ネクロマンサー
何だ?ここは・・・
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草しかないんですけど
オイオイもしかして迷子ってやつかあ?
まさかね、そんなバカな・・・わはははは
だけど・・・周りは草で、ずっと先も緑だらけで
まてよ!?本当にここどこなんだよ
なんでそれを先に思いつかなかったんだよ!俺は!
ん?誰だ?そこにいるのは?
え・・・もしかして
ちょ、ちょっと待ってェー!
うんうん。それで?どうなったの?
『マッシュ!起きろ!』
誰か呼んでるなあ。誰だ?
「起きろ!いつまで寝てるんだ!」
怒鳴り声がする
白く透き通る光が、目の中に取り込まれる
「ん・・・・?」
光量が落ちると、そこにはエドガーの姿があった
マッシュはきょとんとして、ただ兄の姿を見ているだけであった
「何だよ・・・?」
「お前が起きないなんて珍しいなと思ってさ。八時だぞ」
「もう八時なのか?おかしいなあ・・・ぼうっとしてるや」
ひとまず、気を取り直して近くの椅子に座る
テーブルの上に飾られている紅い薔薇を一本手に取り
花びらを一枚ずつ数えながら落としていった
「マッシュ・・・どうしたんだ?お前らしくない」
「んー。実はさあ」
マッシュは辺りを見回して
「親父の夢を見たんだよ。でも、なんか切なくてさあ」
エドガーは目を輝かせて、マッシュに近寄った
「どんな夢だった?」
「草原っぽい所でさあ、よーく分からないんだけど
恋の話とかしてたかな。兄貴が起こしちまったから、後はわかんねえや」
「へえ。でもいいよなあ
父上の夢を見られるなんてさ。滅多にないことだ」
(俺ってラッキーかもね。)
マッシュはその場に立ち上がり、精一杯背伸びをすると
いつものセリフを投げかけた
「飯だァー!」
食欲旺盛のマッシュにとって、食事は一番の楽しみ
スキップをしながら階段を駆けていった
「マッシュ・・・お前には負けるよ」
エドガーはゆっくりと階段を下りてゆく
自分が今立っているのは、子供の頃何回も往復していた階段
図書室から自室へ行くには、必ずこの階段を使わなければいけない
(フ・・・変わらないな。この城も)
いつぞや、口にしていたマッシュの言葉
父が亡くなって自分が王位を継ぐ身になるのは既に考えていたことだった、が・・・
十年後に再会したマッシュは、エドガーより背は高くなり
逞しくなって帰ってきてくれた
なにより、エドガーは自分の支えになってくれる弟がいて
喜ばずにはいられなかったのだ
エドガーはマッシュと離れてから十年間
一秒たりともマッシュの事を忘れはしなかったのである
その思いが磁石のように引きつけたか、あるいは運命だったのか
考える必要も無くなったのだ
「なあ、マッシュ」
部屋に着いたエドガーはマッシュの隣りの席に座って呼びかける
「なあに?」
「今日さあ、久しぶりに墓参りに行かないか?
お前と再会してからまだ一回も行ってないだろう?」
「そうだなあ。あれから十一年か・・・長いもんだな
あの時はまだ子供だったし・・・だだこねてたし・・・あーやっぱ恥ずかしい」
「変な想像するなよ」
エドガーは父親の形見のコインを懐から出して、親指で弾いた
テーブルの上でボールのようにはじけて、表の絵柄を表示した
「さて、私は少し仕事があるから、またな」
「兄貴。それでいつ行くんだい?」
「昼からでいいか?それまでに仕事を終わらせたいんでね」
「分かった!俺は修行しましょー」
マッシュはテーブルの上にある形見のコインをエドガーに向けて弾いた
見事に高く跳ねてエドガーの左手に行き渡る
やはり表が出た
「このコインには偽りがあるさ。裏がないんだからな」
「人間も、表だけじゃないしね」
口の中にパンを詰め込んでいたマッシュは、勢いよく飲み込んで喉をつまらせた
(苦しいー!水ー!)
