に興味があるわけではあるまい。
そう思っていたからこそロックはセリスへ質問する。
「リムル達に・・誘われて。それで来てみたら劇場は貸切になってるし、服も着替えさせられるし。そういうロックは?」
「俺は珍しくエドガーに誘われて・・・ん?」
ここまで言いかけて、ロックは何かおかしいことに気付いた。
タイミングが良すぎるそれぞれのオペラ座への誘い、二人だけの貸切・・・
「あいつら!わざとやりやがったな!!」
事の真相に気付いたロックがエドガーを追おうと席を立ったその瞬間
ビー―――――!! 上演開始の音が鳴り響く。
「あ、始まるみたい・・。せっかくだから今はオペラを楽しんでいきましょ。
それとも・・私とじゃ嫌?」
自然と上目遣いでロックを見つめる。これにはロックも
「あ、ああ。わかったよ」
と言って、席に座りなおすしかなかった。
そしてオペラが上演される。
「・・懐かしいな」
「本当・・。あそこに私が立って演じてたなんて、今じゃ信じられない」
二人は当時の事を思い出し、顔を見合わせ、そして笑った。
「あの時の、舞台に立ってたセリス・・。綺麗だったな」
オペラを鑑賞していてつい口にした言葉だったが、その言葉に反応したセリスは
「あら、過去形なの?・・・今の私は??」
とするどい言葉を投げかける。ロックは少し慌てながらも
「もちろん・・・・き、綺麗だよ」
肝心の言葉は小さくなってしまったが、それでもセリスは満足だった。
「うふふ。ありがと、ロック」
「な〜んか良い感じじゃない?あの二人」
二人を覗いてたリムルが口を開く。
「セリス、幸せそう。なんだかうらやましい・・」
「ふっ、ティナがその気になれば私はいつだって・・・」
「はいはい、口説きはそこまでだよ、王様。けど、ホントにいい表情してるな二人とも」
セッツァーがその後に、こういう調子のときあいつにギャンブルをやらせれば楽勝なんだけどな・・と付け加えたのはご愛嬌である。
そのときリムルが
「あれ?」
天井を見上げて不思議そうな顔をしている。
「どうしたの?リムル」
そのことに気付いたティナが質問すると
「何だか、天井裏のところで何かが動いた気がしたんだけど・・気のせいみたい」
「そう?ならいいのだけれど」
しかしそれは気のせいではなかった・・・・・。
「ねぇ、ロック?」
しばしオペラに夢中になっていたセリスが口を開く。
「ん?何だい??」
「このオペラが終わったら、私と一緒にコーリンゲンに来て欲しいの。ダメ・・かな?」
ロックが小さくエッと驚きを口にする。しかしセリスにはそれも承知の上だった。
「でも、それじゃ・・」
ロックが言いかけたところで、セリスが再び言葉を続ける。
「今は何も言わないで。ただ、私と一緒に来てくれるかが知りたいの。お願い・・」
少し考え込むロックだが、すぐに顔を上げて
「わかったよ。一緒に行こう」
そう言ってくれた。
セリスにはその言葉がたまらなく嬉しく、心ではますますロックの事でいっぱいになっていった。
「ありがとう・・ロック」
「セリス・・」
そしてオペラがグランドフィナーレを迎えようとする頃とほぼ同時に、二人の唇の距離がだんだん短くなっていく。
そして二人があと数センチというところで
「危ない!!」
異変に気付いたロックがそう叫び、セリスをかばい抱き寄せる。
ヒュ〜〜〜〜〜ン、ドスン!!!!
「きゃあ!」
「セリス!大丈夫か!?」
重低音の正体は500tの錘であった。
それはセリスが先ほどまで座っていた場所を直撃していたのである。
この錘はかつてオルトロスが落とそうとしていたものであった。
「誰だ!!こんな馬鹿げたことをする奴は!!!」
天井を見上げロックが一喝する。よく見ると見慣れた姿、そして声が聞こえてきた。
「むっき〜〜〜!!まさか失敗するなんて〜〜!!!!」
「お前は・・」
そこまでロックが言ったところで続きの言葉は別のところから聞こえてきた。
「あ〜〜!オルトロス!!!」
リムルが大声で叫ぶ。先ほどリムルが気にしていたのはこれのことだった。
「貴方達、どうしてそんなところに・・。セッツァーまで」
「んなこと言ってる場合じゃないだろ!まずはあのタコを叩くぞ!!」
全員が戦闘体制に入る。そして誰もいなくなった舞台へじりじりと追い詰める。
「こら!タコって言うな!!僕にはオルトロスJrという立派な名前があるんだ!!」
と精一杯自分を主張するが、もはやメンバーに聞く気は無い。
「で、われわれに勝てると思っていると!?」
セリスは着替えてしまっているために戦闘には参加できないがそれでも5対1である。
と、いきなり
「あ〜〜!!あんなところにケフカの裸の銅像があるーー!!!」
「え?」
五人いっせいにオルトロスJrが指す方向を見つめてしまう。
「ロック、危ない!」
離れていたために引っかからなかったセリスが大きな声をあげる。
しかし、そのときは既に遅く
「今だ!こんの〜〜〜〜!!!」
オルトロスJrが一気に墨を吐く。
そのせいで五人はもちろんの事、舞台はすっかり真っ黒になってしまった。
「このっ、ふざけた真似を!」
しかしエドガーが顔の墨を落としたころにはオルトロスJrの姿はなく・・
『うひょひょ、また来るよ〜〜〜ん』
と墨で雑な字で書かれていた。
「ゆ、許せん!草の根わけても探し出してやるぞ!!みんな手伝ってくれ!
すまないがロックとセリスもだ」
「別にあんくらいの奴ならほっといても・・」
「何か言ったか!?」
「べ、別に何でも・・」
エドガーの気迫におされロックもしぶしぶ了承する。
「よし、ではすぐに飛空挺に乗り込むんだ。急げば追いつけるかもしれん」
そういうとエドガー達はオペラ座を後にした。
「ごめんな、約束・・したのにな」
出遅れた、ロックがセリスに謝る。
「・・・しかたないわ、事情が事情だしね。ほら、私たちも行きましょ。貴方はちゃんと私を守ってくれる・・でしょ?」
「ああ!セリスは俺が守る!!」
とロックが誓いを口にする。因みにセリスの顔が真っ赤になったのは言うまでもない。
外では飛空挺の準備が整ったのか二人を呼ぶ声がする。
「ほら二人とも〜!!早く来ないと置いて行っちゃうよ〜〜!?」
「わかってる!今行くよー!!さ、セリス」
「ええ!」
セリスが良い返事をし二人も飛空挺へと向かっていった。
(また、助けてくれて本当に有難うロック。
私、貴方を好きになって良かったって心から思えるの。
辛いことも楽しいこともこれからは一緒に共有していくことが出来たら、どれだけ幸せだろう。
これからもよろしくね。大好きよ、ロック!!)