結核について
  結核といえば不治の病ということばを連想する人も多いでしょう。ワックスマンが1944年にカビから作ったストレプトマイシンが世に出るまでは実際、結核は、長期入院を強いられしかも患者の多くが命を落とす怖い病でした。
 しかし、ストレプトマイシンを初めとし有効な薬〔現在は10種類ぐらいある〕の登場で一転して結核は治る病に変わり、いつしか人々の関心も薄れてしまったのです。そして結核の専門医も少なくなり、臨床医の中には結核の認識すら困難なものもでてきてしまいました。それほど結核菌は人間の前から一度は姿を消したかにみえたのですが、ここにきていま40年ぶりに結核菌感染者の増加がみられるのです。感染症で怖いのは、集団感染や耐性菌ですが人の集まるところで働く、学校の教職員、医師、保健関係者、接客業の人などは注意が必要です。
T  結核について
  結核は結核菌の感染によっておこります。結核菌を排菌している患者さんが咳をしたときに飛散した結核菌を未感染者が吸入して感染します。菌が肺に入り、増殖しだすと身体免疫機能が活動をはじめます。(このときツベルクリン反応は発赤し陽性を示す。=感染)菌は姿を変え、封じ込められ肺の中で眠りつづけます。そして感染者の免疫機能は結核菌に対して働きつづけるため(監督機能)新たに外部から侵入してきた結核菌をも撃退できるのです。しかしその免疫機能が低下したときに発病してしまうのです。
U  症状と感染
 最初のうちは風邪と同じ症状があります。ただ、いつまでも咳や痰がとまらず微熱が続きます。本人も風邪だと思っていますし、医師も結核だとは頭に浮かびにくく、すぐに疑うことができません。やがて倦怠感・寝汗をかく・胸痛などがおこりさらに進行し結核菌によって、破壊された肺組織が気管から排出されて喀血が起こります。
 それから結核というと肺の病気と思われがちですが肺外結核といって血流に乗った結核菌が様様な臓器にとりつき、悪さをします。髄膜(結核性髄膜炎)・首のリンパ節(るいれき)脊椎(脊椎カリエス)などの骨や腎臓・膀胱・腹膜・生殖器・眼など全身に病巣を作ります。
 やがて肺組織は壊され(レントゲンに写る影の部分)それが呼吸不全からやがて他臓器の機能不全となっていくのです。
 さて発症する人としない人と個人差があるのはどんな違いからでしょうか。一つには体質も関係していますが、そのときの身体の状態も非常に影響があります。睡眠不足が続いたり、無理なダイエットやインスタント食品の利用で十分な食事をとらず偏った食生活を送っていたり、また、老化・糖尿病・AIDS・透析・大手術後など体力的に弱っているときは非常に危険です。つまり、一度免疫を持った人(既感染者)は生涯安全かといいますと前述の監督機能(免疫)が弱まり、眠っていた結核菌が好機到来とばかりに活動を始めるのです。〔再燃〕
 また、免疫機能が衰えたときに新たに結核菌が入り込み再感染することもあります。お年よりの施設などで見られる集団感染はこうした再燃や再感染によるものが多いとされています。(すでに免疫機能が失われている可能性もある。)
 乳幼児などのまったく免疫を持たない子どもたちの多くは家族などの成人排菌者から感染することが多いようです。要注意が必要です。
V   予防接種と検査と治療
 乳幼児など結核患者が出たときはすぐにその家族全員にツベルクリン反応をします。これは身近なところに感染者がいる場合が多いので原因となった成人排菌者を発見し結核の蔓延を防ぐためです。
 また、予防接種で定期接種となっているツベルクリン反応(以下ツ反と書く)は生後できるだけ早く受けるのが好ましく生後3カ月から受けられることになっています。また小中学校の一年生時に再接種をします。
 ツ反接種48時間後に判定をしますが発赤径9mm以下のときにはBCG接種を行います。BCGは活性ワクチンで毒力の弱い結核菌を植え付けて(子どもたちはハンコ注射といっていますが)人為的に抗原抗体反応を起こして免疫をつけるものです。BCGは結核感染や結核感染に続いて起きる粟粒結核(血流により全身に結核菌が飛散する)や致命的な結核性髄膜炎に対して高い有効性が認められています。この結核菌による髄膜炎は現在の医療をもってしても15%以上が死亡したり30%に中枢神経系の後遺症が現れるものです。
 発赤径10〜29mmの場合は再ツ反検査、発赤径30mm以上はの場合は胸部レントゲン検査を施行し以上があれば結核予防法により保健所に登録をし治療を行います。
 発赤径30mm以上でもレントゲン上以上所見が見られない場合は初感染結核として抗結核菌薬の6〜9ヶ月間にわたる予防投与を行います。 しかしこれはおもに子どもや若者が対象になります。そのほか発病した人には確実に飲んでもらうため患者さんには手渡さないで、毎日外来に通ってもらい、職員の目の前でのませる方式(DOTS)などにより1剤では耐性結核菌を生む恐れがあるため2種以上の薬をあわせた強い薬の投与をやはり6ヶ月間行います。これらを短期化学療法といい昔の療養所での長期間の治療とはイメージがだいぶ異なりました。
 結核菌保菌者の判定に用いる検査はほかに、患者の喀痰を直接調べる塗抹検査や培養検査、遺伝子レべルで短時間に高精度で結核菌の有無を調べられる核酸同定法などがあります。 
W   年齢別留意点として
 乳幼児・小中学生>幼児期にBCG接種をしていれば、小学校時代、免疫は持続しているといわれています。しかし接種が不充分である場合も考えられるので小中学校の1.2年生を対象に定期接種が行われます。
 高校生頃(思春期)>この時期は以外に結核菌に狙われやすく発症後の進行も早いのですが性差が認められ特に女子に多いのも特徴です。したがって学校検診ではレントゲンが重要になってきます。
 青年期頃>思春期に引き続き結核菌に狙われやすい年代です。また思春期とは逆に男子に発症者が多くなってきます。活動的な年代のため若さにまかせ不規則な生活や無理な就労などをしたり親元を離れ、食生活に偏りが出たりといろいろな悪い条件(結核菌にとっては良い条件)
が出てきます。
 壮年期頃>強い免疫があるわけではないので(本物の結核菌に感染していないため)安心はできませんし、生活習慣病などもでてきますので免疫力の低下に注意したいころです。
 高齢者>要注意の年代です。前述のとおり既感染者も多いので結核の再燃や加齢による免疫力の低下で再感染者も増え特に重症化や集団感染になりやすいのが特徴です。
 X、   おわりに
 結核に限らず感染症は適切な治療や対処、そして何よりも予防が肝心ですが結核問題の特異な点は40年ぶりの流行ということです。医療現場ではある期間まったくと言っていいほど関心の薄れた時期があったため結核専門医師の高齢化や後継者不足・認識不足などを招いてしまいました。また、社会的にもツ反やBCGの接種はするものの結核自体が身近なものではなくなってしまったため、感染したときの重大さに気づかず重症化や集団感染に至ってしまいました。また、自営業の人や職場での検診が受けられないなど検診の機会が少ないのも原因の一つと思われます。今後は啓蒙運動を含めた予防対策の充実がより重要となるでしょう。
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