Appreciation

−コーリンゲンの村−
食事を終え、さぁ後片付けでもと考えていたセリスは、地面が揺れたのに気付いた。
「地震!?」
「どうした?セリス」
「…今、地震が起きたような気がしたんだけど…。でも、何でもないみたい。ごめん、気にしないで。」
「ああ、フィガロが着いたんだろう。じきに客がみえるぞ」
今日、フィガロ城は定期検査の為にコーリンゲンに来ることになっている。
ロックはそのことを知っていたのだ。
それから1時間後。
「久しぶりだな、エドガー!」
「久しぶりだな、セリス。また綺麗になったんじゃないか?…ロック、お前も元気そうでなによりだ」
「何でセリスの方が先なんだよ!」
「レディファーストは俺の信念だからな」
「さっきの揺れはこのことだったのね」
「そのとーり。…しかし、やけに遅かったな」
「いや…。ちょっとお説教をしていただけだ」
「俺はまた事故ったのかと…」
「そう何度も事故を起こしてたまるか」
「まったくだ」
そうして話は、いつしか昔の事になっていった…。



俺が21の時だった。
その前も何度かエドガーには会っていたが、いい印象は持ってなかったな。
レイチェルのことを口説こうとしてたから、俺は文句を言ったんだ。
そしたらあいつ、こう言ったんだぜ。
「まったく…それくらいでむきになるなんてな…。これだから男は…」ってな。
当時の俺はかなり腹を立てた。付き合いだしたばっかで気合入ってたんだな。
ま、そんなこんなで昔は仲が悪かったってことだ。



そんな時に起きたんだ、あの事故は…。
その日、フィガロ城がこっちに来ることになっていた。
フィガロは潜航機能の維持管理のために定期的にコーリンゲンに来る。
そのことは予め伝書鳥で知らされていた。
しかし、その日は様子が違ったんだ。
機関部に火がついたらしく、城内の人々が逃げ惑っていた。
防火システムの作動により居住区に火は回らないが念のために住人を避難させているらしかった。
国王であるエドガーは避難民の受け入れを要請してきた。
大体話がついたときだ。
エドガーの奴、いきなり城のほうへ駆け出したんだ。
機械師達の話では、燃料バルブを閉めれば火が消えるらしかった。
しかし、バルブのある機関部は大火事なんだぜ?
まったく…。責任感の強いのも考えもんだ。
ふと気付くと、皆の視線は俺に集まっていた。
ま、当時から世界一のトレジャーハンターとして名を馳せていた俺に救いを求めるのはあまりに当然だな。
そんなこんなで、あまり気乗りはしなかったが、救助に行くことになったんだ。



火は思ったより強かった。
まったくよくこんな所に飛び込むよななどと悪態をつきながらも俺は奥に進んだ。
エドガーは割とすぐに見つかった。
燃料バルブの前でぶっ倒れていたんだ。
「おい、大丈夫か?」
「……? ん……」
「おっ気付いたか。ったくしょうがない奴だな…。外に出してやるからじっとしてろ」
「外…? …はっ! だめだ! まだバルブは閉まりきっていない!まだ!」
「あのな…」
俺は無理やりエドガーを外に連れ出そうとした。
しかし無理だった。バルブにしがみついて離れようとしなかったんだ。
しょうがないから俺も手伝ってバルブを閉めたさ。
おかげで俺まで火傷しちまったぜ。
もっとも、エドガーの火傷は俺とは比べもんにならないほどひどかったが…。



「そんなことがあったの…」
「その後もいろいろと大変だったんだぜ?傷だらけのエドガーを見た女官が気絶したりとかさ…」
「あの時のことは本当に感謝している。ありがとう、ロック」
「ま、世界一の冒険家のロックさまには不可能などないってことよ!」
「…お前がただの泥棒ではないって、あの時わかった」
「どろぼうって言うな! …コホン、まあ、俺も確かにあの時思ったね。こいつはただのちゃらちゃらした女好きの国王じゃあないってね」
「……ひどい言われようだな」
「ま、一杯やろーぜ!」
ロックはどこからかワインとグラス3つを持ってきていた。
エドガーはやれやれ、とため息をつきながらもにっこり笑ってグラスを受け取るのであった。

THE END 

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