THE STORY
OF“FIGARO"
〜父から息子達へ〜
その1
「エドガー様、お逃げ下さい!!」
フィガロ城の大臣は、特徴のある声でそう叫んだ。
「バカ者!王の私がお前たちを置いて逃げられるか!!」
フィガロ城城主エドガーはそう一喝して、グローランスを頭上で振り回した。元々馬上で扱う武器なので、とんでもない重量があるのだが、この男はそれを難なく使いこなしている。
「マッシュはどうした!?」
「マッシュ様は、東のテラスで交戦中です!」
エドガーは戦いのスキを見つけてそれを覗いた。すごい強さである。
ところで、この砂漠の要塞フィガロで今何が起こっているのか?
事の発端は今から25年前、前国王(エドガー&マッシュの父親)の時の事件である。当時のフィガロは、ある大国と戦争をしていた。今では世界地図上に無い国、ロマンダである。ロマンダは、銃火器によって鍛え抜かれた軍隊と、優れた科学技術を誇る強大な軍事国家であった。フィガロは、初の潜航成功から半世紀と経っておらず、ロマンダに比べればまだまだ弱国であった。
(この国には名が無い)
そう思っている国王は、この戦争に勝つ事こそが、「フィガロ」の名前を世に知らしめる為の、必須条件であると考えていた。
だが、戦局は悪化を辿る。フィガロ城で指示を出していた国王に届くのは、いずれも自陣の陥落や、自軍の敗北などの悲痛な知らせばかりであった。
「ロマンダ軍がサーベル山脈を抜け、コルツ越えを開始しました!」
この報が届いた時、国王はある恐るべき決断を下した。エドガー、マッシュ共に2歳。
「コルツを越えるには3日はかかるな・・・・。よし、コルツの谷川に毒を流せ!」
「国王様、それはあまりに乱暴です!お考え直し下さい!!」
「うるさい!この子達のためにも・・・・、絶対に勝つのだぁ!!」
まさかこの決断が、この2人の子供達の人生を大きく変えてしまうとは、この時の国王は夢にも考えていなかっただろう。
とにかく、フィガロ軍は毒を流し、その効果は見事な程あがった。ロマンダ軍には原因不明(勿論、毒の効果)の下痢、吐気、発熱、難聴、失明などの症状がすぐに表れた。
「くそっ、流行り病か!?退けっ、退けー!!」
ロマンダ軍総大将の退却命令も空しく、6千人で開始したコルツ越えで、5千2百人というとてつもない被害を出してしまった。
そしてこの事件を境に戦争の流れはフィガロに傾き出す。兵力だけでいえばまだロマンダに分があったのだが、何しろコルツ越えに精鋭部隊を出動させてしまったために、質が低下してしまった。遂に、コルツ事件から10日後、ロマンダはフィガロの手に落ちた。現在の世界地図では、元ロマンダ王の居城があった土地はフィガロ領ということになっている。
その2
そして、国王の狙い通りこの戦争の勝利を境に「フィガロ」の名が世界的なものにまで発展。フィガロは飛躍的な技術革新をとげることとなる。あの帝国が同盟を要請してくるのは、この二年後である。
さて、ではこの事件と今のフィガロ城の状況とどのような関係があるのか?何故、今フィガロ城が襲われているのか?
