雨の跡 そのとき、オレは太い木に登って枝に座っていた。 The End
耳を澄ましても何も聞こえない。
ただ、さらさらと降る雨の音だけが、ミッドガルの空気で汚れきったこの森に響いていた。
分厚い雨雲のせいか、昼だというのに薄暗く、葉にあたった雨が霧を作り出して視界だってよくはなかった。
例のごとく、オレはまたソルジャーの一次試験をサボってここにきていた。
あんなものサボったってどうだっていい。
上の連中が、ガスト博士の息子であるオレを落とすはずがない。
オレはソルジャーになるために生まれてきたようなものなのだから。
「・・・・。」
降り続いている雨のせいで、地面はぬかるみ、オレの座っている木はもはやずぶ濡れだった。
手で触っただけで汚れがつく。風が吹けば葉からしずくがぼたぼたと落ちてきて、
それもオレの服を濡らした。
かれこれもう1時間ほどここにいるので、オレの服はすでにぐっしょりと濡れていて、
靴もズボンも、まるで足を下からぴっぱられている様に重かった。
「・・・・。」
オレはゆっくりと目を閉じて、顔を太い木の幹に凭れかけた。
・・・・このままここで、死ぬまで座っていようか。
どうせ帰ったって宝条の説教が待っているだけだ。
「どうして試験を受けなかった?」そればかりだ。オレがどうしていなくなったかなどどうでもいい。あいつがオレを見る目は、実験動物を見る目と同じなんだ。ほかの奴らだってそうだ。オレを見る目はみんな「天才」だとか「ガスと博士の息子」
・・・帰らなくてもいい。待っている人など、オレにはいないんだから。
そのとき、急に声がした。
「セフィロス!」
突然だったので、オレは驚いて目を開け、あたりを見回した。
当然、高い木に登っていたのだから、同じ目線のところを見回しても葉しか見えなかった。
(ああ、そうか。ここは木の上だ)
オレは下を見下ろした。下を見た瞬間、オレはもっと驚いた。
「ザックス!」
下にいたのは、まだソルジャーの育成学校に最近入ってきたばかりの4歳年下のザックスだった。
こいつも今日はテストだったはず。
ザ「おまえなにやってるんだよ!今日試験じゃなかったのか?」
ザックスはオレを見上げながら言った。オレは座っている木の枝から飛び降りた。
着地した瞬間、ぬかるんだ地面の泥があたりに飛び散った。
ザ「サボったのか?」
オレはザックスの質問は無視して言った。
セ「おまえどうしてこんなところにいるんだ!テストサボって一人できたのか!?」
ザックスはオレの怒鳴り声にびっくりしていた。
ザ「そ、そうだけど・・・・。」
セ「こんな雨の中で道に迷ったらどうする気だ!?ここの森の深さは知ってるだろ!」
ザ「おまえ自分でここに来といてなんだよ!おまえこそ試験サボったくせに!」
オレは少しザックスから目をそらしていった。
セ「あんなものどうだっていい。受けなくったって上の連中が手をまわすに決まってる。」
ザックスは少しふてくされたような顔をして、口を尖らせた。
ザ「ちぇっ、なんだよ。いいよな、おまえは成績よくって。」
セ「・・・・。」
その言葉を聞いた瞬間、オレは疎外感を覚えた。
こいつだってきっと、オレのこと「天才」としてみてるんだ。
なぜここに来たんだ?オレのことなんかほっといてくれ。
ザ「なにブスっとしてるんだよ!言いたいことあったら言えよ!」
セ「・・・・もういい。」
ザ「・・・・。」
それからしばらくは、沈黙が続いた。また冷たい雨の音だけが、あたりに響き渡った。
ザ「・・・・今日。」
ザックスがまたふてくされながら言った。
ザ「今日俺の誕生日なんだよ。俺、今日で11歳になったんだ。」
セ「・・・・?」
ザ「セフィロスに教えようとして会いに行ったら、おまえいなかったから探しに来たんだ。」
セ「・・・・なぜオレなんかに教えようと思ったんだ?」
ザ「だってよ!今日からしばらくは俺とおまえの年の差が3つになるんだぜ!?」
セ「・・・・はぁ?」
ザックスはパッと表情を変えて、嬉しそうに笑って言った。
ザ「4つじゃなくて3つ!」
・・・・???オレにはさっぱり意味がわからなかった。
4つと3つの差に何か意味でもあるのか?
