風一夜
風一夜
そろそろ夕刻が迫ってきた頃だろうか…。 fin 今更ながらですが(謝罪)、4周年おめでとうございますv
橙という色は決して引けを取らない輝きがあることは私もよく存じている。
何よりも、自然が発する光はこの上なく美しいものだ。
隣の秘書室には行き交う人々も少なくは無かった。
私が主に執務として利用するこの部屋も例外ではない。
時に見せる女官の姿は、私には荒んで映る。
「陛下。お隣の部屋から…」
私が最も恐れている物が机上に置かれ、収まりきらない為に床下にも散らばる様だ。
「ご苦労だった。お隣の皆にも、『今日はゆっくり休んで』と伝えてくれないか?」
彼女は椅子から立ち上がる私を直視するだけの余裕はあるようだ。だが眼は少しばかり霞んでいる。
「陛下はお休みになられないのですか…?」
「そうだね。片付けなければならない物が届いたわけだし」
「そうだとしても、少しお休みになったほうが…」
『私のためではないか』と問いだすのを止めたのだろう。
此処のところの私と言えば、食事はおろか睡眠も満足には取っていない。
無用だと見られるのは御免だという私なりの見解だ。
「陛下!謁見の間でロック様がお待ちですが…」
「そうか…では此処に連れてきてくれ。むさ苦しい場所は好まないようだしね」
遠くにカーテンを透けて夕凪だけが、何故か私の視界に入る。
思えば数年…海を間近で見ることなど遠き夢のように語ってきた。それは今も変わらない。
歴史が語るフィガロの王とは、私のような者ばかりである。
それだけに、私はこのような生活を強いられても苦悶であるとは思わない筈である。
もしかしたら、『苦』という文字は強者にこそあるのかもしれない…。
ロックが程なくして現れると、先ずは私の視線で全てを確かめようとするのだ。
「相変わらずだな。国王様」
「お前もそうだろう…何だ?随分物騒な包みだな」
ロックは月に一度、リターナーの密会報告や、情報収集、交換を目的として私の眼前に現れる。
勿論のこと、頼んだのは私だが…。
会うたびに生傷が増えているのは、絶えることなく探している秘宝を求めてのことだろう。
しかし痛々しい彼の身体とは打って変わり、冒険家としての話は、私の心を程なく癒してくれる。
「旅先の疲れと、お前の仕事疲れを取るためのものだ。お前宛のプレゼント…でもあるけどな」
「ありがとう。頂くとするよ」
包みを受け取ったのは良いものの、中身は重く、『割れ物』という印が押してある。それもその筈だ。
私の月に一度の楽しみとして、ロックが旅の途中で訪れた先の銘酒を持ち帰ってくると、少しずつ注ぎ語らいながら飲むのが常であった。
中身が酒と分かると開けてみたものの、数多の銘酒を口にしてきた私だが、このプレゼントにはラベルが一切貼られていない。
「綺麗な色だな。私の瞳色と同じ…しかしラベルが貼ってないのは何故だ?」
何かの冗談かとも思える。
「こいつは俺の行きつけのマスターにオーダーさせたオリジナルだ。勿論一個しかないから、この酒に名前なんて無い」
「無名か…勿体無いな」
プレゼントは夜にゆっくり飲むことにして、ロックの情報交換を先に聞くことにする。
そうでもしなければ、もう一つの目的で来た彼には申し訳ないものだ。
「ロック。夜付き合ってくれ。先にお前の仕事を終わらせたいだろう?」
そう伝えると、私達だけの密会が始まった。
*****
「足りないのは、火薬と紙ぐらいかな」
サウスフィガロの夜といえば、親子連れで煙火をする姿が目に付く。兄貴と一度体験したこともあった。
自分で作る感動というのは、誰でも清々しく思えるのだ。
何も俺が体験したいわけじゃない。
暑中という事もあって、海岸で遊ぶ子供たちもいるみたいだが。
「親父さん、此処に黒く済んだような火薬はある?」
サウスフィガロの誰もが、俺の顔と名前を知っているわけじゃない。
無論此処にいる店員さんも、初対面の感覚でいるのだろう。
「何かするのかな?爆薬はお断りだよ」
「花火…作りたいんだけど。それも遠くの人間が見れるようなでかいのを作るから、打ち上げるのに最適なものが良い」
どうやら注文付けすぎたようだ。打ち上げ花火となると火薬の詰め方を調整しなければならない。
「遠くまで見えるか。どれ位の距離になる?」
「大体、コルツ山からフィガロ城くらいまでになる。遠すぎるかな…」