戦争というのは、勝者がいれば当然敗者が出てくる。今まではフィガロという「勝者」側からこの戦争を見てきたが、「敗者」ロマンダ側はどうだったのか?ロマンダ王ラベル・ロマンダは、勇猛で知られた王で自ら戦場に出向いたのだが、あのコルツ越えで毒を飲み、なんとか生き延びたのだが、ロマンダの居城に帰ってからは40度前後の高熱にうなされていた。
そして、・・・・・
「王様、お逃げ下さい!!」
フィガロ王がロマンダ領に入ったことを知った大臣は、そう叫んだ。
「バカ者!私が逃げたらこの国はどうなるんだ!!」
勇猛果敢な王、ラベル・ロマンダは最後の最後まで抵抗するつもりでいた。ラベルは、齢38歳で一国の王とまでなった人物。
度胸もあり、腹も座っている。
「王様!!もはや我が軍には兵士がほとんど残っておりません。お逃げ下さい!!」
大臣の口をついて出てくるのは、この言葉ばかりであった。ラベルは一瞬考え込み、ある決断を下した。
「大臣よ、よく聞け。お前はティムを連れて逃げるのだ。私は最後までこの場所を守る。」
「バ、バカな!捕まれば間違いなく斬首ですぞ!!」
「分かっている。だからこそお前とティムに全てを託すのだ。頼んだぞ。おい、誰かチョコボを用意して裏門を開けろ!!」
ラベルはそこまで言うと、壁に掛かっていた日本刀陸奥守を腰に携え、部屋を出て行った。そして、大臣は王子ティム・ロマンダ、当時2歳を抱いて裏門からチョコボで逃げた。
ラベルの戦い振りは、おそらく現在の勇将と呼ばれる兵隊からみても決してひけをとらないものであろう。6千人でロマンダ領に入ったフィガロ軍に対して、迎え撃つロマンダ軍は8百。(前章では、「兵力だけでいえばロマンダに分があった」と書いたが、これはあくまでコルツ事件直後のことであり、実際には後々に毒で死んだ者・病気(毒)の感染を恐れて脱走した者などが続出しロマンダ軍は見る影もなく落ち込んでいた。)だが、ラベルは、
「恐れるなぁっ!二刀流の技が一刀流の技に勝るとは限らんように、人数が少なかろうが負けると決まった訳ではない!!」
そう一言だけ言い残し、自らフィガロ軍の中に突っ込んで行って一人で70人余り(一説には200人とも)のフィガロ兵を斬った。しかし、その戦い振りも空しくフィガロ軍の突入から4日後。ロマンダ王ラベル・ロマンダ及び、王妃ミネルヴァ・ロマンダは公開斬首となった・・・・。そして、大臣と王子ティム・ロマンダは以後行方不明となっている・・・・。
その3
そして、話は現在・・・・。
「エドガー様、相手方に休戦旗が!!」
「そうか。全軍戻れいっ!」
エドガーの指揮で、フィガロ軍は一時戻った。
「兄貴っ、一体どうなってんだよ!?」
マッシュはタイガーファングの血を拭いながら、エドガーに尋ねた。
「わからん。しかし、この城の過去にどうやら関係がありそうだな・・・・。」
「オヤジのことか!?」
マッシュは過剰なほど反応した。エドガーよりも前フィガロ王を慕っていたマッシュは、どうしてもそういう所が不安になったのであろう。
「十中八苦、そうだろうな・・・・。領土を狙ったりした戦争には思えないな。」
そう言うとエドガーは、図書室の方へ静かに歩を進めた。
・・・・・・そして・・・・・・
「兄貴、どうだった?」
「それらしい事件は過去にいくつかあったが、イマイチ特定できないな。ロックを呼ぶか・・・・」
20分後、ロックは来た。
「よう、エドガー!どうしたんだ、これは?」
横では大臣が苦りきった顔をしている。どうも大臣は、この男のやや無礼ともとれる態度があまり好ましくないらしい。
「ロック、早速で悪いんだが密偵の任務を頼まれてくれないか?」
「いいぜ。一体何を調べるんだ?」
「相手側のリーダーとその過去、だ。」
「わかった。2〜3日くらい待ってくれ。」
ロックはそう言い残すと、大臣とマッシュに軽く会釈して出て行った。
その4
「兄貴、ロックは?」
「来たさ。いい情報をくれた。」
いまだに休戦状態が続くフィガロで、真実が静かに動き始めた・・・・。
