暁の城 〜序章〜
THE END
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「帝国の犬め!!そこへ直れ!!たたっ斬ってやる!!」
カイエンは、セリスに向かって刀を向けた。セリスは何も言わない。動かない。
セリスには見えていた。カイエンの深い藍色の瞳の奥に涙が溜まっているのを・・・。
「もうセリスは帝国の将軍じゃないんだ。」
ロックがカイエンを落ち着かせようと肩を叩く。
カイエンはセリスを睨み付けるが、セリスはまっすぐカイエンを見つめている。
「カイエン・・・少し彼女を信じてみないか? 体の傷から見ても、帝国兵に拷問をうけたか何かだろう?」
エドガーは穏やかに言った。エドガーの言葉通りセリスの体中には無数の新しい傷がある。
カイエンは、その言葉を聞いてないかのように、刀を振り上げる。
セリスは、おびえた様子を見せない。
カイエンは、セリスに向かって刀を振り下ろした。
「やめろ!カイエン!!」
その場にいた皆が声を上げる。
皆、セリスが斬られる瞬間は、目をつぶっていた。
肉が切れるあの音も、血が吹き出る様子もない。
そっと目を開くと、さっきまでのように突っ立ったセリスと、
それに背を向けているカイエンがいた。
「・・・歳はいくつでござるか?」
カイエンはセリスに訊いているようだ。
「18。」
セリスは静かに答える。声の様子からしても怯えた様子はない。
「18か・・・。少女に人殺しをさせるなど・・・帝国はやはり残酷でござるな。」
そう言うと、カイエンは部屋から出ていった。皆が静まる。
「大丈夫か、セリス。」
ロックが、セリスに駆け寄る。
「大丈夫。あの人・・・私の目の前で2度刀を振り回しただけだから・・・。まるで、空を切るように・・・。」
〜紫夢〜
「ミナ、よくやった。元気な男の子でござるよ。」
カイエンは、産まれたばかりの自分の子を抱く。
「本当?貴方のような強い侍になると良いわね。」
ミナは涙を流しながら言う。嬉し涙だ。
「この子は、きっと強い侍になって、ドマを助けてくれるでござるよ。」
カイエンは、嬉しそうに自分の子を眺める。
「そうね。」
ミナも嬉しそうだ。
「さぁ、ミナ。この子は拙者と医者に任せて、早く休むでござるよ。疲れているだろう?」
カイエンは、自分の妻を気遣う。
「ええ。じゃあ寝かせてね。お休みなさい。」
「おやすみ、ミナ。」
〜刹那の刻〜
カイエンは、目を開ける。
そこは、カイエンに用意された部屋だった。
自分の家ではない・・・。
リターナーとしてのカイエンの部屋だ。
幸せだったあのころの夢をよく見る。
少し前まではただの幸せな夢だった。
でも今は・・・・・。
あの頃に戻りたい。
妻と息子を返して欲しい・・・。
知らず、涙があふれる。
「帝国め・・・」
帝国を恨んでも妻も息子も帰ってこない・・・。
解っている。
でも恨まぬわけにはいかない・・・。
〜鼎処女〜
ふと、息を止める。
部屋の外に誰かいる。
カイエンは、刀を持って身構えた。
「誰でござるか?」
しばらく間があった。
「私・・・。・・・セリスだ。」
カイエンは、体勢を崩さない。
「どうしたのでござるか?」
「貴方と・・・話してみたくて来た。入れてくれないだろうか?」
カイエンは少し迷うが、ドアを開けた。
セリスは刀を持って身構えるカイエンを見て、一瞬自分も身構えるが、すぐに崩した。
「大丈夫。私武器持っていないから。」
セリスは両手を挙げてみせた。ようやく、カイエンが体勢を崩す。だが、刀は持ったままだ。
「貴方には、家族がいたのだな・・・。」
セリスの問いに、カイエンは無言で頷く。
「帝国に・・・・いや、ケフカに殺されたのか?」
「家族だけではない。ドマの・・・仲間達も・・。みんな帝国に殺された。」
カイエンは、顔を片手で覆う。
「帝国じゃない・・・。ケフカだ。」
「ケフカは、帝国の魔導士でござろう?」
セリスは、曖昧に笑む。
