絆 この夜のどこかに貴方がいればそれでいい fin あとがき
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「頼む」
エドガーのその一言が俺を驚かせた。
世界が崩壊した日、ブラックジャックと共に俺の夢も失った。飲んだ暮れの日々を送っていた俺の前に、エドガーとセリスが現れた。
「生きていたか…」
二人が生きていたのは奇跡だ。この俺もだが。みんな死んでしまったと思っていた。
ケフカを倒しに行こうとセリスが言った。翼と夢をなくしちまった俺は首を縦には振れない。
俺は何でこの旅に便乗したんだ? 退屈凌ぎだったよな。そのはずだった。だが、あいつらが眩しすぎて。大勢の人と接してきた俺だったが、あんな奴らはこれまでに遭ったことがなかったんだ。
黄金の髪と空のように透きとおった青い瞳を持つ砂漠の兄弟。太陽のように眩しい笑みを浮かべる弟。その弟を見る兄の瞳は神々しいまでに美しく魅了する。そんな二人の世界を救うという強い意志に靡いた。
「俺は…夢をなくしちまった」
「世界が引き裂かれる前に、あなたは私たちと必死に戦ってくれたじゃない」
「あぁ。そうだったな。何で戦いに付き合っていたんだろう」
俺は溶けかけた氷で汗をかいたグラスを片手に琥珀色の酒を飲み干した。
「もう一度、私たちの夢につきあってくれないか?」
そういったエドガーはほんの少し痩せてしまっていた。青い瞳は変らず澄んでいて神々しい。だが、彼の端正な顔から笑みが消えていた。
「頼む」
エドガーのその言葉に俺は一笑してみせた。
「王様に頼まれるとはな。世の中変っちまったな」
出遭ったときは、フィガロ王だから褒美はたくさん出すなどと言ったエドガー。最初は鼻につく野郎だと思っていた。王様は何でも自分の思い通りになる。俺が最も嫌っている奴等の一人だ。だが旅を続けている間に俺の固定観念が変った。フィガロの兄弟は例外だった。王族に生まれた気品を備えつつ、他人に対して愛くるしい笑顔と気遣い。そんな二人に影響されたのか、俺は世界を見る目が広がった。
頼まれるのは悪い気はしない。だが、エドガーからその言葉を聞いたことに驚いた。
仲間を探してケフカを倒しに行く。エドガーとセリスの強い思いに再び俺は便乗して、封印したファルコンを空に放った。
仲間達の僅かな情報を元に、世界中を飛んだ。どこへいっても崩れた家や瓦礫の山。殆どの村や町は死んだようだった。
どの町も寂れていて、宿で部屋を借りる事すら困難であった。ファルコンは各部屋があり不自由はない。だが小さな町や村ではそうはいかない。セリスの部屋を優先して確保し、俺とエドガーは小さな部屋で寝ることが多かった。
エドガーは他人に寝姿を見られたくないのか、俺が眠りに就くまで、いつも机に向かって仕事をしていた。
ツェンの時も俺に背を向け机に向かって仕事をしていた。
俺は夜になると酒場に入り浸る。場末の酒場では、珍しくセリスがひとり酒を飲んでいた。俺はその日、初めてマッシュの事を聞いた。セリスは目に涙を浮かべながら俺に話した。少し酔っていたようだ。
部屋に戻るとエドガーはいない。セリスに聞いた屋敷の跡に行ってみると、やはりそこに彼はいた。
蒼い月明りが瓦礫の中に佇むエドガーを照らしていた。白いシャツの背中に流れるような金の髪が眩しい。少し離れたところからでもわかる、長い睫毛。俺は声をかけるのに躊躇したが、思いよりも先にエドガーに近付いていた。
「セリスに聞いた」
エドガーは振り返って俺を見たが何も言わない。シャツの袖と手が泥と煤で汚れている。殆ど跡形もない瓦礫を、その白い手で掻き分けたのだろう。
「それは?」
エドガーは握り締めていたものを俺の掌に置いた。白金にいくつものサファイアが埋め込まれている腕輪だ。
「15の誕生日に父上から頂いたものでね。それは元は私のもの。RONIと彫ってあるだろう。私のミドルネームでね。家族でしか知らない名前」
「こちらは、RENE。元はマッシュのものだった」
とエドガーは腕に着けていた同じ腕輪を外して俺に見せた。
「マッシュが城を出る時に交換したんだ。離れ離れになったことがなかったんでね。離れていても忘れないようにって」
それからエドガーは自分のものとマッシュのもの、二本の腕輪を左の腕に着けた。
セリスの話では、あの屋敷は燃え盛る火の海に崩れ落ち、助けた子供と共にやっとの思いで脱出したそうだ。
セリスや村人達の消化も虚しく、柱を支えていたマッシュは、数日経っても現れなかったという。
瓦礫の中からマッシュの着けていた腕輪を見つけたエドガー。“いつも”の笑みを浮かべた。
弟が死んだと聞かされても、顔色を変えることはない。他人には見せない真の顔は、一体どこに隠しているんだ?