・・・・数十分前・・・・
ロックが張り切った顔をして駆け込んで来た。
「ロック、どうだった?」
「色々分かったぜ。まず相手方のリーダーはティム・ブラスト。なんだが、こりゃ偽名だ。」
「偽名?」
「そう。本名はティム・ロマンダ。25年前にフィガロに滅ぼされた国、ロマンダの王子だ。」
「ははあ、あの事件か・・・・。それで充分だ。ありがとう、ロック。」
「いいってことよ。また何かあったら呼んでくれ。」
ロックが出て行った後、エドガーは一人で呟いた。
「父上・・・・。」
・・・・エドガーの回想・・・・
「エドガーよ。」
「何ですか、父上。」
「エドガーよ、よく聞け。今、このフィガロは立派な国になった。だが、この国がこうなるまでには様々な出来事があった。
戦争もした。私も人の恨みも多く買ったことだろう。しかし、これだけは覚えていてくれ。お前は私のようにはなるな。
マッシュと共に、誠実に生きろ。いいな。」
「はい、父上。」
・・・・・・・・・・・・・・・
「あ、兄貴。それどういうことだ・・・?」
「父上は、人の恨みも多く買った、と言った。」
マッシュの動揺を知りながら、エドガーは続ける。横では大臣が悲痛な顔をしている。
「父上はおそらく・・・・」
「もういいよ、兄貴!!」
マッシュはまるで自分の不安をかき消すためであるかのように、エドガーに大声で叫んだ。
「何でそんなにオヤジのことを悪く言うんだよ!いいオヤジだったじゃないか!!」
「黙って聞け、マッシュ!!」
エドガーはマッシュにも劣らぬ大声で、一喝した。
「父上の言いたかったことは、多分この事件のことだったのだろう。」
「事件って何だよ?兄貴。フィガロがロマンダを滅ぼしたんだろ?ただの戦争じゃないか。」
「表向きはな・・・・。でも、本当はただの・・・・・。」
エドガーがそこまで言いかけたとき、外壁部の見張り兵が駆け込んで来た。
「エ、エドガー様。相手陣の休戦旗が降りました!!」
「そうか・・・・。マッシュ、話は後だ。この国を守る。父上が残してくれたこの国を。」
「わかったぜ、兄貴!!」
マッシュはそう言うと、まだ血が生乾きのタイガーファングを着けて勢いよく部屋を飛び出した。
その5
「お前らぁ、何チンタラやってんだよぉ!」
「マ、マッシュ様!」
兵士達が顔を上げた先には、軍参謀マッシュの姿があった。(国王補佐というポストもあるのだが、この男は「やっぱ最前線じゃないとな!」と言ってこの役に就いてしまった。)
「しけた戦い方すんなよ。兄貴が見てるぜ。」
「し、しかし相手の懐に飛び込もうものなら・・・・」
「おし、分かった。ここはオレがいっちょう・・・・。」
マッシュはそう言うなり、タイガーファングを右手に敵陣に突入した!四方八方に群がる敵を次々になぎ倒し、深く深く突き進んで行く。そして、
「お前がティムかぁ?」
マッシュはそれらしい人物を発見して、声をかけた。
「いかにも。」
その男は物憂そうに返事をした。マッシュは思わず息を呑んだ。エドガーにも劣らぬ美貌である。
「オ、オレは・・・・」
マッシュは気圧されていた。
「知っている。フィガロ軍参謀マッシュだろう?」
「そ、そうだ。」
「それで、その軍参謀様が何の用だ?」
確かに美男ではあるが、冷酷な目をしている。
「兄貴の所へ来てもらおうか。」
「兄とはフィガロ王エドガーだな。よかろう、行ってやろう。」
驚く程こちらのことを調べている。
「エドガー様、マッシュ様がティム・ブラストを連れて参りました。」
「よし、通せ。」
マッシュが連れて来たのに、イヤに態度がふてぶてしい。まるでマッシュが連行されて来たみたいだ。
「フィガロ王エドガーだ。よく来て下さった。」
「口上などどうでもいい。用件を伺おうか。」
大臣が怒って身を乗り出そうとしたのを、エドガーは手で制して、
「大臣、構わん。用件は分かるだろう?」
「この戦争のことか?」
「そうだ。」
「なら、話す必要はない。知っているはずだ。」
ティム・ロマンダはそう言って帰りかけたが、マッシュが思い切り肩を掴んで、