「私の両親も・・・多分帝国に殺された。」
セリスは、窓枠に手をかけ、外を見つめて溜息をつく。
「多分とは??」
カイエンの問いには答えず、空を見上げる。
空には星がたくさん煌めいていた。
「お父上、母上殿はいないのでござるか?」
セリスは頷く。
「気づいたら、いなかった・・・。本当は生きているかもしれない。だが、私は魔導の力を注入されたために、幼少の頃の記憶を失ってしまった。」
カイエンは、頷くように溜息をつく。
「帝国に殺され・・・」
カイエンがすべて言うより先にセリスがカイエンの口を両手で覆った。
「ダメ。言わないで。」
セリスは両眼に涙をためている。
「人に言われてしまったら、希望を失ってしまうから。」
カイエンは、セリスの手を外して頷いた。
「貴方には・・・奥さんと息子がいたんだって、マッシュが言ってた。」
カイエンは頷く。
「どんなだった?」
「どんなとは??」
「家族って、どういうもの?」
セリスの問いに、カイエンは戸惑う。
「私・・・家族いないようなものだから。」
カイエンは、頷き話し始める。
「妻は・・・綺麗で、優しくおおらかな人でござった。拙者が遠征で長いこと帰らなくても、息子と二人で家を守ってくれていた。家は、ドマ城内だったのでたくさんの人と話すことができたが・・・やはり、寂しかったと思うのでござるよ。遠征から帰ってきたら、いつも息子と一緒に暖かい笑顔で迎えてくれた。いつも”お疲れさま”と一言・・・」
カイエンの両眼から涙がこぼれ落ちる。
「御免なさい。きいてはいけないことだった?」
カイエンは、首を横に振った。
「いいんでござるよ。拙者も・・・誰かに話したかったのかもしれない。それが、元帝国将軍だとは・・・滑稽でござるな。」
セリスは、微かに笑った。
「・・・もうすぐ・・・息子の誕生日だったのでござるよ。妻と二人でプレゼントも用意しておいた。息子も楽しみにしていた・・・。毎年、3人で祝って・・・」
「いいな・・・。私、誕生日は一応知ってるけど、誰も祝ってくれたことはないよ。」
セリスは、泣いているようだった。
「本当に幸せだったのね・・・。でも・・・わかって。帝国にもいい人と、悪い人がいるし。家庭を持っている人だってたくさんいるの。帝国だって、いつも戦争で勝ってるって言っても死者はたくさん出ているわ。みんな貴方と同じ。帝国を憎むなとは言わないけど・・・帝国にも貴方と同じような人間がたくさんいること・・・忘れないで。みんな、命が惜しいから、帝国にいるの。逃げたら、ケフカに殺られちゃうかもしれないから・・・。」
カイエンは、深く頷く。
「解っているのでござる。現に、レオ将軍とやらは、なかなか分別のある男だった。」
カイエンは、ずっと出しっぱなしだった刀をしまった。
目の前の小さな少女に、そんなものを向けるわけにはいかない。
「あのね・・・カイエン。私の・・・お父さんの代わりになってくれない?」
セリスは、消え入るような声で言う。
「お父さん・・・でござるか?」
「うん。・・・カイエンお父さんって感じだから。マッシュが言ってた。ガウとカイエンは、親子みたいだって。それに私も混ぜて欲しいの。」
セリスは、カイエンの方に向き直る。
「ダメ?」
「拙者は、セリス処軍・・・セリス殿のお父上殿のように素晴らしい人間ではござらぬよ。」
カイエンは苦笑気味に言う。
「カイエン、なんだか私のお父さんのこと知ってるみたいに言うのね。」
〜梁塵秘抄〜
実際、カイエンはセリスの父のことを知っていた。
セリスには言わずにおこうと思っていたのだが。
始めてセリスを見たときから気づいていた。
10数年前、ドマ王国と帝国は、小規模な戦争をした。
領土の取り合いというありきたりな戦争だったが、その当時、
帝国は少しおかしくなりはじめたとの噂を耳にしていたので、ドマ兵は慎重に準備を行っていた。
前線で出てきたのは、セリスの父、帝国将軍・・・。
名前はもう覚えていないが、セリスは、その男にとてもよく似ていた。