ザ「そういえばおまえは、いったいいつ誕生日なんだ?」
オレの誕生日?
セ「・・・・知らない。」
ザ「え?」
セ「わからないんだ。」
ザ「なんだよ〜それ!じゃあ俺がいつまで3つ差でいられるかわからないじゃないか!」
セ「はぁ・・・・。」
オレはだんだんこいつのペースに圧倒されてきた。怒る気もうせてしまった。
ザ「う〜ん・・・・・。」
ザックスは少し考えてからこう言った。
ザ「よし!じゃあこうしよう!今日がおまえの誕生日だ!」
セ「はぁ??」
ザ「おまえと俺の誕生日いっしょ!年の差4歳になっちまうけどな。」
オレは少しあきれてしまった。こいつがあまりにも無茶なことを言い出したからだ。
ザ「な!今日からおまえ15歳!これからはいっしょに誕生日祝いしようぜ!」
セ「誕生日祝い?」
そういえば、誕生日にはそんなことをするんだったな・・・・。
ザ「セフィロス。」
ザックスがオレの目を見ていった。
ザ「15歳の誕生日おめでとう!」
ザックスはオレに屈託のない笑顔をむけてそういった。
・・・・なぜかオレはその表情に意味もなく少し驚いた。
ザ「おまえも俺におめでと〜って言ってくれよ!」
セ「あ、ああ・・・・おめでとう。」
ザ「よし!それじゃあウォールマーケットでも行こうぜ!誕生日だしな!」
ザックスは歩き出した。
「おめでとう」・・・・・。
初めて言われた。・・・・だからかもしれない。その言葉が、胸の奥まで響き渡った。
嬉しいとか、そんなものじゃない。
それに似ているけど、ずっと深くてどうしようもないほど、胸の奥をついた。
ザ「あ!」
歩いていっていたザックスが、慌てて戻ってきた。
ザ「俺、道わからねーんだった・・・・。」
ザックスは照れくさそうに笑った。
ザ「案内しろよな!」
オレも少し笑っていった。
セ「オレに命令するな。」
ザ「うるせー!試験サボったやつがなに言ってんだよ!」
セ「ハハハ。」
ザ「ヘヘっ。」
オレ達は、二人で笑いながら歩き出した。いつのまにか雨は上がってしまっていて、
森には木洩れ日が差し込んでいた。
・・・・ザックスは・・・・。まだ小さいから。
小さいからオレの事を「天才」として見ないのかもしれない。
もしかしたら、心の底では、そう思っているのかもしれない。
だけど・・・・オレの思い過ごし・・・そうだろ?
ザ「ウォールマーケット行ったら蜜蜂の館行こうぜ!」
セ「バーカ。あそこは18禁だ。おまえみたいなガキは入れねーんだよ。」
ザ「なんだとぉー!俺はガキじゃねぇ!」
セ「どう見たってそうだろ?チビ。」
ザ「キー!!違うっつってんだろ!!」
セ「ハハハ!」
なぁ・・・ザックス。おまえは・・・・。
ザ「ちぇっ。いつか絶対おまえの身長こしてやるからな!」
3年先も・・・・4年先も・・・・・
セ「・・・・。」
オレの誕生日に・・・・「おめでとう」と言ってくれるか?
ザ「・・・セフィロス?泣いてるのか?」
ザックスがオレの顔を横から覗き込んで言った。
セ「泣いてねぇよ。雨のせいだろ?」
ザ「雨降ってないのに?」
セ「・・・・うるせぇな。雨の跡だ。」
ザ「ふぅ〜ん・・・・。」
ザックス・・・おまえは・・・・
セ「・・・・ハハハ。」
ザ「何がおかしいんだよ?」
セ「おまえの顔。」
ザ「なんだとー!」
オレは笑って走り出した。
ザ「あー!!待てよー!!」
セ「追いつけるもんなら追いついてみろよ!チビ!」
ザ「チビゆーな!!」
セ「アハハハ!」
こうやっていつまでも、オレと一緒に無邪気に笑ってくれるか?