「待て!どういうことなんだよ!?」
「知っているんだろう?この戦争の原因を。」
「原因って何なんだよ?戦争に負けた逆恨みか?」
マッシュは更にティムを問い詰めた。
「エドガーよ、この弟君は本当に何も知らないのか?愚かなことだ。」
「何だとぉっ!!」
「よせ、マッシュ。さあ話してくれ。」
エドガーがそう言うと、ティムは重い口を開いた。
その6
「オレの年齢はお前等兄弟と同じ、27歳だ。戦争当時は2歳だな。だが、オレにははっきりとした記憶がある。オレは、フィガロ軍のロマンダ城入城の日、大臣に連れられてチョコボで城を逃げ出した。父と母を残してな。そして、その3日後父と母は処刑された。もっともオレがそれを知ったのはそれから更に1週間後のことだが。その日からオレは素性を隠して生きていかなければならなくなった。名をティム・ブラストと変え、港町二ケアで生活。辛かった。極貧だ。大臣が内職をして、何とか生活は成り立っていた。大臣が夜12時以前に寝たのを見たことがない。その大臣はいつも口癖のように言っていた、「いつかきっとロマンダ王国再興の時が来ます。その日までは・・・・。」とな。オレもそれだけを思って生きてきた。そしてオレもまだその時は、そこにいる軍参謀様のように、ロマンダとフィガロの関係はただの戦争と思っていた。」
するとマッシュが、
「だから、ただの戦争じゃあないのかよ!!」
そんなマッシュの言葉も全く意に介さず、ティムは「ふうっ」と大きく溜め息をつき、
「まあ聞け。オレもただの戦争だと思っていた。だがな、10年前に大臣が死に際に語ったんだよ。真実をな。「テ、ティム様、お聞きください。なぜ、圧倒的な兵力を誇ったロマンダがフィガロに敗れたのか。そ、それはロマンダ軍は行軍中にフィガロ軍に毒を飲まされたのです。ロマンダ軍の直接の敗因はそこにありました。」大臣はそう言い残して死んだんだ。」
ティムがそこまで言った時、マッシュは思いっきりティムの胸ぐらを掴んだ。
「てめえっ!!でたらめ言うんじゃねぇ!オヤジがそんなことするもんか!!」
ティムはその手を事もなげに振りほどいて、
「信じないのなら、それで構わん。だが事実は事実なんだ。」
「兄貴・・・・。」
マッシュはエドガーの方をじっと見つめて返答を待った。5分、10分、刻々と時間が経過していく。だが、まるでマッシュには時間が止まっているように感じられた。そして・・・・、
「マッシュ、今まで黙っていてすまなかった。だが、これは父上の遺言でもあるんだ。」
「オヤジの?」
「そうだ。父上は、「マッシュよりお前の方が大人だから、お前にだけは教えておく。」そう言っていた。」
すると、ティムが、
「お前等兄弟にもう1つ聞かせてやろうか?もっとショッキングなことを。」
「何だと!」
「ククク、聞いて驚け。お前達のオヤジが死んだの、あれはオレが殺ったんだ。あれは圧巻だったぜぇ、めちゃめちゃに苦しんでな。クックックッ」
マッシュ、エドガーはともに凍り付いた。
「だが、これ以上はタダでは教えられん。そうだな・・・・、お前達のどちらかがオレと戦え。仇討ちだな、双方の。」
マッシュは黙って立ち上がり、タイガーファングを持った。そして、
「ティム、お前は許さねぇ。絶対ブッ殺してやる!!。」
エドガーもグローランスを掴み、
「大臣、竜の首コロシアムに話をつなげ。この外道と決着を付ける!!」
そう言って、3人揃って竜の首コロシアム方面へ駆け出した。
その7
竜の首コロシアム・・・・。ある者は富を、ある者は名誉を、またある者は血を求めて様々な人間が集まる賭博型闘技場。
しかし・・・・、今ここで賭博抜きの仇討ちの戦いが始まろうとしている・・・・。
「さぁ、どっちからだ?」
ティム・ロマンダがそう言うと、マッシュがタイガーファングを着けて闘技場へ降りた。
「ティム!勝負だ!!」
ティム・ロマンダの武器は名刀陸奥守。
「コイツは親父の形見だ。刀術の得意な親父だった・・・・。行くぞ、マッシュ!!」
こうして、ティム対マッシュの決闘が始まった・・・・。