短いけれど、美しい金髪に、深い緑の・・・。
強く、雄々しいのに瞳の奥には少年っぽさを残す、常勝将軍。セリスと同じだ。
彼と、カイエンは一騎打ちを行った。
周りで仲間が闘う中、カイエンは彼を殺してはいけないような気がしていた。
できれば、話し合って、この戦争を終わらせたいと・・・そう願った。
相手の方も、本気で斬りかかってくる様子はなかった。
「どうしたんだ??!!」
突然ドマ兵達が、口々に叫ぶ。
カイエンも、セリスの父も手を止め周りを見てみると、何故か帝国兵達がのたうち回っていた。
「これは・・・・」
セリスの父は驚愕していた。
帝国兵が、何か苦しそうに呻いている。
ドマ兵が斬り落としたわけではなく、皆、地を這い回り、口から泡を吹いている。
「くそっっ!!!毒を盛られたのか??」
セリスの父が悔しそうに呟く。
「毒とは・・・どういうことでござるか?」
カイエンの問いに、セリスの父は答えようとした・・・が、その瞬間・・・。
セリスの父は、カイエンの方へ体ごと倒れてきた。
「どうしたのでござるか??」
カイエンは、セリスの父を受け止める。
背中から、大量の血が流れており、矢が刺さっていた。
カイエンは、その矢を抜くと矢じりを確認した。
「これは・・・・帝国軍の矢じり・・・?」
カイエンは、セリスの父の後方を見る。帝国兵だろうか・・・。
一人の兵士が厭らしい笑みを浮かべ立っていた。・・・弓を持って。
「ケフカの・・・直属兵だ。ケフカめ・・・。やはり私を邪魔に思っていたか・・。」
セリスの父が呻く。
カイエンは、ケフカに報告でもしに行ったのだろうか・・・帝国兵が去るのを見届ける。
「帝国では、内戦が起きているのでござるか??」
カイエンの問いに、セリスの父は首を振る。
「では、何故に・・」
「帝国は、以前のような素晴らしい国ではなくなった・・・。あの・・・魔導の力のせいで・・・。帝国兵達は・・・魔導の力を注入された者も多い・・・。私は、それに反対しているからな。邪魔になったのだろう。・・・少し、予測していたことだ。」
平気そうに見えるセリスの父の顔から、血の気が引いていく。
「貴殿の名前は?あの世まで持っていってやろう。」
カイエンもセリスの父も、セリスの父の死を確信していた。
「カイエン・・・ガラモンドでござるよ。」
「そうか・・・。では、カイエン殿。頼みたいことがある。」
セリスの父は、そう言って懐からロケットペンダントを出す。
「その中に、私の娘の写真が・・・。彼女は、魔導の力を注入されている。いつでも良い・・・。いつか、帝国がドマに戦争を仕掛けるだろう。その時、私の娘もいるはずだ。だから・・・私の娘を助けてやってくれ。」
「助けるとは?」
「魔導の力を注入された者は、気が狂うか、記憶をどんどん失ってしまうかする。ケフカは、前者だ。娘はどちらかまだ解らないが。帝国から救ってやってほしい。あのようなところに娘を置いておきたくないのだ。」
カイエンは頷く。自分が助けれるかどうかは解らないが。
目の前の死にそうな男への気休め程度にはなるだろう。
「娘は、セリスという。可愛い名前だろ?」
そう言うと、セリスの父は目を閉じた。
「少し、喋りすぎたかな?疲れたよ。初対面のカイエン殿にこのような頼みをするなど・・・無礼は解っている。でも、もう貴方しか頼れない・・・。よろしく・・・頼みます。」
カイエンは、解ったというように、セリスの父の手を握る。
セリスの父は、カイエンの腕の中で死んでいった。
カイエンは、預けられたロケットを懐にしまった。
〜想月華〜
「どうしたの?カイエン。」
「・・・昔のことを思い出していたのでござる。」
カイエンは静かに答える。
「昔のこと?」
セリスは、不思議そうにカイエンの顔を覗き込む。
カイエンは、懐から今もしまってある、ロケットを出した。
「それ何?」
カイエンは黙って、ロケットを開く。
セリスは、その中の写真を見て驚く。