「それは遠いな。上手くいくかは分からんが、この黒色の火薬とこれと…」
言われるままに火薬を混ぜ、日干しに時間をかける。
俺が作る最高傑作になれば良いけれど…。
コルツ山の頂上では、既に打ち上げるための土台は出来上がりつつあった。
基盤を作ったのは兄弟子のバルガス。
「マッシュか?お目当ての火薬は見つかったのか?」
「ああ…遠くまで見えるかどうかは保証が無いらしいけど」
山の頂上ともなると、フィガロ城は案外小さく見える。
かつて俺が住んでいた家が、こうも小人のように見えてしまうのは、それだけ俺達がちっぽけな存在だという確証になる。
「固めると筒の中に入りきらないな…」
「もう少し大きな木を探してくる。親父に『今夜は此処』と伝えてくれ」
兄弟子のバルガスが筒を作る最中、俺の仕事はまだ残っていることに気が付く。
果たして師匠の図解通りに“花”が描けるのか…。
この花火は『手持ち花火』程度の火薬量ではない。
故にそれだけ危険だということは、師匠もバルガスも承知の筈だ。
筒が予定よりも太くなってしまったので、周りを支える柱を追加した。
完成図はロケットのような形に仕上がるはずが、ロープで縛った分だけ形が歪(いびつ)な気がする。
「これなら衝撃には耐えれるか?」
工作嫌いな俺にしてみれば、結構な自信作とでも付けたいものだ。
「マッシュ…主役のお前が突っ立っててどうしてんだよ?」
「あ…はは…何かいろいろ思い出してさ」
『誕生日が特別』という扱いは、八年前に忘れ去られたんだ。
民衆に混じって生活するのも、俺の憧れだったと言える。
「…お前の兄貴はあそこに住んでるんだよな?」
バルガスは黄金の砂漠一点に視線を移している。
「ああ…今頃は祝賀会の準備じゃないかな。夕刻はいつも慌しかった…」
「…兄貴に会わなくて良いのか?」
何を今更…と出すつもりが、俺は望まなかった『らしい』。
「…これでいいんだ。向こうだってそのくらいの覚悟で『王様』やってるんだし。いつかその時が来るまでは…」
「『誓い』…か。フッ…それ位の決意があるなら、まずは俺を超えてみろよ」
そう、いつかその時が来るまでは…。
俺も立派になっているだろうか…。
*****
「たまにはこんな夜も良いな」
ロックが屋上壁伝いに寝そべっているのも、普段飲まないブランデーを多量に含んだからだ。
ここにいると昔のことを思い出すのは必然と言っても良い。
その昔、といってももう八年前になるのか。
微弱だった私の支えとなる父上…そして弟を失ってまで、この道を歩もうと考えた。
真意では無かったのかもしれない。
始めから分かっていた…。父上は私を選ぶことを…。
それが例え狂言だとしても、脅しだとしても!だ。
「エドガー…もういっぱい」
「それだけブランデー飲んだら、お前だって倒れるのは分かってただろう?水を飲め」
「世界一のロック様をなめるなよ…というセリフはやめておくか」
しがみついたロックに水をやると、私の周辺には先ほどには無い明かりが出来ていた。
風も少しずつ遠慮が無いほどに打ち付けてくる。
考えていたことはなんだったろうか?今は忘れるだけで良いのかもしれない。
本来なら国王誕生日となると盛大になるのだが、私は決して望むことは無い。
八年前から、弟と共に祝うことが出来ないのなら誕生日など要らない…と。
己を捨てることは簡単である。しかし…
「綺麗だな…」
突然の会話に反応が遅れる。
「空…」
「漆黒に浮遊する蒼月は、雲を浄化して朧となる…か。悪くない。風もいい具合に出てきた。ちょっとは酔いも覚めたか?」
飽き足りないのか…酒ビンを開け始めた。
私のグラスには多少残っていたが、問題ないといったように飲んでしまおう。
「まだやる気だな…倒れるまでやるか?」
「エドガー、お前はその気は無いんだろ?」
「相違ない」
始めから言えよ、とでも言いたかったのか。
「解せないとでもいうのだろう?……ん?」
砂利混じりの音とは違う。人の気配がしないわけではないが、
「爆発…か?何処だ?」
*****
「これは随分大きい筒を作ったのぉ」
『今夜は此処』…師匠には了解を得て作ったが、やはり大きさが違うようだ。
本番一発。緊張しているのがよく分かる。
「よし。マッシュ、一発勝負だ。届いていることを願うんだな」
点火…縄に伝火(つたえび)し、打ちあがるか!