・・・・・攻防は互角のまま、既に1時間近く経過しようとしている。互いに何発かは打撃を入れているのだが、倒れない。
(長い・・・・。)
上から見ているエドガーは、そう思った。だが、その時、
「ガギイッ」
という鈍い音がして、マッシュのタイガーファングが、ティムの陸奥守を薙ぎ払った。刀は4,5メートル飛んで、地面に突き刺さった。
「終りだ!!」
マッシュがそう叫んでティムに走り寄った瞬間、転んだ。コケたのである。
「ティム、てめぇっ!!」
「何だ、オレが何かしたとでも?」
この会話は、周りの観客は勿論エドガーにすら聞こえていない。だが、エドガーは気付いていた。
(汚い男だ・・・・。)
エドガーはそう思い、闘技場に飛び降りた。
「2人共、やめろ!!」
エドガーはそう叫んで、2人の間に割って入った。
「何だよ!!兄貴。止めんなよ!!」
「まあ待て、マッシュ。ティム、どこまでも卑怯だな。」
「卑怯?ふざけるな。これは殺し合いだぞ。」
「かと言って、これはやりすぎだ。」
エドガーは持っていたグローランスで地面を掘り起こした。
「マッシュ、お前が転んだのはコイツのせいだ。」
エドガーの手には小型地雷が握られていた。
「これか・・・・。ティム、やっぱりてめえだったんだな!!」
「先ほども言ったが、『卑怯』などという言葉が通用する世界ではない!!」
「そうか・・・・、分かった!マッシュ、下がれ。ティム、今度は私と勝負だ。」
「な、ふざけんな、兄貴!コイツとはオレがやるぞ!!」
マッシュの反論を、払いのけるかのようにエドガーが、
「マッシュ!!下がれと言っているんだ!!!」
と一喝した。
「次はお兄様か?構わんぜ、誰でも。」
「まあ見ていろ、マッシュ。」
その8
エドガーは強かった。マッシュとあれだけの戦いを演じたティムが、まるで子供扱いである。
「立て、ティム。お前の罪はまだ消えん。」
エドガーは、倒れたティムにこう言い放って構えを元に戻した。
「くそおおお!!」
ティムが大きく斬り付けようとしたのをエドガーはさらりとかわして、グローランスの柄で腹に一撃入れた。
「ぐはぁっ!!」
ティムはたまらずもう一度地にひれ伏した。
「私の勝ちだな。さあ全てを語ってもらおうか。」
「わ、分かった。だ、だがその前に一つ話してくれ。な、何故お前はそんなに強い?マッシュの方が戦闘能力は上だったはずだ。」
「確かにそうだが、マッシュは格闘家としての修行が長い為に正々堂々としていない戦いには弱い。そういうことだ。」
「なるほどな。全くとんでもない兄弟だ。いいだろう。お前らの父親を殺した時の事、全て語ってやろう。」
・・・・・・・・ティムの語り・・・・・・・・
今から6年前、オレはフィガロ城に居た。ちょうどその時フィガロ城は兵士と雑用を募集していたから、オレは怪しまれずに入れた。そして、毎日のようにスキを伺っていた。何かお前らの父親を殺すきっかけがないかとな。そんな折、オレは国王室前廊下から階段までを掃除する係りになった。毎日おとなしく掃除をしていたが、始めて1週間経った時にオレは国王室の番兵2人を眠らせて国王に会った。国王にオレの正体と目的を言ってやると、国王はこう言ったさ。「ワシの命ならやる。だが、この国と2人の子供には手出ししないでくれい!!頼む。」とな。その時の顔と言ったらなかったな。まるで一国の王とは思えないような目で懇願するんだ。オレも一瞬殺すのをためらったな。オレはその場は一旦退いて、翌日の夕食に毒を盛った。これがあの日に起こった出来事全てだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「それで、何で今になってフィガロに攻めてきたんだ?」
「オレは国王と約束を交わしたが、その時の条件として、『2人の子供に充分な力がついたら、殺す。』と言ったら、国王はそれをのんだからだ。」
「しかし、もうこんな戦争はやめよう。兵を退くんだ、ティム。」
そして・・・・・。ティム・ロマンダはフィガロ城を包囲していた兵と共に引き上げたが、その帰り際に、