グラスを手にして水を押し込み、ようやく落ち着いた
「物事にも裏があるくらいだからな。どんなことにも裏はあるんだぜ!兄貴!」
フィガロ城より西一帯に建つ貴族の墓地
代々フィガロ一族はここの地に埋葬されるようになっている
「なあ・・・埋葬は分かるけどさ、土葬ってなんだよ?分からねえや」
「土葬ってたしかそのまま埋めるんだろ?まあほっといたら腐るな」
「よかった・・・それだけは嫌だ。まあ俺たちも死んだらここに埋葬されるわけだろ?」
「そうだろうな」
パルテノンを思わせるような建物の中に、二人の父母は埋められている
そもそも、王族は十字架の下に埋められるのが常識らしい
「ここだ・・・久しぶりだな」
高級石で飾られた階段
一つ一つ上がるたびに二人の脳裏に交差する思い出
「はあ・・・十字架かあ。神さんもよくこんなもの創ったよなあ」
「マッシュ・・・そんなこといってるとバチあたるぞ」
渋々とついて行くマッシュは、手をもじもじさせてお墓から少し離れている
エドガーがお墓の前に花束を置くと、懐からナイフを取り出した
「なにするんだ?兄貴」
「ちょっと髪の毛を埋めちゃおう。供養になるかな」
ナイフを髪に当てて、そのままばっさりと切ってしまった
「もったいない」
「まあまあ、髪の毛は時が経てば伸びるしね。永久に伸びません、生えませんじゃないし」
マッシュが手を組んでじろじろと兄を見つめる
「でもさあ、そのほうが男に見える・・・なんちゃって」
「・・・・・それは誉めてるのか?」
「さあね!兄貴がどう受け止めるかじゃないのかな」
金色の髪の束を青のリボンでくくりつけて
花束といっしょに添えてやった
「こんなもんだろう。マッシュも切るか?」
「俺は兄貴みたいに髪長くないから、切る分がないだろ?
それに、恥ずかしいんだよ」
さっきからマッシュの顔が赤に染まっているのは、エドガーも分かっていたが
理由は分からなかったので問いだす
「何で?」
「ほら、急にでかくなったみたいでさあ。親にあわす顔がないよ」
「お前らしいな」
そう言うと、急にマッシュはこんなことを言いだした
「・・・・思い出すなあ。よく親父に遊んでもらってたな」
「そうだな・・・剣技も教えてもらったっけ・・・
母上は顔はわからないけどさ・・・父上が言うにはとても優しい人だったとか」
エドガーは十字架を手で撫でて汚れを落とす
足で地を踏んでみると、堅くて煉瓦並である
「出ようぜ!俺たちにはまだすることが・・・しなきゃいけないことがたくさんあるだろう」
「そうだな・・・一日でも早く国を安定させないといけないしな」
炎天下の日
全てが、太陽に飲み込まれた世界
今、何かが起きようとしていた
その夜は、しっとりとした雨に変わっていた
恵みを齎す雨がオアシスに注がれ
人々の迷いの心を、光へと導いてくれる
エドガーは陽気にワインのグラスを回していた
指一本で回すテクニックは、父親から学んだ芸でもあるのだ
「最近雨が降ってなかったなあ。これで涼しくなるかな
いや、湿気がでるからその逆だな」
「エドガー様・・・」
王間にいる大臣は、窓の外を眺めている
「雨って、大切なものですよね。人々に潤いを与えてくれる」
「そうだな。私は雨が大好きだ。
心が澄みきって・・・こう・・なんか、軽やかになる
私たちが生まれた日も・・・真夏だったのに、雨だったらしいよ」
グラスに注がれたワインは、蒼く湖の色に似ていた
エドガーが大人になってから毎日のように口にしているワインは各別なもので
貴族でも滅多に口にしない
「よく降るね・・・明日までに止むだろうか」
「この分だと、今夜は豪雨でしょう。天空の神様がお怒りになったのでしょうか」
エドガーは口にしていたワインを飲むのを止めて
コインを弾く。裏の絵柄だ
『このコインには偽りがあるさ。裏がないんだからな』
(マッシュ・・・確かにそうだな。普通のコインには表裏はあるさ)
弾いたコインを指で擦ると、金の生温い匂いがした
「お祈りしてくるよ。今日は本当にお怒りになっているかもしれないね」
(バチがあたったかな)
なにやらブツブツ独り言を言いながら、王間を出る
「兄貴ー!」
下からマッシュの声がしたのを確認すると、手招きで誘った
「寝てなかったのか?もう二時だぜ?」
「ああ、今からお祈りしてくるよ」
マッシュが一瞬、窓の外を見やる
「雨が激しいな。何かやばいぞ・・・この雰囲気」
ゴゴーン
稲光がくっきりと見える。どうやら遠くの山に落ちたようだ
「オー怖!俺雷嫌いなんだよな、俺もお祈りしてくよ。バチがあたったな」
フィガロ城の中にある礼拝堂へと向かう
明かりはつけたまま
シンプルなつくりになっている
ここで毎日牧師はお祈りするわけだ
「はあ・・・ここにくると眠くなるんだよな・・・」
「マッシュ・・・お前いつも寝てたのか?駄目だなあ。だからバチが当たるんだよ」
エドガーは土台に立つと、まず瞑目
主の祈りを捧げる
「兄貴・・・・」
マッシュの声が飛んできた、が、弱々しく聞こえる
「どうした?」
「これ・・・これってもしかして・・・」
「ぎゃあー!!!でたあー!!!」
マッシュが驚くのも無理はない
生来からの自分と同じ蒼い瞳(め)、清流を見る金の糸
傍にいるのは、まぎれもなく父であった
「なんで・・・なんでここにいるんだよ?ちょっと待ってくれ
夢じゃないよな
殴ってみよう。でやあ――――――!!!
