セリスと愉快な仲間達

ケフカによって、圧倒的な力を持った「三闘神」の封印が解かれ世界が崩壊してから、一年が経った。
悲惨な状況を目の当たりにして、一時は希望をなくし、死ぬ事すら考えたが、今は仲間と再会し、ケフカを倒す準備をしている。
…はずなのだが…。



「あーーっ! おい、ガウ! それは俺のだぞ! 返せ!」
「マッシュ、食べない。ガウ、食べる!」
マッシュが突然大声を張り上げ、逃げるガウを追いかけ始めた。
「こら! 待てぇ!!」
「ガウガウガウ〜」
どたどたどたどたどた…



ふと横を見ると、ロックがなんとスロットマシンで遊んでいる。
が、どうやら負けているらしく、不機嫌そうだ。
「くっそ〜、全然当たんねぇよ。おいエドガー、これちょっと細工して、ばかばかコインが出るようにしてくれよ」
「お前に運がないだけだろう。日ごろの行いが悪いんじゃないのか?」
「俺のどこが悪いっていうんだ」
「そうだな。まず、ドロボウで生計を立てているところだな」
「ドロボウとは失礼な! 俺はトレジャーハンターだっ! 洞窟や遺跡に残るお宝を探し求めて…」
「失敬するんだろう?」
「そのまま置いといたって、どーせ何の役にもたたないじゃないか!」
「でもロック殿、ドロボウは感心しないでござるよ」
「なんだよ…カイエンまで」
突如やってきたカイエンは、ロックの非難の視線をさらっと無視して、エドガーに訊ねる。
「これは何の機械でござるか?」
どうやらスロットマシンに興味があるようだ。
「これか? これはだな、まずここにコインを入れる」
「コイン?…お金でござるな」
「そうして次に、このレバーを引く。するとここにある3つのドラムが回る」
「…目が回るでござるよ〜」
その言葉に笑い出すロック。
エドガーは「お約束だな」と呟き、説明を続けた。
「それでだ、回っているドラムをこのボタンで止めるんだ」
そう言うと、エドガーは実際にドラムを止めて見せた。
チョコボの絵柄が3つそろう。
とたんに、コインがじゃらじゃらと音を立ててスロットマシンから流れ出てくる。
「な、何が起きたでござるか!」
「このように、同じ絵が3つそろうと、ここからコインが出てくるんだ」
「ほぉ…」
しきりに感心するカイエン。
一方、笑っていたロックは急に不機嫌に戻ったようだ。
「さっきまで全然出なかったのに、なんでエドガー、お前がやったら出るんだよ!」
「確率だよ。…俺は日ごろの行いがいいからな」
「年がら年中オンナ口説きまわしてる奴に言われたかねぇよ!」
「失敬な。私はただ、世界中のレディとお知り合いになりたいだけだよ」
余裕の表情のエドガーと、怒りのロック。
一発触発の両者の間に、なんとティナが割って入った。
「あの…お取り込み中ごめんなさい」
「ん、どうしたティナ?」
「マッシュとガウ…止めなくていいの?」
「どうしてそう思うんだい?」
エドガーの意外な言葉に、思わずうつむいてしまうティナ。
「ええ、それはあの…、セッツァーが怒ってるから…」
見ると、セッツァーが大声で怒鳴っている。が、マッシュもガウも聞く耳を持たないようだ。
「そら、大事な艦(ふね)の中であんだけ走り回られたら、怒るわな…」
対照的に、ロックは怒る気をなくしたようだ。
「確かに、止めた方がいいとは思う。だが、私達にあれが止められるかな?」
諦めムードのエドガーに、ロックは呆れを感じた。
「お前、自分の弟だろう?なんとかしろよ」
「昔はあんなやつじゃなかったんだが…」
そういうと、エドガーは深いため息をついた…。



「あーっ! ガウ! お前、食いやがったな!」
「ガウ〜ガウガウ〜」
「くー、せっかく最後に味わおうと取っておいたものを! ガウ! 吐け! このっ!!」
「ガ〜ウ〜」