「エドガー、マッシュ。お前らの父親の形見だ。渡してくれと頼まれていた。」
ティムはそう言って紙きれを1枚、エドガーに渡した。
「これは?」
「さあな。だが確かに渡したぜ。さらばだ、エドガー、マッシュ。」
ティムが去った後、エドガーがその紙を見るとこう書いてあった。
「お前たち2人にこれを残す。地下機関室奥の宝部屋の壁の刻み文字を読め。」
壁の刻み文字には、
「牢屋の階段7段目の刻み文字を読め。
牢屋の階段には、
「玉座を左方向に回転させよ。」
と、それぞれ書いてあった。そして、マッシュが回転させてみると・・・・・。
その9
「こ、これは・・・・?」
マッシュが驚いたのも無理はなかった。玉座を回転させると、その後ろに現れた階段。それはマッシュの27年の人生の中で、初めて見た仕掛けであった。勿論、エドガーも然りである。
「あ、兄貴。どうする?」
「とにかく行くしかないだろう。」
「チェッ、冷静だなぁ。兄貴は・・・・。」
その階段を1段、1段昇って行く2人。中は想像もつかないような豪華なつくりになっている。3分程昇ると、今度は螺旋状に下る階段がある。それを下りきると、広間になっていた。
「兄貴、部屋の真ん中に何かあるぜ。」
『何か』を見つけたマッシュは、駆け寄って確かめた。
「手紙だ。」
「そうか、読んでみてくれ。」
「ん、分かった。 ・・・・・・・・、やっぱり兄貴読んでくれ。」
「全く・・・・、分かった。貸してみろ。えーと・・・・」
『エドガー、マッシュ、我が愛する息子達へ。この部屋に入ったということは、お前たち2人がティム・ロマンダを倒したということだ。強くなったな。父は嬉しいぞ。立派になったお前たちの姿を1度でいいから見てみたい。いつも冷静で私を助けてくれたエドガー、いつでも泣いていたマッシュ、そんなお前たちは今どんな姿になっているんだ?そして、この国の事。私がこの国を強くしたのは私のためでも、ましてや面子のためでもない。お前たちのためだ。そこは覚えておいてくれ。』
聞いていたマッシュの目から大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。読むエドガーも涙声になっている。
「兄貴・・・・、つ、続けてく・・れ・・よ。」
「ちょっと待・・て。かすんで字が・・見え・・ない。」
『エドガーへ
私が思うに、私の後を継いだのはきっとお前だろう。王としての責務は多いが、お前ならできる。私の様な王にはなるな。
この国とマッシュを頼む。
マッシュへ
いつでもビービー泣いては私を困らせたマッシュ。兄を困らせるなよ。お前の兄はきっと良き国王となって、この国を導いて行くだろう。兄と助け合って生きろ・・・・・。』
ここまでを読んだ時、それまですすり泣いていたマッシュが大声で泣いた。エドガーもその場に崩れた。
そして・・・・、
「あ、兄貴。箱の中にまだ何かが。」
まだ涙声のままのマッシュが箱の底から取り出したそれは、コインだった。
「これは・・・・。おい、マッシュ。あのコイン、今持っているか?」
「勿論。」
マッシュはそう言ってポケットから、あの両表のコインを取り出した。
『お前たち2人に課題を与える。このコインとエドガーにあげたコインの2つから、この城に隠されたもう一つの部屋を見つけろ。私がお前たちに残す、最初で最後のプレゼントだ。何一つ父らしいことをしてやれなかったのだから、これだけは受け取ってくれ。
愚かな父より』
箱にあったコインには、エドガーが持っていたコインと左右対称の絵柄が描いてあった。
皆様も、この謎を解いてエドガー・マッシュの気分に浸ってみましょう!謎解きに必要なデータは以下の通りです。
『1、 箱のコインの直径3に対し、エドガーのコインの直径2です。
2、 上記の通り、絵柄は左右対称です。
3、 隠し部屋の入り口及び、その入り口を開くためのカギは、ゲーム中に出て来たフィガロ城内に必ずあります。』
さあ、Let′s thinking!