痛い・・・」
「お前何ブツブツ言ってるんだ?誰かいるのか?」
それを聞いたマッシュは、あっけにとられたように動かない
心身共に一時的な麻痺状態に陥った
「・・・おい、マッシュ?どうしたんだよ?誰もいないじゃないか」
「そこ・・・そこにいるだろ?親父がさあ」
マッシュが手を震わせながら一方を指差す。エドガーの後ろだ
エドガーはもう一度辺りを見回す
そして、マッシュが指を差した自分の後ろを振り返った瞬間
「・・・・・・」
形にできない言葉
「うわあああああ―――――――出たアアアアア―――――!!!○×△□!?」
後ずさりをするエドガー
(オイオイ・・・嘘だろ?)
誰もが疑うこの悲劇
亡くなったはずの父が今、この場に立ち尽くしているのだ
幽霊でもなく、足もしっかり見える
なにより、姿が見えることには仰天だ
「父上??」
エドガーは恐る恐る父親の身体に触ってみる
硬く、鋼鉄のような手がある。触れる
熱を持ってる、生きてる?
『いるんだろ?何か喋ってよ』
と言いたいところだが、二人のことはまるで見えてないようだ
したがって口にするには段階的に早いという判断がつく
『ウルルルル―――』
猛獣の声を上げ、二人は父親を肉眼で捕らえる
「何言ってんだ?訳が分かんない」
急にエドガーに襲いかかって、右に差し込んでいた剣を抜く
切っ先をエドガーに向けて力一杯振り下ろした
「ちょっと待て!!どうなってんだ!?」
手で刃物を受け止めたために、手から血が滲み出た
血の匂い
甘く、熱くどん底に落とされたような気分になる
父親に傷つけられたこの痛み
生身の痛みよりも、精神の痛みが強く伸し掛かる
「兄貴!!大丈夫か?」
「ああ、だけどこんなことはありえないんだよ!『蘇る』なんてあるはずがないんだ!!」
「俺も疑いたいよ!!だけど今、本当にいるんだぜ?
なんで親父が俺たちに敵対するんだよ?」
今度は剣をマッシュに向けて横切り
目を白黒させて異変を思わせている
「親父――――――――!!!目を覚ませ!」
下の隙間に入り込んで、肩をつかむ
空中に高々と跳び、真下に墜落させる
「メテオストライク!!!」
背中から入り、直撃
「マッシュ!思い出せ!コインだよ、コイン」
「はあ?」
「どんなことにも裏があるって言ったのはお前だろう!今この状態が表なら?」
「ええーっと・・・裏なら・・・もしかして・・・操ってる奴がいる?」
マッシュは目が飛び出る勢いでエドガーに視線を合わせる
「近くにいるはずだ・・・引っ張り出してやる。マッシュ、ちょっと我慢しろ!」
エドガーは礼拝堂を出てなにやら機械を持ち出すと
部屋中に噴射した
「コラー!毒をまくな!苦しい・・・」
バイオブラスト
毒をあたりに撒く機械だが
使い方を間違えるととんでもないことになる
例えば今のようなマッシュのように、味方に害を及ぼすことだ
マッシュが窓を全て開けると・・・
『ゲヘ・・・・ナンダコレハ』
毒々しい鉛声がした
(誰かいる!!!)