…あがらない。黒い煙が土台の隙間から漏れている…。もしかして…。
「失敗か…?」
「まさか…火薬は言われたとおりに調合した。何故だ?」
いや、違う!燃えている!
「燃えてる!バルガス!逃げろ!」
俺は一瞬の灯火を見たのかと思えた。
事は遅し。土台に燃え移り、火薬に引火する。
「あ、こいつが打ち上げ花火だったことを忘れてたぜ。見てろ」
バルガスは何故か逃げない。俺の忠告を無視して何してるんだ?
空中で弾ける音。
いつか見た同じ花火は、忠告を意味しないまま連続で融けていった。
俺を何処か知らない…懐かしい香りのする大地へと誘った。
--俺はこんなプレゼントも良いと思うけど…どうかな?
兄貴。この一夜限り、国王ではないんだぜ
*****
「見ろよ…ロック」
「夢じゃないんだよな…自分をどついてみたくなる」
懐かしい香りがする。あいつの好きな…。
何処かの誰かさんも祝ってくれるなんてな。
「久しぶりだな…『風一夜』」
「…?」
「あの花火の名前だよ。弟がいた頃は、一番楽しみにしていた花火だ…」
香しいものは、私もよく覚えている。
橙という色は決して引けを取らない輝きがあることは、私が大地を踏みしめた証。
自然が発する光をこの上なく美しく感じるのは、私の記憶の一部から生まれる感情だ。
「じゃあ、あれは…」
今宵も、あの記憶の光と同じ。
「さあな。それは私も知らない」
あえて答えないようにしておこう。今は思い出さない方が良いのかもしれない。
全うしていこうとするためには…。
「いいものを見せてもらったな…意地張ってばかりいないで、民衆とも祝えばよかったよ」
「こんな夜は酒が進むというもんだ」
「お前はそれしか頭に無いのか!!…そう言えば、お前がくれたプレゼント」
オリジナルの酒だと言って、無名のまま終わるには乏しい…。直に融けてしまう。
「何だ?」
「私はこの一夜限りだけ、自由であることが許される印に。
この酒に刻むとしよう…私の記憶の中の『風一夜』を」
誰かがくれた、一夜限りの自由である。こんなに嬉しい事はあるだろうか…。
--言葉だけでは伝わらない思いは数多く存在する。
また形に残らないものだからこそ、記憶に残る最高のプレゼントと言えよう
弟に、私の『風一夜』を贈る。Happy Birthday!
別館ファティマ城の1周年時には間に合ったのに…
こっちは間に合わなかった怠惰者です。お許しくださいm(__)m
何時もの如く、夏には弱く(冬もそうでしょ!)
二人の誕生日の日にもトラブルありまして
はぁ〜気紛れも多すぎですね(セッツァーか?)
フィガロ城ももうすぐ110000Hit!(見えないか)
これからも運営頑張ってくださいませvv
残暑が厳しくなってきましたねvvお体にはお気をつけてv(^-^*
P.S→ビール飲めるようになりたいです(飲んだらいけません)Σ( ̄□ ̄|||ビクッ
2003/08/19 さっきー
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