その10
「兄貴、分かったのか?」
「うーん、いや。分からん。」
あの日から4日が経ったが、エドガーは今だに2枚のコインとにらめっこである。
「ま、兄貴に任せるけどな。オレの手にゃ負えなさそうだ。」
マッシュがエドガーに背を向けようとした、その時
「待て、マッシュ。物差しを持って来てくれ。」
「物差し?何に使うんだい?」
「いいから頼む。」
そして・・・・、
「2:3だな。」
「え?」
「直径の比率さ。このくらいだと思っていた。」
エドガーはやっぱりなという顔で頷いた。
「そして左右対称。両方のコインの表同士、裏同士が向き合っている。」
「だけど、一体それがどうしたんだい?」
「あの手紙から察するに、2枚のコインと宝の隠し場所には必ず関連がある。」
エドガーは再び腕を組み始めた。
「分かったぞ!」
あの日から1週間、エドガーは遂に解読した。
「ど、どういうことなんだよ、兄貴!」
「つまり、左右対称と直径の比率2:3、この2つに大きな意味があったんだ。いいかマッシュ、この城は左右対称な造りになっている所が結構ある。例えば、@地下牢へ降りる階段とその反対側の階段。あるいはA図書室横の階段と寝室(パーティが寝泊りできる所)の横の階段。また例えばB道具屋と機械屋。」
「で、でもさあ兄貴。それだけじゃあイマイチはっきりしないじゃないか。」
「そこでだ、コインの直径の比率が登場するわけだ。いいか、コインの直径の比率っていうのは言うまでもなく数字で表されるものだ。今挙げた場所の中で数字に関係のある所といえば?」
「・・・・・階段、階段か!」
「ご名答だ。でも、牢屋への階段は最初のほうに調べただろ?ということは・・・・?」
「図書室横と寝室横の所だ!!」
「そうだ・・・・ってマッシュ、おい!」
マッシュは既に走り出していた。もうウズウズして止まらない。
「兄貴、これだ、これだ!」
マッシュは図書室横の階段下から2段目に文字を見つけた。エドガーもまた、寝室横の階段の3段目で同じ物を見つけていた。
「フム、間違いなさそうだな。」
「は、早く読んでくれよ兄貴。」
「そんなに焦るな。え〜と、
『2人共、よくぞ見つけてくれた。この仕掛けは2人で心を通わせないと、開かないようになっている。2枚のコインを全く同じタイミングで、2つの階段にブチ当てろ。そうすれば、道は開ける。いいか、心を通わすのだぞ。』
だ、そうだ。」
「なるほどな。兄貴、早速やろうぜ!」
「私が寝室の方をやろう。お前はここだ。」
「分かったぜ。失敗すんなよ、兄貴。」
「お前の方こそ頼むぞ。」
その11
3時間が経った。まだ道は開いていない。というのも、全く同じタイミングというのに2人が悪戦苦闘しているのだ。
「あぁ〜、出来ねぇ!!」
マッシュはしたたる汗を拭った。城内とはいえ、昼間の気温は27度近い。
「焦るなマッシュ。もう1回だ。」
城内の大時計の音に合わせて、同時にコインを2段目の階段と3段目の階段に投げつける。開かない。失敗である。
「ちっくしょう!」
マッシュは地団駄踏んで、怒った。自分自身に対して。
「心を通わす、と書いてあったな。心を、か・・・・。」
そしてまた始めた。今度は2人共文句も言わずに黙々と投げ続けた。すると不意に、
(兄貴!)
エドガーの手が一瞬止まった。頭の中にマッシュの声が響いたような気がした。
(兄貴、投げるぞ。)
また響いた。幻聴などではない。マッシュの頭の中にもまた、
(マッシュ、いくぞ!)
という声が響いた。そして次の瞬間!