王様は、人前で泣いたりしないのだろうか。エドガーのいつもと変らぬ口調や仕草に俺は言葉を失う。
わからない。だがエドガーという人物に魅かれて行く。
つねにポーカーフェイスなエドガー。俺たちの前で感情を剥き出しにしたことはない。俺はエドガーの“素顔”をを見たくなった。
数日後カイエンを探し出して、ファルコンはフィガロへ向かった。エドガーが一旦、城に戻りたいと言った。
フィガロ城は何やら朝から騒々しい。広場にはサウスフィガロからやってきた人々が集まっていた。
「今日は私の誕生日なんだ。昨年は城に戻ることができなかったが、毎年国民が祝ってくれるので、“私たちが”生まれてきた日に感謝をするんだ」
純白の衣装、白いマントで正装したエドガーに王様の威厳を感じた。
エドガーがバルコニーに立つと、『エドガー様!』『フィガロ万歳』と国民達からの声が高まる。
エドガーは世界が崩壊してしまったことを詫び、こんな世の中だが、未来を信じて建てなおす事を誓った。
「なぁ、セリス。エドガーは王様なんだな」
「何を今更?」
「エドガー殿は若かりし頃に即位されて、その頃から立派な王様でござる」
エドガーが国民に愛される王であるのが判った。あいつはポーカーフェイスと思っていたが、あの笑顔は真に笑っている。民と国を愛しているんだ。そんな大切なことを背負って世界を救う旅に出ているエドガーを羨ましく思った。あいつの夢は俺たちの夢でもある。
その夜、エドガーはプライベートの部屋に俺たちを招いた。極上のワインとフィガロの料理。明日から、また旅に出るから今日だけはゆっくり寛いでくれと王様のはからいだ。
日付が変るまであと少し。エドガーはやっと仕事を終え、王様の衣装を脱いで部屋にやってきた。
「遅くまで大変だな」
「お疲れでござる」
「お誕生日おめでとう、エドガー」
「ありがとう。今年は君たちに祝ってもらえて嬉しいよ」
ここにマッシュがいないことは誰も口にしない。
俺たちは久しぶりに酒に酔った。
「ガウはまた獣と遊んでいるかしら」
「ロックはお宝探しに行っているんだろうな。早く探さねばならないね」
エドガーがそう言うとセリスは白い頬を赤らめた。
「マッシュ殿は今も昼夜鍛えているでござるかな」
カイエンはマッシュのことを聞かされていない。俺とセリスは表情を変えた。
「そうだろうね」
エドガーは今日、国民に見せたような笑顔を浮かべた。蒼い瞳はドアの方を向いた。
「兄貴!」
俺とセリスは面食らった。まるで演出のような登場だ。
「幽霊?」
セリスが俺に耳打ちした。
「間に合ったね」
「兄貴!!」
マッシュはでかい腕でエドガーを抱きしめた。
「生きていたんだ!」
マッシュは子供のように泣きじゃくった。
「レネーも生きていると信じていたよ」
エドガーの蒼い瞳が少し潤んで見えた。
「マッシュ!」
「セリス、ごめんな。俺、無意識にテレポ使っていたようで。気が付いたら、知らない場所にいて…ずっと心配だったんだよ、セリス無事でよかったよ!」
「心配させやがって」
マシュはきょとんとした。
「マッシュ! 死んじゃったかと思った」
「あはは。俺が死ぬわけないだろう」
マッシュは太陽のように眩しいほどの笑顔を見せた。
「マッシュ。こんな大事なものを落とすんじゃないよ」
エドガーは左腕から一つ腕輪を外し、マッシュの手首に着けた。
「兄貴拾ってくれたんだ。ありがとう。なくしちまったと思って親父に謝ったぜ」
「マッシュ殿も、お誕生日おめでとうでござる」
「ありがとう、カイエン。俺、去年から誓ったんだ。これからは、ずっと兄貴と一緒に生まれた日を、祝うんだって」
マッシュの笑顔にほだされ、俺もつられて笑った。
「間に合って良かったな」
俺たちは夜更けまで飲んで騒いだ。
早朝、ファルコンは世界を救う旅に再び空に浮かぶ。
甲板では金の長い髪を靡かせ空のように青い瞳を持つ王様が世界を見下ろしていた。
「エドガー…一つ聞いていいか?」
「何だい?」
「マッシュが生きているって、何でわかたんだ?」
「絆だよ」
「絆?」
「双子とは特別なのかな。片割れが何をしているかわかるんだ」
「双子か……」
「セッツァー」
エドガーが俺に眩しい青い瞳を向ける。
「旅をして仲間達とも絆ができた。みんな生きているとわかる」
「ああ。お前が言うなら、そう信じるな」
不思議な奴だ。エドガーが笑えば、そこに幸せの風が吹く。
フィガロ兄弟の笑みをずっと見続けたい。だから、俺も再び夢ができたようだな。
8月16日。フィガロ兄弟が生まれた。彼らは多くの人に幸せを齎すために生まれた。
フィガロ兄弟が生まれたことに感謝だな。
幸せの風が俺の髪と頬を撫でた。
Dear Edgar & Mash!
今年もセッツァーさんの語りで
フィガロ兄弟(というか陛下メイン?)を
祝ってみました。昨年は何もなしでしたが
今年は間に合った(^^ゞ 久々にSSを書きました。
何だかベタな話ですね(苦笑)
王様の衣装を着て、国民の前に立つエドガーを
はじめて見たセッツァーが、
フィガロ王だと改めて見直して
今まで以上に彼に魅かれるという
ところを書きたかったので、このSSができました。
それと、裏設定(ボツになったもの)で、マッシュが
タイムオーバーで死んでしまって、後にエドガーが
夜中に一人で瓦礫を掘るというイベントがあったようで
ずっとそれを書いてみたいかな…と思っていたんですけどね…
ちょっと暗い、お話になりますね。それはいずれまたw
2006.8.09 Louis
Wallpaper:水澄ましの歌様