「これ・・・私??」
幼少の頃のものだが、確かにセリスだ。
「何故、カイエンがこれを??」
カイエンは苦笑する。
セリスの父のことを言うべきか、言わぬべきか・・・。
「きかない方が良いこともあるのでござるよ。」
その言葉から、セリスは何かを悟った。
「私のお父さん、どんな人だったの?」
「セリス殿は、お父上殿に似ているでござるよ。」
カイエンは、それだけしか答えなかった。
「ね、カイエン・・・。やっぱり私のお父さん代わりになってくれない?」
カイエンは、反応を示さない。
「もしかして・・・まだ私のこと疑ってる?」
やはりカイエンは反応を示さない。
「カイエン?」
「・・・帝国の悪名高いセリス将軍は、拙者が斬り落としたでござるよ。初めて会ったときに。」
セリスは、首を傾げるが、しばらくして何かを気づいたように、あ・・と声を上げる。
「あの・・・空を切っていたのは・・・そのこと?」
カイエンは、静かに頷く。
「カイエンって、格好いい・・・。」
素直にそんな言葉が口をついて出る。カイエンは、真っ赤になっているようだ。
「セリス殿の、お父上のような素晴らしい父とはいかぬが、もし必要ならば・・・いつでも拙者のとこに来て良いでござるよ。」
セリスの顔が明るくなる。
「ありがとう。」
セリスは、カイエンに抱きついた。
カイエンは、父親がそうするようにセリスの美しい髪の毛を撫でてやった。
〜終章〜
皆がまだ寝静まらない夜から、明け方にかけカイエンはチョコボをとばした。
カイエンは、今は壊滅したドマ城へ足を運ぶ。あそこにかつての仲間がいるのだ。
城門のところで、足を止めドマ城を仰ぐ。
「皆・・・・、ケフカは、新しい仲間と共に撃ち落としたでござるよ。」
カイエンは、今は亡き友たちに報告しに来たのだ。
「しかし・・・ケフカを倒したというのに・・・。一向に無念が晴れることはないでござるな。」
カイエンは、呟くと城内に入っていった。
一人一人の部屋に回り、花を手向ける。最初は王座へ・・・。
最後はもちろん・・
「ここは変わらないでござるな。」
自室だ。
カイエンは、ベッドに座り唇をかみしめる。
「ケフカを倒して、帰ってきたでござる。」
カイエンは、重く呟いた。
「それでも・・・還ってきてくれるわけはないのでござるな。」
苦笑気味に呟く。
ずっとここにいようかとも思った。
だが、いつまでここにいても仕方がないので、独りドマ城を後にする。
俯いていた顔を上げると、城門のところにセリスがいた。
「セリス殿?」
「カイエンを追ってきてみたの。たくさん花を抱えて行っちゃうから。」
カイエンは、駆け寄り苦笑した。
「尾行とは、感心しないでござるよ。」
セリスも苦笑する。
「だって・・・私もカイエンと同じように報告したいじゃない。」
「ここが・・・セリス殿のお父上殿の墓でござるよ。」
セリスは、その前に立つ。
セリスの父の墓は、ドマ城内にあった。
「帝国に送っても、誰も葬ってはくれないと思い、ここに・・・。」
「ありがとう、カイエン。」
セリスは、微笑みながら涙を流す。
「お父上殿。貴殿の娘、セリス殿はこうしてちゃんと救ったでござるよ。拙者だけの力ではないが・・・。これで、良いのでござるな?」
カイエンには、セリスの父が微笑んだように思えた。
「お父さん・・・ゴメンね。私やっぱりお父さんのこと想い出せない。・・・私、みんなと生きていけるから。心配しないで。」
カイエンは、父の墓を撫でるセリスを見守っていた。
「帰ろう、カイエン。ずっとここにいるわけじゃないでしょ?みんな待ってる。ガウなんか、”ござるがいない!!”って慌ててたわよ。何も言わずに行っちゃうから。”せっかくとらんぷ覚えたのに!”って。マッシュだって、カイエンなしじゃ修行ができないって、嘆いてたよ。」
カイエンは、無言で頷き、ドマ城を仰ぐ。
ドマ城の向こうに美しい朝焼けが見える。
「皆・・・また、来るでござるよ。」
そう言って、カイエンはドマ城に背を向けた。