「そこだな?出てこい!隠れているのはわかってるぞ」
マッシュが礼拝堂の中央のカーテンを開けると
白い物体が上から降ってきた
細かく、結晶のように形を成している『何か』だが
破壊された後の痕跡であった
「何だこれ?天井が壊れたかな・・・?」
見上げても、天井が壊れたというのはなさそうだ
穴が開いていないから・・・
「マッシュ触るな!骨だよ、それ!」
「げ――――――――!それ早く言ってよ」
手で骨を振り払った
おぞましくなって鳥肌が立つ
一部分しか見ていなかったから、周りは分からない
エドガーが言うには
『後ろを向くな!』
コレだけでは分かるはずがない
左右から壁が迫ってくるような精神の痛み
自分が保てなくなる
「何か音がしねえか?」
「マッシュ、やっぱり後ろを向け・・・・」
下に影ができたかと思うと、マッシュの頬に硬いものがぶつかる
その硬さは並みのものではない
後ろを振り向く間もなく、底なし穴に落とされるような力
『ワタシノオモチャニテヲダスナ!!』
壁に突きつけられる
二人が見たもの
足が骨丸出しの人間(ヒト)
紅の液体が地面に滴り落ちる
精気が肉眼で捕らえられるほど溢れ出ているのだ
「誰だ?お前・・・人間・・・なのか?」
首を掴まれているマッシュは必死に抵抗する
感触は煉瓦より脆く、白銀の固体が剥がれ落ちる
(・・・なんて怪力なんだっ・・・)
両手で相手の首を絞め返すと、歯で噛みついてきた
「う・・・あ・・・・っ!」
激しい痛みに、力が抜けていく
(もしかして・・・こいつ・・・痛みを感じていないのか?)
『キモチイイ・・・ナントスバラシイチカラナンダ』
「何をブツブツ・・・言ってるんだ!?マッシュを放せ!」
剣の切っ先をヒトに向けて持ち直すと、難しい顔をする
身体の中に別の何かが・・・・血液とは違うものが流れているのを感じる
(おかしい・・・何だ?意識が・・・まさか!)
『マッシュ?コイツノコトカ?フン・・・カエシテヤルワ』
その場で高速回転
遠心力が増して、エドガーに向けて投げつける
「わー!」
身体全体で受け止めると、芋虫状態になった
意識がハッキリすると、すぐ様状況をつかむ
「兄貴・・・・大丈夫か?」
「マッシュ、重いぞ・・・」
「ごめんごめん・・・」
マッシュはエドガーがクッション代わりになったために無傷だったが
逆にエドガーは自分より体重の重いマッシュの下敷きになったのだ
首を絞められていたにもかかわらず、呼吸が正常に戻っている
「親父を操ってたのはお前だな?せこい野郎だ!」
マッシュはさっと体勢を持ち直すと、拳をぎゅっと硬く握る
「マッシュ!!待て!コイツ多分『ネクロマンサー』だぞ。死体を操ったりするんだ!
他にも何か持ってるかもしれない。容易に近づくな!」
マッシュにはこの言葉が耳からすり抜けたようで
全く耳に入らない
次の瞬間にマッシュは飛び出していた
「マッシュ!」
エドガーは手を精一杯伸ばし掴もうとしたが、距離がありすぎて止めることはできない
『バカナヤツ、オマエモコノオモチャト・・・・オナジウンメイヲイキルノダ!!』
突如マッシュの眼前に来たのは骸骨の手で
自分が打ち倒したはずの父親であったのだ
「く・・・う・・・」
手が目の十センチ前まで迫ってくる
「・・・いやだよ。いやだ・・・・イヤだああーーーーー」
とっさにマッシュは、ボロボロになった父親にしがみついていた
「やめて・・・・やめてよ!!どうしてこうなるんだよー!」
身動きできない父親は、とにかくこの状況をなんとかしようとじたばた暴れる
胸のあたりに見える奥深くまで刺さった剣の痕
身体が骨だけでカスカスでも、死直前の形は残っている
『キサマ、ナニヲシテイル!?』
「もう・・・もうやめよう・・・やめようよ・・・分かってるだろう?親父!
