――ここは……どこだ? なんて暗く、冷たいところなのだろう……
ザルバッグはぼんやりとそう思いながら、とりあえす手を動かしてみようとした。だが……
――動けない!? オレは敵に囚われたのか? ここは……牢か?
一気に意識がはっきりする。だが、自身を取り巻く闇のように、記憶もまた沈黙していた。
いったい何があったのか、まるで思い出せない。
愕然とした。
「これ以上、貴様に付き合っているヒマはない……」
――声? どこからだ。
とっさに拷問係かと思った。ザルバッグは、戦局を大きく変えることになる貴重な情報をあまりにも多く持ちすぎている。敵もそれを手に入れるためなら手段を選ばないだろう。
だが、声は彼以外の誰かと話しているようだった。
「貴様にはここで死んでもらわねばなるまい。我が忠実な僕(しもべ)たちが貴様の相手をしてくれよう……」
――オレ以外にも誰か捕らえられているのか?
「……ちょうどあつらえたようにここには棺がある……。貴様もここで永遠の眠りにつくがいい……」
――棺? ではここは教会か墓地か? 土のにおいはしないが……教えてくれ、オレはどうしたのだ? 何も見えない、何も思い出せないんだ。
「そして……、貴様の相手は」
――何?
「この男がする……」
闇が動いた!?
「ザルバッグ兄さんッ!!」
――兄……さん? オレを兄と呼べるのは、この世に二人しかいないはずだ。
「この男は貴様の兄にして、我が眷属の一員として生まれ変わった……。この男と戦えるかな……?」
高笑い。それにまぎれて悔しそうな叫び……オレを兄と呼んだ男の――。
――そこに弟がいるのか? 生まれ変わったとはオレのことか? 眷属……なんの眷属だ? 頼む、教えてくれ。
「ザルバッグよ……、目の前にいるその小僧を殺せ……! 生きてこの寺院から出すな!!」
――小僧? 弟のことか? 寺院と言ったな、この闇の世界は実はどこかの寺院なのか?……わからない。いったい、今、何が起こっているのだ?
そこに今誰かいて、殺さなければならないのか? 敵なのか、その男は。
いや、弟か。
オレの……弟?
名はなんといった?
その男の、弟の名は?