この状況はいったい何なのだろう。
一刻も早くケフカを倒さないといけないというのに何故こんなにも皆ゆったりしているのだろう。
「どうしたんだい、訝しげな顔して? 美人が台無しだぞ」
「エドガー」
さっきまでスロットの所にいたエドガーがセリスに話しかけてきた。
この騒動に我関せずといった顔をしている。
「こんなので…ケフカを倒せるのだろうか」
「……まあまあ」
エドガーは苦笑しながら答えた。
「不安かな?」
「不安ってほどじゃないけど…。でも、こんなのでいいんだろうか。早くケフカを倒さないといけないのに…」
「確かにそうだな」
エドガーの落ち着いた声に、私は少し安心した。
「そのために、こうやって皆集まって、準備をしているんだ」
そうだった。皆、ケフカを倒すためにここにいるんだ。
大丈夫。きっと倒せる…!
「今度こそ倒す。みんなの、そして自分自身の未来のために…」
するとエドガーは一瞬「おや?」という顔をした。
「自分の未来? そうか…」
エドガーの声は満足そうだった。



「ロック殿、お金が出てこないでござるよ〜」
「エドガーの話聞かなかったか? 絵が揃わないと、コインは出てこないぜ」
「どうやったら揃うでござるか?」
「それがわからないから、俺も苦労してるんだよ…。確率らしいけどな」
「カクリツ? よくわからないでござるよ。それよりロック殿、始めに入れたお金はどうやって出すでござるか?」
「それは出てこないよ」
「なんと! それは…詐欺ではござらぬか!」
「はぁ?」
「お金を入れたのに、何も出さないとは詐欺でござる!」
そういうと、カイエンは刀を抜いてスロットマシンに向き直った!
「拙者が成敗するでござる!」
「わぁ〜やめろカイエン! セッツァーに怒られる!!」
「離すでござるよ!」
その様子を見て、怒り心頭のセッツァーが駆けつけて来る。
「ロック! カイエン!! お前等まで何するんだ!!!」
「俺は何もしてない!」
「離すでござる〜!」



一方、ティナはマッシュに話しかけていた。
「ねえマッシュ…私のぶんあげるから、ガウを許してあげて」
「ティナ、それとこれとは話が別だ。ガウは人のものを盗った。悪い事だ。だからお仕置きしないとな!」
「でも…」
その時だった。
「ティナもいらないか? なら、ガウもらう!」
なんとガウは、ティナの分まで食べてしまったのだ。
「お前…。ガウ! お前ちっとも反省してないな!!」
「ティナくれる、ガウもらう、ガウガウ!」
「ティナはお前にやるとは言ってねぇ!」
「マッシュ、私は別にいいから…」
「ガウ! こら待てっ!」
「あ…」
再び追いかけっこを始めるガウとマッシュを、ティナは呆然と見送っていた…。



「あいつら、元気だな」
そういってエドガーは再びため息をついた。
「でも、この崩壊した世界で、あれだけ元気でいられるということ、それがケフカを倒す力となるのかも…」
「そう…かな…」
エドガーは変な顔をしたが、セリスは気付かず続ける。
「私…、一度はもうだめだと思った。世界は、私はこのまま死ぬしかないと思ったの。でも、みんなが生きてるんじゃないかと思って…。それで、もう一度戦おうって思った」
「そうか…」
「だから、みんなの元気な顔見てると、なんだか大丈夫な気になってきた」
「そうだな。俺も頑張ろう。…セリスの笑顔のために」
「まったく、エドガーまで…」
セリスは、今このパーティにいることにとても感謝していた。
帝国にいた頃は知らなかった。
“仲間”がいるということが、こんなにも心強いことだったなんて。
「ねぇエドガー」
セリスは、わざとちょっと甘ったるい声を出してみた。
「何かな?」
「…マッシュとガウは、一体何を取り合っているの?」

The End

<作者あとがき>
この話は崩壊後、ある程度仲間が揃った頃という設定です。
んで、書いてから気が付いたんですが。
崩壊後に乗る飛空艇はダリルのファルコン号で、カジノはない!
…ギャグ物なので、細かい設定は気にしないで下さいね…。

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