立っちゃいけないんだよ!!
もう・・・寝ようよ。疲れただろう?」
かまわずに、しがみつくマッシュ
ゆっくりと動きが鈍くなって、手からこぼれ落ちてゆく骨の欠けら
マッシュは父親の身体を生で感じたのだ
それが、たとえ自分が大好きだった父親であっても
この世に存在することはできないという無念の思いが募る
マッシュの目から透き通った光が流れ出していた
『ウ・・・ウアアアーーーーー!!!!』
輝きを増した光は心の渇きを潤し、安息の地へと招待する
『ハ・・・ナンダ?コノアタタカイノハ・・・?』
今度はエドガーがネクロマンサーに取り付き、耳元で呟く
「お前も・・・そうなんだな。親父と同じように死んでるって
分かるさ。でなきゃ足がこんなことはないだろう
お前も・・・一緒に行けるだろう?
寂しいなら・・・俺も連れていったら良いさ」
手でしっかりと握った身体が崩れてゆく
原型が無くなる
天へ導く線が、エドガーの身体を白く染め
羽が生えたように軽やかになる
『オマエハ・・・ドウシテ、ジブンヲギセイニスル?』
「慣れてるからさ。嫌というほど・・・
そうすると弟が悲しむけどさ・・・憎むなって
本当に・・・私は確かに自分を憎んでいるよ
自分が生まれたせいで、弟は病弱になったんだからな
私を必要としている弟がいるのに何もしてやれないのでは、兄として失格さ
犠牲になるのも悪くない。自分が選んだんだから」
「兄貴・・・?」
急に笑んでいた顔が歪み
目を静かに閉じた
「さあ、私と行きたいのなら自分の手で殺さないと行けないぞ
そのままここにいるのもありだしな」
「兄貴!!何言ってるんだ?正気かよ!」
ネクロマンサーの手に剣を持たせてやると
力を萎めた
(もう・・・何も抵抗しないさ・・・君の自由選択だよ)
「兄貴――――――――!!やめろ!」
鋼の剣が秒ごとに近づいてゆく
マッシュは耐え切れなくなって、目も開けられない
快楽のトキ
手が迫ってゆく
時間が・・・ゆっくりと流れて、長く感じるこの瞬間
『キ・・・キレナイ・・・・コイツダケハ。ドウシテキレナイ?』
ネクロマンサーは静かに剣を下ろすと、エドガーに抱きついていた
掴み取った身体が、優しく迎え入れる
短く切った金髪が顔を何度も触る
『ヤラナクチャイケナイノニ・・・キレナイ・・・』
すすり泣くような声
(・・・やっぱり寂しかったんだな)
「殺らなくちゃならないことはないさ・・・君が望むなら
さあ、君へのオアシスが待っているよ。ゆっくり・・・おやすみ」
蒼く輝く瞳が、白と混ざり合い
安息の地へと招いてゆく
天使のような柔らかく、優しい微笑を荷物に・・・
やがて光は絶え、そこには何も残らない
「兄貴・・・これは夢だったんだよ。忘れよう」
「・・・そうだね。さて、雷も止んだし・・・寝ようかな」
潤いを与えた雨は取り除かれ、怒りも静まった
悲しみを和らげるのは、接する優しさ
三時を過ぎたその夜は、全てが夢幻になったのだ
「マッシュ、一つだけ聞いていいか?」
エドガーは寝室前で輝きを落としつつ尋ねる
「なんだい?」
「どうして・・・『死ぬ』って分かっていて『生きよう』とすると思う?」
(・・・・・・)
「ごめん!変なこと言ってしまったな。忘れて・・・おやすみ。ゆっくり休めよ」
「俺はこう答えるけどな」
マッシュはエドガーに優しく微笑んだ
扉を開けた時の光が、まるでオーロラのよう
二人の見つめ合った瞳の輝きが何倍にも増していった
『死ぬということより、生きる思いが強いからさ。生きていると何でもできる
これは兄貴から学んだんだぜ。誓いあった約束。生きようって・・・忘れたか?』
『ふ・・・そうだったな。お前らしい回答だよ』
そう言って二人は再びかたく誓いを立てようと、お互いに金のコインを弾いた
written by さっきー
2001.8.3 さっきー様より