「エ、エドガー様、マッシュ様。ち、地下機関室の奥に、み、見たこともない部屋が現れました!」
「あ、兄貴。やったんだよオレ達。成功したんだ!」
「大臣、あとは私とマッシュが見て来る。」
2人だけで地下へ降りてゆく。カツーン、カツーンという、靴の音の競演と共に。
「なるほど、これか・・・・。」
部屋はがらんどうであったが、中央の机の上に手紙が1通ある。
「オヤジのプレゼントってこれだよな、兄貴。」
「ああ、多分な。なになに『この手紙を持って、元ロマンダ領のサン・シモンいう男を訪ねろ』か。」
そして・・・・、
「ここか。武器職人の所じゃないか。」
マッシュがドアを開けると、中では初老の老人が剣を打っていた。
「誰じゃな、お前らは?」
老人は野太い声で二人に尋ねた。
「初めまして。フィガロ国前国王の紹介でやって参りました、フィガロ国王エドガーと申します。こちらは弟のマッシュです。」
すると、老人は大声で笑った。
「ホーホッホッホ。フィガロの息子達か!そうかそうか。よく来なさったな。」
「ここに父からの贈り物があると聞いて・・・・。」
「ホウホウホウ。ああ、有るとも。しかし、お父上がご想像になった通りじゃな。」
「何がです?」
「ホウホウホウ。お父上がワシに注文した武器はな、槍と鉤爪じゃ。またおぬしらが武器も持てなかった頃にな。」
「ち、父上がですか?」
流石のエドガーも驚きを隠せなかった。
「ほれ、これじゃ。」
見事な槍と鉤爪が2人に手渡された。
「こ、これは凄い。」
2人は声を揃えた。無理も無い。それは今までに触ったどんな武器よりも馴染み、また暖かった。
「持って帰りなされ。それはおぬしたちの物じゃ。」
老人は追い出すように、2人を帰した。
FINAL
「兄貴、まだ起きてたのか?」
午前2時。砂漠の気温は氷点下にまで下がっている。室内との気温差によってできる結露が、エドガーを見つめている。エドガーはパイプをプカプカとふかしながら、マッシュの方を振り返った。
「どうも、眠れなくてな。」
そう言いながらも、傍らにはブラックコーヒーが置いてある。寝たいのか、寝たくないのか。
「なあ、兄貴。オヤジは、どうしてオレ達がこういう武器を使うことがわかったんだろう?」
「さあな。でも、勘の鋭い人だったからなぁ。」
エドガーは大きくふうっと煙を吐いた。虚空をぼうっと見つめている。
「なあ、兄貴。覚えているかい?」
「何をだ?」
「ちょうどこんな夜だったな。オヤジが死んだの。」
「そう言えば・・・・。あの寒空の下でコイン投げしたな。」
「ああ。ところで兄貴、あれって本当はオレの負けだったんだろ?」
「そんなことはないさ。両表だからな。」
「いや、それでもコインには兄貴の顔とオレの顔が描いてあったから、表裏の区別はついただろう?」
「残念!父上はどちらが表でどちらが裏か言っていない。あれはお前の勝ちさ。」
「兄貴・・・・。ありがとうな。オヤジも、ありがとう。」
マッシュの目には涙が溢れていた。
「マッシュ、出ようか?」
2人はコイン投げをした所へ出た。はるかむこうで小さな砂嵐が何度も起こっては消え、起こっては消えしている。人の声など全くしない、砂漠の夜。
「兄貴、本当にあの日の夜みたいだな。」
「そうだな・・・・。おい、マッシュ。6年ぶりにやろうか?」
「何を賭けるんだい?」
マッシュはくすっと笑って尋ねた。
「ん?そうだな・・・・。負けたほうがばあやの愚痴を毎日聞いてやる、なんてのはどうだ?」
意味なんか無い。エドガーはまるで子供のように単純に賭けをしてみたい、いや、コインを投げてみたい。それだけなのだ。
「何だよ、それ。あははははは・・・・・。」
「そんなにおかしいか?はっはっはっはっ・・・・・。」
2人の笑い声が城中に響いた。
「さあ、いくぞマッシュ。それっ!」
コインが宙に舞った。
THE END
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